36話 最強ペア vs 山賊
ついに、永劫の呪いに打ち勝った二人。
その二人は山道脇の木々の間から姿を現した。
メアルはカーライルにお姫様抱っこされている。
いや、もう以前の二人ではない。
今や半人半神である二人に以前の雰囲気は無い。
そこに居るのはランディーとラメットだった。
「もう、ランディー様ったら」
「ははは、仕方がない。感動の再会の後だから」
「もう足腰に力が入りません」
「いや、済まない。でも良かったぞ!
宿屋に着いたら寝かせないからな」
「もう!ランディー様ったら♡」
バカップルさは拍車がかかっていたが
ランディーとラメットとしての再会は実に
永劫とも思える長い時を経ているのだから
仕方がないことだ。
すっかり日も高くなり今はお昼くらいだった。
リカヨイを倒したのが朝8持位のことなので
4時間くらいお楽しみだった事になるが、
二人にとっては刹那の出来事だろう。
「こんな日が来るなんて夢みたいです」
「ああ、もう縛るものはない」
「呪いがあんなにあっけなく砕けるなんて
思っても見ませんでした」
「呪い発動時の
あのタイミングでなければならなかった。
そのタイミングで解くことが難しかったのさ。
それさえクリアできれば、あんなものだ」
呪いの解析に5000年かかっているとは
ランディーは言わない。
「どうしてタイミングを合わせるのが
難しいんですか? ランディー様なら…」
「世界を渡る俺は
この世界にとって存在の因果を持たない異物さ。
だから世界からの干渉を受け、
介入するには時間もかかるし、制約も有る。
アリーの時は転生に時間がかかりすぎて
君に信用されなかったな」
「あの時は……ごめんなさい」
「いや、怒っている訳じゃない。
結局のところ、呪いが発動した瞬間に
俺が間に合うかどうかの問題だったのさ。
だから俺はこの世界にまた君が転生するのを待っていた。
何度も来ていて介入しやすくなっているからな。
そして君が生まれた日に
俺も人間としての転生を開始したのだが
今回は直ぐに転生でき、
幼少の君との絆を強める事ができた」
「今回は何故直ぐに転生出来たのです?」
「ふむ、まだ説明は出来ないな。
今はそういうものだと思ってくれ」
「今は、ですか?」
「ああ、君が世界を渡れるようになれば判るさ」
「そうしたらずっとランディー様と一緒ですね」
「ああ、もう離しはしない」
「ランディー様はずるいです。」
要所要所でキュンとさせてくるランディーの発言に
顔を赤くするラメット。
「ラメット」
「はいランディー様」
のんびりとした感じで呼びかけられたので
普通に応じたラメット。
「二人でいる時はいいが、第三者が居る場所では
カールと呼んでくれ」
「え? 何故です?」
「例えば、アンの姉御の前でもそう呼ぶのか?」
「あ!そう……ですね」
「俺たちはカーライルとメアルという存在として
この世界に繋がっている。
今、我々の在り方が変わった事で繋がりが希薄になった。
だから我々をカーライルとメアルとして
認識している人の前で
存在を否定してしまうのはマズイ。
それに今回の件で力を使いすぎた。
少し蓄えなければ跳べない」
「……どうして、そんなに力を使って……
そうまでして私を助けてくれたんですか?
