5話 各地にて
大陸南方地方最大の国家、6強国の一つ〝ミレー王国〟他の大陸との海洋貿易が盛んな国家である。
そのミレー王国の北東は小国家が多数あり、
その先にモス国がある。
ミレーの北西は広大な荒野が広がっている。
その先には龍人族の国があるという。
今この荒野の接する小国家の国境付近に
3機の巨像騎士が居た。
3機とも 多少の違いはあるが 戦を司る女神ラーファルを顕現させた,通称〝ラファ型〟と呼ばれる
巨像騎士だ。
巨像騎士を操る男がパートナーの聖女にぼやいた。
『折角、巨像騎士乗りになったのに
何が悲しくて穴掘りなんぞせにゃならん。』
『そーゆー事は隊チョーに言って下さいよ。
私だってこんなの初めてだよ』
『そりゃそーだ! 巨像騎士を工作兵代わりにするなんて、俺だって初めてだ!』
そう3騎の巨像騎士は自らの武器である剣をスコップがわりに穴を掘っていた。
3騎が穴を掘っている姿を、少し離れた場所で見守る者が2人。
「あいつらやる気なささそうだな。喝入れた方がいいんじゃない?リーダー」
話かけられたのは
糸目に丸メガネ、髪はグレーのスレートで
腰まで伸びており背中で束ねている、
どちらかというとヒョロっした感じの男だ。
「いやいや、怒れないでしょ。俺だってテンション上がらないよ。」
「リーダーがそんなじゃ士気が上がらないじゃないか!」
「恋人は随分張り切ってるじゃない。」
「だれが恋人だって?」
「勿論君さライザ。」
ライザと呼ばれた女性はショートヘアの赤髪で
瞳も紅い、目は吊り上がり如何にも気が強そうだ。
強さそうだではなく実際、気が強かった。
二人を見比べると、男は170cmくらい、女が180cmくらいと女の方が高く、はっきり言えば
ライザの方がリーダーに見える。
バンと男の背中を叩く。
「戯言はいい!」
「ゴホゴホ、いやいや冗談じゃないって」
咳き込みながら男が答えるが
ライザは無視した。
「あんたが受けた依頼じゃないか!
サブが来るまでに終わらせるよ。いいねレイト!」
呼び方がリーダーでは無くなった
この瞬間、リーダーはライザに変わったようだ。
ちなみにサブとは サブリーダーのことだ。
ライザを中心に光の柱が立った。
巨像騎士を顕現させる。
二人もまた騎士と聖女であった。
その光景をみた、先程ぼやいていた男が焦り出す。
『ヤベーぞ! ライザが怒りやがった。』
『えー! ダラダラやるからだよ!』
3騎が3騎とも焦って、急ピッチで穴掘りを進めだした。
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「よし、終わったね」
「いやいや酷い目にあった。」
穴を掘り終わった面々は
巨像騎士を解除している。
巨像騎士によって掘られた穴は、直径7〜8m
深さは5m程だ。
そこに先程サブと呼ばれていた
サブリーダーと思われる巨像騎士が近づいてくる。左手には弓を持ち、
右手に3mほどの象に似た生物をぶら下げている
まだ生きているようだ。
この生物はエレと呼ばれている。
この地方にはよく居る生物で、本来は群れで活動している知能が高い生物だ。
巨像騎士は掘ったばかりの穴に連れてきたエレを落とした。
嫌な悲鳴をあげる。
その光景を見ながらレイトが指示を出した。
「よーし、少し離れた場所で待機で。
獲物が来たら 一気にいくよ。」
「こんな単純な罠でうまくいくのかい?」
ライザが皆が思っているだろう疑問を代弁する。
「まぁまぁ 見てなさいって。」
レイトは自信があるようだった。
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ドシッ! 鈍い音がした。
穴に仕掛けた罠の魔法も発動し、火柱が上がる。
生贄を穴に落としてから1時間とかからない内に
何かが穴に落ちたようだ。
「よし! 行くよ!」
レイトではなくライザが指示をだした。
一斉に巨像騎士を顕現させる。
総勢5騎の巨像騎士だ。
穴に近づくと 巨大な生物がエレを貪ってる。
罠により自身の体は多少焼けているが意に介している様子は無かった。
トカゲの魔物だった。
トカゲとはいえ大きさは7m程あり、
口は大きく裂け、鋭い牙がノコギリの様に
並んでいる。
トカゲの魔物は素早く厄介だ。
しかし前もってトカゲの魔物とわかっていた。
だから罠にはめ、動きを封じたのである。
『よしよし、かかった。』
巨像騎士たちは穴を囲み、
エレを貪るトカゲの魔物に剣を突き立てる。
魔物は穴から出ようとするが、
垂直に掘られた穴から簡単に出れない。
よじ登っても巨像騎士に阻まれ穴に落とされる。
やがて魔物はなす術なく息絶えた。
巨像騎士化を解いた一団。
「これにて任務終了。浄化はギルドに任せて戻ってメシにしようか。」
レイトが皆に話しかけた。
「上手くいきすぎて面白くないね。」とライザ。
「おいおい、こんな仕事で怪我したくないでしょ。」
「そりゃそうだ!」と周りも同意する。
「魔物は食べることしか考えてないからね。
特にトカゲはもともと知能も低いし」
すっかり皆にもサブと呼ばれる様になってしまった男が解説する。
「そういう事。俺たちは傭兵。
真っ向勝負はなるたけしたくないさ。」
レイトが締めくくる。
「まぁね。それで、今後はどうするんだい?
