ハムゥ〜! その五!
前回のあらすじ!
ドブネズミ親分まじ尊敬!
僕子分のサンピエール3世です!
実は僕、親分からの命令で豚と一緒にマグロ漁船に乗り込んだの!
はじめてだからワクワクしちゃう!とっても楽しみ!
漁師デビューを果たしたサンピエールと豚!
小舟に揺られながら仕事場となる巨大母艦に到着した彼らは、何日か経った今、調理スペースでカマボコの山を築いていた。
マグロ釣るまで死ぬまで働いて貰うからな!
同じ小舟のハムたちとともに船長ハムに面会させられたときの船長の第一声がこれだ。
しかもサンピエールたち以外は即日マグロ釣りに参加できているのに、自分たちは山と積まれる新鮮な魚をひたすら潰して成形して、を繰り返してばかり。たまに見回りにくる先輩たちも一向にマグロ釣りに参加させてくれる気配がない。このままマグロを釣る機会も与えられずに死ぬまで飼い殺されてしまうのではと焦り、先輩や船長に直談判をしたがマグロ釣りの話題を出すだけで殴られる始末。
状況が好転も後退もしない、ただジリジリと断崖に追い詰められているかのような恐怖に襲われながら、サンピエールは豚を伴い今日も調理スペースに向かう。
しかしその途中、豚の鼻がピクリと動き、調理スペースへ向かっていた足を止める。
「どうかしたのか?豚?」
ハムと化してからの豚は言語を理解できないようで、この何日かサンピエールが話しかけても何も反応を返さなかった。今回もサンピエールの問いに豚が反応を示すことはなく、鼻を地面に向け匂いを嗅いでいる。
豚、匂い、探す。これらの符号が表すのは…!
トリュフだ!世界三大珍味として有名な高級食材!流石豚!ハムと化し言葉を忘れ己すら忘れても、トリュフの匂いは忘れない。豚の職業意識の高さに感動するサンピエールだが、そんな暇はない。一刻も早くトリュフを採取し、その金で親分と交渉。このマグロ漁からの撤収を許可して貰わねば。早くこんな窮屈な職場から抜け出したいと逸るサンピエールは鉄材で覆われた母艦内にトリュフが自生するわけなどないことを失念していた。
サンピエールの期待なんぞ知ったことかと言わんばかりに豚がのろのろと歩み、サンピエールは自分たち以外にトリュフに気づくものがいないことを必死で願うなか、ある穴の前で豚の足が止まった。
穴の正体はウォータースライダーのように人一人なら余裕で入れる筒の形状をしたパイプだ。船に入ってから日の浅いサンピエールは当然何処に繋がっているのか知らない、が、トリュフに目が眩んだサンピエールは何も考えず穴に飛び込んだ。
そして後に残るは、底知れない闇を瞳に飼う一匹の獣のみ。
サンピエールが巨大滑り台で尻を痛めながら落下した先は硬く冷たい金属の床ではない、感触からして土だろうか。
丸く整えられた土壁のトンネルは薄暗く、頭上にある疎らな間隔に吊るされたランタンのようなものしか光源がない。
滑り台を楽しむことで心に余裕ができたサンピエールは己の痛恨のミスに気づく。
豚を置いてきてしまったのだ。
豚がいなければトリュフは探せない。ハム化してからは豚に取り付けておいたリードを捌き豚に作業させていたが、トリュフ探しには邪魔かと気を回して外してしまったのだ。己のあまちゃんっぷりに我が事ながら呆れるサンピエールだったが、やってしまったことは仕方ない。
ここにも沢山ハムがいるはずだ。ハムならば豚ほどにトリュフ探しが上手くなくとも、優れた嗅覚でトリュフの手掛かりを掴むことくらいならできるだろう。
ハムを探す、そう目標を定めたサンピエールだったが、これが困難を極めた。
仮に地下空間と呼ぶことにするが、この地下空間はさながら迷路だ、それも三次元の。右左だけでなく上下斜めあらゆるところに入り口があるのだ。取り敢えずは、と直進し続けてはいるが、スタートした地点にも戻れそうにない。
行き詰まるサンピエールは、いっそのこと大声で助けを呼ぼうかと迷うが、それは最後の手段。もし、ここで助けを呼び先輩や船長にサボったことがバレれば一体何回拳骨を貰わねばならないのか。考えたくもない。トリュフさえ見つかればあとのことなんて考えずとも良くなる、だから今はトリュフだ。
トリュフの魔力に取り憑かれたサンピエールは気づかない。己が歩む道が死神が丁寧に整地した地獄へのレッドカーペットであることも、豚に宿る怪しい影にも。
サンピエールは果たして地下迷宮から無事脱出しトリュフをその手にすることができるのか?!
置いていかれた豚は一体どうなってしまったのか!
トリュフは本当に鉄から自生できないのか!
全ての謎が複雑に絡まり、明るいはずの未来は雲りゆく!
晴らせ雲!突っ切れ雨!蹴とばして靴占い!
トリュフのためだ!頑張れサンピエール3世!
次回予告!
トリュフ!トリュフ!
白いトリュフ!
トリュフ!トリュフ!
黒いトリュフ!
トリュフ!トリュフ!
青いトリュフ!