19話 古の大聖女
カールが巨兵の試合で優勝した日。
カールは昨日の件を心配し診療所に寄ってくれたのです。
「私は大丈夫よ。
それよりも優勝おめでとう。」
と返すと、カールは頭を掻いて照れ隠しします。
カールらしくてこの仕草が私は好き。
カールは私の仕事が終わるまで待ってくれたので
一緒に帰る事にします。
カールから私の手を取ってくれました。
私は、恥ずかしかったけど、
既にもっと恥ずかしいことを大勢の前でしています。
今更なので腕を組んで歩きました。
市場で買い物したときとはまた
違った想いがあります。
あの時はとにかく思い詰めていて、必死でした。
今はカールと離れることもできず、
かと言って、カールの想いに答えることもできず、
カールの優しさに流されて、甘えて
ただただ嬉し恥ずしい想いでいるのでした。
傍から見れば私達はカップルに見えるでしょう。
結論を出さなければなのに
今日も、まだ大丈夫だよね。と先送りにして
カールに甘えてしまいます。
自分で結論を出せなくなった私に出来る事は、もう後一つです。
〝カールに全てを話して、カールに決めてもらう〟
カールに決断を任せるなんて、
ヒドイ話なのは判っていますが私にはもうそれしかありません。
当然嫌われてしまうかもしれず、恐怖もあります。
だから私は今日も決心がつかずにいます。
カール、もう少し、もう少しだけ甘えさせてください。
きっと決断しますから。きっと必ず。
ひどい私を許して。
カール大好きよ。
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カールの優勝から数日。
何事も無く、平和に過ごしています。
私は今日もいつもの夢を見ています。
今日の夢、この世界を私は知っています。
私、メアルとカールの住む世界、イバラーク。
ただ時代は今よりも昔、300年程前です。
<私はこの世界は初めてではないのね。>
歴史によると、現在のメアルの時代より400年まで
エルフ、ドワーフなど亜人含むを人類は
魔法を発展させ、栄えていました。
ところが、突如、巨大で凶悪な「魔物」と名付けられた
生物が発生し、あらゆる生物を襲い出したのです。
魔物は、この世界の生物に魔が取り憑いて
魔物になる言われています。
世界は徐々に蹂躙されていきました。
人類も魔導技術の枠を集め、
巨大なゴーレムで対抗しましたが、
人類滅亡のスピードを多少遅くする程度でした。
人類の生息地域は全盛期の五分の一になって
いよいよ滅亡が間近に迫った頃、
ある王家に聖なる力を持った王女が生まれました。
その王女が、今日の夢の私、〝私の前世〟でした。
この時代の私の名はアリーシャ。
後に〝最初の聖女〟と崇められた大聖女、
アリーシャ・メラニス・アマリア王女です。
夢の中で私は、
前世の私の頭の中を間借りしているような感じでその人生を体験します。
その人生を見て、感じることはできるのですが
自ら話したり、動くことはできません。
また、ずっとかつての自分の人生を追体験するのでは無く、
要所、要所を体験する感じです。
要所の体験なのに、その人生での記憶を共有している為、話がわからなくなることはありません。
かつての私、アリーシャことアリーには精霊や神々と交信できる強い力がありました。
今までのどの人生でもここ迄程の強い力を持ったことはありませんでした。
アリーには幼馴染の貴族の男の子がいました。
10歳の頃には(今の私からすると早すぎると思いますが)金髪の彼と将来を誓う合う仲になっていました。
彼の名前は、ジークハルト・レインドリー。愛称はジークです。
それから2年後、この人生でも私は悪夢を見るようになったのです。(直接見ることは無く、見たという記憶が残ります。)
世界は危機的状況になっていく中、
私は残りの人生を賭けて
精霊や神々と交信できる強い力で
何かできないかと試行錯誤を繰り返す日々を過ごしました。
神々の知恵を借り、私を慕ってくれる妹、
ナリータ・ユニシス・アマリアことナリーと共に色々な物を開発しました。
16才になり、私が成人した時、
将来を誓い合った ジークは、私付きの護衛騎士になりました。
そしてもう一人、黒髪、黒目の男性が私の護衛騎士として配属されました。
その人の名前はライアン。
今日に合わせて騎士に取り立てられた人物とのことです。
前例もなく、異例のことですが
