28話 聖女修行 2
調査隊一行は大森林に向かって馬を進ませている。
全速力で走らせているわけでは無いので
会話が出来る余裕があるが、
それは慣れている者に限る。
初めて馬に乗ったメアルは、
とにかく必死に冒険者ニースの背中にしがみ付いていた。
しがみつかれる側のニースは女なので
美人に抱きつかれたからといってなんの感慨もない。
寧ろ顔をしかめている。
理由は2つあり、2つともメアルに起因することである。
一つ目は匂いだ。
冒険者ニースの正体は聖女ニーであり
彼女はエルフである。
エルフは森の狩人と言われる種族であり、
高いレンジャー能力を種族として持っている。
つまりエルフは人間より五感に優れている。
匂いにも敏感だった。
しっかりとメアルにしがみつかれて
メアルから漂ってくるのは男の匂いだ。
本日は早朝の集合だったので
本来はそんな暇なかったのだが、
最近、アン伝授のテクニック…が1日の始まりになっている
カーライルは今朝もメアルにお願いした。
メアルもいつものセリフを言いつつ応じた。
いつもより早めに起きて
時間に余裕があると思ったからだが、
結果的には遅刻こそしなかったが危ないところだったのだ。
ニースの方も昨夜は久し振りに主と二人きりで過ごした。
自分も後ろの女と似たようなものであり、
いい気分はしないが匂いの方は、まあ許せる。
問題なのはもう一方の理由だが、
これについてニースは、気にしないようにすることで精一杯だった。
やがて一行は森の入り口に着いた。
到着し、集合した一行。
まず 隊長が各隊員の役割を再確認した。
冒険者アルジとニースは斥候役だ。
今回、冒険者への依頼に際し、
タジンはランクの指定をつけなかった。
戦闘に関しては警護隊で受け持つ。
その代わりつけた条件は、
レンジャー技能、能力を有することだった。
森での探索や危険感知は素人には難しいからだ。
今回依頼を受けたアルジとニースは、
冒険者ランクはE級と
最下層のF級の1個上でしかない。(実力はA級以上だが)
冒険者のランクは 上から順に
S級、A級〜F級まであり、
ランクに応じて 受けれる依頼は異なる。
アルジが自己紹介し、次にアルジがニースを紹介した。
その時初めて、ニースは外套のフードを外し、
彼女の顔が露わになった。
エルフだ。
エルフであれば今回の依頼にうってつけであることは間違いない。
しかし、そんなことよりも
その美しさに皆は目を奪われてしまった。
カーライルも思わず見惚れてしまった、
のをメアルは見逃さなかった。
静かにカーライルの腕に寄り添うと
そっと腕をつねった。
「ーーーーー!」
無言で耐えるカーライル。
タジンはやれやれといった表情を見せた。
こうして 探索が開始された。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「多いな。」
アルジが呟く。
「うむ。奥で異変が起きているのは間違いないじゃろうな。」
「ニー、ス 魔物がいるかかどうか分かるか?」
「まだなんとも言えぬな。 が、
可能性はあるじゃろう。」
森の中はモンスターが多かった。
本来なら森の奥の方にいるようなモンスターが
森の入り口付近まで来ている。
探索を始めて1時間だが、
既に5回モンスターに遭遇していた。
森の入り口にしてはあまりに異常な遭遇率である。
森の奥地に魔物がいて魔物から逃げて来たのでは?
