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22話 朝 そしてアンさんは目撃する

アンの趣味は早朝の散歩である。

例え前日の仕事がもの凄く忙しかったとしても

雨でなければ怠ることは無い。

アンの散歩は必ずお気に入りのコースを歩くと決まっている。

疲れが残っていようが、メアルとカーライルの事が気になっていようが、

間違える事なくいつものコースを行くだろう。

いつもであれば。

偶然、そう、それは全くの偶然だった。

この日に限り、アンは少しだけ早くに起きてしまった。

前日の疲れが抜けきっていなかったが、

彼女は2度寝せず、眠さを引きずりながら散歩にでかけた。


<歩いているうちに眠気もとぶよね。>


などと考えながら、いつものコースを歩く。

早朝の空気は少し涼しすぎるが

心地よく、清々しい気分にさせる。

などと感じていたのは最初の3分。

スッキリしたはずの気分も徐々に眠気に上書きされていく。

いつの間にか、うつらうつらと半分寝たまま歩き続け、

いつものコースをかなり脱線しているのに全く気づかなかった。

昨日、アンは忙しかった。カーライルが急患で運び込まれた為、カールとメアルを送り出して以後も

診療は続いたのだった。

昨日は特に患者が多く、

あの忙しさを乗り切ったのは、

まさにアンの面目躍如な手腕の賜物であった。

その前日の疲れがたっぷりと残っていたのだろう。

ハッと目が覚めた時、


「あれ?ここは? メアルの家の?」


そう、メアルの家の近くにいる事に気づく。


<せっかくだし、メアルの家の前でも通るか

その後カールの奴お泊りだったりして。>


そうアンは思ってしまったのである。

いつもであれば、散歩コースに最短ルートで戻っただろう

しかし、この日は気まぐれを起こした。

メアルの家の前を通ったからといって

何があるわけでもないし、

こんな早朝にお邪魔することもない。

本当に通り過ぎるだけのつもりだった。

思ったことは裏腹に

実際は何かが起こったら面白いな、

などという期待も無かった。


この通りのこの家の角を曲がれば、

すぐメアルの家の前だ。

曲がろうとした瞬間、男がメアルの家から出てくるのが見えた。

アンは思わず角の家の壁に身を隠してしまった。

そおっと覗き込む。

メアルの家から出てきた男はカーライルだ。

周囲をキョロキョロ見回し、誰もいないことを確認している。

カーライルは振り返ると今度はメアルが出てきた。

カーライルはメアルを抱きしめキスをした。

暫くそうしていたが、やがてメアルを離し、

もう一回周囲を確認すると メアルに手を振りながら去っていった。

メアルもずっと手を振って応えていた。

やがて カーライルが見えなくなったのか

メアルは自宅に入っていく。

その一部始終をアンは目撃してしまった。

そう、またもや偶然にも。


「あらあら、これはこれは、

お姉さんほんとにビックリですよ。

まさか本当にお泊りするとは思っても見ませんでした。

あの奥手なカール君が朝帰りですか。ついにねぇ。

勢いってエッチね!」(棒読み)


幼い頃の二人を知っているだけに

月日が流れるのは早いものだと思ってしまう。

光陰矢の如しである。


「ともあれ、姉役としては可愛い妹に

正しい男女交際(男を尻に敷く方法ともいう)について

レクチャーしないといけないわ。

あとあっちの方も。」


昨日の二人の様子から、さもありなん、

という思いもある。

すっかり目が覚めたアンは興奮気味に独り言を漏らした。

二人のラブラブぶりにあてられ、

昨日の疲れも綺麗さっぱり吹き飛んだ。

さぁ、こうしてはいられない。

急ぎ戻り、可愛い後輩であり妹の(様に思っている)メアルの為に色々準備せねば。と踵を返す。


<バナナは必須だな。>


などと下世話なことを考えつつ、

アンは家路を急いだ。


====================


朝、カールを見送った後、

私は何か地に足がつかない心地のまま、自宅に戻りました。

本当は出勤する時まで一緒に居て、

少しでも長く、この幸せを味わっていたかったけれど、

カールも一旦自宅に戻って着替えたいでしょうし、

あまりワガママ言えません。

昨晩、いっぱい甘えてしまったし。

私はボーっとしたまま、

自分の部屋のベットに腰を下ろし、

昨夜の事を思い出しました。


<きゃー!、わたしったら!

