10話 ブウェイ砦の戦い3
戦闘に際し、作戦を立てて臨むのは当たり前の事だ。
しかし敵がこちらの思い通りに動くこともそうそうない。
だから、お互い、敵の作戦を読み合い、
臨機応変に作戦を変更し合う。
その役目は将の仕事だ。
結局は将の読みの優劣が勝敗の大きな要素になるだが、この地の戦はいつも明確な勝敗がつかない。
理由は簡単で、勝つために戦っていないからだ。
大国同士が全面戦争に陥るようなことはお互いが避けていた。
この地の戦は 目的が戦うことであって
お互いに練兵のようなものだ。
テリア軍の巨兵の騎士の中には
まさに戦闘の実地訓練としてこの地に配属された者もいた。
いつも通りであれば 一定の経験を得ただろう。
しかし、彼にとっては不幸な事に今回の戦い。
クドナル、いやモスの目的はいつもと違っていた。
今回、巨兵を駆る8人の騎士達の内
ギルバートの直属の部下は副官のイエットだけだ。
ギルバートがこの地に着任したのが3日前。
事前に十分な作戦会議を行ったが
訓練は満足には出来なかった。
巨兵を3隊に分けたが、どれだけ連携がとれるかは
やってみないと判らない。
ギルバートはせめてあと3日あればと思うが、
クドナルはその時間を与えてくれなかった。
それだけで異常事態といえる。
そんなギルバートの気持ちを汲み取ったのか
聖女シエルニーがギルバートに話しかけた。
「まったく、諜報部は何をやっていたのやら。」
「そう言ってやるな。今回はモスが一枚上手だったのさ。」
「いつもと同じと思っているのが慢心なのじゃ」
「同感だ。 だが、もし慢心させる為に小競り合いを繰り返してきたなら用意周到な準備があった事になる。」
軍が動くなら当然それなりの事前準備が必要だ。
大量の物資、食料が必要になるからだ。
それらは商人から買うのだがいきなり集まる筈もない。
期間をかけ人と物の動きが活発になる。
国庫の兵糧を使用するにしても、
輸送すればその動きは直ぐに伝わる。
その様な目立つ動きが察知出来ないほど、
諜報員は無能ではない。
本来諜報員は優秀でなければ務まらない。
宣戦布告より10日程度で開戦など
移動距離を考えても事前に察知出来ねばおかしい。
おかしいが現実にのものとなっている。
勘付かれないよう少しづつ物資を集め、人員も分散させて移動させていたのだろうか?
「この速さも敵の作戦なのだろう。 こちらは後手に回り、ろくな準備もできなかった。」
そう、いつもであれば早くても 布告から15、6日は開戦までにかかる。
「こうなったら 部下達を信じるしかないの。」
そうは言うが副官イエット以外はブウェイ砦に
所属する騎士達である。
ギルバートのやり方を熟知しているわけでもない。
作戦通りにいかなかった時、日頃の訓練や、
連携の確認が重要になってくる。
というのも、巨兵に同化するとお互いに連絡取れなくなる。ハンドジェスチャーもあまり細かいものは使えない。
連絡が取れなくなる点は巨像騎士も同じであり、
攻撃をしかけるタイミングにしろ連携、撤退など
息を合わせるには訓練が必要なのだ。
今回 左の隊にイエット、右の隊にブウェイ砦所属の騎士ヴェルノ・バークイを小隊長にした。
ヴェルノ・バークイはブウェイ砦巨兵隊の隊長で、
ブウェイ砦の司令官ファイコ・バークイの息子だ。
親の七光りと思われがちだが、巨兵の扱いには長けており、父とは違って部下の信頼も厚かった。
この人選にギルバートも異論は無い。
ただただ準備時間が足りなかっただけだ。
「主、動いたようだ。」
前方の敵陣より 軍勢が前進を開始した。
「こちらも合図を、開始だ!」
ギルバートの指示を受け、
シエルニーが懐から筒を取り出す。
その筒に風の精霊の力が込められる。
すると筒の下方に風を送り出し、後方の歩兵部隊の上空に向かって音を発しながら飛んで行った。。
筒には笛の様な細工がしてある。
これは開戦を知らせる信号弾だった。
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ブウェイ砦の外壁の物見櫓にはブウェイ砦司令官、
ファイコ・バークイが居た。
どうせ 今回も小競り合いだ。
見る価値もないが司令官である以上
