30話 魔物を生み出す者
ここは大森林。
大森林の中に大きな洞窟があった。
かなり大きな入り口は
自然の為せる技とは言い難く、
人為的に作られた様に思える。
しかし、大森林の中にこのような物を作る
戦略的意味は 王国にも帝国にもない。
そもそも人が訪れる場所ではないからだ。
そんな洞窟の入り口の前に立っている男が一人。
黒いコートを羽織り、
女口調で話す、死を連想させる
不気味で不吉な男だった。
「こんな所を発見できるなんて、私運がいいわぁ。
それにしても、この洞窟。
神代の戦争で
邪神に組した巨人を閉じ込めた牢だとしても
驚かないわねぇ。」
黒い男は此処を発見し、拠点にしていた。
いや、実験場といったほうが正しいか。
洞窟の入り口のすぐ近くに小屋が何棟か建てられ
男はそこに住んでいる。
男は洞窟の中に入って行く。
中は魔法の灯りが設けられ明るい。
この洞窟は
内部もまた人為的につくられたような形状としていた。
洞窟の本道は1本で左右の壁に
大きな部屋とも言うべき
窪みが何部屋も並んでいた。
鉄格子でも嵌っていれば
牢屋にできる構造だった。
そして黒い男は
この洞窟を実験で使う被験体の檻に使っていた。
各窪み(部屋)は多少の大きさの違いはあるものの
9mの巨兵を収納できる大きさがあり、
正に神話にでてくる巨人族用の牢獄に思えた。
黒い男は鉄格子の代わりに
魔法による網を張った。
この網は外から中への通行は可能だが
中から外への通行は妨げる。
つまり、餌を入れることは可能だが
逃げ出す事はできない様になっている。
各牢の前には魔法陣が怪しく光っている。
この魔法陣で魔法の網の維持をしているのだろう。
現在牢には 10匹以上の魔物が入っていた。
これだけの魔物を閉じ込めるだけの
力を持った魔法を行使できる黒い男。
魔道士として相当の実力を持っていると言えるだろう。
魔物はマッドベアばかりだったが、
最近2体ほど変わった被験体が加わった。
1体の元の名前をリカレイ。
もう1体の元の名前はヨロイといった。
2匹にはもはや自身の名前など意味は無い。
それどころか人語の理解もすでに怪しい。
2匹にあるのはある食欲と執着だけ。
かつて2人が恋い焦がれた1人の女性を
文字通り喰らいたいだけだった。
魔物化すると意識は食欲に支配されてしまう。
2匹は恋い焦がれた女性、メアルへの思いと
限りなく増大した食欲が結びつき、
メアルを食らうのが目的の魔物と成り下がった。
そう、黒い男はこの洞窟で
魔物を作り出す実験をしていたのだ。
既に魔物は作り出せており、
実験は次の段階に来ていた。
魔物の軍隊化である。
使令を下す者の指示どおりに動く、
最強の軍隊。
巨像騎士は聖女の減少により
現在数を揃えるのが難しくなってきている。
10m級の魔物を量産できれば
巨像騎士すら凌駕するだろう。
黒い男がどうやって魔物を作り出しているかを
知るものはいない。
被験体に魔を憑かせる工程は
誰にも見せないからだ。
黒い男はある牢の前に立っていた。
中にいる魔物を見て怪しく笑っている。
「クククク。 順調に育っているわねぇ。
まさかマッドベアがこんなに大きくなるなんて、
びっくりだわぁ。」
そこには9m近い大きさの
魔物化したマッドベアが居た。
魔法の網1つだけでは足りないのか、
魔法陣が5個くらい並んでいいる。
「この子を量産できればいいんだけどねぇ。」
黒い男の言葉はこの通常の倍のサイズの魔物が
偶然の産物であることを示している。
しかし、偶然であれ、
マッドベアタイプの魔物の
更なる巨大化が可能なことが確認されたのだ。
人為的に可能にするのも時間の問題だろう。
次に黒い男が向かったのは、
元リカレイと元ヨロイの魔物ところだった。
2体の魔物は通路を挟んで
向かい合って牢に入っている。
「あなた達、お元気かしら?」
問いに対する答えはない。
よだれを垂らし、
飢えた様子を見せているだけだった。
ただし黒い男に対し、