とアルジが考えるのも無理はない。
戦闘はアルジとニースで片付けてしまっていた。
その戦闘、いや戦闘とは言えないだろう
あまりに鮮やかで迅速な処理に、
タジンは目を見張った。
ニースの正確無比な弓の腕前と
タジンの鋭く速い太刀筋にモンスター達は
大した抵抗もできずに狩られていく。
ニースのレンジャーの腕前も流石だ。
必ず先に発見し、先手を取っていくのだ。
とてもEランクの実力どころではない。
凄腕の双剣使いとエルフの組み合わせ。
恐らくこの二人の正体は…。
タジンには心当たりがあった。
警護隊には、定期的に王国から手配書が送られてくる。
その手配書の中に逃亡したテリアの将軍とその聖女に関するものがあった。
殺人、強盗などの凶悪犯罪ではなく、
彼らの場合、政治犯的な意味合いが強い。
しかもここはアマリアであって帝国でもテリアでもない。
アマリア王国としては帝国の依頼に対し、
表向きは友好的である為、
一応、手配書を配布した程度の熱量だ。
国交も無いテリアの手配書に賞金稼ぎでもない警護隊が必死になることはない。
むしろ、Eランク冒険者への報酬で
実質AかSランク冒険者を雇えたことはラッキーなことなのだ。
警護隊としてはあくまで冒険者〝アルジ〟と〝ニース〟を雇っただけのこと。
そうタジンは考えた。
考えたのだが…しかし、彼らが騎士と聖女であるならば、
カールとメアルには教えを請う千載一遇のチャンスだ。
こんな小さな町に騎士と聖女が来ることなど余程のことがない限りは無いのだ。
タジンは探索中にも関わらず、
何と話を持ち掛けようか?と考えてしまうのだった。
メアルは今回の探索でも隊長直属の部下として探索に同行している。
カールの隣に居ることができないのは残念だが、
隊長の近くにいながら アルジとニースの戦闘を間近に見ることができた。
<凄いとは思う。でも、どうしてだろう?>
メアルは不思議だった。
自分にもそれくらい出来そうな気がしたのだ。
夢の中で色々な自分の前世を体験している。
冒険者だったことも騎士だったこともある。〝最初の聖女アリー〟であったこともあるのだ。
しかし、そういったことでは無い。
なにかその程度は当たり前の事のように感じている自分がいることが不思議だった。
カールは、捜索隊の中では後方に位置している。
今回の探索では、もう一人の小隊長と共に
副隊長的な役割だ。
後方から隊全体の状況を把握するのが役割だった。
後方から2人の戦闘をはっきりとは見ることはできないが、
戦闘終了の速さから
二人が相当の実力者であることは判る。
まして先日、空き地で女冒険者と手合わせをしていた男だ。
男の剣技が凄まじい事は知っていた。
カーライルは最強の騎士を志している。
今は隊長タジンとの稽古でも一本も取れていないが、
俺も一度手合わせしてみたい。
と、目を輝かせた。
薬草を採りつつ遭遇したモンスターを倒し、
探索をしばらく進めた一行は
森の中で少し開けた場所に出た。
「森の中に、こんな場所があったとはな。」
タジンが呟く。
「ここで一旦休憩をしたいのだが。」
アルジがタジンに提案した。
「そうですね。ここで昼食休憩を取りましょう。」
丁寧口調に変わったタジンに
アルジは内心苦笑する。
タジンは交代で昼食休憩を取るように指示した。
ニースは食事を取りながら、
同じく食事中のカーライルに寄り添い、
一緒に食事を取っているメアルを見ていた。
「どうした? あの二人に興味があるのか?」
アルジがニースに尋ねる。
「いや、興味は女の方だけじゃ。
いや、興味というのだろうか?
とにかく気にはなるの。」
「ふむ、何かあるのか?」
「そうだな、あれは特殊じゃな。」
「どういうことだ?」
「まず、あれほどの加護持ちは見たことが無い。
ありとあらゆる神の加護を得ているのはないか?」
「ほほう。」
珍しい物を見るようにメアルを見るアルジ。
「珍しい加護だと〝魅了〟なんかも持ってるぞ。
男が放っておかないじゃろうな。」
「美人ではあるな。」
真剣に見入るアルジの手の甲を
涼しい顔でつねるニース。
「った!(痛!)」
「まあ、あくまで 加護だけどの。
〝祝福〟や〝寵愛〟ではないから、
ある程度の力は使えるじゃろうが、
それほど強い力は使えまい。」
「力の顕現化は出来ないか。」
手の甲をさするアルジ。
「ああそちらは聖女になれる程ではないのぅ。
器用貧乏な感じに近い。」
「そちら?」
「ああ、あの女は加護以外に
我でもわからぬ力を秘めておる。
神の力なのか、自身の力なのか全くわからぬし、
力の大きさすら掴みかねる程だ。
力は眠っていて本人も気付いてはいないじゃろうがの。」
「更にそれだけで無く、
もう一つ弱い力ではあるがあの女の中に何か力を感じるな。
今まで感じたことがない不思議な力じゃ。」
「つまり?」
「主、急ぐな。
まだあるぞ。
あの女には不吉な何かも憑いておる。
呪いなど足元にも及ばないほどの悍ましいものじゃ。
馬に乗せた時、
しがみつかれて堪えるのが精一杯だったぞ。
その力があの女の秘めた力を封じているのかも知れぬ。」
「ふむ、何者だろう?」
「何者もなにも 人間か?あれは?」
仲睦まじく食事をする二人を見る、
アルジとニース。
そこにタジンがやってきた。
「二人に興味がおありですか?」
「いやいや、仲のいいカップルだと思いましてね。」
誤魔化すアルジ。
「あの二人は 騎士と聖女を目指しているのですよ。」
「ほう?」 ニースが声を上げた。
「何故、その話を?」
「冒険者のお二人に個人的なお願いがありまして。
出来ればでいいのですが
二人に話し掛けて頂きたいのです。」
「ふむ、我らは冒険者だ。
騎士と聖女のことなど判らぬが、
それで良いならその程度は引き受けよう。」
「感謝します。」
2人に礼をし、去っていくタジンを見ながら
「バレとるの。大丈夫か?」
とニース。
「言っていただろ?
