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4話 歴史の闇に苦しむ者

今回、次回は伏線を置いたり、

水面下のお話を書こうかと思っています。

アマリア王国。

イバラーク最大の大陸〝サイガスト大陸〟において、〝6強国〟と称される国家のひとつである。

アマリアは大陸の東に位置し、北には大深林、

西には大草原を挟んで 同じく6強国の〝ガドレーヌ帝国〟、南にはいくつかの小国家を挟んで、6強国の〝モス国〟がある。

アマリア王国は6強国の中でも最も歴史が古い。女王制を取っており、歴代女王は聖女でもあった。

逆に、この国において王子は国を継ぐことはない。

王位継承権を持たない1代かぎりの皇族として国に残るか、他国で爵位を得るか、

歴史の表舞台に名を残すことはまず無い。

また王女であっても、聖女の力がないものが女王を継ぐことは許されなかった。

それは今より300年前に定められた絶対的決まりであった。


今より400年程前、人類(エルフ、ドワーフ等、亜人も含む)は突如災厄に見舞われた。

世界に突如現れた魔物。

魔物はこの世界でモンスターと呼ばれている生物に、魔が憑いたものだ。

魔が憑くと理性がなくなり、己以外は全て食料として襲いかかる。たとえ同族や兄弟であってもだ。

魔物になってしまうと、攻撃力、防御力、敏捷性などすべてが跳ね上がる。

目に入った生物を容赦なく襲い、

手当たり次第に貪り巨大化する。

そしてより手がつけられなくなっていくのだ。

どこまで大きくなるのかは種族によって異なるが、最大サイズのもので 10〜15mくらいの大きさになる。

そんな魔物が突如各地に出現するようになった。

魔が憑くとは何なのか?

そもそも魔とはなんなのか?

