16話 二人の想い
今回甘味成分が高めです。
書いていて爆破したくなりました。
メアルは戦を司る女神ラーファルの神殿で
カーライルのために祈りを捧げているという。
カーライルは急ぎ、神殿へ走る。
神殿といってもこの町は交易中継点の小さな町だ。
小さな建物に御神体を祀っている程度のもので、
神官も週に1日管理に来る程度である。
神殿には自由に出入りできて鍵もかかっていない。
<メアルがの俺の為に祈ってくれているなんて
全く知らなかった。
メアルはそこまで俺のことを…>
カーライルは泣きそうになった。
神殿の扉は開いていた。
神殿を覗くと
御神体であるラーファルの像の前で 床に膝をつき、胸の前で両手を組むメアルの姿があった。
一心に祈りを捧げている。
「……………………………………」
カーライルは 見惚れてしまい、
声を掛けることが出来なかった。
夕日に照らされるメアルの祈る姿は
ただただ神聖で、美しかった。
<聖女だ! メアルは聖女だ!>
カーライルは確信した。
カーライルの気配にも気づかないのか
メアルは祈り続けている。
カーライルは意を決して メアルに話しかける。
「メアル。」
メアルは動かない。
よほど祈りに集中しているのか聞こえなかった様だ。
「メアル。」
神殿に入りながら再び話かける。
メアルは漸くカーライルの声に気づき、
立ち上がると、驚いた表情で返事をする。
「カール。 どうしてここに?」
祈っていた自分を見られたのが恥ずかしかったのか
顔を赤らめるメアル。
「アンの姐御に聞いたんだ。」
「そう。アンに…」
暫し見つめ合う二人。
やがて、カーライルが口を開いた。
「俺の為に祈ってくれていたんだな。」
「私にはそれくらいしか出来ないから。」
カーライルはもう我慢が出来なかった。
好きな女性がここまでしてくれている。
男として告白せずにはいられない。
「メアル、君が好きだ! だから俺の聖女になってくれ! そして一緒に王都に来て欲しい。」
「!!……あぁ…カール………。」
<ああ! ついに来てしまった。私は…>
驚きと喜び、次に悲しみの表情を浮かべるメアル。
メアルは昨夜の悪夢で気づいてしまった。
自身にかけられた呪いは、発動時に近くにいるものを
狂わせるかもしれないという事に。
〝カールに裏切られるのは怖い。
でもカールに殺されるなら構わない。
他の誰かに殺されるよりはカールに殺されたい。
でもそれがカールの裏切りではなくて呪いで狂わされたから、だったらカールは何も悪くないのに
騎士になるという夢は絶たれてしまう。
嫌!それは絶対に駄目!
それだけは、それだけは、絶対に…。〟
「……私に聖女は無理よ。そんな力無いわ。
今だって祈っていても、何の声も聞こえないのよ?」
「そんな事はないさ。メアルは誰よりも聖女に相応しいよ。回復魔法も使えるじゃないか。」
「そうだけど、でも契約を結んでないわ。」
「きっと 加護を受けているんだ。だから契約を結んでいるのと変わりないんだよ。」
「カール………。」
好きと言われて嬉しかった。
〝はい〟と言いたかった。
〝私も貴方が好きです。〟と言いたかった。
カールの隣に立っていたい。
カールの聖女としてカールの成功を支えたい。
そんな欲望、
叶うことのない、とっくに諦めたはずの想いも込み上げてくる。
一筋の涙が頬を濡らす。
嬉しかったからこそ、悲しかった。
そんな喜びと悲しみの涙だった。
〝私は、カールに夢を叶えて欲しい。
それが、今の私の夢。だから
私は一緒にいてはいけない。〟
「ごめんなさい。
ごめんさないカール。
私は一緒には行けないの。
だから、私はここで、この町で
あなたの成功を祈っているわ… 」
それがメアルの答えだった。
メアルはカールを目を合わすことが出来ない。
見つめられたら、今の決意が揺らいでしまう。
目も合わせずに 足早に立去ろうとする。
カーライルは腕を掴もうとし、やめた。
諦めたからではない。
メアルの喜びと悲しみを感じ取ったからだ。
無言でメアルを見送った。
1人残された神殿の中でカーライルは考える。
<メアル。 どうしたら君を救ってやれる。
どうしたら君を包んでやれる…>
メアルが何に悩み、苦しんでいるのかは解らない。
でもメアルの様子から簡単な問題ではないことくらいは判る。
カーライルはメアルを苦しみから
解放してあげたかった。
カーライルにしてみれば、自身の夢より
メアルの笑顔の方が重要だったのだ。
〝俺はメアルを守る為にここに来た〟
メアルと出会った時、そう直感で感じた。
それが自分の使命だと。
その為なら命を賭ける覚悟あった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
歩くメアル。
どこに向かっているのかは自身も判らない。
自宅には帰りたくなかった。
〝ついに言ってしまった。〟
