0話 ある男の話
おっぱい星人の紳士 諸氏に捧ぐ。(0話のみ)
今私は夢を見ている、のだと思います。
いつもの、とてもとても最悪な夢の後、
本当なら目が覚めて、
憂鬱な朝を迎えている筈です。
いまだ夢から抜け出せないのでしょうか?
でも、この夢の中はとても不思議です。
ここはどこなのでしょう?
わからない。
何も無いところ。
光も闇もない。音も無く、風も吹かなければ、
暑くも寒くも無く、匂いも、体の感覚すらありませんでした。
でも、力に溢れている。
何も見えないのに、視えている。
感じている。
私はただただ、この何もない世界を漂っています。
怖くはありませんでした。
恐怖も喜びも何もありません。
心は静かに、ただただ静かです。
<あぁ。このまま、ずっとこのままでも
いいかも知れない。
目が覚めてしまったら、またあの苦痛と恐怖の日々が始まってしまう。
すっとこのままで、
このまま溶けてしまいたい。>
どれくらい漂っていたのか?
時間の感覚もありません。
方角の感覚も無いので、上も下も
前も後ろも判らないのですが
前のほう?に何か、いえ、誰かがいます。
姿どころか、形さえ無いのに
男性だとわかりました。
そして、私はこの人を知っています。
<この人? 知っている? 何故?
姿も形も判らないのに。
会ったこと無いのに。>
会ったこと無い?
何故でしょう。とても懐かしい。
ここは不思議です。
私は感覚もないのですが
手?を、その人の顔?に触れました。
愛おしい人を触れる様に、
自然に〝触れたい〟と、思ったのでした。
触れたその瞬間、
私に中に何かが流れ込んできました。
凄まじい量の情報?でしょうか?
これは記憶?
<この人の記憶? いえ、私の記憶?>
大量の記憶。
<これは私の記憶!>
かつての私の記憶。
…
……
………
…………
そう!
そうでした!
何故今まで思い出さなかったのか?
〝ランディ様〟
ランディ様だ。
私のパートナー。愛おしい人。
何故ここに?
何故こんな姿に?
…
あぁ!そうでした。何て事でしょう。
そんな大事なことすら忘れていたなんて!
私が、私がランディ様をそうしてしまった。
私が呪われたから、
ランディ様は私を救おうとしてくれているのです。
私はかつて、この人と一緒に
神々の命運をかけた最後の戦いに挑み、
そして邪神の呪いによって
命を奪われたのでした。
突然、景色が変わりました。
<ここは?>
どうやら私はかつての私の意識の中にいるようです。
ランディ様に触れ、
私の記憶が戻って記憶を整理しているうちに
急に何かに吸い込まれる感覚に陥りました。
気がつくと私は、かつて私が命を落とした運命の戦いの場にいました。
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かつて私は、戦を司る〝女神ラーファル〟の娘の一人で〝ルアメットゥーナ〟という名の
女神でした。
私は戦いの神に属する一柱でありながら
戦いを好まず、平和な世界を望んでいました。
しかし、この世界〝イバラーク〟は神々が争う戦乱の時代。
神界はおろか、人界、魔界に至るまで
争いに溢れていました。
私も神々の争いに巻き込まれていきました。
そんなある日、どこからともなく現れた
男の人に私は危機を救われたのです。
その時の私は、敵に周囲を囲まれ
逃げる事も出来きずにいました。
もはやこれまで、と覚悟を決めたその時、
『君は本当に素晴らしいモノを持っているな。
対価を払うなら、助けるがどうする?
というか、寧ろこちらから進んで
その素晴らしいおっ…ゲフン、大変失礼した。
兎に角守りたいのだ。喜んで助けられなさい。』
私の胸の辺りから?
私の意識に直接響く声がしました。
魔神との契約?
