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1話 メアルとメアルの夢1



――― 私の名前はメアル。

アマリア王国の国境近くの町、

スタの生まれです。

スタは西のある大国ガレドーヌ帝国との

二国間の貿易の中継点として商隊の往来が多く、

なかなか賑やかな所です。


私は幼少期によく虐められていました。

私の髪は水色がかった銀色なのに

両親の髪はこの国では一般的なブラウンでした。

また私は精霊や神々と契約無しに

怪我や体力を回復する、

〝回復〟の魔法を使うことができました。

私はとても目立ち、それが他の子供達には

気に入らなかったのでしょう。

この町の有力者の子が取り巻きと共に

やってきては言うのです。


曰く「お前の両親は本当の親じゃない!」


曰く「お前の力は悪魔の力だ。お前は本当は悪魔の子だ!」


そして、石を投げて来くるのです。

私と仲良くすると、

虐めっ子に目をつけられるので

私の友達は片手で数える程しか居ませんでした。

そんな中 、必ず私を助けてくれる男の子が居ました。

あまり喧嘩は強くなかったけれど

私にとって彼は騎士でした。

必ず体を張り私を守ってくれました。

投げられる石を背中で庇い、

数人がかりが相手でも

臆せず私が逃げる時間稼ぎをしてくれました。

そんな時は私は必ずある少女に助けを求めます。

その少女は私より8歳も年上で、

私にとっては姉ととも思える人。

この町の男の子達は、

年上の少女アンに()()()頭が上がりません。

アンは面倒見がよく、必ず私の助けの求めに

応じてくれました。

私の騎士はカーライルという名の黒髪、黒目の男の子。

私も含め、皆カールと呼びます。

皆が気味悪がるこの髪の色を綺麗と言ってくれました。

私にいつも楽しい話をしてくれ、

私に自身の夢も教えてくました。

先程、喧嘩は強くないと言ったけど

それは、いつも相手を殴らず防戦一方だったからです。

アンと現場に戻るといつもカールは虐めっ子達を

私の元に行かせまいとしてくれていました。

倒されても倒されても何度でも起き上がり

私を守ってくれているのです。

アンの姿を見るや否や虐めっ子達は一目散に逃げます。

虐めっ子が逃げると、カールは地面に座り込みます。

私が駆け寄ると決まって


「メアルは大丈夫だった?怪我はない?」


と聞くのです。


「私は大丈夫。カールが守ってれたから。

カールの方が大丈夫じゃないわ。」


「良かった。俺は平気さ。

将来は最強の騎士になるんだ。

そこらの虐めっ子なんかへっちゃらさ。」


痣だらけの顔と体で

カールはいつものセリフをいいます。


「カール。ありがとう。」


感謝を述べると、

カールは頭を掻きながら顔を赤くし、


「お礼はいいよ。メアルをいじめるやつは

俺が許さない!メアルは俺のゴニョゴニョ」


いつも最後は口ごもります。


いつもの、一連のやりとりの後、

アンも決まって手を叩きながら言います。


「はいはい、ご馳走さま。とりあえずこっち来なさい。」


そしてアンはカールの治療の為、私達をアンの実家に招いてくれます。

治療は私の不思議な力で治します。


アンはいつも


「便利ねぇ。羨ましいわ。」


といって羨ましがってくれます。


カールも


「ありがとう。メアルはすごいなあ」


と感謝してくれます。

この二人のお陰で私は私の力を嫌いにならずに済みました。

治療の後は、アンがお菓子とお茶をふるまってくれます。

私の幼少期は二人に支えられていたのです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私は成人し、今は一人暮らしをしています。

(この世界の成人年齢は16才。)