捕食の意志を見せることは無い。
それは、どの魔物にも言える事だが
食欲しか持たず、
自己意外は全て食料と見なす魔物が
黒い男だけは恐れていた。
2匹の魔物は時折、
「メ・・・・・・ア・・・ル」
と食べたい女の名を呟くだけだった。
「人間を魔物化しても対して強くならないし、
理性も無くなっちゃうしで使い物にならないわねぇ。
お金と時間の無駄だし、処分しちゃおうかしら?」
2匹の処分を検討しだした黒い男。
「あ、そーだ。いいこと思いついちゃったわん。 クヒヒ。」
この男が思いつく〝いいこと〟など
碌なことでは無いだろう。
そしてその思いつきは即座に実行に移された。
魔物『ロヨイ』が魔物『リカレイ』と
同じ牢に入れられたのだ。
即座に互いの喰らい合いを始める2匹。
「やっぱ元の身体性能でリカレイかしらねえ。」
黒い男は生き残るのはリカレイと予想した。
予想通り、元の戦闘力が高いリカレイが
ロヨイを食らった。
グチャグチャ、クチャクチャ。
リカレイがロヨイを食らう音だ。
リカレイが食らう姿を興奮しながら黒い男は見つめていた。
「何時見ても。いいわん。ゾクゾクしちゃう!」
やがてリカレイはロヨイを食い終わった。
その一部始終を見届けた黒い男。
「でもねえ、その程度の戦闘力じゃあねぇ。
やっぱ貴方もマッドベアちゃんの餌かしらねえ。」
その時だった、リカレイが苦しみだした。
「おやおや、何か起きようととしてるわねぇ。
楽しみだわぁ。」
リカレイの首の根本から何かが盛り上がってくる。
それは頭だった。
もっと言えばロヨイの頭が生えてきたのだ。
「これはこれは、変わった敗者復活ねえ。
どういうこと?
食われながらも体の一部を乗っ取った、
ということかしらん。」
<これはこれで面白い能力ねぇ。
強い執着が関係しているのかもね。>
「あ、そうだぁ、予想がが正しければ。ククク。」
また禄でもないことを思いついたようだ。
今度は、魔物化して間もない2.5mサイズのマッドベアの牢に
リカレイが入れられた。
当然だが、リカレイは殺され、
マッドベアの腹に収まった。
「さて、どうなるかしらねえ。」
やはりそれは起こった。
苦しみだすマッドベアの顔が変わっていく、
やがて人間のような顔に変形した。
リカレイとロヨイを足して2で割ったような顔だ
ヨロイにも似ているし、リカレイにも似ている。
「思ったとおりだわねえ。
それにしても見事に融合したわねぇ。
やはり強い執着がキーかしらん。」
「メ・アル…喰い、た い。」
知能も2人が混ざって少し上がったのかも知れない。
「コレを繰り返せば知能も戦闘力も上がるかもね。
もう少し、実験してみてもいいかしら?
リカレイ+ロヨイだから、
『リカヨイ』って呼ぶわねん。」
食らった相手を乗っ取るリカヨイに興味をもった、
黒い男はリカヨイを生かすことにしたのだった。
「こちらにおられましたか。」
黒い男の部下が黒い男に話しかけてきた。
「あらー、何かあったの?」
「本国からの指示書が届きました。
『至急実行されたし』とも。」
部下はそう言って、封印のされた封筒を
黒い男に恭しく渡した。
「ここからが、重要なのにねぇ。」
封を開けてもいないが、
黒い男は指示の内容を判っていたようだ。
封を開け内容を確認すると、
部下に指示を出した。
「やっぱぴー。 仕方がないかぁ。
宮仕えの辛いところねえ。」
部下の男は静かに指示を待つ。
余計な事を言うような愚かなことはしない。
「計画を実行に移すわヨン。
撤退の準備と誘導の準備をお願いねん。
あと、この新しいサンプルは
作戦には使えないから開放よん。」
「は!」
部下は敬礼をし、洞窟からでていった。
「折角面白いサンプルが発生したんだけどねぇ。
或いは運がよいのかしら。
クヒッ! メアルって娘、
食べれるといいわねん。 ククク。」
「グオーーーー!」
メアルという言葉に反応し雄叫びを上げる
魔物『リカヨイ』を見ながら
黒い男は笑っていた。
30話 了