カールと、カールと、お父さんお母さんのベッドの上で!、ついに!きゃー!!>


====================

ベットの上を転がり回るメアル。

彼女の本質は案外こちらなのかも知れない…

メアルは幸せに浮かれ、

2つの事に気付いていなかった。

一つはとても重要なこと。

もう一つはどうでも良いことだ。(重要な方に比べればだが)

もっとも後者の方は、このあと職場で気づかされる事になる。

====================


私は気持ちが落ち着いてくると、

ベッドの上に寝転がったまま左手を天井に向かって伸ばしました。

視線は薬指に。

指には指輪がはまっています。


「カールの指輪…」


私は昨晩のやり取りを思い出します。

それは昨晩、

〝騎士と聖女の誓い〟、カールと私の二人だけの誓いをし、口づけを交わした後の事。

カールは思い出したかのように 御守りのネックレスを外し、ネックレスにかかった指輪を私の

左の薬指にはめたのです。


「これは、カールの大切な!」


「いいんだ。メアルにつけて欲しいんだ。

これからはメアルを守ってくれるよ。」


私は左の薬指にはめられた指輪を見つめました。


「ありがとうカール。大切にするわ…」


私は感極まって泣いてしまい、

カールはそんな私をそっと抱きしめてくれました。

そして………




 お互いの愛を確認しました。

私は薬指にはまった指輪が視界に入り

ふと思った疑問を彼にしたのです。


「ねぇ、カール。

迷わず左の薬指に指輪をはめたけどなぜなの?