今より5年程前、

この地方に流行り病が蔓延し、両親が他界。

この町でも多くの人が亡くなりました。

あれほど元気だった、お父さん、お母さん、近所のおじさん、おばさん、数少ない仲の良かったお友達も突然居なくなってしまいました。

この病は発病すると、徐々に衰弱し必ず死に至ります。

死に至るまでの期間は人によってまちまちで、

体力のない子供やお年寄り、女性、男性の順に期間が長くなります。

その間はとても苦しみます。

発病したら必ず死に至るのであれば

苦しむ期間が短い方が幸せなのかもしれません。

とても苦しい為、中には安楽死を望む方もいた様です。

必ず苦しんで死ぬ為、この病は〝苦死病〟と呼ばれました。

私の優しく笑顔の絶えなかった両親も、

発病して以降、笑顔は無くなり

ただただ苦しんで苦しんで衰弱していきました。

私には怪我を直す不思議な力がありましたが、

その力では病を治すことはできませんでした。

それどころかどんな薬、どんな魔法でも治すことができない不治の病だったのです。

苦しみ、衰弱していく両親。

私はただただ無力で、日々衰弱していく両親の看病にもならない看病をすることしか出来ませんでした。

先に母が亡くなりました。

母が亡くなると直ぐに気落ちした父の病状は悪化。

母が亡くなって3日後の夜、父も息を引き取りました。

病気については結局、発病条件、感染経路、治療方法など今も謎のまま。

かかる人とかからない人の差も何なのか判らないまま、不思議に思うくらい、ある日ぱったり

病気の感染は収まりました。

個人によって病気にかかる、かからないが決まっているのなら、かかる人は全員かかって死んでしまったという事なのかも知れません。

そしてかからない人だけが残った。

幸か不幸か私は病気にかからない側の人間でした。

両親が病気にかかったのに、

私だけが病気にならなかった。

今にして思えば、

皮肉にも今、私を苦しめている夢によって守られた。という事だったのかもしれません。


両親を12歳で亡くした私は、

悲しむ間も無く生活の為に働かなければなりませんでした。

選んだ仕事は診療所の手伝い。

私の回復魔法を役立てようと思ったからです。

両親をはじめ、多くの気の良い人達が

居なくなってしまったのはとても辛かったけど

それでも残された人々と共に

懸命に町の立て直しに励んできました。


あれから5年、町は再びかつての活気を取り戻しましたが

人々が受けた心の傷が完全に癒えた訳ではないと思っています。

診療所での患者さんと会話をしますが

皆の受けた心の傷も癒してあげれたら…

なんて思う程、

皆の傷が深い事を感じてしまいます。

私も優しかった両親との日々を思い出すと

今でもしんみりしてしまうので

痛いほどよくわかるのです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私は朝、目を覚ますと

しばらくは窓から差し込む朝日を感じ、

ぼんやりと今まで見ていた夢について考えます。

そしてため息をつきます。

ベッドから降りて、顔を洗い、

仕事に行く為に着替え、身嗜みを整えます。

朝食は……とりません。

とてもそんな気分になれないのです。

全ての支度が終わると

私は寝室の隅の机の前に立ち、

机の上に置かれた喫煙用パイプと櫛に向かって

「お早う、今日も元気よ。

それじぁ行ってくるね。お父さん。お母さん。」

と父と母の形見に話しかけます。

これが毎朝の日課。

今朝も日課をこなし仕事に向かうのでした。


======================

いつもであればこの後、

彼女は静かに仕事に出かける。

しかし、この日に限り、玄関の扉に鍵を掛け

振り返ると

空を見上げ外の空気を大きく吸い込んだ。

今度は視線を足下に落としながら

大きなため息をついた。


「18才まであと1年…あと1年で私はきっと…」


今日は彼女の17才の誕生日だった。

しかし彼女にとっては誕生日は喜ばしい日では無い様だ。

彼女は呟いたあと、

暫く俯いたまま扉の前で立ち止まっていたが

キュッと目を瞑り大きく首を左右に振ると

目を大きく見開き歩き出した。





…それから半年が過ぎた。


======================


今日は休日です。

診療所自体に休日はありませんが、

交代制で7〜10日に1日お休みを貰えます。

休日は早朝の市場に買物に出かけます。

この町の市場は終うのが早く、仕事帰りに買い物ができません。

そういった事情で休日は、

次の休日までの食材をまとめ買いしなければならないのです。

私はあえて早朝の市場に出かけます。

理由は、早朝の市場ではなく

早朝に会える人がいるからです。

〝私の騎士様〟は逞しく凛々しくなりました。

イケメンとは言えませんが、私は気になりません。

私にとっては彼は世界で一番カッコイイ男性なのです。

彼、カールは毎朝、空き地で鍛錬をしています。

用も無く話しかけて邪魔をするのも申し訳無く、

でも彼の笑顔が見たい。

彼の笑顔が今の私の唯一の救いでした。

差し入れをしたら、喜んでくれるだろうか?

