38話 最強ペア冒険者になる
王都に着くなり、
騎士になるのは止めたと言ったカーライル。
「最強の騎士になるんじゃなかったの?」
メアルでなくても
カーライルを知る者なら驚くだろう。
「幼少時の夢だな。
だけど、今すで最強だから」
「それはそうだけど…」
メアルが一度は諦めた
カーライルの聖女のなるという夢。
折角叶えることが出来る様になったのに
やはり諦めなければならないことを
残念に思うのも仕方がないことだ。
「ここからが肝心だけど
俺が試験で騎士になった場合、
メアルとパートナーになれる可能性は低いだろ」
「え?」
その言葉に驚くメアルだが
考えて見れば、カーライル言うとおりだった。
カーライルが騎士に叙任されないとならないのと同様にメアルも聖女に認定されないとならない。
メアルの顕現させる力はランディーの力を
利用しているのだが
7色に光る巨像騎士は見せたら最後、
アマリア王家が隔離してこようとするだろう。
メアル自身の力で巨像を作ったとしても
普通の巨像より強力すぎる自信が
メアルにはあった。
どちらにしても聖女の認定は受けれるだろうが
新人騎士のカーライルの元にはいけないだろう。
結果、この国から逃げ出すことになる。
それならば最初からならなければいい。
カーライルが冒険者になると言ったのは
そういう事なのだ。
二人が不自由無く一緒に居られるためには
冒険者が一番手っ取り早い。
そして正式な騎士と聖女では無くとも
何かペナルティーが有るわけでもない。
ならば、認定を受けることに何の意味もない。
しがらみ=面倒事が増えるだけだ。
メアルは取り敢えず
巨像騎士を顕現させる場面があった場合は
自身の力を使うつもりでいた。
7色の巨像騎士は余りに目立ってしまう。
とは言え、自身の力を顕現させた場合、
白銀の光を放つだろう。
それはそれで目立つ。
「言いたいことはわかったわ。
もうカールと離れるのは嫌」
メアルはカーライルの腕にそっと寄り添う。
やっと、帰ってこれたカーライル(ランディ)の隣。
パートナーの証であるその位置から
もう離れるつもりのないメアルは
カーライルの意見を支持した。
二人はフード付きの外套を羽織っておる為、
さほど目立つことはなかったが
メアルが顔を出していたならば
その美しさで、さぞかしひと目を集めた事だろう。
「それじゃあ 取り敢えず宿を探すか」
「ええ」
2人の資金は潤沢だった。
メアルが今まで貯めてきたお金に加え、
商隊にいた少女メリルを助けて以降も
2回ほど山賊に遭遇し
そこで巻き上げたお金があったのだ。
ちなみにカーライルの蓄えはそれらと比べたら
微々たるものだ。
その日2人は贅沢をし、高級な宿を取った。
単に一番最初に目に着いたのがその宿だった。
その1泊で資金の半分が飛んだのだが
二人は気にしない。
その日1日は優雅に過ごし
メアルはその晩、存分に可愛がって貰った。
次の日
二人は冒険者ギルドにいた。
王都のメイン大通りに面した位置にあり、
探すのに苦労しなかった。
「冒険者の登録ですね」
受付譲に身分証を渡す。
冒険者になるのに身分証は要らない。
だからこそアルジとニースも冒険者登録できたのだが
アマリア国民であり、スタの警護隊にいたという
経歴を示す身分証があるのなら話は早い。
二人の登録は円滑に進んだ。
「こちらがお二人の冒険者証になります」
タグと新たな身分証となる
冒険者カードが手渡された。
タグは冒険者者ギルドのマークとランク、
持ち主の名前が刻まれている。
仲間が死んだ時、
タグを持って帰ればいいようになっていた。
タグの材質はなかなか高価な
アマリアが誇る人工ミスリル。
だから摩耗しにくく長持ちする。
ちなみに売る事は禁止されているが
売ること自体には罰則は無い。
ただしカードやタグの再発行は有料だ。
お金が無ければ
依頼達成時の報酬から引かれることになる。
そして、故意であろうとなかろうと
ランクが一つ落とされる。
ランクFの場合はランクアップ禁止期間が延びる
というシステムになっている。
そんな説明を受けた後で
二人は冒険者の証を受け取った。
「ありがとう」
「これからよろしくお願いします」
二人は受付嬢に礼をし、
早速クエストボードに向かった。
そこでお約束が起こった。
「おい、新人の兄ちゃん」
カーライルに話しかけたのは3人の男達だ。
装備は使い込まれいるし
それなりに修羅場を潜ってきた面構えをしている。
なかなかのベテラン冒険者の様だ。
「ん? 俺か?」
意にも介さずのんびりと答えるカーライル。
「そうだ。あんた新人だろう?
