3話 メアルとメアルの夢3
メアルが来た、今日も綺麗でカワイイ。
<よし!行くぞ!>
「よおメアル!買物かい?」
<よし!自然な感じだ。>
「お早うカール。精が出るわね。」
「俺の夢は騎士だからな。知っているだろ。」
「ええ、散々聞いたもの。私も応援してる。」
メアルの買い物に付き合うように話を持っていかなければならない。
木刀を地面に突き刺し、メアルに近づく。
近づき過ぎた気もするが
メアルに嫌がる様子はないようだ。
微笑む彼女。
<くう! カワイイ!>
近づく時自然と胸に視線が行ってしまった。
一瞬で戻すがバレていないだろうか?
いつもヒヤヒヤしているが
つい見てしまうものは仕方がない。
俺も健全な男子なのだ。
ヒヤヒヤするが至福の一瞬でもある。
心の中では 〝ブラボー!〟と喝采をメアルの胸に送っているが、一切に顔には出さない。
これも日頃の訓練の賜物である。
心はおっぱいに歓喜し、でも冷静を装い会話を続ける。
「ただの騎士じゃ無い。巨像騎士を駆る最強の騎士さ。」
なるべくキリッとした表情で言う。
決まったかな?
ここまでは、いつものやりとりのようなものだ。
いつも、ここでメアルは
「邪魔しては悪いから行くわね。鍛錬頑張ってね。」と言い、行ってしまう。
さてこれからどう話を運ぼうか?
と思っていたら
今日に限り、メアルから話を続けてきた。
チャンスだ!
「警護隊にもあるわよね?」
「あれは巨兵だよ。」
「前にも聞いたかしら? どうちがうの?」
首を傾げるメアル。
<くう! 実にカワイイ!>
「木や石や鉄などで作られたのが巨兵で
聖女様が魔法で作るのが巨像騎士。
巨兵は移動させるのが大変なんだけど、
聖女様は一瞬で巨像騎士を作るから移動も楽だし
神様や精霊なんかの能力を使えて段違いに強い。
戦場の華はやっぱ巨像騎士だよ。」
「そうなのね。カールありがとう。」
やはり微笑むメアル。
何度見てもカワイイものはカワイイ。
「何処かにいい聖女様いないかなぁ」
<俺はメアルに俺の聖女になって欲しい!>
本心を誤魔化し、とぼけた感じで呟いてみる。
「お似合いの聖女様が見つかるといいわね。」
無表情でメアルが返す。
<あれ?メアルの機嫌が悪くなった?>
俺は焦った。
メアルは何に怒ったのだろう?
さっき発言は不遜だっただろうか?
もしかすると〝嫉妬〟?
だとしたら脈があるのか?
何と言うべきか…
カーライルの焦りが伝わったのかはわからないが
救いはメアルの方から差し伸べられた。
「そういえば 、リリィちゃんおめでとう。
何かお祝いしないとね。」
「あ、あぁ、ありがとう。
リリィのやつもきっと喜ぶよ。
俺もやっと肩の荷が降ろせる。」
内心の動揺を隠しつつ
ふーやれやれだ、な感じで肩を竦ませてみせた。
「ふふふ。頑張ってきたものね。お疲れ様。」
優しく微笑むメアル。
<ふう。機嫌直ったかな?よしっ!!>
もしさっきのメアルの態度が嫉妬だとしたら
行けるかもしれない。
俺は意を決して切り出す。
「それで半年後、王都で騎士の採用試験を
受けてみようと思うんだ。」
メアルはどんな反応を示すだろうか?
その言葉に、メアルはゆっくり目を閉じ、
胸の前で両手を握った。
「カールならきっと素敵な騎士になれるわ。」
閉じていた目を開き、微笑む。
ハッとした。
彼女の笑みも声もとても透き通って綺麗で
でもとても寂しげだった。
俺が夢を語る時、今の様にメアルは寂しげな表情を見せることがある。
メアルはその時を一緒に居られないことを
悟っているんじゃないか?
そんな儚い感じの笑みだ。
彼女の言葉はまるで祈りの言葉に聞こえた。
<どうして彼女は……メアルに一体何が……>
手を伸ばせば触れられる距離なのに
すごく遠い。
このままではダメだ!