ランディー様の程の方ならパートナーは他にも…」
「愚問だな。決まっている。愛しているからだ」
「ランディー様♡」
「特におっぱいを」
「あ、台無しです。
なんか私のカールを返して欲しいです」
「酷いな、俺が汚染したみたいじゃないか」
それが照れ隠しであることはラメットには判っている。
<今はまだ告げる事が出来ない。
君が本当に全てを思い出すまでは>
そのランディーの想いは今のラメットには伝わらない。
「先程のランディー様のお話を聞いて思ったのですが
邪神とは…」
ラメットが暗い表情をしている。
「ああ、俺と同じく世界を渡る者だな。
君の転生先は全て邪神が行ったことがある世界なのだろう。
邪神と言うのは失礼か、俺と同じ存在だな」
「私の呪いがずっと消えなかったのは?」
「失ったのは肉体だけで滅びては無い、
ということだろう。
400年前に受肉し、
そして魔物を使って世界に復讐をしている」
「それでは、魔物は邪神と関係あるんですね」
「魔の源はかつて俺が斬った邪神の尖兵の穢れた魂だな
君に掛けられた呪いの力の源もな」
「あの時……浄化するべきだったんですね」
「おいおい、それは無理だ。
それをやってたら今でも浄化作業中だっただろう」
「この世界は穢れているんですね」
「ある意味邪神は一矢報いたんだろう。
あの軍勢は予定外だったろうさ」
「誰にとっての予定外なのですか?」
「今は邪神を呼び込んだ者とだけ言っておこう」
「…わかりました。今はそれで納得します」
「それで邪神は受肉し、今も何処かにいるのですね」
「ああ、人の世に紛れ込んでいるだろうな」
「私がこの世界に転生してきたのは…」
「偶然か意図的かは判らないが
いずれきっちり3倍返しさせて貰うさ」
「はい必ず。でも……」
「大丈夫だ。もう如何なる呪いも効きはしない。
とはいえ、今は力不足だ。」
「ランディー様が一緒だから怖くありません」
「いい子だ。 さてメアル
そろそろ歩けるかい?」
「あの、そのカール様では変ですよね?
「変だね。俺たちは幼馴染だろ?
今まで通りで頼むよ」
「あぅ、 カー……ル、
もう少し、もう少しだけこうしていていい?」
「ああ、じきにお客さんが来るからそれまでな。」
カーライルにお姫様抱っこされているメアルは
邪魔が入ることに少し不機嫌になったが
それをカーライルには気取られない様に
頬を擦り寄せ名残を惜しむ。
そんなメアルの様子にカーライルは苦笑していた。
山道はまだ登りの途中。
行く手に横倒しの馬車が見えてきた。
昨夜に野営に参加してきた商隊の馬車の様に見える。
2人は馬車より風下にいる。
風の中に血の匂いを感じた。
馬車の周辺には倒れている者達がいる
商隊の男たちだろう。
ピクリとでも動く者はいない。
ざっと見た感じでは
野営の時メアルに話しかけていた少女はいないようだ。
拐われたと考えるべきか。
商隊は山賊に襲われたに違いない。
通行料を払わなかったのだろうか?
いや要求されたのがお金と女だっただろう。
ということは山賊は二人の前にも姿を表し、
カーライルにメアルの提出を要求してくる筈だ。
馬車に近づく二人に何処からともなく
矢が飛んできて、二人の目の前の地面に刺さった。
「宿まで抱っこしてあげたかったけど」
「カール、ありがとう」
カーライルはメアルを降ろした。
「何人か判るかい?」
「20人よ。既に囲まれているみたい」
二人に気負いはなく。のんびりとしたものだった。
山道の脇から5人の男が出てきた。
全員武装している上に抜刀までしている。
どう見ても平和的な会話をしようとしている様には
見えない。
「命が惜しければ止まれ!」
「動くんじゃないぜ!
お前らに逃げ場なんて無いんだからな」
「この馬車はお前らの仕業か?」
カーライルがさして緊張した様子もなく尋ねる。
「そうだ! 同じ目に会いたくなけりゃ
俺たちの話を聞いて貰おうか」
「色男さんよー。見せつけてくれるじゃねぇか!