なにか仕来りとかあるの?」


カールの答えは、特に無いとのことでした。

カール自身も何故そうしたのか判らなくて

何となくなのだとか。


「メアル」


カールが私の瞳を覗き込む様に見てきました。

私はその瞳に吸い込まれて……


<きゃー!>


私は再びベットの上を転がり回り、気が済んで、

仰向けになると お腹をさすりました。

痛みは今も鈍く残っていますが、

カールとの絆の証しと思うと幸せでした。

回復魔法を使えば痛みも消えるかも知れません。

でも〝証し〟も無くなってしまいそうで躊躇われ、そのまま痛みを感じることにしました。

そして 再び指輪を見つめました。

カールが保護された時、握りしめていたという指輪が今、私の左の薬指にはまっています。

まるで、私の左の薬指に合わせて作られたかのではないかと思えるくらいにサイズが合っていて、

指輪が今、私の左の薬指にはまっていることが当たり前のような、とても懐かしい様な、

そんな不思議な感じがするのです。


<カールと私の絆の指輪。ずっと見つめていたい♡>


私は、指輪を眺めながら、

自身の愚かさに思いを馳せます。


今朝、私はカールが目覚めるより前に目が覚め、

カールの寝顔を眺めながら幸せを感じていました。


<あぁ! この一瞬に死んでも構わない。

私は満ち足りた人生を送れた。>


そう思えるほどに幸せでした。

私は夢の中で前世を追体験させられていますが

どの人生でも、愛する人に裏切られる事や

殺される日に犯される事はあっても、

愛する人と愛し合って結ばれることはありませんでした。

最初の聖女アリーの時も想いを封印したまま

最後の時を迎えました。

だから今回、カールと結ばれたことは、

知りうる限り初めての体験です。

この幸せを感じることが出来るのもカールが無事だったからこそ。

そしてカールが無事だったからこそ

自身の愚かな勘違いに気づけました。

それが今に繋がっているのです。


私の勘違い、それは

何度も転生を繰り返すあまり忘れてしまっていた

極めて当たり前の事でした。

私の命は18才の誕生日までだけど

カールの命はその先まで続いている。

そう勝手に信じていました。

しかし、それは勘違いだったのです。

昨日、カールの意識が戻ってカールの胸に飛び込んだ時、

私はカールの命が助かったことに喜び、安堵しました。

そう、カールの命が私より長いという保証など

どこにも無かったのです。

カールは警護隊に所属している以上、危険はつきまといます。

私の呪いとは関係なく、私より短い生涯を終えるかも知れないのです。

カールに限らず皆、明日をも知れない命で

今日を懸命に生きている。

そんな当たり前の事に今更ながら気付きました。

私はその事に気付き、だからこそ

カールに全てを話す決心がついたのです。

明日の事は結局誰にもわからない。

私はやはり18才の誕生日に死ぬかも知れないし

その可能性は極めて高いです。

だけど、せめて生きている間は

成就出来ずともカールの為にめいっぱい一緒に歩もうと

決意したのです。


「私がカールの聖女に」


昨日の誓いの言葉を思い出し呟きました。

とはいえ、私は以前、聖女教会の聖女スカウトの検査で

適正無しと診断されたことがあります。

だとすれば、私は聖女になることは出来ません。

私は神々や精霊達の声をどんなに祈っても聞くことが出来なかったので、適正なしという診断はその通りだと思います。

しかし、なぜか私は聖女になれるという思いも持っています。なんの根拠も無いのに。


<アリーの様な力があったなら。>


最初の聖女アリーの顕現させた7色に輝く巨像騎士。

その巨像騎士は凄まじい力を持っていました。

あんな巨像騎士を顕現できたなら、

カールの聖女にふさわしくなれるのに。

そういえば、アリーは何の神様に祈っていたのでしょう?

アリーは色々な神々や精霊達と交信できたけど、

特定の神を信仰はしていなかった筈です。

追体験したはずの私もまったくわかりません。

そのあたりに何かヒントがありそうな気がします。

詳しい人がいたら聞いてみたいな。


====================


うっとりとベッドに寝転びながら

指輪を眺めているメアルだったが

このまま療所に遅刻してしまう事に気付き、

慌てて身支度を始める。

先にも述べたが、

浮かれている彼女は2つの事に気付いていない。

慌てて身支度をした為に見落とした事が1つ。

もう一つは 昨夜 、彼女は悪夢を見なかったということ。

カールが指輪を取り出した時、

指輪はすでに光っていなかった。

指輪と悪夢を見なかった事に

関係があるのかは不明であるが、

彼女の未来に変化の可能性が出てきた事に

カールもメアルも現時点で気づいていない。


=====================


俺は昨晩の事を思い出しながら、自宅に向かっていた。

昨日刺されたなんて思えないほど

元気溌剌でエネルギーに満ち溢れている。

傷口は綺麗さっぱり消えている。

メアルの回復魔法はやはり凄い。


魔法も凄いがもっと凄いものがある。

それはズバリ生!

やはり生!

なんと言っても生である!!


なにが生なのかは敢えて言うまでも無いだろう。

その生を昨晩は存分に堪能させて貰ったのだ!

顔はニヤニヤしてしまっているかもだが

男としてそれは仕方ないことなのだ。


昨夜、俺は彼女に指輪を贈り、

喜びのあまり泣いてしまった彼女を優しく抱きしめた。

そして、彼女の腰まで伸びた水色がかった銀の髪と頬を優しく撫で、涙を拭った。

メアルは恥ずかしそうに頬を赤く染め、

少し俯いた後、潤む瞳で俺に囁いた。


「カール、私の全てを貰ってくれますか?」


俺は迷わなかった。

メアルは俺の聖女だ。

再び彼女を抱きしめた。


「メアル、優しくする。」


彼女は恥ずかしそうに頷き、

「こちらに来て。」と、

寝室に案内してくれた。


後で聞いたがその部屋はメアルの両親の寝室だったそうだ。

それから、二人だけの時間を過ごした。


ふう、顔がニヤついてしまって仕方がない。

もうじき家に着くというのに。


深呼吸。

早朝の少し冷たい空気を取り込み、冷静になる。

ニヤけてばかりはいられない。

何故かは判らないがメアルに掛けられた呪い。

俺が呪いからメアルを守るのだ。

メアルが置かれている状況を思えば、

呪いに対する怒りと、決意が改めて湧き上がる。

などと、決意を新たにしているうちに自宅に着いた。


<まぁ、とりあえず、今はヤツへの対応だな!>


妹の顔が思い浮かぶ。

玄関扉の鍵を可能な限り音を立てない様に解錠し、

そぉっと扉を開け、忍び足で中に入ると

妹が立っていた。

視線が合う。


妹よ、いつもここで鉢合わせるが

君は玄関に住んでいるのかね?

と問いたくなるのを堪える。


妹は俺の表情を見て、満面の笑みを浮かべた。

そして親指を立てた握りこぶしを俺に突き出し、

一言。


「グッジョブ!」


と言った。


22話了

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