もう後戻りは出来ない。
これで良かった筈。
これでカールを巻き込むことはない筈。
カールは夢を叶えられる筈。
これで、良かった筈。筈なのに。
心は張り裂けそうだった。
先程から後悔しか浮かんでこない。
好きな人に好きと言ってもらえた。
嬉しくない筈はない。
それを断腸の想いで断ったのだ。
〝今からでも戻って、カールに説明すれば間に合うのでは?やり直せるのでは?〟
という想いが生まれては否定され、否定されては生まれを繰り返えす。
死後の事はどうなってもいい。
あの時〝はい〟と言えば、
残された半年間、恋人として生活することが出来たのだ。
自分の決断は間違っていない筈なのに
弱い自分がその決断を否定する。
<私は弱くて、卑怯で、カールには釣り合わない。>
必死に何度も言い聞かせる。
<これでカールは立派な騎士になれるのよ!>
立派な騎士になったカーライルを想い浮かべ、
そしてまたメアルは心が張り裂けそうになる。
カーライルの隣に立つ聖女。
メアル以外の女が隣に立っている。
その光景に強い嫉妬を覚える。
先程、思い焦がれる人から好きと告白を受けたのだ。
仕方がない事ではある。
色々な想いが交錯しメアルは心が壊れる寸前だった。
そんな時、メアルを救ったのはやはりカーライルだった。
「メアル!」
「カール?」
メアルはどこともなく歩くうちに
警護隊の隊舎前にいた。
そこで夜の見回りの為に隊舎に戻ってきた
カーライルに会ったのだった。
カーライルとしても
まさかこんなに直ぐにメアルに会うとは思っていなかった。
しかし、今のメアルを見た瞬間
彼女が救いを求めているのを察した。
「メアル、さっきは急に済まなかった。」
「そんな。カールは何も悪くない、謝らないで。」
「メアル。」
「……」
「俺は諦めてないぞ?」
そして笑う。
その言葉に、その笑顔にメアルは救われた。
願ってはいけない希望を与えられて、
嫌われていない事実に安堵した。
メアルは自身の心が生き返るのを感じた。
<いけないのに。いけない事なのに、
嬉しい!凄く嬉しい!!>
メアルの表情をの変化を見て、安心したカーライルは
そっとカールが近寄りメアルを抱きしめた。
メアルは抵抗しなかった。
カーライルを上目遣いに、必死に目で訴える。
<まだ結論を急がなくてもいいよね?
今だけは甘えてもいいんだよね?>
カーライルを上目遣いに見上げるメアル。
カーライルはメアルの必死に訴える子供のような目を見て、何も言わず頷いた。
涙を流すメアル。
先程の涙とは違う ポロポロ溢れるようにでる涙は
メアルの心を浄化する涙だった。
カーライルにそっと抱きしめられ、
メアルは心はただただ歓喜に包まれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うわー。 小隊長とメアルさんが隊舎前で抱き合ってるよ。」
と呟くのは、カーライルの小隊の隊員1だ。
ちなみにメアルは現在抱きしめられているのであって
抱き合ってはいない。
「これから見回りなのにな。」
と隊員2も呟く。
それはその通りである。
彼らは隊舎前でカーライルが来るのを待っていた。
「よく隊舎前でいちゃつけるよな?」
隊員3もげんなり気味だ。
これも正にご尤もである。
「所謂バカップルだな。 まさか小隊長がねぇ。」
「いや、小隊長はなるっしょ。
ともかくこれは盛大に奢って貰うしかないっすね。」
隊員4は呆れ
隊員5は たかる事を皆に提案する。
隊員1〜5はたっぷり見せつけられて
心の中で<リア充爆ぜろ!(メアル以外)>と思っていた。
実は彼ら5人共にカーライルを祝福する気持ちは
あることはある。
しかしモテない5人には、
同じくパッとしない外見のカーライルに
美人の幼馴染がいて、
しかも恋仲になったなど
到底、素直に祝福するなんて事、
承服できる事ではなかった。
妥協点がお祝いと称して盛大に奢って貰う事だった。
そんな中、 同じく見回りにでる他の小隊の中で
2人を、厳密にはカーライルをだが
殺意をもって睨む男がいた。
カーライルと同じ小隊長の一人であるこの男の名は
リカレイ。
スタの町でも1、2を争うイケメンである。
当然モテる。しかしメアルは見向きもしない。
そのことはリカレイのプライドを傷つけた。
リカレイはゲーム感覚で、
メアルに近づき口説き落とそうとした。
自分が本気で口説けば直ぐに落とせると思った。
しかし結果は惨敗。
メアルが靡くことは無く、むしろ冷たい目を向けられたのだった。
そんなメアルが自分より遥かに劣る容姿の
カーライルに抱きしめられ、カーライルの胸に
顔を埋めている。
ここからでも判る程にメアルから
幸せオーラが出ていた。
許せる事態ではなかった。
リカレイはいつしか女遊びも止める程に
メアルに本気になっていた。
<カールの奴、いい気になりやがって!
