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23話 二人の新しい生活

最近、週一更新です。



診療所でのお昼休みの事。

メアルは昨夜の事に浮かれ、出勤の仕度が遅れてしまった。

その為、メアルの今日のお弁当は

パンと乾燥野菜という質素なものだった。

固めのパンに悪戦苦闘中のメアルの前の席に

アンがやって来た。

それ自体はいつもの事である。

しかし、その日のアンはいつもと少し違った。

アンは お弁当と

何故か持っているバナナをテーブルに置くと、

自身がしていたスカーフを外し、メアルに手渡した。

アンはにっこり笑っている。


「ほんとは黙ってるつもりだったんだけど、

今日あんたが治療してた男どもの帰る時の顔見たら流石に哀れでねぇ。」


「え?」


「お姉さんにも刺激強イヨ。」(棒読み)


「ホントなあに?」


アンは部屋の壁にかけてある鏡を指差し


「見てみ。首の辺り。」


「え? ええ。」


メアルは鏡を覗き込み気付く。

首にいっぱいのアザがある。

キスマークだ!


「きゃあ! 」


「いやぁ 、流石に生々しいからさ、

男どもにはキツかったかな。」


さして心配してなさそうな感じで

テヘヘと笑うアン。


フラフラとした足取りで

席にもどりヘタリと座るメアル。

テーブルに突っ伏す。


「皆んなに見られたの?」


「イエス。」とアン。


「帰りたい……」


「ダメダメ、仕事はともかく

いろいろ聞きたいからね。」


「それも含めて帰りたいわ…」


そして メアルは

共に食事を取りながらアンの取り調べを受けた。

メアルは答えられる範囲では答えていく。


「なるほどねー。

やっと、カールとくっついたんだねー

(知ってたけどね)。」


「皆に黙っててね。」


「あいよ。(私がいちいち動かなくても既にバレバレだし。)」


「あー。そうそう! あんたには

〝正しい男女交際〟について教えとかないとねー。」


「なんか、悪い予感しかしないわ。」


「なかなか辛辣じゃない?

じゃあとりあえずコレ!」


バナナを手渡すアン。


「バナナ?」


「むふふ!カールに喜んで欲しいでしょ?」


バナナを剥き始めるアン。


「ええ、それはそうだけど。」


メアルもアンに習ってバナナを剥く。


「じゃあ、見てて。」


アンはテクニカルなバナナの食べ方を披露した。


「これって! ………(モグモグ)」


顔を真っ赤にしてバナナを頬張るメアル。


「どう? って コラ!

なんで食べちゃってるの!」


「アン、これで、カールが喜んでくれるの?(ゴクリ)」


「イエス。お嬢さん。(キリッ!)

他にも色々教えてあげれますぜ?(ニヤリ)」


「本当に?(ゴクリ)」


弱点?であるカールをダシに使われ、

すっかりアンのペースにはまっていくメアル。


<ホント、カールが絡むとチョロい()ね。お姉さん心配!>


こうして 二人のお昼休憩が過ぎていった。


なお、メアルのキスマーク事件はアンが手を出すまでもなく、アッと言う間にメアル派の男どもに広まった。

昼休み後、メアルは仕事をしながら

自身についたキスマークについて違和感を覚えた。

(ちなみにカールがつけてくれたものを消したくないので、回復魔法は使わず、アンに借りたスカーフを巻いている。)