だったら先輩方に挨拶が先だろうよ」
カーライルに向けられた敵意ある言葉を受け、
メアルの機嫌が急降下した。
メアルの機嫌に比例し周囲の気温が下がって行く。
カーライルは苦笑しながら宥めた。
手加減はするだろうが
メアルに任せるととんでもないことになりそうだ。
初日で出禁になるのも困る。
とカーライルは思った。
「ほお、綺麗な姉ちゃんを連れてるな。
その姉ちゃんがお酌してくれるなら許すが。
どうするよ兄ちゃん」
「お酌ね。あんたら地獄を見たいらしい。
先輩方に鉄拳で挨拶するのもいいが、
それよりも折角冒険者なんだから
依頼でどちらの実力が上か決めないか?」
鉄拳の方が手取り場合だろうが
その後陰湿な手段にでられると鬱陶しい。
「言ってくれるじゃないか兄ちゃん。
こう見えても俺らはCランクだ。
謝るんなら今の内だぜ?」
「売られた喧嘩は買う主義なんだ。
俺らが勝ったら、そうだな。
金輪際、新人イビリを止めてもらおうか」
「勝つ気かよ!
じゃあ俺らが勝ったら
一生俺らの元で小間使いしてもらうぞ」
「勝負成立だな。
どちらが大物を仕留めるかでいいか?」
「ああ、勿論だ
期間は…そうだな1週間、
結果ゴブリン狩りましたとかいい出すなよ?」
「流石にそれはないさ。
1週間あるなら俺はコレを受けるか」
カーライルは1枚の依頼書を
クエストボードから剥がす。
「てめえ! 正気か!」
驚きの声を上げるベテラン冒険者達。
まるで狂人を見るかの様な目をカーライルに向けた。
メアルは3人の態度に一層機嫌を悪くするが、
ベテラン冒険者達が驚くのも無理はない。
いやベテランで無くても驚くだろう。
カーライルの取った依頼書は
推奨Aランクの依頼書『ワイバーン討伐依頼』だった。
ワイバーンは飛竜種の中で
最もポピュラーで生息数も多い。
しかし本来、
人の生息地に姿を見せるモンスターでは無い。
恐らく縄張り争いに敗れた個体が
人里に姿を現す様になったのだろう。
ドラゴンと比べ、知能は低いが
人の手には余る凶悪なモンスターなのだ。
例えワイバーンの中では弱い個体であってもだ。
カーライルとメアルの冒険者ランクは
登録したてなのでFである。
しかしランクFであっても
依頼者側がランクに条件をつけなければ
依頼を受ける事が出来た。
今回カーライルが手に取った依頼も
内容のハードさに関わらず、
ランク条件が設定されていない。
報酬も少なく、ワイバーンの遺体の権利が貰える位の
メリットしか無い依頼だった。
依頼者も高ランク冒険者を雇いたいのだろうが、
ランクを設定すると報酬に最低基準が出来るのだ。
この報酬ではランク制限無しにせざるを得ない。
ワイバーン素材の権利については
まさに取らぬ狸の皮算用だった。
飛竜種を綺麗に狩るのは難しい。
飛んで逃げ、急降下して襲って来る。
魔法への抵抗力も高く
巨像騎士でも無い限りは難しい依頼だ
だから通常は罠をしかけ、
身動きを封じて飛べないようにした上で
多人数で襲いかかるのだ。
これでは 外皮や羽は痛み鑑定価格は低くなるのだ。
ギルドにはたまにランク指定の無いのに
こうした危険度が高い依頼が入ることがある。
そして、名誉を求めて
無謀な挑戦をする者が出ることがある。
冒険者ギルドとしては自殺志願者が思い留まる様に
せめて目安のランクを記載するのだ。
「ああ、正気さ」
カーライルは先程の受付嬢に
依頼書を差し出す。
「あの、本当に受けられるのですか?
推奨ランクはAランクですよ?」
「勿論わかった上だよ」
カーライルは気負う様子も無く答える。
「命についても自己責任ですよ
本当に宜しいのですね?」
受付嬢が改めて念を押す。
「ええ」
メアルがニッコリ笑って答える。
「判りました。依頼を登録します。ご武運を」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、7日後な」
そういってギルドを出ていったカーライル達。
「ああ」
ベテラン冒険者も毒気を抜かれ、
そう答えるのがやっとだった。
「ありゃ、いっちまってる。
可哀想に。折角あんな美人つれてるのによ」
「ああ、たまにいるんだよな。
自分の実力を勘違いする若いのが」
周囲で様子を伺っていた他の冒険者達の言葉は
常識に則ればまっとうな意見だった。
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その日の内に
目的の村に向かうカーライルとメアル。
村の場所は乗り合い馬車の御者に聞いた。
残念ながら路線の無い村だったので
歩きとなったのだが。
村への道中での事。
「ねぇカール、どうしてこの依頼なの?
