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祭り3

「それにしてもマイルには悪いことしたな」

「反省しているなら迷子にならないでください。さすがに会場に向かう道中で迷子になられるとどうしようもないんですから」

本当に反省しているのだろうか。すでに三日目であるが、一日二回ほど迷子になっている。

 そもそも、セイカに来るだけで迷子になること自体が考えられない。ユーリの村はマイルたちの最初の目的地のキヅだ。キヅからここまでは西にまっすぐ街道を進むだけでいい。マイルたちが通ってきたシラニワ街道のような人が通りやすいから利用されている道と違ってキヅからの道は間違いなく整備された街道なのだ。それをまっすぐ行くこともできないのだから当然迷子になる。

「それにしても、マイル遅いね」

 ふと、思い出したようにナナオが口を開いた。

「実は迷子だったりして」とユーリがつづいた。

 それはないだろうと内心思うし、この二人にだけは言われたくないと思う。

「そういえば、ユーリを見つけた日の帰りにーー」

 急に背筋に悪寒が走る。何かとんでもないことが起きるようなそんな気がする。ユーリやナナオも感じ取ったのか目を見開いている。

 次の瞬間、爆発音が町中に響いた。

「いっ、今のはなに!?」

 驚きのあまり声を荒げてしまった。そんな私とは反対にユーリは落ち着いた様子でこう答えた。

「わからない。とりあえず、向かおう」

「たぶん、マイルだよ。

 ふたりは部屋を飛び出した。


 ……

 現場についたとき私は絶句した。

 地面がえぐれていてその周りにはいくつかのクレーター状の穴ができていた。それだけでも十分被害を物語っている。さらに、その近くで五人が横たわっていてピクリとも動かないという事実がよりこの惨状を物語っていた。

 私はすぐにこの原因を探るために周囲を見渡した。そして、その原因はすぐに見つかった。というよりは、向こうから吹っ飛ばされてきた。

「ふざけんな!落ちこぼれのはずだろ。そんな奴がなんでこんなにも強いんだよ」

 副村長の息子であるセイジロウが叫んだ。

 その声はマイルに向かっていた。

「マイル、落ち着いて」

「どけ、今なら一人殺すだけで済む」

 淡々とマイルは答えた。

「そんなことを言われて『はい、そうですか』って引き下がれるわけがないでしょう。村長の娘として住民を守る責務がある」

「そうか。なら、殺すのが二人になるだけだ」

 その声には殺意しかこもっていない。

 村長の娘としてここは引くわけにはいかない。場合によっては反撃に出なければいけない。

 マイルが手を前にかざす。その瞬間、周囲の空気がマイルを中心に集まり始めた。ウィンド系のそれもとても強力な術であることは間違いなかった。

「ウィンド・ダン・シン・ブラスト」

「アイス・トリ・ウォール」

 発動はほぼ同時、ただすでに自分が取り返しのつかないミスを犯したことに気づいた。

 相手の力量を完全に見誤った。もちろん、警戒していなかったわけじゃない。ただ、心のどこかでマイルだから大丈夫という思いもあった。

 ただ、それ以上に自身の能力の特異性を過信していた。アイス・トリ・ウォールは三重の氷壁で自分が習得している術の中では最上位の防御術だ。大概の術は防げる。相当な貫通力か特殊な術がなければ貫けないはずだった。用心して対処したはずだったーーはずだったのにマイルの攻撃は四節詠唱の術だった。ウィンド・ダン・シン・ブラストという術は聞いたことがなかったがその全容は簡単に想像できる。

 ウィンドを球状に圧縮しそこから放たれる針状の砲撃、つまり収束砲である。それをたった2、3メートルでだ。

 すぐに割れることはないが壁が確実に削られている。

 このままでは間違いなく二人とも死ぬ。そう思ったときにはすでにセイジロウをふり絞って出したアイス・ダンで吹き飛ばしていた。

 そして、最後の一枚にひびが入っているのが見えた。

炎桜エンオウ:八重」

目の前に一本の大きなサクラが現れた。

 それは、目を奪われるほどの美しく幹まで淡いピンクの桜だった。


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