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32話 魔を切り裂く7色の光

 国境砦にいる、国境警備隊、北砦部隊長の元に

スタよりの救援要請が届いたのは、

魔物の襲撃が始まって30分程経った頃だった。

町一番の早馬で飛ばしたきた為ここまで

時間を短縮できたのだった。

既に複数の魔物の襲来の可能性について

報告を受けていた為、

ここ数日は巨兵を何時でも

緊急出動出来るようにしていた。

隊長は即座に巨兵の出撃命令を出した。

今回出撃する巨兵は3機。

4mクラスの魔物10匹なら

あっという間に駆逐出来るだろう。


王国の誇る最新鋭の巨兵『パラディン』

『ディフェンダー』に代わる次期主力巨兵である。

帝国の巨兵と違い、少し細身で軽量化が図られている。

石の巨兵には違いないが要所要所に

魔法処理済強化軽量金属板、

いわゆる人工ミスリルによる

補強プレートが取り付けられている。

メインの武装は人工ミスリルによるスピアで

サブウェポンに人工ミスリルのソード

背中にも人工ミスリルのラウンドシールドを

搭載している。

それでもタイタンⅡよりも軽かった。

その軽さ故か

起動可能時間も16時間と

ディフェンダーより4時間も長い。

王国の防衛予算が潤沢であることが

コレだけでも判る、高性能な巨兵だった。

一体の製作にかかるコストは

テリアの巨兵『タイタンⅡ』の実に3倍だった。

今回の魔物討伐は

『パラディン』初の実戦投入であり

データ収集も兼ねている。

それを操る騎士もエース達だった。


騎士ビルケル・コールは今回の魔物討伐隊のリーダーであった。

国境砦に来て1年、以前は王国南方にいて

アマリア同盟国と他国との絶え間ない紛争で巨兵を駆ってきた。

ビルケルは聖女を嫌い、

巨兵乗りであることに誇りを持っている。

実際のところ国を守っているのは巨兵乗りなのだと。

北方の砦に赴任したのは怪我の療養を兼ねてだったが

傷も癒えた。今回の討伐はいいリハビリになるだろう。


巨兵3機がスタ近郊まで着いた時、

ビルケルは予想外の光景を目の当たりにした。

スタの防壁に群がる4mクラスのマッドベアタイプの魔物達

これは救援要請にあった状況のとおりだが

それとは別にもう1体、9mクラスの魔物がスタに近づいて来ていた。


「でかいなマッドベアの突然変異か?」


とはいえ 9m級は1匹増えようとやることには変わりが無いし

結果に変わりがない。


「さて、新型の力試させてもらうとするか」


ビルケルは戦闘開始の合図を同僚達に出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おやおやー? あれは噂のアマリアの新型巨兵かしらん?

動きが早いわね。あれならタイタンシリーズなんてただの的だわね。」


先程から遠くでスタが襲われる様子を見ていた黒い男が

砦方向から来た巨兵を見て呟く。

実はアマリアは武力誇示の為

パラディンのお披露目を大々的に行っている。

黒い男もパラディンを見るのは

初めてではなかったのだが、

さして興味も無かった為、うろ覚えだったのだ。


「でもあの子に勝てるなんて思わないでねー 

ただのマッドベアじゃないんだから。 ククク。」


これから起こるだろう事を想像してか

男は楽しげに不気味に笑うのだった。


====================


「なんだあれは!」


誰かが叫び、皆が呆然とそれを見つめています。

そこには9mはあろう大きな魔物が

こちらに向かってきている光景がありました。

あんなのが此処に来たらとても耐えられない。

かといって

今門を開き、巨兵隊を出す訳にも行きません。

皆の戦意が挫かれたその時、


「気を抜くな! 砦から巨兵が来るまで持ちこたえるんだ!」


それはカールの叱咤でした。

こうしている間にも魔物達は防壁を登って来るのです。

皆が戦意を取り戻し、防戦を再開します。


「増援だ! 砦から巨兵だ! 3体いるぞ!」


再び誰かが叫びます。

ですが先程とは違い、喜びに溢れた叫びでした。

皆歓声を上げています。

でも、何故でしょう私には嫌な予感がするのです。


グオオオオオオオオオー!!


