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自販機暮らしのサンピエール(3世)  作者: ブリ大根
ハムハム公国編〜波乱
15/42

ハムゥ〜! その七!

前回のあらすじ!

ドブネズミ親分逃走してる!

えーびっくり!つけられてた!

僕はトリュフを選別中!


サンピエールがトリュフ地獄にて責め苛まれること半日、サンピエールの腹は限界を訴えていた。


サンピエールは一昨日にハムハムフードを口にしたきり、かまぼこしか食べていない。しかもそのかまぼこも手の平だいの大きさひとつきり。それからずっとトリュフを探し、地下を歩き回っていたのだ。体はかまぼこ以外の食べ物を求めていた。


目の前には美味しそうな珍味(偽)、今まで我慢出来たことが驚きなのだ。飢えに飢えたサンピエールは遂に、トリュフの中でも一際いい匂いのする青色のトリュフを、自らの口に運び…


爆発した。


サンピエールが、ではない、青色のトリュフが爆発した。


焦げた青色トリュフはもう食べられそうもなかった。この青色トリュフは、サンピエールにとって他のトリュフとは違う、特別なトリュフなのだろう。サンピエールの心がこのトリュフを心から求めて、トリュフはそれに応えた、だから今、神聖な食事を邪魔されたサンピエールの髪は怒りに天を衝いて、悲しげに俯いているのだろう。

サンピエールから沸々と立ち上る感情はなんに対してか?運命を、ただ爆発することしかできなかった青色トリュフの定めに、起こるべくして起こされた悲劇へと。


青色トリュフ、おまえの無念、食べられずに果てたおまえの魂を私は必ず救い出す!この地獄をぶち壊すことで!


ウォォー!


サンピエールは空腹と怒りによって生物としてのリミッターを壊し、雄叫びを上げながら走り出した。


あれか?ドブネズミがいっていた人間は….

そう呟くハム、サンピエールの死角からずっと観察していたのだろう。片目に走る傷から堅気のハムとは思われないそのハムの正体は如何に!


追っては来ない、か。

走り去った方角の気を探るサンピエールは強大なオーラが近づいてこないことを悟り、ふ、と息を僅かに吐いた。


サンピエールがこの迷い込んだものを苦しめるためだけの無意味な刑場や、作り出したものに対して激しく怒りを抱いていること、青色トリュフへの思いも嘘偽りはないが、あの場から一刻も早く離れたかった。ああいうオーラを放つ手合いには、心を読んでいるのではと勘ぐってしまうほどに此方の状態を寸分違わずに当ててくるものがいる。多少不自然であろうと、警戒以外を表出させられるのならばなんでもよかった。


充分に距離はとった、あれほどのオーラを持つ強者、偶然ではない、だろうが。今はそれより作成者を見つけ出し、速やかにトリュフ地獄を壊さねば。


トリュフの紛い物、あれは自然に生えたものではない。カリフラワーは白くても不思議はない。だがトリュフと見まごう黒いマッシュルーム、あれからは焼いたバターと醤油の香りがした。冷め切ってはいたが間違いなく焼きバター醤油マッシュルームだ。また青いトリュフ、あれは高級食材松茸の香りがした。おそらく着色したのだろう。色はともかく香りは本物、とても美味そうだったのに…調理済みマッシュルームと着色済み松茸、シェフの仕業であることは自明。しかも食べようとした瞬間に爆発させることができたのは、サンピエールを監視していたからに他ならないだろう。監視といえば先ほどのオーラの主だが、むしろ存在を主張するようにあからさまに気を放出していた。監視役がわざわざそんなことをするか?おそらくオーラの主はトリュフの関係者ではない。


周辺には一際高くそびえる塔がある。

そこから双眼鏡かなにかでこちらを見ていたのだろう、あそこにシェフはいるはずと睨みサンピエールは塔へ向かっている。


ただひた走るサンピエールの目に、ある集団が写る。塔について情報を持っているかもしれないと考え、集団の一匹、茶色い毛をもつハム?に声をかける。


「おーい、そこの方!ちょっと話しを聞かせてもらえないか!」


振り返る茶色の大きい影、いやヒグマをみてサンピエールは驚く。なんとこのヒグマ、関所前で消えたヒグマにそっくりだった。


「なぁあんた、オレはなんに見える?」


深刻な表情のヒグマはサンピエールの肩を掴み、威圧的に問いかける。今にも捕食せんとばかりだ。


「は?なにってヒグマだろ」


ヒグマの威圧に怯えながらも虚勢を張り応える。しかし自分がなんのアニマルかわかっていない?ハムハムフードを食べた豚は己がハムだと認識していたが、ハムハムフードではない別のものでも食べさせられているのか?いや、そもそもなぜ消えたはずのヒグマがここに?


「あんたもか…みんなもオレの事シマリスだっていうんだ。でも違う!オレはもっともっとカワイイアニマルのはずなんだ。幼女にキャァキャァいわれる感じの…幼女のあんたなら分かるかと思ったんだが。」


虚しげに語るヒグマ。ハムではなくシマリス?!たしかにシマリスはハムスターと同じ齧歯目ではあるが…いやそもそも、なぜ己からかけ離れた可愛らしいシマリスと同じ種類などという妄言が言えるんだ?子グマならまだしも、このヒグマに愛らしさはカケラも感じない。幼女にキャァキャァ言われるには年を取りすぎている、今のヒグマにはギャァギャァが関の山だ。


「いやヒグマだろ!」


苛立つサンピエールは叫んだ、がヒグマの表情は変わらない。


「オレは一体なんなんだろうな。ハムハムフードを食ってからずっとオカシイんだ。なんだか自分が分からない。でもオレがカワイイことは分かる」


ハムハムフードが原因なのか?ならなぜ己への認識がこうも定まっていない?そしてなぜヒグマの耳はサンピエールの声を自動で編集する?


「だからヒグマだと」


ヒグマの耳については最早生命の神秘に関わる謎なのかもしれない、諦らめを滲ませながらサンピエールは最後に抵抗した。その努力をお天道様はきちんと見ていたのだろう、ヒグマの横から発せられた白黒のアニマルの言葉は鶴の一声のように思われた。いや、あるいは蒼穹の青空を切り取る白い飛行機雲か、またあるいは、重く沈む鼠色の雲海から差し込む一筋の光明のようですらあった。


「諦めろクマハチ、私たちはただ己に問いかけることしかできない。他のアニマルの答えではなく、自分で答えを出さなければいけないのだ」


高く澄みきりながらも、落ち着いたその声。サンピエールはそのアニマルに後光が差し込むのをみた。


「アリークイッさん!そうだよな、ごめん、オレ焦ってたみたいだ。あんたもすまねぇな!」


名前から察しろよ。 サンピエールの心は蒼穹の青空を埋め尽くす無数の白い飛行機か、またあるいは、重く沈む鼠色の雲海から差し込む一筋のレーザー破壊光線をただ見ていることしかできない民衆のように恐怖に埋め尽くされていた。

次回予告!

震える体、怯える心

この手にかかればなんであってもトリュフ!

うおぉー!トリュフ!!


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