でもしかし、
その〝邪な意識〟は私の胸から発して
私の胸に向かっている様です。
何より、有無を言わせてくれませんでした。
「え?」
突然、私の隣に現れた男の人。
私が驚いた瞬間、
私を囲っていた敵の全員が
縦に真っ二つにされて倒れました。
「ええ!?」
あまりの出来事に驚くことしか出来ませんでした。
(数分後)
ようやく落ち着いた私は、
突如現れた男の人を警戒し、
距離をとって油断なく観察しました。
男の人は(視線が常に胸に向いていたのを除けば)
私が落ち着くのを大人しく待っていてくれました。
私よりも背が高く180cm位。(ちなみに私は158cm)
黒髪、黒目で顔はイケメンではありませんが、
精悍な顔付きでした。
そして手には反りの入った片刃の剣を持っていました。
あとで教えてくれましたが〝ニホントウ〟という武器を異界の希少金属を使い、自分で造った
業物とのことでした。
「契約してしまった事になるのかしら?」
黒髪の人が魔神である可能性を考え、
質問してみます。
「いや、ただの善意だ。
君のその素晴らしい双丘は
男として死守せねばならない物だからな。
君は自覚した方がいい、
断言するが君のそれは正しく至宝だ。
俺が今まで観てきた中で一番最高だ。
至高であり、究極のおっぱいだ!」
真顔でいう黒髪の人。
言っている意味が解り(たくあり)ませんでしたが
女性の胸に並々ならぬ情熱があるのは解ってしまいました。
ともかく敵意はない?様なので、
彼の言葉はスルーしました。
私が警戒しつつもお礼をしたいと申し出ると
黒髪、黒目のその人は、
意外にも〝至宝を揉ませてくれ!〟では無く、
「では俺に名前を付けてくれ」
と言いました。
私は変わった人だなと思いつつ
「ランディは如何ですか?」
と答えました。
子供の頃、人界に出向いた時に
手に入れた本の物語。
うっとりしながら読んだ物語。
敵に囲まれて絶対絶命のピンチに陥った姫を
助ける騎士の物語。
その騎士の名前が〝ランディ〟でした。
その話に憧れていた私は、
助けられた姫と自分を不覚にも重ねてしまったのです。
言った後、ベッドの上で転げ回りたくなる程
恥ずかしくなりました。
黒髪の人は、
「何故顔が赤い?
まぁ分かった、今日から俺はランディだ。
名付けてくれて有難う。
美しい女よ」
と言って笑ってくれました。
その笑顔に私は救われました。
この戦乱の時代で明日をも知れぬ戦いの日々。
不安、諦念、希望が見えない日々への絶望感
それらが常に重くのし掛かり、
安らぎを感じることなどありませんでした。
でもしかし、彼の笑顔を見た時、
〝彼に守られている〟という
絶対の安心感に包まれてしまいました。
判らないけどこの人は信じていい。
委ねていい。
そんな気がしました。
気がつけば泣いている私。
そんな私の頭をそっとポンポンと
優しく叩いてくれました。
まるで子供をあやす様に。
その瞬間、私はランディ様に
惹かれたのかもしれません。
泣き止み、落ち着きを取り戻した私は、
助けられておきながら
名前を名乗っていない事に気付きました。
ポンポンされた後なので大変恥ずかしく、
顔は真っ赤だったと思いますが
兎も角、私は名乗り、改めてお礼を言いました。
ランディ様には
「呼び難いから ラメットでいいか?」
と言われ、許可はしていませんでしたが
以来〝ラメット〟と呼ばれるようになりました。
彼は異界を渡りあるく旅人だと自己紹介してくれました。
この世界に来たのは偶然で、
ここまで存在を顕在化させるまでに
この世界に入って10年経ってしまったそうです。
さぁ、これからこの世界を堪能しようと思った矢先、