勝負だとしても行き過ぎじゃない?」
メアルとしては
スタの一件で目をつけられた事もあり、
目立つ事をしない方ががいいのではと
思っての発言だった。
「冒険者としてなら目立ってもいいさ。
スタの件は気にしなくてもいいんじゃないかな。
流石にあの件と結びつけられる奴は居ないだろ。
今回、巨像騎士は使わないつもりだし」
「カールがいいなら私は大丈夫」
側にカーライルがいるのなら
問題はないメアルだった。
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「おや、アルジ見るのじゃ!」
「どうした?」
その日、アルジとニースは
何日かぶりに王都の冒険者ギルドに顔を出していた。
いつもよりピリピリとした雰囲気を
疑問に思う二人だったが
取り敢えずは用事を済ませることにした。
依頼達成の報告、報酬の受け取りと
次の依頼を受ける事が目的だった。
何度も往復せずに先に次の依頼を確保し、
達成報告と依頼登録を同時に済ませるのが基本だ。
クエストボードの依頼を確認していたニースは
不人気依頼No1のワイバーン討伐の依頼が
無くなっている事に驚き、
思わずアルジを呼んでしまった。
「ほお、無くなってるな」
「王都の冒険者にもバカがいたんじゃな」
「ああ、全くだな」
二人もこの無謀な依頼を受けたのが
カーライル達だとは流石に夢にも思わなかった。
ともかく、ちょうどこの日はカーライルと
Cランク冒険者達の決着の日だった。
次の依頼を決めた二人は依頼書を持って
受け付けに向かう。
「今日はいつもと雰囲気が違うがどうしたのじゃ?」
ニースは受付譲にこの雰囲気の原因を訪ね、
新人冒険者2人とCランク冒険者達の勝負の話を聞いた。
「なる程今日が決着の日か」
そう言いながら、アルジは
新人冒険者2人を待っている3人の男達を見て
ため息をついた。
コイツらか……
この3人組にはアルジとニースも因縁をつけられた。
(ニースが)派手に返り討ちにしたのだが、
また懲りずに新人イビリをしたようだ。
新人2人は帰って来まい。
逃げたか、死んだかしただろう。
しかし勝負の為にモンスターを狩ってきた
3人組も律儀なことだと感心もした。
因みに
Cランク冒険者達が狩ったのはオーガだった。
食人鬼とも呼ばれるオーガは人の倍は大きく力も強い。
獰猛で好戦的。
Cランクが相手するをするには少し荷が重い相手だ。
実際3人の内1人は骨折でもしたのだろう。
腕を三角帯で吊っていた。
「主らも真面目な事じゃな」
ニースは皮肉を込めて話しかけた。
「ニースさん、お疲れ様っす」
コテンパンにされて以来、
格下ランクのアルジとニースに
すっかり低姿勢になった。
現在2人のランクはEであり
カーライル達と知り合った当時から変わっていない。
単純に昇格試験を受けていないからだが
受けていたとしてもDランク。
格下なのに変わりはない。
DからCに上がる為には
最低でも1年空ける必要がある。
昇格試験を受けれるのは
年に1回だけという決まりがあるのだ。
「新人相手にそれじゃあ格好つかんじゃろ
どれ、治してやる」
そう言い、骨折した男に回復の精霊魔法をかけた。
「あざっす!」
すっかり舎弟的になった3人組。
ニースにしてみれば
意地の張り合いで怪我をする馬鹿達に
かける情けは無い。
治したのは気まぐれである。
それと勝敗の行方が気になったからだ。
アルジと違いニースは
新人2人は戻ってくると思っている。
理由はない。
でもしかし何故かそんな気がするのだ。
こういう感覚は結構重要で
場合によっては生死を分かつことがある。
その事をニースはよく知っていた。
やがて外が騒がしくなってきた。
どうやら待望の新人2人が帰って来たらしい。
ニースは待ちきれずに外に出でた。
ギルドは王都のメイン大通りに面しているが
防壁門の方向から
フード付きの外套を被った2人がやってくる。
男女のペアの様だ。
そしてその後ろには
首を落とされたワイバーンが台車に乗せられ
二人の後を着いてくる。
王都内に牛の入場は出来ないので
台車が10人かかりで移動している。
恐らく依頼を出した村の男たちだろう。
ニースはワイバーンに視線が釘付けになってしまった。
狩られたワイバーンは飛竜種の中でも
最も大きく、凶暴なブラックワイバーンだった。
外に出てきたアルジや対戦相手の3人組も
ワイバーンを見て言葉を失くす。
あれを2人で狩ったというのか。
狩れるとしたら巨像騎士だけだ。
ならば二人は騎士と聖女ということか。
しかし精霊達が騒ぐほど二人から力を感じない。
どういう事だろう?