〝冒険者のお二人に個人的なお願いがある〟と。
知った上で冒険者として見てくれるんだろう。
ここはアマリアだ。こちらの力を知ったなら、
騒いだところで彼らに得はないさ。」
「まあ、そうじゃな。」
「いい上司じゃないか! それに。」
「それに?」
「ニーが彼女に話しかけたいだろ?」
ニースこと聖女ニーは苦笑し、否定はしなかった。
メアルはカーライルの隣で
彼が携帯食を食べる様を嬉しそうに見つめていた。
<こんなに近くで
カールの食べている姿を見るのは初めてかも。
食べてるカールもカッコいい♡ >
とメアルは思っているが、
カーライルはモテない。
警護隊に在籍し日々の鍛練の成果もあり、
体は引き締まっている。
戦いに身を置くので顔もなかなか凛々しい。
だが、彼は所謂 イケメンではなかった。
ある年頃の女性が「中の中」と評した程度だ。
その容姿で昔からメアル一筋なのが
周囲にバレバレではモテる筈も無かった。
因みに カーライルがモテないことは、
彼にとって幸運だったかも知れない。
今までのメアルの様子からわかる通り、
彼女もまた、他の男など眼中にない程
カーライル一筋である。
しかもかなり嫉妬深いようだ。
まあ相思相愛の彼らには関係ないことではある。
昨今のメアルを嘆くのは旧メアル派の男たちだ。
「あんなに憂いを帯びた薄幸感漂う美女メアルが、
今では ラブラブ バカップルに!」
その意見にアンは
「本人は不本意だろうけど、
薄幸感が似合う娘ではあるよね。
その点は同意だけど、
お姉さん役としては幸せになってくれて嬉しいわ。」
と言ったという。
まあ その辺りもメアルにとって、
どうでもいい事なのだろう。
重要なのは周りにどう思われるかでは無く、
〝カール〟にどう思われるか、
彼の為に何が出来るかなのだ。
悪夢はお守りの指輪のおかげで見ることは無くなった。
しかし呪いの力が無くなった訳ではない。
メアルはカーライルに全てを賭け、委ねた。
でもタイムリミットは
やはり次の誕生日までなのかも知れない。
日々を精一杯、悔いが無いように過ごした結果の
バカップルなのだ。
「悪いな。ホントにいいのか?貰っちゃって。」
「いいの。 私には多すぎるわ。」
メアルには警備隊の携帯食は量が多かったようだ。
「俺は物足りないくらいだけどな。」
「ふふふ。カールは食いしん坊ね。」
ここだけは世界が違っていた。
完全に二人の世界だ。
隊長タジンも頭を抱えた。
ここが油断すれば死に直結しかねない
森の中ということが判っているのだろうか?
そんな二人の世界に割って入った者がいた。
「油断しすぎじゃ!」
突然だった。
カーライルとメアルの耳元で
いきなり大声がしたのだ。
ニースは風の精霊の力で自身の姿を消し、
またレンジャーのスキル、所謂 忍び足で
背後に回り込んだのだった。
自分たちの世界に浸りきっていた二人は、
全く気づかなかった。
「うわ!」、「きゃ!」
と驚く二人に ニースは精霊の力を解除し、
しゃがんだ姿勢で姿を現わす。
してやったり 、 ふっ、と笑うニース。
「驚かせて悪い。
でも周囲に気を配らんと無事に帰れんぞ?