現在においてもあまりに危険な為に

研究する者も居らず謎のままである。

魔物が発生し以降、数多くの都市が滅ぼされた。

今より300程年前、魔物発生から100年の期間で

人類の版図は最盛期の5分の1まで縮小していた。

当然人類も魔物達を駆逐するべく色々と手を尽くした。

巨大な魔物に対抗するべく、ゴーレムの技術を

開発していった。

人類の切り札ゴーレム技術でさえ焼け石に水であり、

人類に滅亡も時間の問題であった。


そんな情勢下アマリア王国に双子の王女が生まれた。

双子は、アリーシャとナリータと名付けられた。

この2人の内の姉の方が後に〝最初の聖女〟と称えられ、崇められたアリーシャである。

アリーシャことアリーの誕生、いや

アリーの生み出した巨像騎士の秘術の誕生により

人類は息を吹き返した。

今では、人類の版図は最盛期の5分の4まで

盛り返してきている。

ただし大深林のより北の地は

凶悪な魔物が多く取り戻せてはいない。

また、巨像騎士という強大な力を手に入れた各国家は愚かにも覇権争いにその力を使うようになっていったのである。


今の世に 最初の聖女アリーを知らない者はいない。

しかし、アリーについて判っていることは多くない。聖女教会ですらアリーに関する文献はほとんど残っていない。


ひとつ、人類初の聖女であり、巨像騎士を生み出した。


ひとつ、巨像騎士の秘術を各国に広め聖同盟を発足。

この発足した年を聖同盟歴元年とし、この年より人類の反撃が始まった。


ひとつ、多くの魔導アイテムを生み出し人類の復興に尽力した。


ひとつ、その生涯は18歳と短く、女王としての在位期間は1年である。


アリーは短い生涯を駆け抜け、没後は妹のナリーが王位を継ぎ王国繁栄の基礎を作った。

王国において、アリーとナリーは特に神聖視されいるが、王女であり、聖女のみが王位を継ぐ権利を有すると定めたのはナリーだった。

ナリーはアリーの死後

アリーについての情報、文献に関して焚書を行った。

必要以上にアリーを神格化し

人間としてのアリーを消し去ってしまったのだ。


後に聖女教会はアリーについての情報を秘匿しているとしてアマリア王家を糾弾、大神殿を西方の魔導王国に移したという事件があったが

余談である。


アマリア王国は古来より

別名、〝聖王国〟とも呼ばれる。

それは王家が 聖・光を司るセレイブを信仰している為だが、

アリーが有名な為と勘違いしている者も多い。


その聖王国の現女王は、

ルーサミー・ウェッティワイプ・アマリア 36才。

聖王国の名に恥じない。

聡明で美しく清楚な感じの女性である。

女王としての統治能力は安定しており、

アマリアにおいて現在深刻な問題は起きていない。

聖女としての能力も高く、即位時のお披露目で

顕現させた巨像騎士は 神々しい物であったという。

王婿は基本的に他国から招くことはなく、

国内より集められた者より選ばれるが

立場上騎士である必要がある為、

近衛騎士から選ばれることが多い。

他国から招かない事には理由があり、

アマリアの財政を支える技術を

秘匿する為だった。

現女王のパートナーも近衛騎士隊長だったという。

しかし5年前スタ 一帯の地方を襲った

苦死病の状況確認の為、視察に訪れ、

苦死病にかかり帰らぬ人となった。

二人の間にはミリンダとサーランと名付けられた

二人の王女が生まれており、

王位継承には問題はなかった。

順当であれば、姉であるミリンダ・ユニシス・アマリアが王位を継ぐはずである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カーライルがメアルの買出しに付き合うことになったその日の朝。