命が惜しけりゃその女、ちーっと俺達にも」
最後まで言わせてもらえなかった。
カーライルが首を刎ねたからだ。
自ら山賊で有ると明かしているので
討伐されても文句は言えない。
「うざい連中だな。渡す訳ないだろ」
カーライルはいつの間にか武器を持っていた。
反りの入った片刃の剣。
メアルはランディーが愛用するその武器をみて
懐かしさを覚えた。
『ニホントウ』そうランディーが言っていた武器だ。
哀れな山賊の首は宙を舞い、
首から大量の血が吹き出す。
一瞬で距離をつめられ仲間の首が飛んだ。
山賊達は自分たちが狩られる側だと思っていなかった。
だからこの状況が理解できなかった。
「え!?」
首の飛んだ男の隣にいた男の最後の言葉がそれだ。
次に飛んだ首の持ち主がその男だった。
これで2vs18になった。
「野郎!」
ようやく事態を飲み込めた男が叫び、
武器を構えようとしたところで首が飛んだ。
「あー! 今気づいたんだが」
カーライルがメアルに話しかけながら刀を振るう。
4つ目の首が飛んだ。
「カール、なあに?」
「縦に斬るより、横に斬った方が楽だな」
「今更!?」
一瞬ラメットとしての素がでた。
「矢だ! 矢で仕留めろ!」
最後に残った一人がそう叫んで生を終えた。
やはり首が飛んだからだった。
2vs15になった。
木々に隠れながら取り囲んでいる残りの山賊達は
戦意を喪失せず、一斉に矢を射掛けてきた。
山賊達は2人を囲んでいて、
一方的に弓で攻撃できる状況にある。
敵は強いといっても剣士。矢の数で圧倒すればいい。
なんといっても戦力はまだ15人いるのだ。
シャラン!
いつの間にかメアルは一本の白い棒を持っていた。
彼女の身長と同じ位の長さで、
上端には幾つものリングがついている。
かつてラメットが愛用していた武器である。
『錫杖』という異界の神器。
その錫杖を地面につくと、
シャランと涼し気な音が鳴る。
音がなった時、
矢群はなにかに刺さったかの様に空中で動きを止めた。
そして重力に従い自然落下した。
「あの女 魔道士だ!気をつけろ!」
そんな叫びが聞こえるが
最初から勝敗は決している。
たかが20人程度で勝てる相手でない。
見た目で判ることでは無いとは言え
敵にすべきでない相手と敵対した。
つまるところ山賊共に運が無かった。
錫杖の周りには14個の豆粒程の氷の塊が浮かんでいる。
『撃ち抜く氷弾』
その氷の粒が目で追えない程の高速で飛び出し、
障害物の木々ごと山賊達の頭を正確に撃ち抜いた。
急に場が静かになった。
メアルはお姫様抱っこの邪魔をした山賊達を
誰一人として逃がすつもりは無かった。
これで2vs1
そう、まだ一人残っていた。
最後の一人は、この状況下でも逃げなかった。
この山賊集団の首領だった。
周囲から仲間の気配が消え、全員死んだと確信した。
もはや勝ち目無し、逃げるのも難しい。
そう判断した首領は接近戦に弱そうな
メアルを人質に取ることにした。
最悪道連れにすることも出来る。
首領は暗殺と隠密行動スキルを持つ男だった。
スキルを使いずっと気配を消していた。
メアルには最初からバレているのだが
首領は自身の能力を過信し、
自分の存在は知られていないと思っている。
メアルの近く茂みに身を隠していたので
数歩で背後を取れる位置だったのも
首領はチャンスだと思った。
首領は意を決して飛び出し、あと一歩、
あと一歩で首に短剣を当たれる位置まで来た。
が、そこまでだった。
首領が短剣を持つあげつつ
最後の一歩を進もうとした時、異変が起きた。
「!!」
体が全く動かなくなったのだ。
感覚も全く無くなっていた。
驚き、言葉を発する暇もなかった。
それはメアルが自身の背後に仕掛けたトラップ、
踏むと発動する力『氷縛』の成せる業だった。
首領は首より下が瞬時に凍りついたことに
気づく間も無く絶命した。
メアルに一瞥どころか振り向かれることすらされず、
錫杖で突かれ、粉々に砕けたからだった。