あと、周囲の目に毒だな。」
笑いをこらえながらアルジが二人に話しかけた。
「アルジさん、ニースさんすみません。」
「ごめんなさい。」
素直に謝る二人。
「〝アル〟と呼んでくれ。 、今後は気を抜かないでくれよ。」
アルジは偽名であり本名はギルバートだ
ニース以外から〝あるじ〟と呼ばれるのは
自分で決めた偽名とはいえ違和感が大きい。
「私は ニースでいいぞ。 略さないように。
よく間違えられて迷惑しているのじゃ。」
エルフは美男、美女揃いだが
人間族にはその顔立ちの違いが認識しずらい。
同じ顔に見えてしまうのだ。
手配書の〝聖女ニー〟がエルフであるため、
名前が似た ニースを ニーと呼ばれては迷惑だ、
と言っている。
のだが、
ふてぶてしくよくも言ったものだな。
とアルジは思った。
「了解しました。 自分はカーライルで こちらは…」
「メアルです。 アルさん、ニースさん。改めてよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく。」
「硬いぞ二人とも。過度の緊張は動きを悪くするぞ?」
とニースが真剣に言った。
「こちらはただの冒険者だ。気負わないでくれ。」
アルジが苦笑する。
「それで俺たちに何が用ですか?」
とカーライルはドキドキしながら聞いてみる。
「いやなに、大したことじゃないよ。
タジン殿に君らが 騎士と聖女を目指していると聞いてね。
少し興味をもったのさ。」
「隊長に聞いたのですか。
はい、次の王都の騎士採用試験を受けるつもりです。」
「 どうだ、帰ったら手合せしてみないか?
なにか得るものがあるかもしれんぞ?」
「え! いいのですか! 是非お願いします!
でも何故?」
冒険者であるアルジが今日初対面の
一警護隊員に稽古をつけてくれるというのだ。
カーライルが不思議がるのも無理はない。
「実は俺も騎士を目指していた時期があってね、
同じ志を持った者のよしみだ。」
嘘は言っていない。ただ夢を叶えて騎士になったと言う事実は言わなかっただけだ。
「あと、昨日見逃してくれた礼じゃ」
ニースはそう言ってウィンクしてみせた。
「ありがとうございます。」
「冒険者相手に敬語は要らんよ。」
とアルジは苦笑するが、
将軍だったこともある男に対し、
カーライルが緊張するのも仕方の無いことだ。
威厳、自信、存在感、全てが格上なのだ。
「メアルと呼んで良いかの?」
「はい。」
「では、メアル。 アルジが剣の稽古をつけると言っているのでな。 我はメアルの魔法の方を見ようぞ。」
「ありがとうございます。」
「うむ。まあ礼には及ばぬ。
アルジの気まぐれに付き合うだけのことじゃ。
それに メアルは気づいておらぬだろうが
お主は色々な素養をもっておるでの。」
<そちらを鍛えれば、
秘めた力が出てくるかもしれんからな。
我はそれを知りたいのじゃ。>
「え?」
「何にせよ戻ってからの話じゃ。」
こうして、それぞれ稽古の約束をした。
カーライルは 食事休憩の後半組と
見張りを交代したが、
心はすでに戻ってからの稽古に占められていた。
体力のないメアルは
タジンより休んでいるように言われ、
そのまま休憩だ。
その休憩時間中、
メアルはこの探索でのカールの無事を祈った。
アルジとニースも見張りに参加していた。
祈るメアルを見ながら、
「カーライルだったか?
男が今日無事でいられる様にと祈っているようじゃ。
一途だの。」
とニースが言った。
「祈りの声も聞こえるのか?」
「普通は聞こえんよ。
それだけメアルの祈りの力は規格外に強いということじゃ。
聞きたくなくても聞こえてくる。」
「強い祈りの力…か。」
「聖女の本質は祈りの力。
契約はその結果に過ぎないのじゃ。」
「聖女の資質は十分か。
しかし契約は結んでいないのだろう?」
「祈りが男に向かっているからかの。
神や精霊に祈っているようでそうではないからじゃ。」
「祈る姿は神々しいな。
聖女を通り越してまるで女神だ。」
「そうじゃな。」
ニースも同意した。
メアルは警護隊に入隊以降、
休憩中によくカーライルの無事を祈っていた。
目を閉じ、両手を胸の前合わせて祈る。
その姿はやはり美しく神々しい。
声を掛けれる者はいなかった。
カーライルにはもったいないというのが
隊の中での共通認識だ。
「そういえば 不思議な事に気づいたのじゃ。」
とニーが切り出す。
「どうした?」
「メアルの中に小さいが不思議な力を感じると言ったの?」
「言っていたな。」
「カーライルがそばにいる時、
共鳴するかのように増幅しておった。
今は離れているからか元の弱さに戻っているがの。」
「二人に何がしらの結びつきがあるということか。」
「何の力か全くわからんがの。」
とニーが締めくくった。
「ところで主よ。」
「ん?なんだ。」
「カーライルをしきりに萎縮させておったが
なにかあの者になにかあるのかの?」
「萎縮させてるつもりはないのだが
長年身についたものはそうそう隠せんか。」
無精ヒゲを撫でるアルジ。
「そのうちバレるぞ?」
「どの口が言う。」
〝ニー〟の方が疑われ易いのだ
呆れた口調で アルジが返した。
「萎縮云々はさて置き、
なにか、あの男からも得体の知れなさを感じたな。」
「ふむ。」
「まともにやり合ったら
勝てないと感じさせる何かを持っている。」
「まさか!」
百戦錬磨の…ギルバートの言葉に
驚くニース。
「うむ。俺も信じられんさ。
だから手合わせしたくなった。」
「成る程のう。」
アルジとニースは二人に興味をもったのだった。
休憩が終わり森の探索が再開された。
すぐにゴブリンの集落を発見したが、
魔物に襲われ廃墟と化していた。
食い散らかされたゴブリン達の成れの果てが
あちらこちらで腐敗臭を漂わせており、
見るに耐えない有様だ。
ニースは風の精霊の力で風を起こし
まず場の空気を入れ替えた。
そうでもしないと立ち入りたくは無い。
遺体の状態から襲われて一週間ほどだろうか?
