37話 王都への道中にて
カーライルとメアルは助けた少女を連れて
地方都市キノにたどり着いた。
ここは、スタから一番近く、
アルジとニーが暫く拠点にしていた都市でもある。
冒険者ギルドの支部があるだけあって
この地方では大きい都市だ。
というのも平地が広く、
近くの河川は川幅200mと広い。
各町や他の都市の交通拠点として
絶妙な位置であるこの地に
人が集まらない筈も無く、
地方都市としてはかなりの規模を誇る。
都市は拡張が続き防壁の外にも
人家は立っていた。
防壁門が開くのが午前7持。
カラーライル達が都市に着いた時は
もう日が高かった。
「カーライルさん、メアルさん有り難うございました。
このご恩は決して忘れません」
「ああ、気にしないでくれ」
「メリルも元気でね」
2人が助けた少女メリルの父は、
ミランの実家の商会の商隊長の一人だった。
メリル自身も商会に会計士として雇われていた。
商会はこの都市に支店を持っており、
この地方の各町への流通拠点としていた。
カーライルとメアルは
メリルをこの都市の商会支店に送り届けたのだ。
商会としては、山賊が持っていたお金がメリルを
通じて入った為、金銭的損害は無い。
ただ人的損害は大きかった。
今後スタへの物資輸送に関しても
護衛の強化が必要になるだろう。
結果としてスタでの商品価格は上がることになる。
それはさておき、
メリルは父と仲間を一気に失った。
助けられた以降は
前日の様な明るさは無くなり、
寡黙な少女になってしまった。
それでも、都市につく前に
カーライルとメアルに何でもいいから
お礼をさせて欲しいと懇願した。
二人から渡されたお金を謝礼として渡すのも
却って失礼。
だからこその申し出だった。
「また会った時、
助けてほしいことがあったら頼むよ」
カーライルはそう言って躱したが
もう出会うことは無いだろうと思っての発言だった。
結局〝謝礼は今度会った時に〟でまとまった。
メリルと別れ、二人はこの日は宿屋で一泊した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜、宿屋にて
「ラメット」
ランディーの呼びかけにラメットは
彼の胸に埋めていた顔を上げた。
ラメットは悦びの余韻を味わっていた最中だった。
「ランディー様♡」
今は二人きりだ。
だから二人はカーライルとメアルから
ランディーとラメットに戻っている。
「ラメットはどうしたい?」
真面目な質問だった。
そして、懐かしい質問でもあった。
出会って、一緒に過ごして
そして初めて結ばれた後で
やはりこの質問をされた。
ラメットは思い出す。
〝あの時は
争いを終わらせて争いの無い世界にしたい。
そう答えた。
そしてそう答えた時の
ランディー様の表情も思い出した。
今にして思えば
叶わぬ夢であることを知っていながら
私の夢に付き合ってくれたに違いない。
私は転生を繰り返す中、それぞれの人生で
世界を平和にしようと足掻いていた様にも思う。
アリーだった時もそうだった。
でも、今は…
転生を繰り返し、
足掻いたからこそ私は理解した。
この世から争いが無くなる事は決して無い。
どの世界でも必ず……
必ずどこかしらで捕食のため、利害の為、
様々な理由で争いはあった。
きっと弱肉強食というルールは
世界にとって必要な物なのだろう。
そしてそのルールが世界に必要だからこそ
人々は時に争い、時に慈しみ合うのだろう。
完全なる平和の世界に生物の進化はきっと無い。
それはきっと望まれることの無い世界だ。
だから、もう世界をどうかしたいとは思わない。
今の私の願いはたった一つ。〟
「ランディー様、
貴方様の側で、ただただ尽くしたい。
それだけです」
今のラメットにある想いは、
永劫の苦しみから助けてくれた
ランディーの深い愛への恩と
自分のランディーに向ける深い愛情だけだ。
最早ラメットにとって
他の事は取るに足らない事だった。
メリルを助けた事も別に人情からでは無かった。
商隊の人間がいくら死のうが関係ない。
しかし山賊はランディーに敵対した。
しかもこともあろうか、脅したのだ。
不遜極まりない。
確実にあの山賊一党を全員抹殺する為に
拐われた少女を助ける提案をしただけだった。
実際、ラメットの攻撃は容赦が無かった。
