9話 ブウェイ砦の戦い2
本小説を読んでくださっている方が
いらっしゃることに感謝しております。
同時に遅筆で申し訳ない思いです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです
翌 25日 カーライルとメアルが市場でデートをした日の早朝、クドナル側の陣地にて。
この度のブウェイ砦侵攻戦の司令官ワイト・ビネガー。
クドナルきっての知将と名高い男で、感情を滅す多に表に出すことがない冷冷静沈着な男だ。
クドナルがモス国の属国になる以前は、
モス国を散々手こずらせた実績を持ち、
自身も聖女と契約を交わす騎士でもある歴戦の強者である。
その冷静沈着なワイト・ビネガーが
珍しく緊張した面持ちで天幕の入り口の前に立った。
この天幕は一見すると 陣にある他の天幕と同じに見えるが、素材など含めこの陣の中で一番上等なものだ。
ビネガーはその場で跪き、
天幕の中にいる人物に向かい話しかけた。
「失礼致します。殿下、用意が整いました。」
「ああ、わかった。」
天幕の中より返事が聞こえ、
1分と待たずにブレンと聖女ネスレが出てきた。
更に2人の後につづき、男の騎士、女の騎士と
ネスレに似た少女が2名が出て来る。
騎士たちはブレンの左右を固め、
少女達はその背後に立った。
ブレンはビネガーに話しかけた。
「ご苦労であった。」
「はっ!」
「いつも、君たちに戦わせてばかりでは悪いからね。
今日は、後ろで見物していてくれ。」
「勿体ないお言葉です。 殿下直々の御参陣とあれば勝利は間違いありません。」
「だといいけどね。
今日は騎士として来ているんであまり畏まらないでくれないか。」
と苦笑いながら返すブレン。
ゴール・ラーソリュブ・ブレン。
モス国の王太子である。
今年成人したばかりであるが、
有能な騎士でもある。初陣は12才だったという。
そして今年、モス国が風を司る神〝クテレ〟を崇める
〝クテレ正教〟の最高位聖女3人を破格の待遇で
迎えると、3人の内の1人、聖女ネスレと契約を交わた。
この度の戦は巨像を駆る騎士となって初の戦となる。
今回、モスから3名の騎士と聖女が来ていた。
その事実を知っていたら
テリア側の対応も変わっていただろう。
「私がいるんだから、負けるわけないじゃん!」
ネスレが頭の後ろで手をくみながら、ビネガーに悪態をついた。
「ネスレ! ビネガー将軍に対し、礼を欠きすぎです!」
ネスレを窘めたのはネスレにによく似た少女だ。
名前をネスカと言う。
もう一人の少女の名前はネスル。
3人は三つ子だった。
外見は見分けがつかないほどそっくりだが
性格は三者三様だった。
ビネガーは跪いたまま答える。
「聖女様は小官より上位のお方、お気になさらぬ様お願いします。ネスカ様。」
ビネガーが続いて発した。
「今日はよろしくお願い致します。 マキシム殿、バイセ殿、聖女様方。」
「こちらこそ宜しく頼む。」
と男の騎士が答えた。
モス国 騎士マキシム 。
平民から王太子直属の親衛隊長に成り上がった男だ。
40代の男盛り。強面で声もデカイ。
その為か全くモテず、本人にもその自覚はあるが、
武一筋で生きてきた為、全く気にしていない。
従って結婚もしておらず、子もいない。
実は3年前の戦で契約した聖女を亡くている。
それ以来、聖女との契約を結ぼうとしなかったが、
今年、王太子の命により聖女ネスカと契約を結んだ。
彼からすれば娘の様な年齢の子だったが、
ネスカはマキシムの強面にもひるむ事なく
すぐに懐いてくれた。
マキシムはネスカを自らの子の様に思っているが、
それを素直に出せない、不器用な男でもある。
「大船に乗った気でいてくれ。」と勝気そうな
女の騎士も答える。
騎士 コーミ・バイセ 親衛隊の中で唯一の女性騎士だ。
バイセは現在20代後半。モス国の貴族の家系だが
バイセ家は代々武門の家系だ。
コーミには兄がいた。
強く優秀な兄であったが、そんな兄も戦で帰らぬ人となった。
この時、コーミもすでに騎士となっていた。
父もコーミが成人した年に他界しており、
家名を守る為に、コーミがバイセ家を継ぐこととなった。
コーミは想い人がいるが叶わぬ想いでもある為、う
自身は結婚せず、養子を取ってバイセ家を継がせるつもりでいる。
今年、聖女ネスルと契約を結んだが、
コーミにとっては初の聖女との契約だった。
甘え上手のネスルを実の妹の様に可愛がっている。
ちなみに実は、兄よりもコーミの方が騎士としての
才能は上である。しかしコーミ本人は本当は騎士では無く、聖女になりたかったのだという。
そして背後の方では……
ビネガーの言葉を無視し、
聖女たちの言い争いが行われていた。
「三つ子なんだから、お姉さんぶらないでよね!」
ネスレがネスカに食ってかかっている。
「礼儀の問題です!