はぁ、ため息をつく音。

天蓋のついた豪華なベッドで横になっている女性がため息をついた様だ。


「またいつもの夢…」


女性の顔色は優れない。

女性の名はミリンダ。

ミリンダ・ユニシス・アマリアだった。

目覚めたミリンダは()()()着替えた。

これは、アマリア王家のしきたりだった。

聖女でもある彼女らは

最初の聖女アリーの様に自ら戦場に立つこともある。

その為、身支度程度は自分でする。簡単な料理は作ることができて当たり前という考え方だ。

このしきたりはミリンダの性に合っていた。


着替え終わったミリンダは、憂鬱そうに外を眺めた。


「今日で、この生活も終わり。」


今日、ミリンダは16才の誕生日。即ち成人の日だ。

ミリンダは本日、聖女としての力を

示さねばならない。

王家内の儀式の為、その時点で結果が外部に漏れることは無いのだが、

聖女の力を示せない場合、王位を継ぐことがかなわない為、遅かれ早かれ国中、いや世界中に知れ渡ることになるのだ。

そしてミリンダには聖女の才能が全く無かった。

そのことは一部しか知らない。

今日の儀式で正式に王位継承権を失うだろう。

ミリンダはそのこと自体はどうでもよかった。

1才歳下の妹のサーランは聖女として

強い能力があり、名前まで与えられている。

女王の座は妹こそがふさわしい。と、

ミリンダも素直に認める所だった。

ミリンダの憂鬱は別のところにあった。

この王宮で、アマリアで生を受けた。

そのこと自体が彼女の悩みだった。

しかも、ミドルネームに 最初の聖女の妹にして

大聖女と謳われた、ナリー・ユニシス・アマリアの〝ユニシス〟を頂くとは

何という皮肉だろうかとミリンダは思う。

ちなみに アリーのミドルネームである

メラニスはナリーにより贈る事を禁止されており

その名を継ぐ者はいない。


ミリンダはこの城を出るつもりでいた。

王位を継がないミランダは王家の機密を

教えられることもない。

母である、ルーサミーには妹を支える様に

お願いされた。

しかしミリンダにとってはこの王宮にいる事自体が

自身を苦しめているのだから、

受け入れられるものでは無かった。


ミリンダはミドルネームも捨てたかった。

この忌々しい、呪われた名前はすてて

ただのミリンダとして生きていきたいのだった。


ミリンダがここまでアマリアを嫌う理由。

それは彼女が毎夜見る夢にある。

彼女もまた悪夢に悩まされる者であった。

彼女は毎夜見る全く同じ夢の中、

夢の中でのミリンダはある人物だった。

そして知ってしまった。

アマリアが犯した罪を。

たかが夢の話では済まされない。

毎日同じ夢を見るのだ。


しかし真相を調べることは叶わないだろう。

文献などほとんど残ってない。

また王家にとって都合の良い様に改竄されているのだから。


恐らく夢が真実なのだろう。

夢の中の自分は自分の前世に違いない。

前世の私が今の私に教えているのだ。

とミランダは考えている。

その上でどうしようもない事も分かっている。

だから、逃げる事にした。

この王宮から、できれば王都からも逃れたい。

そうしないと自分が救われない。

気が狂ってしまう。

罪の重荷に潰されてしまう。


ミランダは緊急時の王家専用脱出路を知っている。

教えられてはいない。

でも知っていた。

夢で何度も見たからだった。


正直、脱出路を通って王宮を脱出するのは気がすすまない。

前世の自分が犯した罪を再確認することになるからだ。


ミリンダは覚悟決めた。

これから自分は冒険者になるのだ。

何度も死線を潜る事になるだろう。

それを思えば、どうということは無い。


その時、ドアがノックされた。


「どうぞ。入ってください。」


入ってきたのは妹のサーランだった。

ミリンダの姿を見るなり


「お姉様! やはり冒険者になってしまわれるのですか?」


心配そうな表情をする。


ミリンダの姿は王女の装いではなく

旅人を思わせる男装だったのだ。

服の入手は剣術の稽古と称して

手にいれたものだ。

実際、魔法の才能がないミランダは

剣術に力を入れていた。


「ええ。私の決意は変わりません。

この国の事は任せましたよ。サーラン。」


サーランには事前に話していた。

サーランは母にも漏らす性格ではない。


「儀式のことならそこまで気に/」


「儀式とは関係ないのです。私はここいる訳にはいかないのです。」


ミリンダは最後まで言わせなかった。

妹に対してとは言え失礼なのは判っているが

そういうことでは無いのだ。


ミリンダには2つの想いがあった

この王宮から逃れたいという想いと、

儀式を受けない事こそ、王家の恥を回避する方法だ。

そうすれば、私の我儘というだけで済むだろう

そういう思いだった。

それは 母に対するささやかな親孝行のつもりだった。


「貴方に押してつけてしまってごめんさない。」


「お姉様……」


サーランは何も言えなくなってしまった。

姉の決意を覆すことは出来そうにない。


「大丈夫。貴方ほどの力があれば、立派な聖女様になれます。それこそがこの国の女王に一番必要な資質です。あとは周りが助けてくれます。

だから、そんな顔をしないで。」


ミリンダは思う、姉ととして妹を可愛がってきた。 妹も懐いてくれた。

立場は違えど前世でもそうだったはず。

なぜ歯車が狂ってしまったのか。


「判りました。お姉様。

お姉様がお帰りになるまでこの国のことはお任せ下さい。」


もう二度と帰ってくるつもりはないミランダだったが、


「その時までお願いします。」


と微笑みながら返すしか無かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


妹と別れ、脱出路の入り口まできたミランダ。

女王の執務室と女王の寝室近くの廊下、2つの入り口が有るが、寝室側を選んだ。

隠し通路の入り口を開け、

入ろうとしたところへ背後より声が掛けられた。


「挨拶もなしに行ってしまうのですか?」


母ルーサミーだ。