大きな魔物が雄叫びを上げました。


嫌な予感は強まります。

それはまるで号令のような

そんな感じに私には聞こえたのです。


====================


「おやおやー? ここにきて覚醒かしら?」


黒い男は考え込む素振りを見せる。


「それとも、捕食される恐怖?」


大きな魔物の咆哮以降

防壁を乗り越えようとする魔物達の動きが変わった。

統率が取れたとは到底言えないものの

連携して動き出したのだ。

大きな魔物に捕食されるのを恐れてのようにも見える。


「うーん、データが少なすぎて

いくら私でもわからないわん。

ほーんとセッカチな師を持つと弟子は大変だわー。」


黒い男は考えるのを放棄した。

そもそもここへは観客として来ている。

頑張って皆で防衛して

それでも力及ばず蹂躙される。

そんな胸が踊る様な光景を見るためにここにいるのだ。


「目的を忘れるところだったわ。

私って真面目ね。

折角来たんだし楽しまなきゃね。 ククク! 」


====================


「なんだ!?」


ビルケルは驚いていた。

巨大なマッドベアの魔物を3機で囲み始末するつもりだったが

予想以上にタフだった。

と言うよりも攻撃が効いていない感じである。

スタ防壁に群がる魔物の動きも急に激しくなり

このままこちらに時間をかける訳には行かない。

ビルケルは作戦を変更することにした。

今回出撃した中で一番若い騎士

ラセルに防壁の魔物達を駆逐するように

合図を送る。

因みに会話はできないので

指示は基本武器の動きでサインとしている。

それらは事前に決められている。

戦争ではそのサインの読み合いが必要になる。


騎士ラセルはビルケルの指示に従って

巧みに後退すると、防壁に方に向かう。

敵に背を向けることになるが

隊長達が防いでくれる筈である。

背を向けたラセル機に遅いかかろうとする巨大マッドベア。

それを妨害したのは騎士マルクだ。

今年待望の子供を授かった働き盛りの28歳。

マルクは槍を捨てサブウェポンのソードとラウンドシールドに

持ち替えている。

魔物にシールドバッシュを御見舞し、ラセルをフォローした。


筈だった


マルクのシールドが魔物にめり込んだ。

厳密には飲み込まれた。だろうか

まるでスライムのように。

パラディンの左手が魔物に埋まってしまっている


「くそ! バケモンが!」


マルクは剣を魔物の胸に突き立てる。

剣は胸を突き抜け手首まで魔物に埋まった。

魔物は死なない。

それどころかスライムが獲物を飲み込んでいくように

マルクを巨兵ごと自身の中に引きずりこもうとしている。

巨兵のパワーをもってしても

振り解けなかった。


ビルケルは槍で頭を突き、腹を突き

急所と思われる場所を突くが

手応えがない。

まるで水の塊を突いているようだった。


「実はスライムの魔物だったのか!?」


スライムの擬態?

そんなはずは無い。

先程までは肉に突き刺さる感じがあった。

ところが急に変質してスライム状になったとしか思えなかった。

成す術無く取り込まれていく同僚。

既に7割程飲み込まれてしまった。

ビルケルも槍を捨て剣と盾に持ち替えた。

そして、自身もダメージを受けてしまうが

盾を全面に押し出し体当たりを仕掛ける。


ガシーーーン!


硬質の物同志がぶつかる音。

ビルケルの体当たりを防いだのは

マルクの盾だった。


「ぐ! マルク!」


ビルケルが驚くのも無理はない。

体当たりを防いだだけでは無い。

攻撃も仕掛けてきたのだ。

魔物はまるでパラディンの中に染み込んでしまった、

または同化してしまったかの様に消えてしまった。


「マルク! 乗っ取られてしまったのか?」


そんな事がありえるのか?