メアルは運命の日まで呪いの力で傷つくことはない。

であればキスマークは内出血のアザである以上

メアルにはつかないはず。

さらによくよく考えれば、彼女の処女膜も破れないはずだ。

メアルに思いつく原因は二つ。


1つ目、呪いが解けた。


2つ目、原因はわからないがカーライルはメアルを傷つけることができる。


2つ目の場合、

カールこそがメアルを殺す者の可能性もあるが、

メアルはカールに全てを賭けた。

それにカールになら殺されても良いと考えている。

実際のところ、カールがメアルに干渉できる理由は

呪いと関係ないことだが、

それが判るのは後のことである。


<1つ目なら嬉しいけど>


メアルは帰宅すると料理をしながら

包丁で指先を切ってみたが、やはり傷つかなかった。

呪いが消えたようではないようだ。

さして気落ちはしなかった。

それよりも、今日はカールは来ない。

その方がメアルを気落ちさせた。

カーライルは母親と妹にきちんと説明したいとのことだった。

食事と家事を済まし一息いれた時、


<寂しいな。カール、会いたい……>


とメアルは考えたが

すぐに、アンの教えが頭に浮かび、顔が赤くなった。


<少し練習した方がいいかな? カールのために。>


メアルはアンに貰ったバナナ一房をテーブルに置いた。


恥ずかしさで躊躇していたが、やがて、


<カールの、カールの為。カールが喜んでくれる為。

カールはは私に命を捧げてくれた。

だから私もカールのために全てを捧げたい。>


メアルは自身に言い聞かせなが

興奮気味にバナナに手を伸ばすのだった。

こうしてメアルの夜は過ぎて行く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


話はお昼頃に遡る。

カーライルは隊長他、複数の小隊と

昨日討伐した魔物の後始末と被害調査に来ていた。

今は昼飯中であった。


「隊長、昨日は心配をお掛けしました。

町に入り油断していました。

それにまさか、リカレイが。」


「メアルに感謝しなければな。

それでなければ、今こうして話すことも叶わなかった。」


隊長は安堵した表情をみせた。


「守ろうと決めていたメアルに逆に救われました。」


隊長タジンは、本来であればカーライルを今日は

休ませるつもりだった。

しかし、今朝現れたカーライルがあまりに

ピンピンしており、ヤル気に満ち溢れていた為

連れてくることにしたのだ。

外の方が話しやすいだろうという考えもあった。


「たまにはいいだろ。 しかし、メアルの魔法はすごいな。」


「はい。お陰で命拾いしました。」


「そうそう、リカレイは手配済みだ。

優秀な男だっただけに残念だ。」


「リカレイはまだ捕まっていないんですね。」


「城門はすぐ封鎖したんだが、下水から逃げたようだ。

痕跡が見つかった。少なくとも町の中は安全だろう。」


「奴もメアルを狙っていたから、

町には居ないならとりあえずは安心です。」


タジンはこのタイミングを待っていた。

今日、カーライルを連れ出した理由。

それはこれからの会話をしたかった為だ。


「そういえば、ミランからいろいろ聞いたぞ。」


「えーと、何をでしょう?」


最近いろいろバレているカーライルは顔が引き攣る。


「メアルとの事に決まってるだろ!

昨日 診療所で熱い抱擁をしてたそうじゃないか。

もうヤッタのか?」


「ゴホゴホ!」


予想していたとはいえ、

ストレートな質問に思わず咳き込むカーライル。


「夕方に瀕死だった男がなぁ。

そうか、昨晩はお楽しみだったか。」


ニヤリと笑うタジン。


「何故判るんです?」


「お前の顔を見れば判るさ。」


「何か違ってます?」


じっとカーライルの顔を真面目に見たタジンだったが、

ぷーっと吹き出し笑い出す。


「何スカ?急に!」


「いやーすまんすまん。

本当のことをいうと今朝、出勤時のメアルに会ってな。

お前のことで謝られたんだが、

いやなんと言うか、目に毒だったぞ。

男の俺が指摘もできんし。」


「メアル? 目に毒? 何の話です?」


人の悪い笑みを浮かべているタジン。


「お前が彼女にいっぱいキスマーク作ったんだろ?」


「ぶは!」


真っ赤になるカーライル。


「もうスッカリお前の奥さんみたいな感じだったな。」


「いやはや、メデタイ、メデタイ、

男になった祝いに いろいろ 連れて行ってやるぞ?」


「いろいろって?」


「夜の彼女をより悦ばせてやりたいだろ?