彼のセンサーが〝世界の至宝〟の危機を感知したと言っていました。
つまりバカなんだな。と思いつつも
自然と気を許している自分がいるのが判りました。
この出会いから、彼と行動を共にする様になりました。
最初は、暇潰しに私の(胸の)用心棒をしてくれていたランディ様も、
次第に私の実力を認めてくれ、たのかは判りませんが、私をパートナーとして見てくれる様になりました。
その頃には私はランディ様の〝お手付き〟になっていました。
そしていつしかその事に私は喜びを感じていました。
二人で行動をするようになって、
争いはいよいよ激しさを増してきた頃。
突如現れた邪神により、状況は一変。
邪神の軍勢は強大で、神界を席巻していきました。
邪神vsこの世界の神々という戦いに変わっていくのにさして時間はかかりませんでした。
それほどに邪神の軍勢は脅威だったのです。
そして現在、神々と邪神との最終決戦の
真っ最中なのですが…
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「ランディ様。新手が来ます」
ランディ様は不真面目にも私の言葉に
「面倒な事だ」
と答えます。
焦る様子もなく、本当に面倒くさそうでした。
私はその言葉に安心感を抱いていました。
「ランディ様は、本当に面倒くさがり屋さんですね」
ランディ様は頭を掻きながら
「あれらは斬られるだけの存在だからな」
周囲を埋め尽くす数の敵に対して
平然と言い切るランディ様。
相変わらず不敵にしてステキです。
「ふふふ」
私も気が大きくなり、笑みがこぼれています。
「それよりも、帰ったらご褒美を所望する」
ある種のダメ発言の予感を感じながら
返事をします。
「突然ですね。(聴きたくありませんが)私にできる事なら何なりと仰って下さい。」
「では、ぱふぱ/ゴフ!」
ゴス!(鈍い音)
気がつけばランディー様が言い終わる前に、
私の持っている〝錫杖〟がランディ様の頭にクリティカルヒットしていました。
地面に突っ伏しているランディ様。
この異界の聖杖はランディ様より頂いた
とても強力な神器なのです。
ダメージカウントは13500位でした。
通常なら1300位なので実に10倍。
クリティカル倍率の最高倍率です♡
クリティカルが10倍になるのは
確率0.00001%なので
今日の私は最高に運が良いのでしょう。
人間のHPが英雄クラスの高い者で600〜700
神々でも10000超えるのは数えるほどです。
思えば、ランディ様にとって、
これが本日初のダメージだったかと思います。
「言わせませんよ? こんな時に」
ぱふぱ◯が何なのかを知っている
(教えられた)自分を悲しみつつ、
錫杖についた汚れ(血)を〝浄化の力〟で綺麗にします。
「痛たた。こんな時でもラメットのおっぱいは魅力的だからな」
起き上がりながら
全く痛そうな感じでもなく、
ランディ様は自然体でした。
ちなみにランディ様は自らのことを
「おっぱい星人」と評していました。
「カタカナはダメだ!美しく無い!
あのカクカクした文字では〝おっぱい〟の
柔さかとあの美しい曲線を全く表現できていない。
やはり平仮名で〝おっぱい〟でないと。
俺は平仮名派なのだ。
ちなみにωむしろお尻だと思う。
そもそも おっぱいは……ムニャムニャ」
どうでもよかったので その後の話は
ムニャムニャと翻訳されました。
ランディ様は〝おっぱい〟を語る時、
とても(無駄に)真剣な表情でした。
意味は全く解りません。
私はランディ様を愛していますが、
解ろうとも思いませんでした。
やはりどうでもいいですが、
ただ、そこには異常な熱意と面倒くさそうな拘りがある事は解りました。
「緊急事態だ!
