お祭り2
祭りとは不思議なものでその人が元から持っているものを浮き彫りにする。
例えば、嫉妬心だったり明るさだったりだ。特に負の感情は表に出やすい。まあ、理由はシンプルでいつもは自制がきいている部分がその場の勢いで歯止めがきかないのだ。だから、ケンカやもめごとが発生する。
そして、今その事案が目の前で自分に起こっている。
目の前には自分とたいして身長の変わらない青年が立っている。細身でありながらしっかりとした体つきで顔も整っている。印象としては頼りになる好青年だ。聞けば副村長の息子らしい。どうも、付き人である俺がヒョウカやユーリ、ましてやナナオにも普通に話していることが気に食わなかったらしい。
まあ、こうなることを避けるためにもわざわざユーリにみんなの前で言わせたわけだけどそこも含めて気に食わないらしい。
見た目以上に中身は成長していないらしい。しかも、タイミングが悪いことにちょうど一人で迷子になるユーリの代わりに買い出しに来ていた。
当然、相手をするわけもなく。軽く説明して帰ろうとした。それがないがしろにされたと感じたのか余計に怒りだした。
「お前、俺が誰だかわかってて言ってんのか」
「副村長の息子ですよね。それはさっきも聞きましたよ」
「だから!その言い方がそもそもおかしいって言ってんの。わかる?」
「結構これでも、丁寧に説明していますが…」
「だから、その上から目線がおかしいって話をしているんだよ!」
そんな話だっただろうか?えーっと…確か普通に話していることが気に食わないって言ってたよな。まあ、頭に血が上って錯乱しているんだな。なおさら、刺激するのはまずい。
どう返そうか考えているとさすがに周りもおかしいと感じ始めたのか止めに入る。が、残念なことに本人はやめる気はないようだ。
ただ、周りに制止されたことで少しは冷静になったらしい。そして、気づいた。俺に対する威圧は無意味だと。
「なるほど、そうかお付きがこんな奴ということは主人も相当ひどいやつかもしれないなあ」
「たしかに、そうかもしれませんね」
「そういえば、この前お屋敷から勉学が嫌だといって逃げていくところを見ましたよ」
「なるほど、さすがは片田舎から来ただけありますね。下の者の面倒すら見切れないとは主としてはおろか術者としても最底辺では」
「たしかに。今思い出しましたが、最初に来た時もジーニモンキーに追われて逃げてきたとか。それで、ヒョウカ様に救われたらしいですよ」
「あの、最底辺のジーニモンキー?それはそれは。きっと何も知らなかったこの付き人の人が連れ込んだに違いない。それで、何もできないくて死にかけたところをヒョウカ様に助けられたと。ハハハハッ、それはとんだ笑い話だ。しかし、主人も早く助けてやればいいものを」
「それが、どうやら付き人を置いてさっさと川を渡ったようですよ。よほどに実力がないのでしょう」
「なぜ、桟橋を通らなかったのでしょう?」
「それは、さすがに死体で桟橋が汚れないようにという弱者なりの配慮では?」
「なるほど!それで、ヒョウカ様に試験前に教えていただいていたと。しかも、命まで助けられたうえに指導までさせるとは厚顔無恥とはまさにこのことだ」
と、口々に言い始めた。なるほど、たしかに効果的な方法だ。今にも、殴りかかりそうなほど腹が立っている。
「しかし、そこまで教養のない人間が村長の娘というのもおかしな話では?」
「たしかに、では替え玉ですかね」
「いやいや、それでは事前審査でばれてしまいます」
「じゃあ、こういうのはどうだろうか。愛人の娘で本妻との間には子供がいないとか」
「なるほど、そうかもしれません。そんな最低な村長のしかも愛人の娘であれば教養がないのもうなづけます」
普通なら殴りかかる場面だろう。ただ、俺は違った。こんな時に気づいてしまった、倫理には反するが自分が得をする方法を。
それはしおりの注意事項にこう書いてあった。
・他の村で略奪行為および殺傷行為があった場合は受験資格をはく奪する。
気づいてからは早かった。
一人…二人…3・4・5・6か。何とかなるだろう。
「覚悟は……いいな?」
「へ?」
副村長の息子から気の抜けた返事が返ってきたところまでは覚えている。そこからの記憶は一切ない。