そのためには技を磨かないとな!」


「間に合ってます。それにバレたらメアルに殺される!」


「なんだ もう尻に敷かれているのか?」


からかわれているとは思ってもいないカーライルは真剣に否定する。


<本当にメアルには感謝しても仕切れないな。>


タジンはカーライルの様子に安堵する。

彼の親心をカーライルは判っていない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


午後になり、国境砦から支援部隊が合流した。

合流次第、討伐した魔物の遺体のある場所へ向かう。

村の方は本日の調査を元に

明日以降でなんらかの処置が決まるだろう。

今日の一番の目的は〝魔物の浄化〟にある。

魔物は死んでも魔物に憑いた魔は消えないと考えられている。

だから魔が他の生物に憑かない様、浄化する必要があるのだ。

実際はそんなことは無いし、

意味は無いのだがそれを知るものはこの場にはいない。

スタの街から〝浄化、再生、治療〟を司る神

〝マーリー〟の司祭を呼んでいた。

魔物の浄化の手順についてだが、

まず油に浄化の魔法をかけ、浄化の聖水を作る。

次に浄化の聖水を魔物に満遍なく振りかける。

最後に浄化の聖水を染み込ませた松明に火をつけ、

聖火でもって魔を焼くのだ。

それらの作業をこなし燃やされていく魔物。

その炎を少し離れた丘で眺める男がいた。

背が高く痩せており、

薄気味悪さを感じさせる黒いコートを羽織っている。

その男の後ろにもう1人いた。

リカレイだ。

男の後ろで虚ろな表情を浮かべて立っている。

手をだらんと下げ、どこも見ていない。


「クヒ!、焼かれちゃってるわん。

残念ねぇ。せっかく作ったのに。

まあ死体はもう調べたから良いけどー。

次はどうしちゃおうかしらん。

ねぇリカレイちゃんはどう思う?」


リカレイは答えない。

よだれを垂らし、虚ろな表情を浮かべたままだ。


「あの町、スタだっけ?

壊滅させてもいいってことだしーホント楽しみねぇ 。

あなたの大好きな娘もいるんでしょ?

すぐに襲わせてあげるからもうちょっと待っててねー。」


大好きな娘の部分でリカレイが反応した。


「メ・・・ア・・・ル・・・く・・・い・・・た・・・」


リカレイの目に狂気の光が灯る。


「好きな娘なのに食べちゃいたいの?