「いい子だ」
ランディはすっと目を細め、
ラメットの髪を撫でる。
そして、彼女にまた覆いかぶさる。
「もう強制で眠ることはないからな。
まだまだ夜は長い」
「あぅ、ランディー様、
尽くしたいのはやまやまですが、
この体ではまだ無理が出来ません」
「じゃ、優しくな」
「もう、ランディーさまったら♡」
結局応じるラメット、この辺は
メアルだった頃と全く変わらないのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
メアルはその日、夢を見た。
運命の日の夢の続きだった。
それはラメットがかつて邪神との戦いで
呪いにより命を落とした日の記憶。
邪神の軍勢を打ち破った2人の元に
邪神に組みした巨人族の一軍が迫っていた。
巨人族の中でも特に凶暴な1つ目の巨人
サイクロプス族の軍勢だった。
今日の夢はそこから始まった。
目視できる距離に
武装したサイクロプスの軍勢。
そんな中でもランディーは
特に焦る様子を見せない。
「ランディー様喜んでいる場合では」
「ああ、すまん」
「どうなさるつもりです?」
「巨人には巨人だな」
そう言うとランディーは頭を掻いた。
その直後、二人の背後に出現した巨人。
まるでアハ体験映像でも見ているかの様に
その巨人はいつの間にか出現したのだった。
ランディーの呼び出した巨人はゴーレムだった。
ただしその性能はこの世界ではあまりにチートだった。
「綺麗!」
思わずラメットが呟く。
その巨人は純白の体に7色に輝く光を纏い
幻想的だった。
形状は女性を思わせる優美なライン。
武装はランディーと同じニホントウ。
ただし刀身は黒かった。
「おっぱいん、やってくれ」
「脳に栄養が足りていない人が
呼びそうな音が聞こえましが、
まさか、ひょっとして、嘘だと思いたいですが
その子の名前ですか?」
その名にふさわしく巨人ゴーレムの胸は膨らんでいた。
「いい名だろう!」
ゴス!
鈍い音と共に地に突っ伏すランディー。
ラメットの持つ錫杖が血に濡れていた。
「いたた、禁止ワードは言っていない筈だが?」
ランディーが起き上がりながら苦情を言う。
「あまりにこの子が不憫だったので、つい。」
「やれやれ、それじゃあ巨人族どもを蹴散らしたら
名前をつけてやってくれ」
「判りました」
それを合図におっぱいんが動き出す。
その力は名前のバカバカしさに似合わず
圧倒的だった。
サイクロプス達の如何なる攻撃にも
傷一つつかない。
「君の持つ錫杖と同じ金属だ。
この世界で傷つくはずがない」
「反則ですね。武器もですか?」
「ああ、詳しくは言えないがね」
「聞いても理解できません」
戦いは終始一方的だだった。
ゴーレムは動きが早かった。
放つ斬撃はラメットから見ても太刀筋が見えなかった。
一撃で真っ二つになっていくサイクロプス達。
隊長と思われる青い鎧のサイクロプスも
一撃で真っ二つになったのだった。
「この子の名はロゼシアスタ。通称ロゼにします」
「どういう意味だ?」
「なんとなくです」
恥ずかしそうに頬を赤らめながら答えるラメット。
きっと由来は有るのだろうが
答える気は彼女には無いようだ。
「そうか。じゃ、たった今からコイツはロゼだな」
「よろしくね、ロゼ」
日が暮れ、ロゼの巨体に夕日が差す。
その足元に佇む二人。
いよいよ邪神との対決が間近に迫っていた。
「………」
ラメットはそこで現実世界に戻って来た。
ランディーがラメットの隣で眠っている。
ラメットはそっとランディーの腕にしがみつき、
そして思う。
<私はここに帰ってこれた。
今度こそ、この世界の先に進みます。
ランディー様と共に>
もうじき日が昇る。
今日もまた二人で一緒に過ごせる幸せを
ラメットは噛みしめるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、都市を出て王都への道を進む2人。
今度はメアルがカーライルに質問をした。
「そう言えばカールの今のジョブってなあに?」
この世界の住人は
この世界のシステムが判っていないので
ジョブやスキルを理解していない。
人生の選択ををしていく中で
定まっていくものだった。
だが、システムを知る神々にとって
それらを最大限活用することは常識だった。
「ん、そいえば何だったかな?