だとすれば、この前倒した魔物とは
別の魔物という事になる。
魔物の痕跡を探る。
足跡などから、
前回と同じくマッドベアタイプの魔物だと思われる。
魔物がいることは予想できた。
その確認のため探索だった。
レンジャーが必須だったのは、
探索時に魔物に遭遇しないようにする為でもあった。
魔物がいたことで今回の事態も頷ける。
討伐すれは街道も落ち着くだろう。
しかし、事態はそれだけでは済まなかった。
魔物の足跡は大きさ、形が違うものがあった。
魔物は複数居たということが判ったのだ。
最低でも3匹。
その点が信じられなかった。
「複数の魔物? 信じられん!」
もし、これらが森から出てきて町を目指したら。
もし、たった今この場で遭遇したら。
タジンはこの事実に青くなった。
魔物にとっては自分が全てで
自分以外は全て食料だ。その筈だ。
例え相手が同じく魔物であってもだ。
連れ立って行動するなど
聞いたこともなかった。
「すぐ戻ろう。これ以上は危険だ。」
とアルジが提案した。
「そうですね。」
タジンも同意した。
一刻でも早く戻り、備えなけれならない。
国境砦にも報告をし、
他の町からも増援を頼む必要があるだろう。
場合によっては
国から騎士を派遣してもらう事態になるかも知れない。
焦る気持ちを抑え、
タジンは撤収の指示を出した。
ニースは風の精霊から周囲の状況を聞いていた。
「落ち着け、とりあえず周囲には魔物はいないようじゃ。」
次に、森の入り口の方に向かって風を吹かせ、
自分たちの匂いを森の奥に運ばないようにした。
マッドベアは鼻が効く。
マッドベアが魔物化しても
やはり鼻が効くだろうという判断だ。
流石に冒険者二人は潜ってきた修羅場の数が違う。
落ち着いたものだ。
「我々が殿をしよう。」
アルジの申し出に タジンは感謝しお願いする。
今日の探索にアルジとニースを雇えたことは、
探索隊にとってもスタの町にとっても
幸運なことだった。
この幸運には裏話がある。
アルジとニースは王都から離れる為に
商隊の護衛の依頼を受けたのだが、
それがミランの実家の商隊だったのだ。
スタに来た目的はアンがミランに
王都の商品の取り寄せを頼んだからだ。
ミランの実家は父親の代から
スタの町へ物資を運ぶ商売をしているが、
本来であれば後2月後だったのだ。
アンが強くミランに頼んだ為、
(珍しく甘えておねだりしてみせて)
急いで来てくれたのだった。
ちなみに頼んだものは 乙女の秘密…としておきたいが、
自分の分と、リィリィの分(結婚祝い)と
ついでにメアルの分のセクシー下着だ。
スタでは絶対に手に入らない際どいものだ。
当然アンはメアルとリリィのサイズを知っている。
後日、ミランとカーライルは大いに喜び興奮したが、
リィリィに旦那がどうだったかは不明だ。
結果から見れば、アンは警護隊にとっても
町にとってもラッキースターだった。
調査隊は無事に森を出ることができた。
安堵するまもなく、町を目指す。
町に着いたのは予定より早く、
午後3時過ぎ位だった。