まあ、食べたいんなら仕方ないわねぇ。

でも、まだダメよー。もっと強くならないとねー。」


男に見られリカレイの目がまた虚ろに戻る。


「聞き分けのいい子は好きよー。 ククククク。」


口を手の甲で押さえて

楽しそうに笑う男からは邪悪な気配しかしない。

〝死神〟という言葉がよく似合う男だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


魔物の浄化が終え、

カーライルは家に帰った。

メアルの家に寄りたいところだったが

寄ってしまえば帰りたくなくなりそうだった。

夕食を食べながら、

母親と妹にメアルとの今後について、話せる範囲で話す。


「メアルちゃんを王都に連れて行くのは判りました。

男として、しっかり彼女を守るのですよ。」


「やっと安心してお嫁に行けるわ。

メアル(ねえ)に見限られないようにしてね、兄さん。」


「おいおい、メアルに限ってそれはないよ。

それに当然、俺がメアルを守るさ。」


二人から祝福されカーライルは頭を掻きながら、

3人での食事を楽しんだ。


次の日の早朝、

カーライルはメアルの家に向かっていた。

日課の訓練の時間ではあったがメアルに無性に会いたかった。

メアルの家の玄関を叩くと、直ぐにメアルが出来てきた。

メアルはカーライルの顔を見るなり、

カーライルの胸に飛び込んだ。

カーライルは驚きつつも彼女を抱きしめる。


「カール会いたかった!」


「寂しい思いをさせたかい?」


「寂しかった!だからその分抱きしめて欲しいの。」


メアルの言葉に

カーライルもついつい抱きしめる力が強くなる。


「カール…嬉しい。」


まるで長い間会えないでいた

恋人同士の再開のような光景だが、

2人の再開は1日ぶりである。

やがて家の前で抱き合っている事に気付き、

赤い顔をしながら2人は離れた。


「取り敢えず中に入って。」


彼女に促され、カーライルは中に入った。

一緒に朝食を取りながら、

カーライルはメアルから驚くべき話を聞いた。

メアルは昨夜、悪夢を見なかった。

そして今朝起きてその事気付いた。

今まで悪夢を見ない日は無かったのだが、

カーライルと結ばれた夜以降の二晩は

悪夢を見ていないとの事だった。

ちなみに、カーライルが呪いの影響を受けずに

メアルを傷つけることが出来る(らしい)ことは

メアルは敢えて言わなかった。

カーライルを信じているし、

カーライルに〝自分がメアルを殺す可能性がある〟事に気付かせない為だった。

メアルにとってカーライルの笑顔がない日常は

もう考えられなかったからだ。


「カール、はしたない女と思わないでね。

できれば今日は泊まっていって欲しいの。

今日は指輪を外して寝てみようと思う。

カールがくれた指輪が私を守ってくれてるのなら、

今日はきっと…

もし今夜怖い夢を見たら、また抱きしめて欲しい。」


「ああ。今日はお邪魔するよ。」


「ありがとう。

でもお邪魔する、だなんて他人行儀は寂しいわ。

もうここはカールのお家でもあるのよ。」


そう言いながらメアルはカールに鍵を手渡した。


「ああ、ごめん。じゃあ今日はここに帰ってくるよ。」


カーライルは鍵を受け取った。

そして朝のスープを楽しんで

メアルとの熱い抱擁と口付け交わしたの後、

実家へと戻った。


そしてその日の夜。予想通りメアルは悪夢を見た。

そして早朝、側でまだ寝ているカーライルに抱きついた。

カーライルは寝ぼけながらもメアルを抱きしめる。

暫くの間メアルは悪夢の嫌な後味を

カールに包まれる幸福感に書き換えていた。

が、前の晩に愛し合った為メアルは裸であった。

意識がハッキリしてきたカーライルは……


「あん、もう。カールったら♡」


後の展開は述べるまでも無いだろう。

兎も角、指輪をしていれば

悪夢を見ない事が判明したのだった。

そして、この日二人は遅刻する事になった。

メアルはアンに、カーライルは隊長に、

それぞれ怒られつつ、からかわれたのは言うまでもない。

愛し合う2人が結ばれたのだ。

カーライルは毎日メアルの家に泊まるようになった。

二人の同棲はすぐに広まった。

今までのアンの工作と、

メアルのキスマーク事件、

同棲をメアルとカーライルが隠さなくなったのも

理由に挙げられる。

更にアンは入籍間近であるとテキトーな情報も流した。


二人の同棲開始によりすぐに食材が足りなくなった。

1人分の食事とお弁当が増えたからだ。

それにカーライルは当然だがよく食べる。

カーライルが実家から食材を持ってきてくれたが、

全然持ちそうもなかった。

メアルはアンに相談し、

アンの強権発動により一時的に買い出しを許可を貰った。

もちろん買い出しが終われば職場に戻らないとならないが、

メアルは楽しく買い物を楽しんだ。

カーライルに何を作ろうか?

カーライルの好みは分かっている。

でもそれでは栄養が偏ってしまう。

騎士を目指す以上、体作りはとても重要。

そこはメアルにかかっているのだ。

カーライルのことを考えながら食材を選ぶのは、

メアルにとって、とても楽しいひと時だった。

メアルは魔法袋を使っても入りきりそうもないので

2回の買い出しを行った。

1回目に乾燥していたり、保存が効くもの。

2回目に生野菜などだ。


2回目の買い物の時、事件は起きた。

事件を起こした男の名はロヨイ・チューハ。

チューハは苛立っていた。

メアルがカーライルと同棲を始めたからだ。

父親から暫くは大人しくしていろと言われてはいたが、

カーライルとメアルが同棲を始め、

入籍間近と聞いてはもう我慢できなかった。

メアルが16才になった時

強引に話を進めるべきだったと今になって後悔している。

当時アンに妨害された時、

父の権力を使ってアンを排除しようとしたが

父は何故か動いてくれず排除できなかった。

以来、ずっとアンに牽制されてきた。

よく考えたら、あの女は ()()()()()

カーライルのクズとくっつけようとしていたのでは無いか?

