お祭り1
基本的に多くの村民は村から出ることなくその一生を終える。受験生は外に出るがそれも事前に役人が調べに来て実力があるものとその従者、もしくはその村の中では一番精霊術を使えるもののどちらかだ。
もちろん、俺は前者である。
ただ、精霊術は努力すれば成長するものではなく、才能によるところが大きい。精霊術に必要なのはヒョウカのような特異性やユーリのような精霊との親和性が必要となる。
当然、そんな人間がポンポン現れるわけがない。さらに、実力のある人間というのは精霊術を学問として勉強している人間ということだ。ざっくり言うと村長クラスの子供である。
だから、ひとつの村で最大でも5人しか外に出ない。
そんな状況で、村長の娘の知り合いで他の村の出身者というのは非常に珍しい。
そんな人間が来たらどうなるか……お祭り騒ぎである。
町中が来客を祝い、そして通るたびに立ち止まって一礼する。話すことはせず話しかけられた時だけ笑顔で返答する。
形式上では知っていたものの本当にすごい。ただただ感心するばかりだ。
「いやーそれにしてもすごいな」
「僕はいいって言ったんだけどね」とユーリは照れくさそうに答えた。
「まあ、ここの村長が決定したからしょうがないな」
それはもう早かった。村長は連れてきたユーリを見た瞬間に準備を指示し、ユーリの体に問題ないかを調べるために医者を呼びつけた。
診察は10分ほどで済んだがその後は村長からの質問攻めだった。そのせいで終わるころには診察前よりぐったりしていた。
「それにしても、君は策士な上に無欲だね。逆に怖いよ」
「そうか?普通だと思うぞ。村長の娘のお付きなら」
「そのお付きとして100%の模範解答だから怖いんだよ」
ユーリが言っているのは、診察が終わった後のことだ。事の次第を聞いた村長は、いますぐにできる範囲でお願いを聞いてくれるらしい。
そこで、俺が出した答えが
・ユーリが村長家族と食事を共にするならナナオも同席をさせること
・明日以降のお祭りでナナオはユーリに次ぐ待遇であること
・もしユーリがヒョウカの部屋に泊まるならナナオも同室にすること
この三つをお願いした。 別におかしいところなんて一つもない。
内容的には問題がないと思うし、どうせ特待生として一緒に暮らすのであれば今から準備していて問題ないだろう。この主の新たなる人間関係への配慮、まさに従者のかがみ。
「こっちとしては同行する時にため口でって宣言しないといけないんだから勘弁してよ」
「そっちの方がひんしゅくを買わなくていいだろ。『あいつはなんで従者なのに来賓と対等なんだ』って言われる方がめんどくさい」
「……」
ユーリが急に立ち止まって黙った。
「ん?どうした?」
「いや、ちょっと気になっただけだよ」
「なにが?」
「どうして、そこまでして中心にいられるはずなのにわざわざ端にいようとするのかが気になっただけだよ。僕はそういう動きをする人間を何人も見てきた。そのタイプは周りに傷だけを残して死んでいくんだ」
なにかを見透かしたような、そして重くのしかかるような言葉だった。そして、それを言うユーリの目はまっすぐであまりの迫力に背中に氷が張り付いたんじゃないかと思うぐらい寒くなって震えた。
だから、どうしてそんな言葉が出たのかはわからない。ただ苦し紛れで出ただけかもしれない。
「なんか、含蓄のある言葉だな。その年でたくさんの人を見てきたんだな。普通じゃ見られないほどの人の死を」
それに対して、ユーリはさっきまでと打って変わってこう答えた。
「はははっ、まさか。先祖代々の受け売りだよ」
「なるほど、それならその深さもうなづける」
「でしょ、さあ今日は西の方に行こう。向こうはご飯系の屋台が出るらしい」
「それはいい。ただ、昨日みたいにはぐれるなよ」
俺たちは再び歩き始めた。