傭兵ギルドが、魔物討伐の仕事出す様じゃ
ここも潮時だろ。」
ライザがレイトに尋ねた。
「クドナルがテリアに戦ふっかけたんでしょ?
そっち行かない?まだ間に合うかもしれないよ。」
とサブが提案を出した。
「いやいや、そっちはダメダメ。どっちも傭兵を雇いはしないよ。 訓練みたいなものさ。」
却下するレイト。
「でもモスには行こうかな、近く聖地奪還の
遠征があると、ある筋からの情報があってね。」
「ここよりはマシならどこでも良いよ。じゃ決まりだね。」
彼ら戦場から戦場へと渡り歩く傭兵。
それぞれに目的は違うだろうが
今はレイトをリーダーとする傭兵団の一員として動いている。
傭兵団の名は プリズン傭兵団
全員が騎士か聖女だ。
騎士と聖女で構成される傭兵団は珍しいが
それ以上に〝戦場で会いたくない敵〟トップ10
を問えば、必ず名があがる有名な傭兵団だ。
「ともかく 帰ろうよ。」
サブの言葉を受け、
一団は依頼を受けた小国の都市へ戻っていった。
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執務室だろうか、
男が一人机に向かい、書類にサインをしている。
男はガレドーヌ帝国の軍服を着ている。
階級章は将軍位だ。
男は不意にペンを置き、伸びをした。
そこにタイミングよくドアがノックされる。
「失礼します閣下。」
入ってきたのはトレーを持った女性だ。
トレーにはティーポットとカップが2つ、
茶受けにクッキーも有った。
男は女性をの声を聞くなり
「閣下だなんて水くさいな。」
と笑顔を見せる。
「執務中にすみません。紅茶でもと思いまして。」
「ちょうど休憩したいと思ったところでね。
相変わらずタイミングがいい。」
「ありがとうございます 。」
部屋の入り口から近い位置に応接テーブルがあり
女性は、ティーブレイクの準備を始めた。
「お茶を勧めにきただけではないだろう?」
紅茶を注ぎ終わるタイミングを見計らい
女性を男は抱き寄せた。
「閣下。いけません!」
「今は二人きりだ。閣下はよせ。」
女性の顎のクイッとあげ、口づけをする。
男はしばし、女性の唇を堪能していたが
やがてどちらからともなく離した。
「レネミー様…」
「やっと名前で呼んでくれたね。イデア。」
「紅茶が冷めてしまいます。」
真っ赤な顔をしてイデアが横を向く。
「すまなかった。せっかく淹れてもらったのに。 とりあえず座ってくれ。」
レネミーがイデアをソファーに座らせ、自分も隣に座った。
イデアの顔は真っ赤だがレネミーは意にも介さない。
イデアが恥ずかしさを誤魔化す様に話しかける。
「そろそろでしょうか?」
レネミーはティーカップに注がれた紅茶を
眺めながら答える。
「そうだな。もう始まっているだろう。」
「残念でした。」
「せっかく君が教えてくれたのに申し訳なかった。」
「レネミー様!そんなつもりでは!」
「いや、いいんだ。 この度のテリアとクドナルの戦への参戦の件、押し通せなかったのは
私の力不足だ。」
「レネミー様…」
「師にも掛け合ってみたのだが、そんな権限はないと言われてしまったよ。
一応陛下に注意は促してはもらえるがね。」
「アルバート閣下には?」
「閣下は、兄弟子である以前に軍の重鎮、
『属国とはいえテリアからの要請もなく軍は出せぬ!』
と真っ先に断られたな。」