ルーサミーの隣には近衛騎士ガレッスがいた。

ガレッスは騎士といっても魔導隊に所属する

魔導師27歳だ。

元は平民だが魔導の才能が有り、

機転も利くため若くして近衛騎士になった男で、

幼いころのミリンダのお守役(遊び相手)でもあった。

ミリンダにとって兄の様にも思っている男である。


「お母様、なぜここが?」


「貴方がここを知っているのは驚きでしたが

私も聖女の端くれ。

貴方の向かった場所は感じ取れます。

そして今日何か行動を起こすだろうことは母として判っていましたよ。」


「お母様には敵いませんね。」


「私も居ることもお忘れなく。」


ガレッスが会話に割って入る。


「ガレッスはどうして?」


「ミリー様、置いてきぼりなんてつれないですよ。」


「え!」


轟くミリンダ。


「母は止めません。貴方の優しさは判っているつもりです。」


女王としてでは無く、母として話すルーサミー。


「ごめんんさい。お母様。」


「むしろ謝るのは母の方です。貴方に何もしてあげられなかった。」


女王であっても王家のしきたりを変える事は

叶わなかったことを言っているのだろう。


「いいえ。私がここを出るのは私の為、

お母様のお気持ち嬉しく思います。」


「せめて、ガレッスをお連れなさい。ガレッスも承知の上です。」


「そういう事です。ミリー様。」


「ガレッスはいいのですか? 折角近衛騎士にまでなったというのに。」


「私としては、両親の面倒さえ見てもらえるのであれば全然問題有りませんとも。

むしろミリー様と一緒にいられるのは願ったりですよ。」


「その点は王家で保証しましょう。」


「ミリー様、旅は道ずれですよ。」


「判りました。ガレッス。よろしくお願いします。」


「お母様さま、ありがとうございました。

どうぞお元気で。」


娘の成人の日にこんなところで見送る事になるなんてとは 母ルーサミーは言わない。

静かに微笑み、娘の旅立ちを見送った。

これが二人の今生の別れとなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまで夢の中の通りの道だとは。

ミリンダは、内心毒づく。

あまりにそのまま過ぎて夢の内容が

事実で有ることを突きつけられる。

ミリンダに魔法的な才能は一切ない。

だからこれは、精霊や魔法が見せたものではない。

ミリンダが転生者として、前世の記憶が見せているのだと。痛感させられるのである。


「ミリー様。いいですか?」


ガレッスが話しかけてきた。


「ミリー様はやめて頂戴。これからは冒険者ミリーよ。」


「そうでうすね。では、不肖ガレッス

ミリーの相棒をやらさせて頂きます。」


「よろしくねガレッス。」


「しかし上手いですね、その喋り方。」


「これも、王家のしきたりなの。

戦場でかしこまった言い方してられないわ。」


「ごもっともで。」


「それでいいかな?」


ガレッスも砕けた言い方に変わる。


「何?」


「よく迷わないっすね。こんな迷路みたいな道。」


脱出路は当然追っ手を撹乱するすため

迷路になっている。


「理由は言えないわ。でも知ってるのよ。

正しい道を。」


「なるほ。」


「私にはガレッスの話し方の方が気になるわ。」


「そりゃ元は平民ですもん。こちらが本当の自分ってヤツで。」


「新鮮だわ。」


「喜んでいただけて何より。」


「もうすぐ出口よ。」


「やっとか、長かった。」


出口の、外の光が見えてきた。


ミリーの心臓がドキドキし始める。

外に出た。王城、城下町を囲う外防壁の外側からちょっと離れた森の中に出た。


ここは王家の直轄の森で手入れはされ、

モンスターもいない。


出口か森に出た時、

あまりに夢の中の当時と変わった様子の無さに

ミリーは目眩を覚えた。


「おっと大丈夫?」


よろけて、とっさにガレッスが支えてくれた。


「ありがとう。大丈夫、ちょっとヨロけただけだから。」


<ここで私は決して許されない罪を犯した。>


かつての自分の罪なのだ。今の私に関係ない。

と何度も心の中で繰り返す。

それでも、気分は晴れない。

ミリーに許しは与えられないだろう。


<私はどんなに逃げてもこの呪縛から逃げられないの?>


「大丈夫ならとりあえず、王都まで戻りましょうや。」


ガレッスの声に我に帰るミリー。


「ええ。そうね。」


「ああこれが身分証ね。」


ミリーにカードを手渡すガレッス。


カードはアマリア国民を証明する身分証だ。

これは魔法のカードで色々な情報をカードに記録することができる。

名前の欄には 〝ミリー〟とだけある。

平民の身分証となっていた。

実は細工がしてあり、本当の身分もわかるようになっているが、魔法の才が無いミリーにはわからない。

真の身分を示すカードに戻すのにはガレッスが設定したパスワード解除魔法が必要だった。


身分証を見て、少し嫌な顔をするミリー。

幸い横を歩くガレッスには気づかれていない。

ミリーが嫌な顔をした理由。

それは この魔法のカードを発明したのが

最初の聖女アリーだったからだった。

ともあれ、今日 王都に新たな冒険者が二人加わったのだった。



4話了


======================

補足


[セレイブ]


光、聖を司る神。聖なる光に包まれているとされ

姿を見る事はできない。

その為、性別は不明。

中性と考えられている。

その光は、邪悪なものを消し去ると言われているが、魔物に憑いた魔を払う事はできない様だ。



[ミドルネーム]


この世界でミドルネームを持つことは

王家の血族である事を意味する。

基本的にはその国の直轄領である土地の名前が贈られる。

アマリア王国において 最初の聖女アリーのミドルネームになっている、アマリア王国メラニス領は

妹のナリーによって、王家直轄領の中でも特別にされ、その名を贈る事を禁止されている。

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