姉だからとか関係有りません!」
とネスカ。
「お姉ちゃん達! 殿下の御前だよ!」
と間に入り諌めようしているのは ネスルだ。
それぞれに初陣だというのに全く緊張した様子も無く、いつもと同じ調子である。
風を司る神クテレの聖女である三つ子たちは
クテレの様に自由だった。
「自由な子達でね。許してやってくれ。」
とブレンがビネガーに詫びた。
ビネガーを恐縮しつつも、聖女たちの底知れなさを感じ取っていた。
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同時刻、テリア陣営
幾度と無く戦いが繰り返されたブウェイ国境砦の周囲は戦の影響か、荒野と化している。
ブウェイ砦のすぐ外では 巨兵の準備が
急ピッチで進められていた。
8体の石の巨兵が立ち並んでいる。
巨兵、そればゴーレム技術を発展さたものだ。
人をゴーレムに一時的に同化させて操る。
言い換えれば人を一時的にはではあるが
木や石や鉄の巨人にする技術だ。
巨兵内部に魔力を込めた球が埋め込まれており、巨兵を動かす動力となる。
この球を魔導球といい、
魔導球は交換式で魔導師が魔力を補充する。
ゴーレムの操縦者は 魔導師から同化の魔法をうけることでゴーレム自身になることが出来る。
こういった手順を経るのは、戦闘力があるものが操った方が当然強いからである。
巨兵の弱点として真っ先に挙げられるのが
物体で体が構成される為、重いという点だ。
材質により様々であるが全長9m程の巨体は
輸送が大変である。
通常は分解して多数の部品に分けて運ぶ。
当然輸送と組み立てには時間がかかる。
また巨像騎士と異なり、
込められた魔力は全て動力に費やされ為、
魔法や特殊能力を使えず
物理攻撃だけになってしまう。
戦争において、巨兵は 守りには有効だが
攻めには向かないというのが常識となっていた。
ブウェイ砦に配備された巨兵は帝国の旧型の払い下げだ。
2世代くらい前の型で〝タイタン〟という名称だった。
古に神々と戦ったという巨人族を模しているのだという。
防御力には定評があるが、重く遅いのが欠点だった。
テリアでは少しでも機動性を上げるため軽量化の魔法刻印を入れた。
更に今年、新型魔導石に換装し、防御力の強化も行なっている。
テリアはこの巨兵を新たに「タイタンII」と名付けた。
タイタンIIは型落ち品ベースとはいえ
巨兵の中では高性能の部類だ。
それだけ帝国製巨兵の性能が抜きん出ていると言える。
聖女不足の昨今、各国にとって巨兵の開発は急務となっているが、帝国は早くから巨兵の開発を進めており
帝国は攻めることがあっても攻め込まれる事はないと言われる位に巨兵に配備が進んでいる。
帝国の属国も高値で型落ち品を購入させられるとは言え、
自国で開発する必要が無く高性能な巨兵が手に入るのだ。
十分に恩恵も受けていると言える。
巨兵タイタンIIは美しいフォルムはとは言い難い。
防御力に優れるだけあって、胴は分厚く、
腕も太い、となれば重心を取る為に足も太い。
色は、濃い緑でメインウェポンに剣ではなく
ごついメイスを右手に持っている。
左手には、巨大なタワーシールドを装備している。
流石に武器と盾は鋼製だ。。
まさに歩く巨大な壁だった。
巨兵を前に、10名の男と1人の女性が立っていた。
1人の女性は言うまでもなく エルフの聖女シエルニーだ。
「閣下 、準備完了致しました。 いつでも行けます。」
副官のイエットが 上司である司令官のギルバートに告げた。
「わかった。 作戦は話した通りだ。始めてくれ。
皆 死ぬなよ。」
ギルバートが作戦開始を告げる。
その言葉に呼応して シエルニーが全員に告げる。
「そなたらに精霊の加護があらんことを。」
武運をとは言わないのがエルフである。
「同化を開始してくれ!」
副官イエットが巨兵の近くに待機している
各魔導士に指示をだした。
それに合わせて 巨兵に同化する騎士たちは
自分の巨兵の元に走っていく。
いま、ギルバートの元に残っているのはシエルニーを含め3名だ。
「閣下それでは私も行きます。」
「ああ、頼んだぞ。」
「イエット。死ぬでないぞ。」
シエルニーがイエットに陽気に声をかけた。
「もちろんです。将来はあなたの様な聖女を迎える予定です。」
「どんな聖女を連れてくるか楽しみにしておるぞ。」
イエットも巨兵の元に走って行く。
「閣下、では私も戻ります。」
そう話したのは参謀のターオーブ36才だ
