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空想ひとり旅  作者: 磁石
2/75

1日目 別府市内(大分県)

日本一周に挑戦しました。

※行ってません


【概要】

福岡から大分へ

【行った場所】

海地獄

うみたまご

竹瓦温泉


———————


  大分県は九州地方の東部に位置する県である。湯布院や別府の温泉が有名だ。県鳥はメジロ。


【メジロ可愛いよタイム】


 メジロは緑がかった背と薄い茶色の羽を持つ、雌雄同色の小さな鳥。スズメより小さい緑の鳥なんて可愛いに決まっている。名前の通り目の周りに白い輪のようなものがあるのが特徴で、ほかの国の人もそう思ったのだろう、英語は”white-eye”、中国語では”繍眼鳥”(*1)と呼ばれている。

 雑食だが、特に花の蜜や果汁を好む甘党。美味しい花の蜜を求めて旅をするタイプもいる。警戒心が強くないので、庭に甘いものをつるすと観察可能らしい。なんとちょろい鳥だろう。

 ちなみに、”目白押し”(*2)という言葉は、互いを押し合うように枝の上に群がるメジロの習性から作られた言葉なのだそう。


(*1)繍

繍は”縫う”というニュアンスの意味がある漢字。白い糸で縫ったみたいだということだろう。目の周りを縫うって考え方はちょっと怖い。


(*2)目白押し

多人数が混み合って並ぶこと。また、物事が集中してあること。

例文「枝の上にメジロが目白押しだ」


(メジロ可愛いよタイム終了)


 別府に着いた。鉄輪(*3)を”てつわ”と読んだのは私だけではないはずだと思いながら、鉄輪口で高速バスを降り、至る所で硫黄の匂いを感じながら、海地獄を目指して歩いていく。

 鉄輪という地名の由来は諸説あるそうだが、その中で私が一番好きだった話を紹介しておく。(全力で脚色しています)


(*3)鉄輪

地名としては”かんなわ”と読む。

"てつりん"と読むと文字通り"鉄の輪っか"という意味。

"かなわ"と読むと能の曲名となる。

能の内容は、自分を捨てて新しい女の所へ行った男に復讐するため頭に鉄輪を巻き、ロウソクを三番刺して丑の時参りをした女が、神託を得て鬼になるお話。


【こうして鉄輪に温泉が生まれた】


 ある日の暮れかかった頃。ひとりの修験者(*4)が貧しい夫婦の家を訪れた。

「すみませんが、今夜一晩だけここに泊めていただけませんか」

「いいですとも。狭くて汚い家ですが、ゆっくりしていって下さい」

 夫が男を招き入れると、つぎはぎが目立つ服を身につけた妻が、部屋の奥で男に向かってゆっくりと頭を下げた。部屋は囲炉裏のある部屋と寝室の二つだけで、強い風が吹くと、どこかから入った隙間風が男の足元を通り過ぎてゆき、今にも家全体が倒れそうだ。この家が本当に貧しいのが見て取れた。

 しかし、夫婦はできる限りを尽くして男をもてなした。祭りの時に取っておいた米を炊き、自分で育てている野菜を少しだけ収穫して、男に振舞った。その心遣いが、男は嬉しかった。

 なので翌朝、立ち去る前に、男は一つのお礼をすることにした。

「本当に世話になりました」

「いえいえ、大したお構いもできませんで」

「最後に一つ、お願いがあるのですが」

「なんでしょう?」

「この里の大きく開けた場所に連れていってくれませんか?」

 主人に連れられて開けた場所の中心に男が立つと、この場所に人が入ってこないようにしてくれと男は主人に頼んだ。周りには何事かと里人たちが集まってきた。

 里人たちが見守るなか、男は手に持っていた錫杖(*5)をさかさにして、コンと軽く地面を突いた。すると不思議なことに、その場所から温泉が湧きだしてきたのだ。里人たちは大喜びだった。

 主人がお礼を言おうと男のいたところに目を向けたが、もうそこに男の姿は無かった。

 里人たちは男に感謝して、この辺りの土地を錫杖の先についている鉄の輪にちなんで鉄輪(かなわ)と呼ぶようになったが、いつのまにかいいやすいように「かんなわ」と呼ぶようになったそうだ。


(*4)修験者

しゅげんしゃと読む。山籠り系修行者。

厳しい修行がお好きなタイプ。そんな人が里人に宿を求めるのだろうかという疑問は残るが、深いことは気にしないのが吉。


(*5)錫杖

“しゃくじょう”と読む。

お坊さんが持っている杖のようなもの。頭部に数個の金属の環がかかっている。歩くとカシャカシャと金属同士が当たる音がしてうるさい。


(ハイパー妄想タイム終了)


 ひとりの英雄譚を妄想していたら、あっという間に海地獄についた。なんと見事なコバルトブルー。道端の修験者がコンと叩いてできたわけではなく、1200年前に鶴見岳の噴火がきっかけ。青の正体は硫酸鉄(FeSO4)という簡単な化学式で表せる。お湯に触りたい衝動に駆られたが、温度は100度近く。触ったら火傷確定なので我慢。

