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29話 聖女修行3

 「でや!」


カーライルはスタに戻ってきたその日の夕方

早速、アルジと手合わせをしてもらった。

ここは、警護隊の訓練場。

お互い、訓練用の片手木剣だ。

アルジはここでは双剣ではなく、

カーライルと同じく木剣1本。

カーライルはアルジに対し、

正面から切り込む。

真っ向勝負ではアルジの剣と互角に渡りあえた。

ただ、アルジが少しフェイントを入れたり、

蹴りが入ったりするともうダメだ。

簡単に転ばされたり一本取られてしまう。

訓練場の隅の方ではメアルがニースより

聖女の術の基本の説明を受けているのだが

メアルはカールが気になって仕方がなかった。

一向に集中できないメアルにニースは呆れた。


「今日はここまでじゃ。」


「え、いいのですか?」


「向こうが気になって集中できないなら

この時間は無駄じゃろ。」


「ごめんなさい。ありがとう。」


「ま、しかしお主の騎士様もいいように遊ばれておるの。」


「カール、頑張って!」


声援を送った瞬間、またもカールは足払いを受けて転んだ。

しかも、受け身を取れずに背中を強打してしまった。


「ああ! カール!」


祈るように両手を合わせていたメアルから

瞬時に魔法が飛んだ。

カーライルとメアルは50m程離れていたが

瞬時にカーライフに回復の魔法がかかる。


「お主! その距離で回復魔法をかけれるのか!?」


「え? 私も初めてなのでよくはわかりません。」


「うーむ、発動までの速さといい、距離といい

通常では考えられぬ。」


「そうなのですか?」


ニースは考え込んでしまった。

メアルの使った回復魔法の源がよく解らなかったのだ。


<色々な神々の加護を受けていながらどの神の力も

使ってはいなかった。 一体何の力をつかったのじゃ?>


黙り込んでしまったニースをよそに

メアルは二人の手合わせの行方を見守る。


「剣が素直すぎる。

戦いでは相手も必死だ。フェイントや目くらましなど

利用できるものは全て使って来ると思え!」


「わかりました。」


起き上がり、また剣を構えながらカールは返事をする。

隊長にもよく言われることだった。


「しかしメアルの回復魔法は凄いな。

あの距離でしかも直ぐに飛んできた。」


「ええ、自分も驚きました。」


その返事にアルジはメアルの魔法の素養を

カーライルもよくは解っていないのだなと思った。


「さて、気が済むまで何度でも付き合ってやる。」


「お願いします!」


アルジは内心驚いていた。

正面からの剣の斬撃は、

アルジでも捌ききるのが難しい。

しかし、受けに弱い。

カーライルのスタイルは非常に攻撃に特化した剣だった。

カーライルも一応フェイントを使ってくるにはくるが、

アルジからみれば子供だましだ。

誘っているのがミエミエだった。

呼吸のタイミングや、

静から動、また動から静の切り替わりに素直に反応しすぎる

だから無呼吸や呼吸法の変化などのちょっとした

タイミングずらしにすぐ騙される。

狡猾な剣の前には通用する剣ではなかった。


<もっと疾く! 今よりも更に疾く!>


カーライルは正攻法しかないと思った。

立ち回りでアルジには敵わない。

戦闘経験や攻撃パターンもアルジのほうが豊富だ。

なによりアルジは本来双剣使い

本来の武器なら

間合いも攻撃も今と全然変わってくるだろう。

手加減されていて

ここまで届かないとは。

だから自分の尤も得意な剣で届かせるしかない!