何度もそう思いましたが結局実行できていません。

私は〝彼の笑顔を見れればそれでいい〟

そう自分に言い聞かせるのです。

あまり、カールと仲良くなってしまうと

彼が不幸な目に遭ってしまうかもしれない。

だから、お友達として、あくまでお友達として

接する様にしなければなりません。

私の〝想い〟は決して誰にも知られてはいけないのです。


市場への道の途中にちょっとした空き地があり、

いつもそこでカールは鍛錬をしています。

今日も彼は鍛錬をしていました。

笑顔が出そうになるのを堪えます。


<メアル、嬉しそうな顔をしてはダメよ?

あくまで自然な感じで。>


自分に言い聞かせながら彼の居る空き地に近づいていきます。

早足になりそうなのを堪えつつ自然な足取りで。


彼は一心に木刀を振っています。


<あぁ カール。カッコいい♡>


うっとりとしそうになった所で我に返りました。

いけない! 感情を抑えないと 。

必死に冷静になる様、自身に言い聞かせ ますが

時すでに遅し、

彼のところまであと数十歩の所です。

せめて、冷静を装います。

私が通りかかると、

彼は私に気付き一心に振っていた木刀を止め、

声をかけてきました。


「よおメアル!買物かい?」


「お早うカール。精が出るわね。」

<カールやっぱりカッコいい♡>


「俺の夢は騎士だからな。知っているだろ。」


「ええ、散々聞いたもの。私も応援してる。」

<余計なことは考えてはダメよ。>


カールが木刀を地面に突き刺し、

こちらに歩いてきました。

心臓はドキドキしています。

彼が近くにいます。

彼は身長180cmくらいで私は158cm。

自然、見上げる形になります。


<カール近いわ。恥ずかしい。>


カールは今まで鍛錬していただけあって

汗だくで、カールの汗の臭いがします。

私はカールの臭いが好きでした。

とても安心できるのです。


診療所に勤めていると、患者さんの汗や血の臭いがすることは日常茶飯事です。

さすがに慣れてしまって、他の人では

何とも思わないのですが

カールの臭いだけは特別です。


私はなんとか微笑むのが精一杯でした。


======================


カーライルとメアルが会話をしていた同時刻。


ここは スタの町から北にあるとコバ村。

大森林が近いこの村は森で取れる薬草や山菜

木ノ実や動物の肉など、森の恩恵で成り立っている。

村人の多くは狩人であり、ある程度のモンスターなら対応できた。

早朝のコバ村を一人の男が歩いていた。

小さい村である。

見慣れない男が歩いていれば当然目立つ。

これより狩りに出ようとしていた村人が

男に声をかけた。


「おはよう。 あんたこんな何もない村に何か用かい?」


村人は声をかけて少し後悔した。

男が普通では無かったからだ。

身長200cmはあるだろう

秋が近く、気温は過ごしやすい時期にも関わらず、男はコートを着ていた。

コートを着ている上からでも

男が細いことがわかる。

髪は長くストレートで後ろで束ねているが

白く、また艶もなく、老人のように見える。

しかし、顔にシワもなく、顔だけで判断すれば

20代だろうか。

目つきは鋭くつり上がっているが

口元はへらへら 笑ってる感じ。

それらの気味の悪さに加えて

口紅をはじめがっつりケバい化粧をしている。

一言で言ってしまえば不気味な男(バケモノ)だった。



「実は(わたくし)冒険者ギルドから派遣された冒険者なのよん。」


「ほう、何かあったのかい?」


「マモノよ。 マ・モ・ノ♡」


「え?」


顔が青くなる村人


「クヒっ! 」

目を細め楽しそうに不気味な笑いをあげる男。


「失礼。魔物の目撃情報があったのよ。

だからギルドの依頼でこれから大森林に入るんだけど。

この村が目に入ったからさー。

目撃情報があるかもって立ち寄った訳。」


女言葉で手の甲を口にあてて話す男。


村人は引きつりつつも、

内容が魔物に関してなだけに男から話を聞く必要があった。


「いや、そんな話、村の誰からも聞いてないし、昨日も森には入ったが変わった感じは無かったぞ。」