信じられない。

しかし マルクが同化したパラディンは

味方である筈のビルケルに攻撃を仕掛けてくる。

しかも一撃が重く早い。

同機種なのにパワーでは押し負けてしまうだろう。

ビルケルは防戦一方になり、

マルクのパラディンの背中から魔物の一部が触手の様に

生えてきた事に気づかなかった。

触手は槍を拾う。すると徐々に触手は太くなり

マッドベアの腕に変わった。

マッドベアには本来人間の様な指はなく、

槍を掴むことなど出来ないのだが

指のような物が生えていた。

マルクのパラディンに背中に生えたマッドベアの腕。

手には槍を持っている。

その槍をラセルに向かって投げたのだった。


====================


巨兵達が大型の魔物と戦っています。

そちらの戦況を気にしている余裕はこちらにも有りません。

私達も苦しい戦いを強いられていたからです。

大型の魔物が雄叫びをあげてから

防壁に群がる魔物達の動きが変わりました。

魔物達は連携し、魔物を踏み台にし、防壁を登ろうとしたり、

登ろうとするした魔物を落とそうとしても

他の魔物が支えて来たりと

状況は不利になってきています。

怪我をする者も出始め私も回復魔法に追われています。

ふいに巨大な魔物の方が気になり、目をやると

巨大な魔物はいつの間にか消えいます。

こちらの増援に向かっている巨像と

戦う2体の巨兵、1体の巨兵の背中には魔物腕が生えており

その手の持には槍が握られています。

そしてその槍を増援に向かってきてくれる巨兵に向かって投げて来たのです。


真っ直ぐに飛んだ槍は、巨兵の胸を貫きました。

槍の勢いは凄まじく、そのまま巨兵を突き抜け、

防壁に突き刺さりました。

ズバーーン! 大きな音が鳴なり、激しい衝撃が走ります

運良く槍は1匹の魔物を串刺しにしました。

槍が刺さった事による怪我人は幸い出ませんでした。

しかし、私達は大きな衝撃を受けていたのです

増援に来た巨兵が倒れたのです。

向こうで争う巨兵2体の内 槍を投げてきた巨兵には

複数のが生えてきていました。


「なんだ、何なんだ!」


そんな声が聞こえてます。

槍の攻撃により、異様な事態に気付かされてしまったのです。

恐らく、巨兵の1体は魔物に乗っ取られてしまったのでしょう。

複数の腕が生えた魔物巨兵は

最後に残った巨兵の腕や、肩や、頭を掴み動きを封じると

握っていた剣を巨兵の胸に深々突き刺したのでした。


====================


少しだけ時間は遡り…


「ラセル!」


槍はラセルの巨兵の胸を貫いた。

人工ミスリルの補強板ごとである。

胸に収納された魔導球を砕いて。


ラセルは先日恋人が出来たばかりだった。

その恋人はスタに住んでいる。

今回の出撃も恋人は自分が守ると張り切っていた。


「くそ!」


今時分が相手にしている巨兵にのるマルクは無事だろうか?

乗っ取られているのは巨兵の体だけと信じたい。

マルクは3ヶ月前赴任してきたばかりだ

妊娠した奥さんを王都に残して来た。

待望の子供が生まれ、祝の盃を酌み交わしたのは

つい先日のことだ

命名に頭を悩ましたエピーソド、

まだ見ぬ子供への惚気話

その時の情景が頭をよぎる。


「マルク、今助けてやるぞ! 

まだ死なす訳にはいかないだろうが!」


ビルケルは魔導球の出力を上げ、魔物巨兵のパワーに対抗する。

しかし直ぐに異変は起こった。

魔物巨兵から複数の腕が生えてきたのだ。長く細い腕だ。

その腕がこちらを掴んで来たのだ。

同時に複数から掴みにこられ

ビルケルは躱し切る事が出来なかった。

直ぐに振払おうとしたが、

凄いパワーで振り払うことが出来ない。

躱すことも出来なくなり、腕も 肩も 頭も 足も 腰も

捕まれ身動きが出来なくなった。

その状況をビルケルは諦めの境地で眺めていた。

あの剣が魔導球ごと自分を突き殺すだろう、と。

魔物巨兵の持つ剣の動きがユックリと感じられた。


<親父、お袋、妹よ、もう会えそうにない。>


ビルケルが最後に思ったのは故郷にいる

最愛の家族の事だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「思った以上に素晴らしいわん!

まっさか、物も取り込めるとは、面白いわぁ!」


予想以上の魔物の進化に、黒い男は興奮していた。


マッドベアをより巨大化させる為に

あらゆる餌を与えてみた。

スライムを与えた時、異変が起き、スライムの特徴を取り込んだ。

それ以降はどんどん巨大化を始めたのだ。


「マッドベアとスライムの組み合わせがいいとはね。

生息地域が違うから、今までこんなのが生まれなかったのねえ。」


しみじみと感想を述べる。

勝負はついた。後は町が蹂躙し尽くされるだけである。


「結果が判っていると飽きちゃうわ。

帰ろうかしらねぇ。」


そう言って

欠伸をしながら黒い男はその場から去っていった。


====================


「もう、ダメだ…」


誰かが呟きました。


<イケナイ!>


それは、この場では最も言ってはいけない言葉でした。

周囲の戦意を挫き、恐怖を伝播させます。

そしてその恐怖はあっという間に広がり

場をパニックに陥らせるのです。

私はいろいろな前世の体験でその事を知っていました。


「皆!頑張れ!