<俺はメアルにこんな表情をさせたい訳じゃない!>
脈アリに思えたから、この前振りをした上で
買い物に付き合うように持っていき、
聖女教会で告白しようと思った。
しかし これはアウトな感じだ。
それならそれで仕方がないことだ。
俺はメアルを守ると幼い頃に決めた。
俺は無理強いすることはしない。
騎士の夢を諦めてこの町に留まるべきだろうか?
俺の表情の変化にメアルが気が付いた様だ。
みるみる悲しげな表情になっていった。
「カール。私は…」
俺は馬鹿か!守るんじゃなかったのか!
今は俺の夢のことはいい。
メアルをこのままにしておけない。
予定を変更しよう。
わざとらしいくらい能天気な感じで
笑って切り出す。
「ありがとう メアル。
なぁ、これから買い出しだろ?
リリィの結婚祝いをくれるお礼に荷物をもつよ。」
「えっ!? 稽古中でしょう?
まだあげても無いお祝いのお礼だなんて悪いわ。」
俺の言葉に驚き、
メアルの雰囲気が戻った。
「稽古は丁度終わりさ。 俺がいれば大量に買い込んでおけるぞ?」
さりげなく力こぶを作りアピール。
「そこまで買い込まないわよ?」
とメアルは呆れた表情を一瞬みせたが、
すぐに優しい感じで
「ふふふ。 じぁお言葉に甘えてお願いしようかしら。ありがとう、カール。」
と微笑んで答えてくれた。
「どういたしまして。
とりあえず先に行っていてくれ。
隊に寄ってからすぐ追い付くから!」
「そう?先に行っているわね。」
彼女は歩きだした。
因みに隊に寄るというのは格好付けで嘘だ。
隊には今日は休暇にしてもらっていた。
本当は一緒に市場に行きたいが
今は鍛錬用のボロボロのタンクトップに擦り切れた警備隊のズボンだ。
いつもと同じ格好で汗だくになっていないと変だし、
あえてこの格好だった。
メアルは気にしないだろうが
釣り合った服に着替えないとメアルが可哀想だ。
俺は早く彼女に追い付きたい一心で
自宅まで全力で走った。
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市場へ向かいながら、
私は先程のカールとの会話を思い出していました。
<胸ばかりチラチラ見るんだから>
アンに年頃の男はそんなものだと言われていましたが、
カールも例に漏れず
最近はよく視線が私の胸に向いています。
恥ずかしいですがカールも年頃の男性。
怒りはしません。
それにカールにならそれくらいは構わないという気持ちもあります。
カールはおっぱい好きなのかもしれません。
それにしても
<ふふふ、カールったら、隊に寄ってからって…>
私はカールが今日お休みを貰っているのを知っていました。
だからカールはきっと着替えに行ったのでしょう。
<気を遣わなくていいのに。>
なぜ私が彼の秘密を知っていたか?
昨日の事を思い出します。
仕事終わり間際でのことでした。
診療所の同僚で姉的存在のアンの元に、
カールと同じ警護隊の小隊長でアンの恋人であるミランさんがやって来ました。
(診療所の同僚になった時、アンと呼ぶ様に強要され、アンと呼んでいる。)
一緒に帰る約束をしていたのでしょう。
ミランさんはアンの元に行くなり、
「ゴメン!! 明日、仕事になったんだ!」
と、勢いよく頭を下げました。
ミランさんは、怒るアンを必死になだめていましたが、その中でカールの名前が出てきました。
私は、いけない事とは思いつつも
二人の会話に聞き耳を立ててしまったのです。
要約すると本来ならミランさんの休みを
カールは一生に関わるからと、カールの休みの日と交換してもらったということでした。
<一生に関わるって…>
すぐにカールの意図は判りました。
ついにこの時が来ました。
彼の気持ちに答えることは出来ない。
その上で何とか彼を傷つけずに
今の関係を保ちたい。
我儘なのは判っています。
カールに会うまではそう考えていました。
今日は私から話をするつもりでした。
苦しい気持ちはあります。