たった今深刻なダメージを負ってしまった。
回復させねば戦えない!」
「え! ごめんなさい。今回復させますね」
「いや、俺の負った 深刻な心のダメージは
ぱふぱ/ゴフ!」
「もう。ランディ様ったら♡
言わせませんって♡」
またクリティカルヒット10倍でした。
二人がイチャイチャし出しました。
私はかつての私〝ラメット〟から少しだけ意識を離し、第三者として
冷静にラメットとランディ様が
いちゃつく様を感じていました。
<いつもの夢みたい>
私は、かつての私〝ラメット〟の意識の一部を借りてラメットが体験したことを体験しているのです。
話しているのも、動いているのも
ラメットであって 〝私〟では無いのです。
私は見ているだけですが、
記憶や、感情や、感覚は共有しています。
傷つけば痛みも感じるし、
喜びも苦しみも感じるのです。
二人がイチャつきだしたのを
見かねてかは判りませんが、
敵の軍勢から一体の敵が〝私たち〟の前に出てきました。
白く、陶器の様に凹凸も無い体。
顔ものっぺりとしていて
目の所にスリットが入っています。
スリットの奥から 赤い光がもれていて
人形ではなく意思があることがわかります。
手に長柄の武器、ハルバードを持ち、
背中からは黒い猛禽類を思わせる
やはり陶器の様な質感の羽が生えています。
邪神の尖兵でした。
周囲を埋め尽くす敵の軍勢。
〝感知〟の力を使ってみましたが、
味方の気配は全くありませんでした。
「私たちだけになってしまった様ですね」
「そうか」
邪神の尖兵が話しかけてきます。
「戦いは決した。後はお前たちだけだ。
大人しく投降すれ」
邪神の尖兵は最後まで話すことは許されませんでした。
ランディ様に真っ二つに斬られたからです。
いつのまにか〝ニホントウ〟とランディ様が言っていた武器を持っていました。
それにしても ニホントウのリーチよりかなり離れた敵が真っ二つになるのは、
いつも思うのですが謎です。
「中身が有るのか。 エグいな」
「感想がそれですか?浮かばれんませんね」
真っ二つになった邪神の尖兵は
血と〝中身〟を撒き散らしながら倒れました。
これを機に一斉に動き出す敵の軍勢。
ランディ様を見ると、
いつもながらのふてぶてしい表情の中に
少しだけ楽しそうな笑みが混じっています。
私はその表情に、
ランディ様が一緒なら自分は一切の不安がない
ことを改めて感じました。‘
私は力を使うべく目を閉じ、
錫杖に意識を集中させます。
準備が整ったところで目を開け、
「? 敵の軍勢は? ランディ様?」
私は私の部屋のいつものベッドの上にいました。
「夢……なのね。ランディ様…懐かしかった」
気が付けば私は泣いている様でした。
悲しさではなく、会えた嬉しさと懐かしさ、
まだ一緒に居たかった寂しさなど
色々な感情が混ざり合っていましたが、
嫌ではありませんでした。
「あれ? 私は何故泣いてるの?
ランディ様って誰?」
「思い出せない、誰だったかな?
誰? 私誰かに会ったかな?
会った? そもそもいつもの夢以外
見てないはず」
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泣いていた女性は気づかなかっただろう。
彼女の内から不吉で悍ましい〝何か〟が
彼女を覆った。
目には見えない何かに覆われた時、
繋がっていた彼女の記憶は閉ざされたのだった。
女性はしばしベッドの上で考え事をしていたが、やがて彼女の〝いつもの夢〟が
彼女の頭の中を占めていく。
そして彼女は今日もため息をつくのだ。
0話了
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補足
[イバラークの長さの単位について]
m:メータ
地球でいう 〝メートル〟と奇遇にも同じ。
cm:セーチメータ
地球でいう〝センチメートル〟と奇遇にも同じ。
mm:ミイメータ
地球でいう〝ミリメートル〟と奇遇にも同じ。
km:キオメータ
地球でいう〝キロメートル〟と奇遇にも同じ。
1km=1000m
1m=100cm=1000mmである。
[ランディが名前を求めた理由]
異界から来た彼は、イバラークでは存在する必然性がない異物である。
この世界の住人に名前をつけてもらう事で
世界に認知され、存在する意味が発生する。
ランディという名を貰い
彼はこの世界に定着出来た。
[クリティカル発生時の倍率確定確率]
クリティカル発生の確率ではない。
クリティカルヒットした際のダメージは
通常ダメージ×変動倍率 である。
変動倍率の各確率は以下となっている。
10倍:0.00001%
9倍:0.0001%
8倍:0.001%
7倍:0.01%
6倍:0.1%
5倍:1%
4倍:10%
3倍:20%
2倍:30%
1. 5倍;38.88889%
[ランディーのセンサーについて]
イバラークには多種多様のスキルが存在している。
ランディーがイバラークに渡ってくる過程で
彼はスキルをじっくりと吟味して取得している。
彼がラメットの危機を感知したのも
パッシブスキル「至宝の双丘のSOS」が発動したものである。
また、ラメットの胸からの念話も、
スキル「おっぱい通信」によるもの。
更にパッシブスキル「おっぱい審美眼」も取得している様だ。
「おっぱいって神秘がいっぱい」(ランディー談)