なぜが父である国王が周囲の反対も押し切って決定したとのことでした。(この時代のアマリアはまだ女王制では無いようです)
黒髪の彼(どことなくカールに似ている気がします)ライアンは、基本無口ですが 私が開発に困っている時には必ず助言をくれました。
彼の助言に従うと必ず開発は良い方向に向かいました。
でも アリーは黒髪の彼の言葉に従うのは
最後の手段として、最初から彼の言を採用することはありませんでした。
最大の理由は悪夢でした。
突如自分の前に現れたライアンを自分を殺す者として疑っていたのです。
突如、異例の処置で騎士になり、王女の護衛になったのだから
呪いの力が関与していると疑うのも無理はない話です。
私、メアルは思うのです。
カールのと同じく黒髪、黒目のライアンに
カールと同じ暖かさを感じる。
同じ暖かく見守るカールと同じあの眼差し。
ライアンは信じていい人だと。
ライアンに冷たくあたるアリーに申し訳ない思いがこみ上げます。
呪いは突如周囲の人を狂わせることがある。
今親しいからといって、その時牙を向かないとは限らないのです。
しかし、私にはアリーにそのことを伝える術はありません。
これは過去に既に起こった事。
アリーが18歳でこの世を去ったのは変えることができない
ことなのです。
アリーは魔物から人々を守る為、ある秘術を
開発していました。
術者が自身の体を媒体に神の力を形にする〝巨像騎士〟の秘術。
大いなる力をを顕現をできる様になったのも、
操作する騎士を取り込みリンクする事で
巨像騎士に高い戦闘力を与えることに成功したのも全て黒髪の騎士ライアンの助言があったからでした。
アリーはジークをパートナーに
巨像騎士を駆り、巨大な魔獣を狩っていきました。
アリー自身は多くの神々や精霊と交信できるのですが
巨像騎士として顕現させたのはアリーも知らない神の力です。
見に覚えがないのですが、強大な加護を受けている
という認識です。
虹色に輝くその巨像騎士の力は凄まじく、
多くの魔物を切り裂いていきます。
ライアンは裏方に徹し、万全のサポートをしてくれました。
アリーも自身の命が18才の誕生日までと悟っていて、
金髪の騎士ジークへの想いを封印して、
恋愛よりも人類の復興に尽力しました。
巨像騎士の秘術を他の国々へも教え、
対魔物への同盟を呼びかけました。
その努力は実を結び、
18才になる少し前に
同盟を結成することに成功しました。
こうして人類は魔物への反撃を開始できたのです。
アリーは巨像騎士の他に18才の誕生日までに〝魔法袋〟の技術をなんとか伝えようと必死に開発をしましたが、
その技術が完成したのは 誕生日の一週間前でした。
サンプルだけを同盟国に送り、具体的な製法の伝授は 万が一を考え信頼する妹ナリーに任せることにしました。
そして運命の日、アリーは黒髪の騎士ライアンを遠ざけました。
私の側にいるのは ジークだけ。
しかし、アリーを襲ったのはライアンではありませんでした。
何者かが 王城内で堂々と襲ってきたのです。
ジークに守られながら、王城を脱出しようとしましたが、
王族のみが知る脱出路の中でも刺客に襲われました。
ジークは囮になって刺客を引き付け、アリーは単身脱出路を進みました。
進む先に光が見えてきて出口にたどり着きました。
外に出ると、王都の外に森出ます。
森に妹のナリーが居るのが判りました。
「お姉様! よかった! 私も何者かに襲われて脱出路で逃げてきたのです。」
ナリーは妹の姿を見て、
その言葉に安心してしまって、
その台詞のおかしさに気付きませんでした。
信じるべきでない者の言葉を信じてしまったのです。
なぜ、王族しか知らないはずの脱出路に刺客が待ち伏せしていたのか?
刺客の待ち伏せする脱出路で、
先に脱出した妹が何故襲われなかったのか?
誰にこんな真似が出来るのか。
「もう大丈夫よ。」
アリーが妹の元に歩み寄ろうとした時、
背後から「行くな!」と黒髪の騎士ライアンの言葉が聞こえてきました。
異変に気づき駆けつけてくれたのです
怯えで震える妹。
「あの男が今回の襲撃の黒幕よ!」
アリーはその言葉に、妹と共に逃げようとして
妹の元に走り、
そして、抱きしめた時、ナリーに胸を刺されたのです。
即死は間逃れましたが、命が長くないのは判りました。もう回復魔法も効かないでしょう。
「なぜ? 何故なの?」
「お姉様、私今までずっと、ずっと、ずっと、ずーーーーーーっと!!
お姉様が憎かったの!! 妬ましかったの!!!