状況を見る必要がある。
とても面倒ではあるが仕方がない。
司令官なのだから。
そう考えたバークイは遠見の筒を覗き込む
「まったく、面倒な!忌々しい!」
不機嫌そうに呟く。
物見櫓にいるのはバークイ1人だけではない。
取り巻きの参謀達もいるのだ。
にもかかわらず、 悪態をついた。
しかし、ここにバークイの機嫌を損なう様な事を言う人間は居ない。
黙って相槌を打つだけだった。
バークイは昨夜、深酒をした。
昨日のギルバートの副官イエットとのやりとりが腹立たしく、飲まずには寝れなかったのだ。
〝気持ちが悪い。まだまだ寝ていたい。〟
これがバークイの本音だ。
そこへ、シエルニーの放った〝信号弾〟の音が鳴った。
「始まったか。とっとと終わらんかな。」
またも司令官失格な発言をする。
全くもって慢心していた。
その代償は高くつくことになる。
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クドナル軍の前進に合わせて ブレン達も行動を開始した。
クドナル軍の前進は、
ブレン達の行動を察知させない様、
敵の気をひくだけの為に行われた。
新兵器をお披露目して、動揺を誘うまで
巨像騎士になるつもりはなかった。
ここでは距離があり過ぎる。
テリアの巨兵隊の500m付近まで近付きたかった。
ベストは300m付近だがそれでは感づかれてしまうかもしれない。
馬に乗りテリアの巨兵隊に近づく 6名。
馬は3頭で 聖女達は騎士達の背にしがみついている
生身での移動中が一番危険だ。
念には念を入れ、聖女達の能力を使って姿を隠しているが、敵にも聖女がいるのは一目瞭然だ。
あまり近付き過ぎれば察知されてしまうだろう。
テリア軍は 巨兵隊を3隊に分けている、
左右が3体、中央に2体だ。
これはこちらが 3騎であると読んでいると言う事だろう。そして中央に2体と言うことは中央に 騎士と聖女がいる事を示す。2騎いるとは考えにくいが
2騎いても問題はない。もし3騎いるなら それぞれ隊を分ける筈である。
敵の巨兵隊まで500mの所に到着し脚を止める。
<テリアの将はいい読みをしている。
いい読みをしているが、一つ思い違いをしている。
その思い違いがこの戦いを決定づけるだろう。>
ブレンの心の声を汲んだのか、マキシムが話しかけてきた。
「敵もいい読みをしています。
ですが、巨兵3体で足止めできますかな。」
コーミ。バイセも続く、
「あんな鈍重。何体いても結果は同じ。
蹴散らかすだけです。」
「その通りだが、油断は禁物だよ?」
ブレンが締めくくった。
「こちらの新兵器に動揺しているようだ。じゃあ始めようか。〝 カレル〟よろしく頼む。」
カレルとはネスカ、ネスレ、ネスルをまとめた呼び方で、ブレンだけ許されていた。
「わかりました。」
「癪に触るけどオッケー。」
「はーい。」
聖女達は三者三様に返事をし、巨像騎士を顕現させた。
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「なんだ あれは!」 その声は テリア軍のあちらこちらから聞こえた。
クドナル軍は陣から少し進んだところで足を止めた。
その代わりに何か巨大なものがこちらに歩いてくる。
巨兵のようにはとても見えない。
言うなれば、歩く巨大な横倒しの杭だ。
侵攻方向が杭の先端であるが、先端は金属になっている様だ。
その巨大な杭は台座に取り付けられている。
その台座に四足の脚がついており、
砦に向かって歩いて来るのである。
材質は杭の先端以外は木で出来ているようだ。
大きさは高さ5mくらいで 巨兵の半分くらいの高さだが、杭を運ぶ台座の長さ8m程で 杭は 12m程であろうか 、台座より前後に2m程づつ出っ張っている。
歩く速度は軽さの為か、四足歩行の為か、
テリア軍の石の巨兵よりかなり早い。
それらが10体ほど砦に向かって来ている。
「あれは巨兵…… なのか? あれで城壁を崩すつもりか?」
ギルバートは冷静に考える。
〝あれが巨兵だったとする。
常識では考えにくいことだ。
人間が同化するのであれば一番動かしやすい形状は
人型だ。人間が四つ這いになってあんなに早く歩くことができるだろうか?