でもカールは判ってくれるのではないかという
期待もありましたし、
カールに会える、彼の笑顔を見れると思うと
嬉しい自分がいました。
カールは、
虐められていた私を守ってくれました。
この髪を「綺麗だ」と言ってくれました。
町で起こった楽しい話をいっぱいしてくれました。
自身の夢を語ってくれました。
私が両親を亡くした時も、
尊敬していたお父様を亡くしたばかりなのに私を元気づけてくれました。
私が成人した時、多くの男性に求婚されました。
結婚する訳にはいかなかったのできちんとお断りするのですが、
中にはしつこい方もいて、困っていた時も
追い払ってくれたのもカールでした。
いつもカールが助けてくれる。
守ってくれる。
笑ってくれる。
カールはきっと私に好意を持ってくれています。
<カール、私も貴方が好き。>
私は昔から、今だって貴方の笑顔に救われています。
カールの笑顔があったから私は今日までやってこれました。
私がカールを嫌いなはずはありません。
カールが「何処かにいい聖女様いないかなぁ」
と言った時、
カールが横に知らない聖女と共に立っている姿を想像してしまい嫉妬しました。
そんな自分を恥じました。
そんな醜い私は、
更にリリィちゃんの結婚を利用して
カールが騎士の試験の話をする様に誘導しました。
結果は後悔しかありませんでした。
カールの悲しそうな表情を見たとき
私は彼を深く傷つけた。
恩を仇で返しているのだと思い知らされました。
私はかける言葉が無くなってしまいました。
そんな醜く、卑怯な私でさえ
カールは笑顔で包みこんでくれました。
あぁカール、私が聖女として貴方の隣に立てたならどんなに幸せでしょう。
でも私にはその選択は許されない。
私に残された時間は少ないから。
貴方が大成した姿を見ることが出来ません。
せめて私にできること。
許された時間の中で貴方の成功を祈ります。
私には人には言えない、
カールにでさえ言えない秘密があります。
私に残された時間がなぜ少ないのか?
それは毎夜見る夢。いえ悪夢に理由がありました。
夢にしては現実の様に生々しく、
そして悪意に満ちていました。
私は夢の中で別の人生を生きています。
両親を亡くして、しばらく経ったころから
毎夜、違う人生を夢で体験しました。
王族、貴族、騎士、村人、巫女、職人
町人、歌姫、調理師、調教師、シスター、
学校と呼ばれる場所で学生を、
ビルという建物の中でデスクワークを、
色々な、行った事も見たこともない世界で
色々な身分、立場で色々な人生を体験しました。
はじめは戸惑い、
そして直ぐに恐れる様になりました。
見てきた夢が全て自分の前世であると確信するのに
時間はかかりませんでした。
毎夜違う夢の中で変わらないこともありました。
それは自分の容姿と………………
18才の誕生日に必ず死ぬ、いえ、
必ず殺されるという事。
18才の誕生日、私は刺殺されました。
絞殺され、殴殺され、撲殺され、銃殺され、毒殺され、爆殺され、斬殺されました。
火炙りにされ、煮えたぎる油の釜に落とされ、生きたまま埋められ、重りを付けられて海に投げられ、崖から突き落とされ、魔物に食べられました。
拷問されながら、犯されながら殺されました。
愛する人に裏切られて処刑台にあがり、
冤罪で公開処刑もされました。
何度も何度も、どの人生でも必ず殺されました。
そして、死の間際、意識の途絶える刹那に
憎悪と悪意に満ちた恐ろしい女の声が
頭に響くのです。
「これは夢ではない!
お前は18才の誕生日に殺される!
何度も転生し、何度も何度も殺される!
殺されろ!もがき苦しんで殺されろ!
恐怖に怯えて殺されろ!
殺してやる!殺してやる!
何度も何度も必ず必ず殺してやる!
殺してやるぞ!!!!」
この呪わしい声と共に毎日目覚めるのです。
眠らない様にしても、
いつのまにか気絶するように寝てしまいます。
私は神か悪魔かなにかの怨みをかったのでしょうか?