これ以上、アンにいい様にされては堪らない。

このままではメアルは手に入らないだろう。


チューハの考えはこうだ。


〝俺のメアルは可哀想に

カーライルのクズに騙され同棲を開始してしまった。

今まではアンを立ててメアルには自由を与えてきたし、

カーライルがつきまっているのも寛容してきてやった。

だが、キスマークや同棲、

ましてや入籍なんて到底許容できない!

親父の指示など守っている場合ではない!!

メアルの目を覚まさせ、俺との婚姻を進める。

なんと言っても俺には切り札がある。

俺は寛大だ。

俺の元に()()()くるなら

今までのことは水に流そうじゃないか。

生娘は面倒だしな。〟


ちなみにメアルが一度でもチューハと付き合った事実は無い。

一度、結婚申し込みしたのを、

自分のものになったと勘違いしているのだ。

またキッチリと断られている事実は、

彼の中では無いものになっていた。


チューハは働きもせず市場をブラブラしていた。

そこで買い物をしているメアルを見つけた。

メアルがこの時間に買い物をしているのは珍しい。

〝これは 天が与えた運命だ!〟とチューハは思った。

チューハは行動を開始した。


メアルは幸せそうに歩いていた。

いつもは無表情の彼女だが、

今日はとてもニコやかにしている。

買い物の最中も常に笑顔だった。

メアル行きつけの食材店のおばちゃんも

その変化には内心驚いた。

カーライルとの同棲開始の噂は聞いていた。


<カールの坊やと本当に結ばれたんだねぇ。>


と幸せそうな彼女を祝福し、

会計の時、メアルの買った食材に

そっとオマケの食材を紛れ込ませた。

今、メアルが歩きながら振りまいている笑顔は

ここにいないカーライルに向かってのものであり、

周囲の人に向けられてはいない。

カーライルのことをあれこれ考えると

自然に笑顔になるのだった。


「やぁ メアル。」


チューハは、幸せそうに歩くメアルの前に立ち

行く手を塞ぐと話しかける。


「こんにちわ。」


最小限の返事をしつつ、少しメアルの笑顔が曇る。


「そんなに 俺に会えて嬉しかったかい?」


途端にメアルから笑顔が消えた。

少し、ムッとするチューハ。

カーライルは町の見回りを部下としていて

ちょうど、メアルがチューハに話しかけられる所を目撃した。

メアルがどんな反応をするのか?

好奇心を覚えたカーライルは、

少し離れたまま見守ることにした。


「なにか、ご用ですか?」


「実は、ここ最近の君の噂を聞いてね。

君を救う為に君を探していたんだよ。」


「救うとは?」


「君はカーライルに騙されていると言う事さ。

君は騙されている。

このまま行くと君はボロボロになってしまうぞ。」


「……………」


「今なら間に合う。

俺のところに戻ってこい!