魔物を斬ったあの時の感覚。

あの時の一撃。

あの一撃をもう一回。

神経を研ぎ澄ます。

自分の内に向かって。

自分の中に眠る何か力を呼び出す感覚。

静かに内より力が湧く。そんな感覚になる。


急にカーライルの纏う感じが変わった。

危険だ!とアルジは思った。

お互いに真剣だったら

正面からの攻撃は既に双剣を使ってでも

凌ぎきれるか微妙なのだ。

カーライルの内部から湧き出る圧倒的な斬撃の気。

アルジは本気にならざるを得なかった。


「なんじゃ?」


考え事をしていたニースがカーライルの剣気に反応した。


「カール?」


メアルも感じ取ったようだ。

カーライルは無心に、

そして自然に一歩踏み出し剣を振り上げる。

上段の構えだ。

何も考えずに間合いを詰めてくる。

そしてお互いの間合いに入った。

刹那、上段から振り下ろされる木剣。


<疾い! 躱せぬ!>


アルジは剣を受けるので精一杯だった。

ガシ!と打合わされる木剣。

アルジの全身に衝撃が走る。

なんとか、耐えきることが出来た。

その上で打合わされた木剣の打点をずらしながら

鍔迫り合いの形に持っていくのは

流石の技量だった。


「今の一撃はよかったぞ。

危うく死ぬところだった。」


「渾身の一撃を受け切られてしまったら

もう手がありません。」


お互いに離れ、剣を降ろす。

今の一撃でお互い手が痺れたのだ。


「気が済むまでと言っておいて済まないが

ここまでにしてくれないか。」


「有難うございました。

自分も実はここまでが精一杯でこれ以上は。」


そう言ってカーライルはその場に座り込む。

座り込んだカーライルを見て、メアルが走ってきた。


「カール! 大丈夫?」


「ああ、大丈夫。力を使い果たしただけだよ。」


「アルジ、お疲れさんじゃ。」


ニースもやってきた。


「ニースもお疲れ。そっちはどうだ?」


「ふむ、これからじゃな。」


「そうか、カール、メアル、

我々はギルドの依頼でこの街に来ているので

一旦ギルドに報告に戻らなければならない。

報告し次第、またこの街に来るつもりだ。

そしたら、また手合わせしよう。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「メアルよ。お主は神に祈りが通じないと申しておったな。」


「はい。」


「ならば、お主が祈る先は神ではないな。

お主の力の源は別のところのようじゃ。

それが何か解らぬが、

案外お主の中に眠っておる力かもしれぬ。」


「内に眠る力…」


「うむ、お主は我にもよく解らぬ力を

いくつが秘めておる。

その力を引き出せれば

或いは巨像を顕現できるかも知れぬ。」


「本当に?」


「断言はできぬよ。我にもよく解らぬからな。

あくまで可能性の話じゃ。

じゃが、もし聖女になれる可能性を

秘めているなら探ってみるのべきじゃろ。」


「わかりました。

ありがとうございました。ニースさん。」


「じゃあ、二人とも早ければ4日、

遅くとも7日後までには戻ってこれるだろう。

それまでな。」


「アルさん、ニースさん ご指導有難うございました。」


「うむ、そなたらとは

腐れ縁になりそうじゃからな。

またの。」


こうしてこの場は解散となった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

宿に向かうアルジとニースは歩きながら

先程の手合わせについて話していた。


「アルジよ。危なかったの。」


「ああ、最後のは躱せなかった。

成長したらまだ疾くなりそうだ。」


「恐ろしい小僧じゃのう。」


「正面からの斬り合いは御免蒙りたいな。」


「面白い小僧に巡り合ったものよな。」


「ああ、全くだ。

ところでニースの方はどうだったんだ?」


「いや、全然全くじゃ。

小僧が気になるあまり、

全然集中出来ないでおったからのう。

切上げたよ。」


「そうか。」


「困ったものじゃが、面白いものも見れた。」


「ああ、あの遠距離からの魔法か。」


「それがの、あの魔法の力の源が

全然解らなかったのじゃ。」


「それで、あの言葉になったのか。」


「うむ、まあその力を探って行くのは

これからじゃな。」


「そうかそちらは大変そうだな。」


「うむ、じゃが面白いものが見れそうじゃ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「カール大丈夫?」


カーライルとメアルもまた

自宅に向かって一緒に歩いていた。


「ああ、心配かけて済まない。

悔しいけど全然敵わなかったよ。」


「そうかしら?

カールとても凄かったと思うけど。」


「最後の一撃は少しはマシだったけど。

でもアルジさんは本当は双剣使いだからなぁ。」


「そうなんだ。」


「メアルの方はどうだったんだい?」


「うーん、ニースさんが言ったこと。

なんとなく心当たりがあるの。」


「なら、その方面から上手くいけるよ。きっと。」


「ええ、明日から頑張ってみるね。」


とは言いつつも、先程の魔法や、

カーライルの意識を呼び戻した時に

発したという光(後でナンから聞いた話で認識)と、

アリーが7色に輝く巨像騎士を顕現させた力とは

別種の力の様に思えた。

根拠は無い。あくまでも勘だ。

しかし他に縋るものが無いのも

また事実。

兎も角、明日から自分の内なる力を探るしかない。


「メアル。有難う。」


立ち止まり、

メアルの目を除きこむようにカーライルが囁く。


「カール♡」


メアルが顔を赤くしながらカーライルに身を寄せる。

またも2人のラブラブタイムが始まってしまった。

ちなみに本日は自宅前だった。

カーライルの母親が二人の気配に気づき

玄関扉を開けた時、

二人はキスの真っ最中。


「相変わらず仲がいいのね。

二人とも入ってからにしなさいな。」


と声をかけられ、

メアルを更に赤面させたのだった。

ちなみにこの日の二人は(特にメアルだが)

疲れていたためか、一回戦だけで就寝したという。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「くそ!、なんで俺がこんな目に!」