優雅に紅茶を飲みながら話すレネミー。
「私が変な事を言ったばかりに。」
「私はイデアの能力を買っている。気にしないでくれ。 クドナルいやモスの力、見たかったが
仕方がない。あとで結果を聞くとしよう。」
<モスの大勝になります。>
イデアは自身の能力で見た結果を
明確には伝えなかった。
自身の経験が躊躇わせたからだ。
予知の能力が彼女に幸せな思いより、辛い思いをさせることの方が多かっただろうことは
想像に難く無い。
しかしパートナーであるレネミーはその力を買ってくれ、信じてくれているのは判る。
だから、可能な限りは話すことにしている。
裏切られないことを祈りながらではあるが。
「私の力は閣下のお役に立てていないのではないでしょうか?」
レネミーはイデアの腰に手を回し抱き寄せた。
「閣下はやめてくれといっただろ?」
再び唇を奪う。
しかし今回は、深いやつだ。
舌を絡められ、イデアの思考が止まって蕩けてしまった。
口づけが終わってもイデアはこちらの世界に戻ってこなかった。
レネミーは苦笑しつつ、そのままイデアを胸に抱き寄せ、ソファーに背を預け、イデアの耳元に囁く。
「私がイデアをパートナーに欲したのだ。
聖女としてだけでなく、女性としても。」
その言葉にイデアがこちらの世界に戻って来たが
顔は真っ赤な上に泣きそうだ。
<この極度の恥ずかしがりがなければ
もっと進んでいるのだが。>
そう、イデアの恥ずかしがりの影響で
いまだキス止まりの二人だった。
「そうそう、昨日イデアが言っていた、東の異変だが。」
その言葉に一気に冷静になるイデア
「どうなさりますか?」
「間者を送ろうと思う。
時期的にはいつくらいか判るか?」
「すみません。この件に関しては、はっきり見えません。 〝半年くらいの間に、何か世界にとって重要な事が起こる〟としか。
それが良い事なのか悪い事なのかさえ、ギーク様に問うても返事が無いのです。」
イデアは〝知を司る神 ギーク〟を信仰する聖女だ。
マイナーな神の為、その能力を知る者は少ない。
彼女は、マイナーであることををコンプレックスにしているが、その能力と可能性は実に恐ろしいものがある。
レネミーはその能力の恐ろしさ理解し、欲している。
もちろん彼女を女性として愛しているのは嘘では無い。
「今のうちから送っておこう。
大深林の近くの小さな町だったな。」
「はい。」
レネミーに抱き寄せられたままのイデアは
また、今の状況を思い出し、顔が赤くなる。
レネミーはまたもやイデアの唇を堪能しだす。
<キスに慣れるのにももう少しかかりそうだ。>
前途多難だなとレネミーは思った。
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急いで着替えないと。
俺は自宅に戻ると自室に飛び込んだ。
「メアルの服に釣り合う服っと」
と呟いてみたが
そもそも俺は上等な服装など持っていない。
妹と母親を養って来たし、
夢の為の旅費も蓄えなければで
オシャレなどにお金を費やすことは出来ない。
(まぁ興味も無かったが)
自然、俺の服の中で一番上等なのは
隊から支給された隊服となる。
隊服に着替えながら
メアルの服装を思い浮かべる。
今日の彼女は、白基調に青い刺繍の入ったワンピースだった。
(カワイかったなぁ)
この紺の隊服は彼女と並んで歩くにはどうだろうか?