貧乏な奴よりもずっと豊かな暮らしをさせてやるし、

お前もその方が幸せさ。」


カーライルはチューハのなりふり構わない白昼堂々の求婚に、

たまらず割って入る。

その為か誰もがメアルの纏うオーラが

周囲を氷付かせるものに変わった事に気付かなかった。


()()()にちょっかい出すなよ! チューハ。」


<俺の女!>


突然現れたカーライルの言葉に反応し

纏ったオーラは霧散し、一気に顔が赤くなるメアル。


「もう。カールったら♡」


そう言いつつもカーライルに向ける表情は

眩しいくらいの笑顔で、

カーライルの隣にに立つとカーライルの腕に寄り添った。


「カール、お仕事お疲れ様。」


そう言ってカーライルにもたれかかる。

視線はカールに向いている。


<カール、カッコいい♡>


もはやメアルにはチューハのことなど

意識から無くなってしまった様だ。

それだけカーライルの言葉は

メアルの心を舞い上がらせたのだった。


「そう言う事だ、諦めてくれ。」


と、カーライルがチューハに言い放つ。

その言葉にチューハはフッと余裕の笑みを浮かべる。

そして懐から1枚の紙を取り出し、二人に突きつける。


「これが何か判るか?」


「「?」」


カーライルとメアルが答えられずにいると、

チューハが得意満面に話し出す。


「これはなメアル、君の家の土地の権利書だよ。」


「な!」

カーライルが絶句する。

その様子にチューハは気を良くした。


「君のご両親は苦死病の治療やその間の生活の為に

土地の権利書を借金の形にしてね。

今までは黙っていたんだが

当家にも事情があるし、そろそろ返してくれないか?」


この後、

〝もし君が俺の元にくるなら

君に返してもいいと思っているのだが。

どうするメアル?〟

と続くはずだった。


「土地はご自由にどうぞ。

お困りなのでしょう?

明日にでも引き払います。」


「え?」


間髪入れずに返されたメアルの返事に

チューハは面を食らってしまった。

これでは計画が台無しだ。


「メアル、いいのか?」


心配したカーライルがメアルに話しかける。


「いいの。

お父さん、お母さんとの思い出はちゃんと覚えているわ。

それに貴方の側が私のいる場所だから。」


その言葉にカーライルも覚悟が決まる。


「そうだな、どうせ王都に行くし。

じゃあ、それまでの間は俺の実家に来いよ。」


「お母様とリリィちゃんのお邪魔になったら悪いわ。」


カーライルは心配するメアルの頬を撫でる。

メアルも嬉しそうにその行為を受け入れた。


「大丈夫さ。

メアルとの事は二人共、喜んでくれているから。」


その言葉にメアルの瞳は潤む。


「お世話になります。

不束者ですがよろしくお願いします♡」


「こちらこそよろしくな。」


これ以上ない幸せそうな表情を浮かべ

カーライルに寄り添う。


「そう言う事だ、諦めてくれ。」


カーライルは改めてチューハに伝える。

暫し、ポカーンとしていたチューハだったが、

カーライルの言葉に我に返った。


「ふざけるな! メアルお前は騙されているんだ!

お前が居るべきはこっちだろ!

いいからこっちに来いよ!」


真っ赤な顔で叫ぶチューハ。

なんだこれは!

これでは、俺は道化師じゃないか!

メアルの顔がチューハの方に向いた。

全くの無表情、とても冷たい視線だが

カーライルからは見えない。

メアルはカーライルの腕から離れ、一歩前に出た。


「何故、私はあなたの隣に行かなければいけないの?

私が側に居たいのも、側に居て欲しいのもカールよ。

あなたじゃない。

土地の権利書で脅そうとする人の側なんて居たくない。

どんなに生活が豊かだとしても

私はあなたの側になんて1秒だって居たくない。」


「な!」


「あなたは子供の頃、散々私を虐めたわ。

それを助けてくれたのはカールよ。

あなたは私に優しくしてくれた事は無かった。

カールはいつも優しくしてくれた。助けてくれたわ。」


「俺は…本当は…君のことが……」


「成人したら急に手の平を返して言い寄られても

迷惑以外の何者でも無いわ。

私はカールがいい!

カールが愛してくれるならそれ以外は要らない。

カール以外に興味はないの。

名前も知らない()()()()()の事なんてどうでもいいの。」


そう、メアルはカーライル以外の異性の名前は覚えていない。興味がないからだ。

(カーライル、アン、自身に直接関係がある人物は例外で覚えている)