酒場にいけば、

こんな愚痴は日常茶飯事に

聞くことができるだろう。

今、ありふれた愚痴を呟いていたのは

ロヨイ・チューハだ。

いや今やチューハの家名は無い。

ただのロヨイだ。

現在、ロヨイは父親より勘当を言い渡され

僅かなお金と共に家を放り出されていた。

貴族籍も抜かれてしまった。

言いつけを守らず

メアルにちょっかいを出した上に、

街中の人々の見守る中で散々に振られた。

しかもその際、土地の権利書で脅したのだ。

チューハ家の家格を貶める行為であった。

メアルの実家の鍵を渡されてはいるが、

すぐに手が出せなかった。

現在、スタ評議会でも

この土地の権利書の入手について

追求されているのだ。

ロヨイの父、

いやチューハ家は一丸となり、

もみ消しに必死だった。

王家の耳に入ったら事だ。

これ以上バカを養うのは

家の存続に関わるとして

ヨロイは放り出されたのだ。

またスタの街から追い出すことで

ヨロイ本人への追求を封じたのだった。

今、ロヨイはスタの街から歩いて

2日程の場所にある地方都市にいる。

この都市はアルジとニースが

拠点に変えた都市でもある。

ロヨイはチューハ家の手の者に

監視されているとも知らずに、

安酒を流し込み

愚痴をこぼす毎日を送っていた。

渡された僅かな金も

明日か明後日には無くなってしまうだろう。

働く気がないロヨイには

物乞いになる未来しか無い。

しかし無駄にプライドの高いヨロイは

蔑まれながらも人にねだる事は出来ないだろう。

チューハ家がヨロイに監視をつけているのは

余計な事をしでかかさない様にする為と、

口封じのタイミングをはかっている為だった。

物乞いの餓死や凍死などよくある話なのだ。

ロヨイがチューハの名前を使って

なにかしでかす様な素振りを見せれば、

即座に消されるだろう。

そんな風前の灯火のような状況に

置かれていることにも気づかぬ

ロヨイは哀れな男であった。


「メアルめ!今度会ったら

ヒィヒィ言わせてやるぞ。

カール!、お前は八つ裂きだ。

いやそれでは気が済まぬ。

先ずは目の前でメアルを犯してやる。

その上でメアルの目の前で細切れだ!

そうしたら、いよいよメアルも俺にひれ伏すだろうさ。

だが許しはしない。

散々犯して最後はその体で稼いで貰うぞ。

俺をこんなに目に合わせたツケは払って貰う。

俺に毎日酒を飲ませる為に

安い金で客を取らせてやる!

その為には、ゴロツキを雇う金がいるな。

チューハの名を使わせて貰うぞ。

俺を追い出した罰だ、

その金はチューハで払って貰う。

ククク、ざまあみろ。

完璧な計画だ!

メアルめ! 待ってろよ!」


実際ははっきりとした発言では無い。

安酒に酔って呂律も回らず、

何かブツブツを呟いている程度のもの。

しかも実現できはしない妄想だ。

チューハの名前を出したところで

今のロヨイに金を出してくれる者などいない。

とはいえ、監視に聞かれていたら

即抹殺されただろう。

しかし幸か不幸か

監視にも聞かれてはいない。


「あなた、面白い話してるわねえ。」


ロヨイは自分に話しかけて来た相手を見る。

黒いコートを着た不気味な男だ。

女口調なのが更に気味悪い。


「なんだー。アンタにゃ関係ねーでゃろ!」


「メアルって娘の名前

つい最近もどこかで聞いたわねぇ。」


「メアルの知り合いかぁ?」


「いいぇ、聞いただけで

何処で聞いたかも忘れちゃったわん。

ところでアナタのお話とっても面白そう。

力になってあげてもいいわよー。」


「力ににゃってくれるんか!

でもタデャじゃねーでゃろ?」


「やれやれ 聞き取り難いわねぇ。

私の願いをちょっと叶えてくれたら

お手伝いするわぁ。

とりあえず着いてきなさいな。

クククク。失礼。

どうせ行く宛もないんでしょ?アナタ」


「ああ、どうせ行くてょころもねー

どーにでぇもしてくれやぁ」


立ち上がろうとして失敗するロヨイ。


「だらしがないわねん。

手伝っておあげなさい。」


黒い男の後ろで控えていた男が

ロヨイを助けて立ち上がらせる。

黒い男はテープルに上に王国銀貨を1枚置いた。


「こんなもんで足りるかしらん。

お釣りはいらないぁ。」


酒場の店主は即座に手に取る。

銀貨を見つめる目はとても嬉しそうだ。


「十分過ぎるほどでさぁ。

またおいでくださいませ。」


「ククク。気が向いたらね。じゃねー。」


銀貨1枚でその身を売る形となった

哀れな男ロヨイ。

ロヨイとそれを連れ去る二人。

更に尾行する(つける)監視が暗闇に消えていく。

黒い男はロヨイの放つ、

黒い波動につられてやってきたのだろう。

恐らく待つ運命はリカレイと同じだ。

その日以降、ロヨイと監視の消息は途絶えた。

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