それに、関節の動きは人間というより四足の獣のものだが…………〟
ここまで考え、
この辺の戸惑いを切り捨てた。
〝まあアレが何かはこの際無視だ。
何にせよ攻城兵器には間違いないだろう。
要は砦に近づけなければいいのだ。
その形状から近接戦闘ができるとは思えない。
こちらの石の巨兵の敵ではないだろう。
であれば、敵もこちらの巨兵隊を巨像騎士で押さえに来るはず。
変な兵器を持ち出してきたので惑わされたが
結局はいつもと同じなのだ。
つまりこちらがやるべき事。
それはまず敵の巨像騎士を押さえることだ。〟
思考の切り替えの早さは
ギルバートが凡庸ではないことを示していた。
「さて、そろそろか。敵さんは何騎かな?」
こちらの巨兵隊の前方 500mくらいの所に3本光の柱が立った。
馬で来たのか いつのまにか近くまで接近してきていたらしい。
とはいえ、わざとなのか、少し距離が遠い。
「3騎か、親切にもこちらの思惑に応えてくれるらしい。 では存分にオモテナシしてやるか。」
「ニー! 始めるぞ!」
「了解だ。主。」
聖女シエルニーが光り出し、
ギルバートを包み 光の柱となる。
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光の柱が立ち、 各軍の歩兵達より歓声があがった。
なんと言っても戦場の華は巨像騎士なのだ。
男の子は一度は巨像騎士や巨兵に憧れる。
大人になってもそれは変わらない様だ。
圧倒気に巨像騎士の方が人気が高いが
巨兵が好きという少数派もいる。
巨兵には巨兵の良さがある。
巨兵好きに言わせると、カスタマイズや
パーツ選定、圧倒的な存在感。
装飾やペイントが可能で、
同じ機種でも様々なバリエーションがある。
いわばマニアック要素が満載なのだ。
しかし巨像騎士の魔法や、特殊能力を繰り出し戦う姿は派手で神や精霊を模したその姿は神々しい。
聖女と騎士が契約を結び戦うというシュチュエーションも良い!
戦場にいる兵士たちもいずれは自分もと夢を見ている者も多い。
一般的に見ると 〝巨兵乗り〟は〝巨像騎士乗り〟への通過点と考える傾向が強かった。
兵士たちは 固唾を呑んで この戦いの行方を見守る。
巨兵と巨像騎士達の戦いが始まろうとしている。
ここに来て いつもの小競り合いと考えている者は居なかった。
戦場の雰囲気はいつもと全く違っている。
これはいつもの訓練のような戦争ごっことは違う。
巨像騎士達の戦いの行方が自分たちの運命を握っているのだ。
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テリア軍の歩兵軍を率いる ターオーブは
敵の新兵器をを見た時、危機感を覚えた。
彼は直感を信じた。何度も命を救われているからだ。
巨兵隊達の戦い次第ではまずい事になりそうだ。
一瞬全軍前進し、あの歩く杭に突撃を仕掛けようと考えるが、思い直す。
兵達は動揺しているようだ。
巨像達の戦い最中に突撃をしかける号令をしても
兵は逃げ出すだけだろう。
兵達が感じている戦場の雰囲気を
ターオーブも感じ取っていた。
<まずい時の空気だな。ともかく動揺を抑え、すぐに行動に移れる様にせねば。>
「全軍、待機! 合図あるまで待て!」
大声で指示を出す。
その声は勇猛で気概に満ちており、良く通った。
兵はターオーブの声に勇気を貰い
立ち直る。
<やれやれ、頼みましたよ。司令官殿>
ギルバートに縋る気持ちで巨兵隊の方を見る。
その時、敵側から3本の光の柱が立ち、
次にギルバート達と思われる光の柱が立った。
兵達の歓声があがる。
ターオーブは敵の巨像騎士を見た瞬間絶句した。
なんだあれは?
見た瞬間、ターオーブは最大限の危機感を感じ取った。
撤退の文字が頭の中に浮かんでいた。
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光が収まり、その中心には緑色の巨大なフルプレートの鎧が立っていた。
ギルバートとシエルニーの巨像騎士だ。
しかし、フルプレートを着た人を巨大化させたものとも感じが違う。
鎧を着ているというより 人型の甲殻類というような感じで、
頭より一角虫の角のような尖った角が突き出している。
甲殻?の色は森林を思わせる深い緑で、その鎧は金属というより宝石のような輝きと透明感があった。
両手にはそれぞれ 剣を握っている、双剣使いのようだ。
巨像騎士となったギルバートは 前方にいる敵の巨像騎士の姿を確認した。
「なんだアレは!」
驚きの声を上げた。
前方の敵巨像騎士 3体は人の形をしていなかった。
10話了
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補足
[一角虫]
頭に長い角をもつカブトムシの様な虫で
大きさ男性成人の握りこぶしくらいと割と大きい。
この世界の子供達に人気の虫であるが、
実は恐ろしい虫である。
身の危険を感じると弾丸の様に高速で一直線飛来し
そのツノで刺しにくるのだ。
人間なら余裕で貫通する突進力を持つ。
森で一角虫を発見したらむやみに近づかないのが
鉄則である。