「…………」


チューハはメアルの言葉に

激しく自尊心を傷つけられたが、

怒りを覚える以上に打ちのめされてしまった。


〝お前(達)は名前も知らない有象無象だ。路傍の石だ。

何の感情も持たないし、興味もない。これからも無い。〟


と言われたのだ。


「明日にでも今の家から引き払います。

だからこれ以上つきまとわないで。

今ここで皆の前で約束して下さい。」


これだけの騒ぎだ。

いつのまにか人が集まってきていた。


「こりゃ無理だ!」


「潔く諦めな!」


「権利書で脅して添い遂げようなんて

無理にきまってるだろ?バカなんじゃないか?」


「そもそも権利書って本物か?怪しいな!」


「あれはチューハ家のお坊っちゃんか? 哀れだな。」


などの野次が飛んでくる。

周囲の圧力もあり、

なによりメアルの目に射竦められたチューハは、


「…わかった、もう近づかない。約束する。」


と青い顔で言った。


「では、さようなら。

 行きましょう、カール。」


「あぁ。」


カーライルはメアルの手を取り歩き出した。

去り際、カーライルはチューハに告げた。


「苦死病は発症してからお金を借りに行けるような

そんな優しい病気じゃないぞ?」


「…」


カーライルは先日の配送屋ジェッポの件が

ずっと心に引っかかっていた。

ジェッポは自殺だとされたが、

権利書を盗む為にメアルに近づき、

役目を果たしたからこそ消されたのではないか?

それがカーライルの考えだ。

カーライルが調べた限りでは

あの事件以前にジェッポがメアルに近づいたなどの

接点が二人には無かった。

それがある日突然、家に押しかけてきて

告白したというのも不自然だし、

メアルに振られた夜に首吊り自殺も出来すぎている。

チューハは答えない。

しかし、あまり追求する気はカーライルには無い。

メアルの安全を優先するべきだからだ。

チューハは二人が去った後も

青い顔のまま立ち尽くしていた。

哀れなチューハに声をかける者はいなかった。


後日談になるが

チューハはこの町を出てしまった

(親に勘当を言い渡された)のだが、

メアルにはどうでもいい事だ。

この時のメアルとチューハの会話がメアル派の男たちに

完全にトドメを刺したのは言うまでもない。

この日を境にメアルに言い寄るものは居なくなり、

診療所にくる患者が減った。

裏でメアルのことを


〝氷の魔女〟


と恐れるようになった事も

メアルにはやはりどうでもいい事だった。


チューハと別れた後、

カーライルはメアルと暫し腕をくみながら歩いた。

カーライルの部下は気を遣い外した様だった。

お互い無言だったがメアルが先に口を開いた。


「重い女だよね。カールは…!!」


カーライルは、メアルを抱きしめて、

メアルの口を自分の口で塞ぎ、それ以上言わせなかった。


<あぁ! カール、カールの舌が…>


赤くなるメアル、が抵抗はしない。

やがて遠慮がちに応じた。

どれ位そうしていただろうか?

白昼堂々とキスをする二人に

周囲から 冷やかしの声が聞こえた。

やがてカーライルはメアルの口を解放した。

抱きしめ合った状態のまま、見つめ合う。

お互い顔が赤い。


「もう。カールったら♡」


うっとりとした表情のメアル。

周りの冷やかしなど耳に入っていない様だ。


「メアル、仕事はいいのかい?」


言いながら抱擁を解除するカーライル。


「あ! さすがにアンに怒られるわ。もう行かないと。

今日は食材も買ったからご馳走にするわね。」


と、赤い顔のまま残念そうにメアルは去った。

何度も振り返り、手を振りながら。

メアルが見えなくなって、

カーライルは先程のメアルとチューハの会話を思い出す。

あの時、メアルの表情は見えなかった。


<メアルが見せなかったのかも知れないな。>


メアルの言い放った容赦のない内容と

青く変わっていくチューハの表情。


<メアルを怒らせたらアウトだ!>


とカーライルは自身の肝に命じた。

また、この日が、スタ1番のバカップル伝説の

始まりの日でもあった。


23話了

今回は少し長めになってしまいました。

カーライルとメアルの恋愛はひと段落。

第1章も終了です。


次章では

帝国、モスの動きや、

メアルの聖女修行、黒い男とリカレイ、

呪いの顛末など書く予定です。

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