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祭 後の

「私は、何も知らずにえらそうなことを言っていましたよね。すいません」

 夕食の後、すぐにナナオに謝罪した。

「そんなに気にしなくていいよ。むしろ、座学はヒョウカのおかげで助かっているし」

「でも……」

 昨日の一件でナナオの実力は相当なものだと知った。そんな相手に偉そうに勉強を教えるなどと言っていた自分は相当滑稽だっただろう。

「それに、今のマイルぐらいならそのうちヒョウカも簡単に倒しちゃうよ」

「そんなことはありません。あれでも、防御には相当自信があったんです。でも、それも簡単に破られましたし」

「まあ、たしかにあそこでウォールっていう選択は間違いだよね。あれなら、アイス・ダンの大きめのを撃つだけでよかったわけだし」

「あんな攻撃が二節の術式で止められるわけがありません」

「いや、ヒョウカの力ならあれぐらい余裕……ああ、そうか。なるほどね。じゃあ、今から私が授業してあげましょう。といっても簡単に口で説明するだけだけど」

 ナナオはそう言ってから説明を始めた。

「じゃあ、まずは基本的な話からね。精霊術は祈りをささげて指示することでそれぞれの属性に合った動きをする」

「それは一年生の教科書にも書いてある。基本です」

  そう、基本だ。

 それぞれの属性には特徴がある。

 フレイム:精霊を振動させる

 ウィンド:精霊を移動させる

 グランド:精霊を活性化させる

 ウォーター:精霊を集合させる

 アイス:精霊を停止させる

 炎が発生するのは精霊が振動することで炎が生まれ、精霊が移動すれば風が発生し、精霊が活性化させれば大地に影響が出る。そして、精霊が集合すれば大気の水分も一緒に集まってくる。 結局のところ精霊術による水や火はその副産物でしかない。

「じゃあ、そこに書いてあったその特徴をを踏まえて今回のことを考えてみよう」

 今回の術式はウィンド・ダン・シン・ブラストだ。ダン・シン・ブラストは一度球状に力をためて収束させた細い砲撃だ。ただ、その大本はウィンド、つまり精霊の移動ということになる。

「つまり、移動を止めるということですか、だけどそれなら……」

「『それなら、私の選択は間違ってない』かな」

「うっ」

 言いかけた言葉の続きを言い当てられて言葉が詰まってしまった。

「じゃあ、どうすれば…」

「簡単だよ。ヒョウカの場合だと直接凍らせればいいの」

「えーっと……具体的にはどうすれば」

「直接触れてーー」

「それでは腕がもげてしまいます」

 それこそスパンッと吹き飛んでしまう。

「そうかなー、手の周りに冷気を集めてすれば簡単だと思うけど」

「そんなことができるなら苦労しません」

 なんだか騙された気分だ。あれほどの技を防いだのだからとてもすごい話を聞けると思ったのにまさかの机上の空論とは……がっかりだ。

「ナナオのやり方は実際にするには難しいね。それよりももっとシンプルな方法があるよ」

「ぜひとも教えてください!」

「ヒョウカ、そんなにがっつかなくても」

「すっ、すいません」

 思わず握ってしまったユーリの手を放してゆっくりと席に着いた。

「でっ、どうすればいいのでしょうか」

「なんで急に丁寧になったのかはわからないけど…まあ、いいや。あの時出したナナオの術とヒョウカの術の違いを考えればわかるよ。ちなみに、特殊なことではありません」

 『特殊なことではない違い』と言われるととても難しい。そもそも、あの時見た術自体が特殊なのだ。世界には魔獣を操る者や精霊を宿した武器を使う者までいるというが桜を再現する術なんて聞いたことがない。

 そんな術で『特殊なことではない違い』を見つけられるのだろうか。

 そういえば、『ウォール』は間違いだとさっきナナオに指摘されたばっかりだ。じゃあ、違うものであれば問題ないということだろうか。例えば、『シン』はどうだろう?

 先端が術とぶつかり合うようにすると木っ端みじんになるだろうし、うまく正面に当たらなかったときが怖い。なら、術に対して垂直ならばどうだろう。これなら、しのげるかもしれない。

 ただ、模倣しただけで違いにはならない。

 でも、今…なにかがピンときたような気が。

 もっとシンプルに考えよう。

 そもそもの違いは木と壁か、特殊な術かどうかだ。

 だとすれば、違いは木と壁だ。

 ああ、なるほど。

「平面か曲面か、ですね」

「そう、正解。まあ、ある程度の強度と厚さはいるけどね。そこは経験の差ってことで」

「でも、それがどうして対処法になるのですか?結局は面に対して点でぶつかるわけですから突破されるような…」

「そこは風が発生するという特性かな。いくら威力を強めて放っているとしても強風であるのは変わりないからね。力を分散させればなんとかなるよ」

「なるほど……」

「そっ、そういうこと。ねっ、簡単でしょ」

「ナナオ、本当に分かってましたか」

「うん、まあ…それは当然」

 ナナオがばつが悪そうに下を向いてまったくこちらをみようともしない。

「目をみて答えなさい、目を」

「あははー、マイルダイジョウブカナー」

「なんでカタコトなんですか」

「ワタシ、マエカラデス」

「いや、わざとでしょう」

「まあ、冗談だけどね」

 ナナオはあっさりとした様子で答えた。

「そういえば、ひとつ疑問があったのですがどうしてマイルは4節で唱えたんでしょうか?」

「さあ?ちょっと時間をくれたんじゃない?」

 確かにナナオの言う通りかもしれないそのおかげで防御できた。

「僕はそうじゃなくて的確に操るためだったんじゃないかな。僕が思うにあれはもっとすごいことをするために徹底しているように見えたよ」

 なるほど、マイルであればその可能性も十分あり得る。どれも本当のようで、違うような気がする。でも、ナナオが言ったような理由であれば少しうれしい気がする。

 マイルは大丈夫だろうか。


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