  別府に来たからには、地獄の一つも回らねばならぬという義務感で来てみたものの、来てよかったな。でももういいや。かなり短時間の滞在で次の場所へ移動。

 昼ごろに別府駅に到着。駅の近くでホテルに取っていたので、荷物だけ預かってもらって再び外へ。近くで硫黄の煙が至る所に上がっている写真を発見したのだが、別府感はこれで十分だなと、満足してしまった。適当旅行者、ここで別府を極めけり。そして空腹に誘われるまま、とり天の食べられるお店へ。

  何の変哲も無いとりの天ぷらなのだが、酢醤油をつけて食べるとめちゃくちゃうまい。量が多かったので最後の方は冷めてしまっていたのだが、それでも美味しい。これはお酒が欲しくなるなと思いながら、最後の一口を放り込んだ。

 お腹も心も満たされたところで、いよいよ大分観光の本命であるうみたまごへ。

 魚を見に行っているのか人間を見に行っているのかわからなくなるから水族館は苦手なのだけれど、魚を見ていれば周りの大勢の子供やカップルなんてどうでもよくなる。お気に入りはコクテンアオハタ。


【貫禄があるね!コクテンアオハタ】


 立派なたらこ唇をそなえた楕円型の魚。大きさは最大で50センチくらい。体全体は白と暗褐色の縦じま模様をとり、深い青の瞳が特徴的。ハリーのおじさんに魔法をかけたら、きっとこの魚に変わるに違いない。熱帯や亜熱帯地域で見られる魚なので、日本で見かけるのは稀。さらに美味いらしいのでかなり高額で取引される。雄性先熟(*6)、すなわち性転換が可能で、オスからメスになる。私が心奪われたあの子はきっと、男心を熟知したモテるブサイク女子だったに違いない。


(*6)雄性先熟

ゆうせいせんじゅく、と読む。

子孫を残す可能性を高めるため、大きな個体がオスからメスに性転換するような性質を持つこと。

逆にメスからオスに性転換する雌性先熟、しせいせんじゅくという個体も存在する。


(コクテンアオハタの説明終わり)


 うみたまごを全力で楽しんだ後、駅の方へ向かうバスの途中、北浜というバス停で下車。そこから竹瓦温泉へ。

 なんという威風堂々とした面構えの建物だろう。外観の迫力に圧倒されながら、引き戸を開けて建物の中へ。入浴料を払い、貴重品をロッカーに入れてからさらに奥へ。

 のれんをくぐると、むわりとした空気が顔に当たった。中は階段のみで隔てられた2つの空間から成っていて、脱衣所と湯船の間に明確な壁が存在せず、服を脱いで階段を下りたらすぐ湯船の中へ入れる仕組みになっていた。上のフロアには壁に備え付けられた木の脱衣箱のみ、下のフロアには、U字型の湯船と、階段のそばに洗面器と椅子があるだけの簡素な造り。お湯は熱め。情緒と風情がたっぷりだ。

 入浴料が100円と大変安いからか、平日の夕方という中途半端な時間にもかかわらず、人がちらほらいた。おそらく常連の方なのだろう。竹瓦温泉が地元の人の生活に根付いているのがよくわかる。観光地なのに観光地でない、そのバランスが心地よかった。

 たっぷり温泉を堪能した後、昭和初期のイメージである和洋折衷な雰囲気を残すロビーでコーヒー牛乳を飲みながら休憩。


【竹瓦温泉うんちく】


 竹瓦温泉はその名の通り、かつて竹と瓦で出来た屋根を有していた。最初は竹屋根葺き(*7)で、そのあと改築されたものが瓦葺きであったため、竹瓦温泉という名称になったそう。現在は唐破風造り(*8)の屋根となっている。


(*7)葺き

屋根を何かでおおった状態のことを指す。

だから”瓦葺き”とは”瓦で屋根を覆ったもの”という意味。


(*8)唐破風造り

からはふづくり、と読む。

てっぺんが高くて、そこから両サイドに向けて各々2回ほどカーブを描いた形をとる屋根のことを、唐破風造りの屋根と呼ぶようだ。


(竹瓦温泉うんちくおわり)


 竹瓦温泉を後にして駅の方面に向かいながら別府の街並みを少し楽しんだ後、なんとなく目に入った、魚が食べられる居酒屋へ来店。大分の名物らしい、りゅうきゅう丼を注文した。

 新鮮なアジを醤油、酒、みりんで漬けたりゅうきゅう丼は、大葉の香りが食欲をそそり、新鮮なお魚がとにかくおいしかった。新鮮・できたて・旬は、食べ物において絶対的な正義だと思う。

 美味しい海鮮丼に大満足でお店を出て、ホテルへ向かった。チェックインを済ませ、部屋の扉が閉まった後を確認してから即ベッドにダイブ。あとはシャワーを浴びて眠りにつくだけだった。面倒だが仕方がない。チェックイン前に別府駅内で購入した、地獄蒸しプリンを励みに頑張ることにした。

 食べたやつが美味しかったら通販で友人に着払いで送りつけてやろうと考えながら体を起こし、眠る準備に取り掛かるのだった。


2日目に続く


#日本一周 #行ってない




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