どんなに教会でお祈りを捧げても、
人に優しく接するようにしても、
何をしても悪夢が収まることはありませんでした。
やがて私から笑顔が消えました。
人と距離を置くようになりました。
きっとこの人生でも私は殺される。
誰かが、私を殺すのです。
信じられない、誰も信じてはいけない。
と疑心暗鬼になった時期もありましたが、
私が堕ちかけたのを救ってくれたのも
カールでした。
私は彼の黒い髪、黒い瞳、彼の笑顔を見ると
理由はわかりませんが不思議と安心出来ました。
カールが側に居てくれて良かった。
もし彼が居なければ
私はきっと取り返しのつかない事を
してしまったでしょう。
カールは私にとって唯一の救いでした。
私は今世でも殺されるでしょう。
その事が怖くないと言えば嘘になりますが
もし、もしも、カールが私を裏切ったら。
その方が恐ろしい。
でもそれ以上に彼を私の死に巻き込んでしまったら。
その事の方が、何よりも恐ろしいのです。
私はカールと居るべきではない。
今日も断るべきでした。
でもあの時、驚き、そして同時に嬉しい気持ちになってしまい断れませんでした。
私は弱い女です。
一緒に居れば居るほど彼を巻き込む可能性が
高くなるのを知っていながら、
彼に会いたい、
彼と一緒に居たい、
彼について行きたいのです。
でも、私はやはりカールを巻きこみたくないし、
死なせたくない、生きて夢を叶えて欲しい。
私は彼と関わらない方がいい、
愛する人を見つけて、幸せになって欲しいのです。
私は結局いつもカールに甘えてしまいます。
でもこれ以上甘えては駄目。
辛いけど、悲しいけれど私は…
彼の夢の為に決断しなければいけない。
3話了
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補足
[聖女]
イバラークにおける聖女とは、
慈愛で万人を包み込む神や精霊の奇跡の使い手では無い。
神や精霊の奇跡の使い手ではあるには違いないが
神や精霊力を使うだけなら
神官や巫女やシャーマンでも使うことは出来る。
この世界で聖女と呼ばれるのは、
慈愛の心では無く、自らの身を依り代にして神や精霊の姿を顕現できる者。
即ち、巨像騎士を顕現できる者を言う。
そして不思議な事に
男性はどんなに能力が高くても
巨像騎士を顕現させることは出来ず、
女性だけが聖女になれた。
神を降ろす聖女は 巫女から
精霊を降ろす聖女は シャーマンから昇格する。
ジョブとしてみるなら
聖女は巫女とシャーマンから派生する
上位ジョブという事になるだろう。
世界で聖女と認められるのは
聖女教会、各神殿、各国家いずれかの
認定が必要であり、
中でも聖女教会の認定を受けた聖女は
どの国でも聖女として認定される。
(国際ライセンスのようなものである。)
また、なんらかの事情で認定が無い聖女もおり
冒険者や傭兵になる場合が殆どである。
[巨兵]
元々は魔導技術によって生み出されたゴーレム技術を利用した対魔物用の巨大兵器である。
巨像騎士との違いは、物質で作られた体がある点にあり、利点でもあり、欠点でもある。
巨像騎士は移動に関して 騎士と聖女二人の身で済むが ゴーレムである巨兵はそうはいかない。
巨兵の本体を運ぶ必要があるのだ。
そのかわり物質を伴った攻撃は
相応の破壊力を持っているし、
材質によっては高い防御力を得ることができる。
初期のゴーレムは魔導師が遠隔操作するタイプであった。
やはり操るのが近接戦闘職でないのと
魔導師1人がゴーレム1体にかかりきりになるなど
効率が悪かった。
巨像騎士が誕生し、騎士が操るという発送を
得て、ゴーレムも操縦者がゴーレムに同化し
操るタイプが主流となった。
この進化により、様々な形状があったゴーレムも
人型が主流になった。
〝巨兵〟と呼ばれるようになったのもこれ以降である。
技術的には人工的に作られた〝魔導球〟の性能に
左右される、
魔導球は制御装置であり、動力エネルギーである魔力タンクであり、同化する操縦者の魂の器となる。
この為魔導球にダメージをうけると
操縦者もダメージを受け、壊されると
例外なく操縦者は死に至る。
巨兵に同化するためには魔術師の
同化の魔法が、解除するには同じく解除の魔法が必要である。
また魔導球の魔力が切れても解除される。
魔導球にダメージを追わない限り
巨兵の体の損傷は操縦者のダメージにはならない。
巨兵の性能は魔導球の性能と
体を構成する材質や体の作りに左右される。
また現在の魔導球の技術では
巨兵は魔法を使うことができないが、
西の大国〝魔導王国〟ではその常識を覆す
巨兵を開発中であるという。
現在では、防衛兵器として国家の国防に
欠かせない兵器となっている。
どの国も魔導球、巨兵開発にも力を入れている。
これからも進化し続けるのであろう。
いずれ巨像騎士を凌駕する巨兵も誕生するかもしれない。
相変わらず、補足は長いです。
世界感の構築に役立ってくれていれば良いですが
矛盾だらけになりそうで怖いです。