「メアルお疲れ」
「カールもお疲れ様」
「風で守ってくれたんだな
お陰で返り血を浴びずに済んだ。ありがとうな」
カーライルはメアルに近づくと頭をポンポンする
メアルは嬉しそうに頬を染める。
敵対してきた山賊だとは言え、
20名のもの命を奪った二人。
その事に何の感傷も無い様だった。
ここには既に二人しか居ないが
二人はカーライルとメアルとして会話している。
ランディーからすると
世界との繋がりを今は重視しなければならない、
ということだろう。
誰に聞かれるか判らない場所では
ランディーとラメットの名は出したくないのだ。
ラメットもランディーの意を汲んだ。
「あの子はここには居ないわね」
「恐らくは山賊のアジトだろうな」
「カール、私はせめてあの子だけでも助けたい」
「そうだな、一晩とはいえ
一緒に過ごした縁もある。彼らの埋葬もしよう」
「アンデッドにならないよう浄化するわ」
メアルが錫杖を掲げると
商隊、山賊分け隔てなく遺体が全て光を帯びた。
こうして、不浄が憑かない様になった遺体は
メアルの力によって地に沈んでいった。
カーライルはその間、黙祷していたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少女は怯えていた。
(この世界の成人は16歳。
16歳の彼女は大人ということになるので、
少女というものおかしいかも知れない。
しかし、成熟した大人ともいい難いので
少女としておく)
商隊の仲間も父親も全員殺された。
彼女だけが生かされ、
そして目隠しをされてここに連れて来られた。
今は無事だが夜には大勢の男達から
辱めを受けることになるだろう。
そして何処かに売られてしまうのだろう。
ここは山賊がアジトにしている洞窟の中だった。
少女は洞窟の地形を利用して作られた
牢に入れられている。
牢の前には見張りの男がいて
時折少女を舐める様に見ている。
よほど首領が怖いのか少女に手を出そうとはしない。
少女は自らの待ち受ける未来を判っている。
しかし抗う力はなく、
只々怯えることしか出来なかった。
彼女がここに連れて来られてから
半日ほど経っただろうか。
少女を見張る男の前に仲間の男が走って来た。
「大変だ!」
「なんだどうした?」
「お頭達が消えちまったんだ!」
「消えた?何をいっているんだ。」
「今日の狩場から連絡が来ないんで
様子を見にいったんだが
仲間たちの武器が転がっているだけで
姿が無いんだ!消えちぐ!!………」
そこで声が途切れ、崩れ落ちた。
「おい! どうした!」
倒れた男の背中には尖った氷が刺さっていた。
心臓に到達している。
「敵!?」
見張りの男が恐怖の声をあげて…そして倒れた。
脳天に尖った氷が刺さっていた。
言うまでもなくメアルの力によるものだった。
カーライルとメアルは
山賊の仲間が様子を探りに来るのを待ち、
ここまで尾行けて来たのだった。
少女は何が起こったのか判らなかった。
突然目の前の男たちが会話中に倒れたのだ。
「安心して、助けに来たわ」
その声に少女は聞き覚えがあった。
昨晩野営の時、話をした女性、メアルの声。
少女は自分が助かったのだと知り、
安堵のあまり気を失ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
山賊を壊滅させたカーライルとメアルは
山賊の持っていたお金を持っていく事にした。
少女の商隊の財産も含まれているだろうし
一人になってしまった少女に渡すつもりだった。
カーライルは少女をおんぶして山を下った。
そして山を降りたところで野営をすることにした。
メアルは少女に膝枕をして寝かせている。
少女は相変わらず気を失ったままだった。
「長い一日がおわったな」
「はい、でもカールと、
貴方と明日を迎えることができる。私は幸せです」
そう言って涙を流したメアルを
カーライルは愛おしそうに見ていた。
36話了