基本的に陽気で軽薄とも見られがちな男だが
実戦においては実に頼れる男である。
元は将軍でもあり、聖女と契約を交わす騎士でもあった。
しかし去年18才も年下の聖女と目出度く結ばれ、
騎士は廃業した。
というのは聖女の奥方が懐妊したからだ。
つまりはデキ婚だった。
今回ターオーブは参謀兼、騎兵、歩兵、弓兵の指揮官として参戦している。
「そちらはお任せしましたぞ。ターオーブ殿」
「任されましょう。しかし閣下、私は今は参謀ですよ。」
「そうでしたな。なかなか慣れないものです。」
去年までは、同格の将軍だったのだ
そう簡単に部下の様に接するのはギルバートには難しかった。
「それにしても、砦の閣下は見送りにも来ないとは。」
ターオーブが砦の方を見た。
「来ない方が嬉しいですな。」
とギルバートが返した。
シエルニーが顔を思い出したのか
ものすごく嫌そうな表情を浮かべた。
「そりゃ、ごもっとも。ではご武運を。」
ターオーブは笑いながら去っていった。
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テリア軍は砦より1000m程前に出たところで
石の巨兵、タイタンIIを展開させていた。
現在、テリア軍が展開している巨兵は8体全て。
3つの集団に分かれて 左側3体、 右側3体、
中央2体だ。
更に対攻城兵器用部隊としてターオーブ率いる歩兵隊と弓兵隊、騎兵隊 総勢3000名を後方に展開している。
中央の隊には巨兵2体の中央でギルバートが馬に乗っていた。
馬は2頭おりもう1頭には聖女シエルニーが乗っている。
一般的に 巨像騎士1騎は 巨兵3体に相当すると言われている。
テリアの将は今回、クドナルに巨兵は無し、巨像騎士が多くても3騎と考えた。
であれば、左右は巨兵3体づつで巨像騎士を押さえ、
中央は 自身の巨像騎士+巨兵2体だ。
中央をまず破り 左右の増援に向かう。
敵の巨像騎士が2騎以下なら 余った隊で 城攻兵器群を破壊する。もしくは 他隊の増援に向かわせ一気に叩く。
敵軍も歩兵を出して攻城兵器を守ろうとするだろうが
その点はどうでもよかった。
敵の巨像騎士を破ればこの戦いは終わるだろう。
ギルバートはそう考えていた。
「さて、敵さんはどう出るか。」
とギルバートは呟いた。
クドナルは今回、新兵器らしい攻城兵器を持ち込み、
更に何かを隠している。
帝国は何か情報を掴んだのか、
わざわざ自分たちをこの地に来る様要請した。
この度は、こちらの期待を裏切り、
小競り合いで終わらない可能性が高い。
「うーむ、まずいの。」
シエルニーが呟く。
どうした
「この地の風は支配された様だ。大精霊であっても及ぼせる影響範囲が狭い。」
それが示すこと。敵に相当風に影響を及ぼす存在が居るということだった。
「クテレの聖女か? モスがいる!?」
「噂のクテレの秘蔵っ子、大聖女の三つ子かもしれんぞ。」
「今回も楽はさせてもらえそうにないな。」
上空を見上げ、ギルバートが言った。
その言葉にシエルニーも
「そのようじゃの。」
と同じく上空を見上げて答えた。
9話了。
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補足
[クテレ と クテレ正教]
風を司る神クテレは、 自由を象徴する神でもあるが
そよ風も、突風も竜巻も暴風も全て風であり、
クテレは優しい面と、恐ろしい面を併せ持つ
気まぐれな神として恐れられ、崇められている。
クテレを信仰する聖女は自由で気まぐれな気風の影響を多かれ少なかれ受ける様だ。
実は、戦闘から隠密行動まで幅広く活用できる能力を発揮でき、クテレの聖女も人気が高い。
クテレを信仰するクテレ正教は 、
モス国に大神殿を構え、大陸の南方では最大勢力を誇る宗教だ。
モス国の国教にもなっている。
大陸南方に勢力を持つのには理由があり、
モスの南方に広大な荒野が広がっているが
風が吹き抜けるこの地にクテレの聖地があると
考えられている。
[聖女のランク]
聖女にも冒険者の様にランクがある。
最高位の1級から最下位5級まである。
このランクづけは、各神殿によって基準が異なり、
統一基準として考えることは出来ないが、
同じ宗派であれば明確な物差しと言える。
聖女教会のランク付けが唯一
統一基準に近いといえるが、
信仰する神や精霊によって能力の系統が異なる為、
あくまで参考程度のものである。