恋人を子供を、父を、母を、妻を誰が守るんだ!!」


警護隊隊長のよく通る声が響きます。

いつの間にか防壁に来ていたようです。

間髪入れず入った声に

場の戦意はなんとか保たれます。

しかし、状況は悪化するばかり。

魔物巨兵もこちらに近づいて来ています。

皆恐怖に耐え、良く頑張っています。

もう最後の手段をとるしか

私の助けたい人々を救う手段は無さそうです。

私は防壁の縁の方に向かって歩き出します。

縁の直前で手を掴まれました。


「メアル! ダメだ! 行くな!」


カールでした。

恐らくカールは私の意図に気づいたのでしょう。


「カール、もうこれしか。

カールを助けるにはこれしか無いの。」


その時、防壁に衝撃が走りました。

魔物巨兵は持っていた剣を投げて来たのです。

回転しながら飛んできた剣が私達の真下に当たり、

弾け飛びました。

場が崩れ、落下する私達!









<ダメ!カール! カールを! カールだけは!>


私が願った瞬間、時の進みがとても遅くなりました。

私達はとてもゆっくり落下ししているように感じました。

10秒で1ミリも落下していないかも知れません。

驚く間もなく、頭に声が響きます。


『聖女よ。契約がなされている。一度だけ力を貸そう。

しかし心せよ、本来来るべき日に備えた力を今使うのだ。

その日は試練になろう。

その日、その時、我の名を呼べ、我は側にいる。』


その声は優しく、力強くそして懐かしい。


カールに貰った指輪が光っていました。

やがてその光は私とカールを包み、光の柱になりました。


『思い浮かべるが良い。顕現させるべき姿を』


その声に私の脳裏に浮かんだのは、

夕日に立つあの巨人の姿でした。


====================


アルジとニースは巨像騎士と化し、

スタへと急いでいた。

風の力を使い、飛ぶとまではいかないが

ホバー状態で進む。

短時間なら飛べるが

制御が難しく魔力の消費も激しい。

その後戦闘になることも踏まえて

この移動方法だった。

それでも巨像騎士で走るよりも数倍は早い。


「見えたぞ主!」


「なんだあれは!」


二人が見たのはスタに向かう魔物と化した巨兵。


「巨兵が魔物化しておる?そんな事が…」


ニースは驚きを隠せないでいた。


「まずい!、飛んでも間に合わない。」


まだ二人の位置は魔物巨兵に比べ、スタには遠い。

その時、魔物巨兵が剣を投げるのが見えた。


「兎に角急ぐぞ!」


アルジの脳裏にカールとメアルの顔が思い浮かぶ。

その時である、スタの防壁の近くで光の柱が立った。


「アルジ、顕現じゃ!」


「ああ、メアルか!?」


思わずアルジは足を止めてしまった。

光が収まった時、立っていたのは

七色に輝く巨像騎士。

細身で女性騎士を思わせるような優美なライン。

手には、剣では無く反りの入ったブレード。

そのブレードは黒く輝く。


美しさに気を取れていたが

ニースは直ぐにその巨像騎士の異質さに気づく。


「なんじゃあれは! 凄まじすぎる!」


ニースには巨像騎士の力の大きさが測れなかった。

まるで目の前に視界に入り切らない巨大な物があるように

全容が把握出来ないのである。

そして、その力の質は

メアルの中からかすかに感じた不思議な力だ。


「どうやらアルジの予想どおりメアルが

何かの力を顕現させたようじゃ。」


巨像騎士の力は圧倒的だった。

勝負ですらない。

これは駆除である。

ブレードを一振り。それだけで

防壁に群がる魔物の群れが一斉に真っ二つになった。

魔物は再生能力を持っていたが

再生出来なかった。

切られた魔物が凍ったからだ。

次のひと振りで凍った魔物達はバラバラ、いや粉々になった。


3振り目で

迫ってきた魔物巨兵が縦に3枚に下ろされた。

その時魔導球が外れた。

狙ったのか偶然かはわからないが魔導球は無傷だった。

巨兵という鎧を失い、結合しようとする巨大な魔物。


そこへ4振り目が襲いかかる

更に細かく16枚に下ろされた魔物は

その場でやはり凍った。


ラストの5振り目で巨大な魔物も粉々になった。


「なんという力だ。」


何が起こったのかアルジには全く判らなかった。

それはニースも同じだ。

しかしニースには町を救った巨像騎士に心当たりがあった。

エルフに伝わる記録には

合致する巨像騎士を顕現させる者が

かつていた事が記されていた。


「七色に輝く巨像騎士… 最初の聖女の巨像騎士と同じじゃ。」


32話了

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