今に見てろよ!
最後に彼女を手に入れるのは俺だ!>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カーライルに優しく抱きしめられ、
メアルはやがて泣き止んだ。
〝カールに抱きしめられてる。
あぁ、今だけはずっとこうしていたい。〟
メアルもカーライルの背中に腕を回し
抱きしめ合いだした。
「カール ! カール!」
「メアル…」
カーライルも徐々にメアルを抱きしめる力が強くなる。
「あぁ、嬉しい!」
強く抱きしめられ、悦びの声をあげるメアル。
その声にカーライルもクラクラしてきて
もう止まらなかった。
「メアル。もっと強く抱きしめたい。」
「はい。もっと強く抱きしめて、お願ぃ。」
甘えるように懇願するメアル。
カーライルの腕にさらに力が入る。
「あぁぁ、カール、逞しい♡」
エスカレートしていく2人。
もはや完全に2人の世界だ。
これではバカップルと言われるのは仕方がない。
「あー! あんた達凄いね!」
不意にアンの声がする。
「うわ!」、「きゃ!」
2人はパッと離れる。
見ればアンが立っていた。
仕事も終わりミランに会いにきたのだろう。
「邪魔をするのも悪いなと思ったんだけどさぁ、
よく隊舎前でそんな甘い台詞吐きながら
抱き合えるなと。」
「「あ!」」
その事実に気づく2人。
一気に顔が真っ赤になった。
「じゃあ、お二人さん程々にね。
いやぁ お姉さんには刺激強いわー。
見てるこっちが恥ずかったヨ。」
棒読みのセリフを残しつつ、
ひらひらと手を振りながら隊舎の方に歩き出すアン。
2人は恥ずかしすぎて何も言えなかった。
アンに見えてはいないが
手を振り返すのが精一杯のようだった。
<いやー! こんなシーン目撃したら
2人はできてるって誰でも思うわな。
カールにしては上出来じゃない。
にしても、所構わずここまでいちゃつけるのは
若さ故か。いやはや羨ましいこって。>
隊舎に向かったアンは 玄関前で困った表情の警護隊隊長、タジンに会った。
「隊長さん。ちーっす。 ミランは居る?」
「ああ、こんばんはアンさん。ミランは中ですよ。」
「これから 巡回?」
「ああ、机にむかっているよりこっちの方が性に合うんですよ。」
「お勤めご苦労さま。ではー。」
隊舎の玄関ドアを開けようとしたアンだが
背後から感謝の言葉を告げられた。
「アンさん。助かりました。」
「いえいえどういたしまして。
若い衆には刺激が強かったよね。」
「全く、あそこまで堂々とやられると
かける言葉が思いきませんでしたよ。」
「2人がくっつくのは分かってたけど
これはからかい甲斐があるわぁ。」
「へんなこと吹き込まないで下さいよ?」
「そっちこそカールに余計なこと教えないでよね。」
今度こそアンは隊舎に入っていった。
1人になったタジンは呟く
「しかし、カールとメアルがなあ、俺も歳をとる訳だ。」
タジンは他の隊員の元に歩き出した。
16話了。