丈夫で、動きやすいがオシャレではない。
「いい服を買っておくべきだったかな。」
などと今更な事を言いながら
首の辺りにちょっとした違和感を覚えた。
メアルのことで頭がいっぱいになり、
お守りのネックレスをするのを忘れていたようだ。
使った事がない机の上は物置と化しているが
その机のちょっとしたスペースにネックレスが
置いてある。
オシャレではない。
ただのチェーンに古めかしい指輪を通してあるだけのもので、俺のお守りの様なものだ。
メアルにしか話してないが、
俺は拾われ子だった。
18年前の事らしい。
父親が町外周の見回りをしていた時に
一人で歩いていた2才くらいの俺を保護した。
当時 子供がいなかった両親が俺を引き取ったのだという。
オヤジも黒目、黒髪で俺に縁を感じたのだと、
成人した日(保護した日を2才の誕生日とした)
に母親が教えてくれた。
妹は俺を引き取って2年後に産まれた。
普通なら妹の方が可愛いだろうが、
両親は分け隔てなく愛情を注いでくれた。
だから俺は両親を尊敬しているし、感謝している。
妹はこのことは知らないはずだが
気づいているかも知れない。
そんな俺が保護された時、握っていたのが
今ネックレスになっている
古ぼけた指輪だったという。
俺に何がしらの所縁があるのだろうから
お守りがわりにしているのだ。
お守りを首にかけて部屋を出る。
玄関のドアを開けようしたところで
妹に話かけられた。
「あれ? 兄さん今日は休みにしてもらったって言ってなかった?」
「ん? 休みだぞ? 」
何を言っているのかね、君は?的な視線を向けるが、ついつい視線は胸に。 そして……
暖かい気持ちになり、優しい目で妹を見る。
<そのうち成長することもあるかもしれない。
強く行きろよ妹よ。兄は応援しているぞ。>
「なんだろう?、兄さんのその眼差し。
すごくムカつくわ。」
「おい!ひどいやつだな。」
「それはそうと、なんで休みなのに隊服なの?」
「なんだ、そんなことか? これからメアルの買い出しに付き合うんだが、他に良い服も無いからな。」
「兄さん……」
哀れみの視線を感じた。
「デートなのにメアル姉が可哀想。」
「………ん?……んん!?
デート?、デートだと!?」
俺はカッと目を見開く。
はぁと、ため息を付き
「ホントにメアル姉が可哀想。」
と呟きながら、残念な兄に
いってらっしゃいの意で妹はシッシッと手を振った。
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家を出て、全力で走りながら
(デート、これはデートといえるのか?
俺とメアルのデート!?)
その事で頭がいっぱいになってしまった。
俺はメアルを何とか元気づけようと思っていたのだが、
妹の言葉ですっかり吹き飛んでしまい、
その事を思い出したのはその日の夜だった。
市場のちょっと手前でメアルは待ってくれていた。
デートを意識した俺は、
どんな表情で会おうか走りながら迷ったが、
全く意味は無かった。
全力で走ってきたからメアルの元に着いた時、
苦しげな表情で、息を切らしていたからだ。
「大丈夫?」
メアルは心配そうに覗き込んできた。
「ごほ!ごほ!、大丈夫だ!」
息が切れているからではなく、
メアルの顔が近くて、上目使いが可愛すぎて
咳き込んでしまった。
メアルは
「そんなに急がなくでも待っているわ。
でも走って来てくれてありがとう。」
と優しい表情で微笑んでくれた。
<可愛すぎ! メアル好きだ!>
しばらくし、荒い息もおさまった。
「待たせてごめん、さぁ行こう!」
「はい。頼りにしているわね。」
歩き出した俺にメアルも並んで歩きだす。
現在時刻は6時半ちょうどだ。
こうして買い出しという名のデートは始まった。
5話了
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補足
[カーライルの両親への敬意について]
カーライルは現在20才くらいと思われる。
父親を亡くした時は未成人であり、
自身が拾われ子であったことは
知らされていない。
なので当時の両親への想いは
血縁の親への当たり前の尊敬であった。
成人し事実を知らされてからは
人としての偉大さへのより大きな尊敬に変わる。
故に、事実を知っても母親と妹を本当の家族として
喜んで養ってきたのである。
[今更ながら年齢設定]
現時点での各年令は
カーライル 20才3月くらい
メアル 17才6月
リリィ 16才3月
ちなみに1年は12ヶ月。
地方にもよるが四季もある。
1ヶ月は30日で 1年は360日
時間も1日24時間
[カーライルの鍛錬]
明け方 4時半くらいに鳴る時計塔の鐘の音で起き、
それから6時半位まで行われる
基本は素振りだ。
ちなみに隊への出勤は 8時頃となる。
[知を司る神 ギーク]
知識では無い、知覚の神である。
そのため、ギークを信仰する聖女は感知、察知、予知の力を有する。
流石に万能では無いため、全ての事象を予知は出来ず
タイミングも制御出来ない。
直接戦闘能力は低いが、感覚強化で敵に攻撃を見切らせるバフや、知覚阻害で敵に位置や攻撃タイミングを誤認させるデバフ、などの恐ろしい能力で騎士をサポートする。