ステータス見てもいいぞ」
「できません」
これは遠慮したからではなく、
能力差によりラメット(メアル)が
ランディー(カーライル)のステータスを見るのは
レジストされるのだ。
「そうか。うん『おっぱいマスター』だな」
「え!?」
心なしか周囲の温度が下がった様にカーライルは感じた。
「その錫杖はなんだい?」
いつの間にか錫杖を持っているメアル。
「ただの杖よ。歩き難いので」
道は平坦で舗装こそされていないが、歩き難い事はない。
「まぁ、嘘を言っても仕方がないからな」
「ブレードマスターの聞き間違いじゃないの?」
「いや、聞き間違いじゃないな。
ブレードマスターだった事もあったけどな」
「因果を書き換えるのは?」
「あれは俺固有の能力だ」
「道理でそれっぽい技が出てこない訳ね…」
「うん、技なんて無くても問題ないから」
「聞くのが怖くなったけど
スキルって何を取ったの?」
「カーライルの器ではスキルポイント最大30で
一年に1ポイントだからな。
考えに考え抜いたさ。
身体強化(弱)が1ポイント
おっぱい審美眼15ポイント、
刀士が3ポイントで残りは1ポイント。
おっぱいマスターでも何故か
審美眼だけは取らないとならないんだよ。
ま、あとはジョブに含まれるからお得」
シャラン!
言い終わる前に涼し気な音がなった。
「危な!」
屈んだカーライルの頭上を錫杖が通っていった。
「なぜ避けるの?」
にっこり微笑むメアル。
「それで殴られたら、この体じゃ頭が吹き飛ぶ!」
「へー、そうなんだ」(棒読み)
こうして、逃げるカーライルと追うメアルの
仲睦まじい鬼ごっこが始まった。
カーライルは生き延びた。
当然と言えば当然だが
メアルが先にバテたからである。
もっとまともなスキル選択してくれたら
色々と危機を回避出来たんじゃないのか?
とメアルが考えるのも致し方が無いことだろう。
しかし、カーライルのスキルは予め
自動取得に設定されていたので
そんな思いも無駄である。
真面目な話
人間一人のスキルの力で
どうこうなることは多くはない。
ランディーにはスキル以外の強大な力が有るからこそ
スキルでは茶目っ気を出して遊んだのだった。
「やれやれ、そんなに怒るなよ」
「怒ってはないわ。ただ呆れただけよ」
「そういうメアルはジョブとスキルはどうなんだい?」
「ジョブは〝治療師〟で
スキルポイントは18残っているわ」
「ジョブは診療所にいたからか
スキルの方は呪いが邪魔して取得してないんだな」
「ええ、そうみたい」
「で、何を取るんだ?」
「そういわれると
必要なスキルは余り無いかも」
「君は神々にとっても
肉体をもつ最後の一柱だからな
全ての神の加護も持つし、
スキル要らないか」
「うーん、勿体ないから
体が虚弱なので強化と、あと美容系を」
「ほらな、趣味や好みになるだろ?」
「あう、 ゴメンなさい」
「そうだな、
おっぱい鑑賞させてくれたらチャラにしよう」
「……後でなら」
「じゃ、次の宿でな」
「私のカールは一体どこに行ってしまったの?」
「どこにも行って無いけどな。
強いて言うならムッツリを辞めただけさ」
「うぅぅ 判っていたわ。
カッコよく言わないで」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カーライルとメアルはやがて王都に到着した。
王都の外壁門での入場審査をパスし、
中に足を踏み入れる。
大通りを目にし、メアルは感慨深く言った。
「随分と大きな都市になったのね」
彼女がアリーだった時、
王都は此処まで発展していなかった。
それだけ魔物の脅威が遠ざかった事の証でもある。
「そうだな」
カーライルもまたアリーを呪いから救うべく
騎士ライアンとして、かつてのこの地にいたので
メアルと思いを共有できた。
「カール、騎士採用試験を受けるのでしょう?
申し込み期限は今日までよ」
「ああ、そうだったね」
ここまで割とのんびりとイチャイチャしながら来たので
申し込み期限ギリギリになっていたのだった。
「急ぎましょう」
「いや、試験はヤメた。
それより冒険者になろうと思う」
急かすメアルにニヤリとしながら
カーライルは答えたのだった。
37話了