………それだけよ。」
激しい勢いでとても冷たい呪いの言葉を発したあと
妹は静かな声で
「魔法袋の技術があればアマリア王家は安泰よ。最後にありがとうね、お姉様。さようなら。」
しゃがみこみ、そして仰向けに倒れるアリー。
ナリーは恐らくは転移の魔法を使い、姿を消しました。
<あぁやはり私は死ぬのね。信じていた妹に裏切られて。>
アリーの心の声が聞こえました。
薄れていく視界に黒髪の彼が走ってくるのが見えました。
それがアリーが最後に見たものでした。
アリーの死の間際、彼女の思いが伝わってきました。
<ごめんなさい ライアン、いえ■■■■■様。
あんなに守ってくれたのに、助けてくれたのに……。
私はあなたを疑った。信じなかった。
今なら貴方が誰なのかわかる。
いかに私が愚かだったのか判ります。
あぁ■■■■■様、私は貴方をまた苦しめるのですね。
最後に私の残った全ての力を使って未来の私に私の言葉を残します。
いつ日か 貴方の未来を救うために…>
アリーが死んで
いつもの様に視界が暗くなり、いつもの呪いの言葉が聞こえてきます。
呪いの言葉が終わり、
いつもなら私はメアルの人生に戻るのですが、
今日に限り 私は真っ暗な世界を漂っていました。
急に前方?が光りその光に私は吸い込まれていきました。
急に視界が開けました。
どこかの草原でしょうか?
多くの花が咲き、とても綺麗なところ。
大きな木の幹の根元に アリーが横たえられていて、二人の騎士がその側にいました。
私は浮かんでいる様な感じで
彼らを上から見ていました。
黒髪の騎士ライアンが
「すまなかった。助けられなかった。」
とアリーの頬を優しく撫でました。
その言葉はとても重く、深い悲しみを帯びていました。
「俺は、許さない! お前も、王国もだ!!」
「殺すがいいさ。」
「アリーの前では殺さない。 それにお前より先に殺さなければならない国がいる。」
そう言い残し、金髪の騎士ジークは去って行きました。
その表情には狂気が宿っていました。
金髪の騎士が遠くに去り、
黒髪の騎士はしばらく アリーの頬を撫でていましたが
「せめて側にいよう。」
と呟き、自らの胸に短剣を突き刺しました。
ここで 視界がまた暗くなり、気がつくと
私の目の前に アリーがいました。
アリーは私に語りかけてきました。
「ここは 呪いの悪夢が終わって、あなたが目覚めるまでのわずかな時間、私達にかけられた呪いの力が及ばない領域です。
私の人生を見てきた未来の私である貴方にどうしても伝えなければならないことがあります。
私は 呪いにとってイレギュラーな存在でした。 呪いは私達が強い力を持つようには転生させません。
ですが、どうしてか私には強い力がありました。
呪いを断ち切れるだけの可能性があったのです。
ですが、私は信じなかった。
信じるべき〝あの人〟を信じませんでした。
結果、私は死にました。
私はまた〝あの人〟を苦しめてしまったのです。
今この言葉を聞いているあなたは呪いを超える可能性を秘めています。
だから、今度こそ〝あの人〟を信じ、そして全てを委ねるのです。
黒髪、黒目の〝あの人〟に全てを…
そして、きたるべき運命の瞬間、その名を呼ぶのです 。あなたには力と資格があります。」
「その 〝あの人〟って、カールのことなの?」
私は尋ねました。
「〝あの人〟の名は■■■■■ 。 今は判らずとも
その瞬間、きっと思い出すでしょう。」
「私と同じ失敗をしないで欲しい。これ以上 愛しい〝あの人〟を苦しめないで欲しい。」
「未来の私。 お願いよ、あの人は
貴方の声をきっと待っている…………。」
私は目が覚めました。
夢の中で聞いたその名をどうしても思い出すことができませんでした。
「あの人とは カールのことなの?
私はカールを信じればいいの?」
答えは返って来ませんでした。
20話了
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<補足、人類のその後>
時代は流れ、巨像の誕生より300年。
人類は全盛期の8割まで勢力を伸ばしていたが、「最初の聖女」が願った世界にはなっていない。
いつの世も、戦争は無くならない。
より高度に発展したゴーレム技術や巨像の秘術は、
国を治める権力者達の野心を増長させた。
魔物の脅威が無くなった訳では無いが
権力者にとってより重要なのは
自国の繁栄と版図の拡大だった。
こうして、巨像騎士は戦争の道具となり
時代は戦乱の時代、
〝騎士と聖女の時代〟になっていた。