「あらそう。情報ありがとね。チュ♡

とはいえ、目撃情報があったから来た訳。

間違いであればいいけどー。

ククク、(わたくし)は備えておくことをお勧めするわん。」


「忠告したからねー じゃねー。」


手のひらをヒラヒラさせながら男は去っていった。


村人は男が立ち去るまで動けなかった。

体はブルブルと震えていた。

〝動けば殺される〟

ふつうに会話しただけなのに

いつのまにか恐怖に支配されてしまっていた。

時間が経ち、村人は緊張が溶けるとヘタリとその場に座り込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


大深林の中。

先ほどの気味の悪いコートの男と、もう一人森を先行する、皮鎧の男がいた。


先行する男は斥候役だろう。


「村人に注意換気してしまって良かったのですか?」


斥候役の男が話しかける。


「あなたは 獲物の発見さえしてくれればいいの。意見は聞いてないわん。」


目を細めて答えるコートの男


斥候役の男は、この部署に配属される直前、

前部署の上司から〝長生きしたかったら余計な事は言うな。〟と釘を刺されたのを思い出し、

青くなった。

この部署に配属された者は長続きしない

そんな噂のある部署だった。

いざ配属されると 同僚は皆ビクビクしていた。


「申し訳ありません。出すぎた真似をいたしました。」


「判ればいいのよー。クク。」


「ありがとうございます。」


<許す訳ねーだろ。バーカ!

帝都に戻ったらソーねー、貴方に実験しちゃおうかな。良かったね人柱になれてー。>


ほっとしている様子の斥候役の男をみて

コートの男は声を出さずに、実に楽しそうに笑っていた。


第1話 了


======================

補足


[スタの町]


アマリア王国の国境近くにあり、

人口は2000人程の小さな町である。

隣国ガドレーヌ帝国との交易中継点の町として

そこそこ栄えているが、名産品も特に無く、観光には向かない町だ。

また、北の大森林の近くに位置する為、

魔物対策として小さい町ながらも城郭で覆われている。

町は自衛手段として警護隊を組織しているが、

警護隊は国の組織でない。

国には国の管轄下にあることで自衛組織の運営を許可されているが、警護隊は警察権を持たない。

国境砦の行政官の監督下にあり、

手配書の犯罪者を捕らえる程度の

治安維持活動は行うが、基本的な警護隊の役割は

モンスター、魔物な外敵からの防衛である。

このような事を例外的に国が認めたのも

この地はとにかく不人気で治める領主が存在しないからだった。

歴史の長い町ではあるがスタは大深林に近く、

魔物被害のリスクは他の地と比べても高い。

人口も多く無ければ、産業も乏しい。となれば入る税よりも治安維持の為の支出の方が多い可能性が高く、貴族達はこの地の拝領を避けた。

スタの自治は 町の有力者の会合によって行われて

いるが、実際のところスタの財政は黒字である。

スタの有力者たちはこの情報を隠し、

スタは旨味のない町という認識を広めている様だ。

強かな〝商人の町〟それがスタである。




[子供達の生活]


スタ限らないが、学校と呼ばれるものは

大きな都市にしかなく、

学術機関であったり、騎士や聖女の養成所だったりするの為、子供が入れるものでは無い。

教育は基本親に委ねられているが識字率は意外と高く50%程である。

しかし、学問を学ぶとなると家庭教師を付ける事ができる裕福な家庭に限られる。

したがって、子供達は親の仕事の手伝いをするのが一般的である。

しかし子供は遊んでこそ子供という思想が広く浸透している為、よほど貧しい家庭でもなければ

子供は遊ぶ時間を貰える。

カーライルもメアルも文字の読み書きは出来るが

家庭教師をつけてもらえる程の家庭では無く、

手伝い以外はやはり外で遊ぶ事が多い。

幼少期のメアルはカーライルと一緒にいる事が多い様だった。

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