これは本人達に聞くしか無い。
とニースは考えた。
そしてアルジはニースが二人に興味を持ったことが
手に取るように判った。
自身も冷静になれないでいる。
血が騒いでいるのだ。
二人が近づいてくる。
二人の顔が見えるかという距離になった瞬間。
アルジとニースはどっと冷や汗が出た。
いくつもの死線をくぐり抜けてきた
二人だからこそわかる感覚。
今、男のほうだろうか?の間合いに入った。
そう直感が告げた。
間合いに入っただけで死ぬイメージしか沸かなかった。
話す事が出来ない。
それどころか息も出来ない。
少しでも動いたら……
そう考えてしまう。
ふっと軽くなった。
2人が警戒を解いたのだろうか。
そしてアルジとニースは2人の正体に気づいた。
「カーライルの坊主にメアルか!?」
「アルジさん、ニースさんご無沙汰しています」
思わず声を上げてしまったニースに
メアルが返事をしてくれたのだった。
「カール、メアル随分と変わったな」
アルジも記憶にある二人の気配のあまりの違いに
戸惑うばかりだった。
「全くじゃ、何があったのじゃ」
「まぁ、色々ですよ」
カーライルは気負う様子もなく答えた。
何があったのかは判らない。
判らないが
<勝てる気がしない>
アルジはそう思ってしまった。
「主ら、よくも喧嘩を売ったものよな」
ニースは
言われる迄も無く
土下座している3人組に向かって
呆れ気味に言った。
3人は必死に頭を地にこすりつけている。
「で、あんた等は何を狩ったんだ?」
カーライルが土下座している3人に質問する。
「聞いてやるな」
アルジがカーライルを宥める。
「土下座に免じて許すけど
約束は守って貰うぜ?
もし破ったら…次はあんたらの首が飛ぶ」
「「「はい、絶対守ります!」」」
3人は腰を抜かしその場から動けなくなった。
「約束とはなんじゃ?」
「金輪際新人イビリをしないって約束です」
メアルはにっこり笑う。
知らないものが見たらさぞかし美しいと
思ったに違いない。
しかし腰を抜かした3人にはさぞ恐ろしい笑顔に
映ったことだろう。
「しかし、これは…」
ブラックワイバーンを見ながら
アルジは唸る。
遺体は首が跳ねられている以外
綺麗だった。
つまり戦闘は直ぐに終わった事になる。
スタで見た圧倒的な力をもった巨像騎士。
あの力であれば納得だ。
切断面が凍りつき血が流れていない。
その点もあの時振るわれた力を彷彿とさせる。
何にせよ
「これは、いくらになるかのう?」
ニースが鑑定額に興味を持った。
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鑑定額は凄まじいものだった。
まずブラックワイバーンを狩れるものは少なく
素材は全て貴重だった。
しかも状態が極めて良い。
そして切り口が即凍らされた事で
血が大量に取れた
龍種の血もまた貴重で様々な用途があった。
メアルとカールが最初に泊まったような高級宿でなく
中級宿なら3年は困らないだろう。
依頼を出した村としても
ワイバーンの輸送の手間賃として各人に渡された
お金は討伐依頼の報酬より遥かに高かった。
帰りの安全を考え、
こっそりと報酬を渡された村の男たちは
ホクホク顔で村に戻っていった。
「再会に乾杯じゃ」
ニースの音頭で乾杯を交わす4人。
メアルはお酒を飲まないので1人だけジュースだった。
カーライルとメアルは
簡単に事情を説明した。
「そうか呪いがかけられておったんじゃな」
「ええ、その呪いも解けました」
「で、そもそもの疑問じゃが……お主ら人間か?」
あまりにストレートな問いに
思わず吹き出しそうになるアルジ。
メアルは心配そうにカーライルを見た。
「あまり大きい声では言えないけど……」
「うむ」
「半分は」
カーライルはこれもまた気負うこと無く答える。
「そうか、まぁ、いいさ。」
アルジとニースは残りの半分について
考えないようにした。
「で、お主ら 騎士採用試験を受けずに
冒険者になったんじゃな」
「やっぱ、気楽に生きようと思って」
「まぁ、無理じゃろうな。王国騎士は」
人の枠に収まっていないのだから
とニースは心の中で付け加えた。
「カール、メアル」
アルジは真剣な表情で2人に向き合う。
そして
「俺とニースの巨像騎士で一騎打ちを申し込む」
二人に勝負を申し込んだ。
38話了




