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接触

「よーし、ここまでくれば大丈夫だろう」


 そこはセイカの中心から少し離れた開けた丘だ。

 別に何かをするわけではないがここにいるだけで気分がいい。

 ただ、何もしないというのもしゃくなので精霊陣を一個ぐらいは書いてしまおう。

 どうせ一人だ、ゆっくりとすれば…


「あの、なにか」


 気配のする方に声をかけてみる。反応がない。

 もちろん気のせいではない。あきらかにフードが草陰から飛び出している。


「あの、そこの黒のフードの人!見えてるし、怒らないから出てきなよ」


 いっこうに出てくる気配がない。

 あの人、昨日もいた気がするけど。まあ、いいや。


ー30分後ー


 「よし、完成」

 三つの円に幾何学模様と文字が書かれた陣が完成した。


「あとは、発動するだけっと」


 手を陣の前にかざす。

 すると陣が光り出し、その光がだんだん強くなる。

 そして、一瞬だけぴかっと光ったかと思うと陣は光を失った。


「おおっ」


 草陰に隠れていた子が歓声を上げる。


「やっぱりいるよね。もう声でばれてるから」

「さすがは一流の術者だね。すごいよ」


 私ほどの能力を持った人間でもあなたぐらいになるとさすがにばれるのね、と言わんばかりに淡々と答えた。さすがにフード見えてましたよとは言いづらい。それも、昨日からフードが見えてばれてましたよとは言いづらい。

 とりあえずごまかしておこう。


「まあ、なんとなくかな」

「さすがだよ。きれいな陣を書くだけはある」


 その目をキラキラさせて言うのはやめてほしい。心苦しくなるから。


「いやいや、きれいに書くだけはっていうけどこれ失敗しているし」


 何も起きなかった陣を指さしてそういった。


「うーん、たしかに……そうも見えなくはないね。でも、僕は騙されないよ。精霊の動きを見ていればわかる。4節の陣式精霊術をきれいに構成し、きれいに終了するなんて芸当は相当努力しないとできないよ」


 ああ、なるほどこのフードの子は見えるのか。またこれはめずらしいタイプの人間に会ったものだ。

 精霊の見える人間というのは全人口の1%しかいない。さらに、動きまでわかるとなるとさらに人数が少ない。

 つまり、選ばれた人間が目の前にいる。ちょっと残念な感じだけど。


「そう、褒められてもなあ」

「なるほど、あれほどのことは朝飯前と……うん!さすがだ」


 いやーそういう意味じゃないんだけど。こんなことができても意味がないってことだったんだけど。


「しかし、もったいない。君が精霊術をー」


 そこから先は口をつぐんだ。これ以上は踏み込まないという意思表示なのか言葉が浮かばなかったのか、それとももっと違う意味があったのかは知りようもなかった。


「まあ、それはそうとしてどうしてこんなところに?」

「ああ、そうだった。君、ヒョウカの家を知らない?」

「ヒョウカってここの村長の?」

「そうそう。ヒョウゲンのヒョウカだ」

「ヒョウゲン?」

「そう、氷の幻と書いて氷幻だ」

 あいつ、そんな二つ名まであるのか。今度呼んでみよう。どんな反応するか楽しみだ。

「ああ!ユーリ、ここにいたのですか。ずっと来ないから心配していたんですよ」

「噂をすればなんとやらだね。やあ、氷幻の」

「氷幻の」

「ちょっ、ちょっとなんですか。ユーリ!そのヒョウゲンって呼ぶのはやめてっていつも言ってるでしょ」


 ヒョウカの顔はどんどん赤くなっていく。恥ずかしいのか、もっとクールな奴だと思っていたのに意外だ。


「うん、びっくりするぐらい真っ赤だ。おもしろい」

「わたしの二つ名で遊ばないでください!」

「それはそうと、なんでこんなとこにいんの?」

「えーっと…それは…あれっ?さっきまでここにいたのに」

「ナナオだな。もういい、萎えた帰る」

 ばらした本人はいないみたいだし、人に見られながらやるようなものでもないし最低限やらなきゃいけないことはやったし良しとしよう。


「ヒョウカ、この人ははすごいよ。なんせ4節を一から構成して途中終了させたからね」

「4節を一から構成して途中終了?いったいどういう…」

「絶対に教えない」

「なんで!?」

「なら、僕が解説しよう」

「お前は余計なこと言わなくてもいいんだよ」


 そう言いながらユーリのこめかみをグリグリする。


「痛い痛い、お前は初対面の相手にそんなことまでするのか!」

「知るか!」


 さらに力をこめてグリグリする。


「わかった、言わないからやめてくれ」

「あっそ」

「ううっ」

「ねえ、ほんとにあなたたち初対面?」

「ああ、そうだよ。厳密には昨日も覗いてたけど」

「へぇー、そこまで気づいていたんだ。さすがだな」

「ちょっと待って!昨日から村にいたの?なんでうちに来ないのよ」

「そもそも、村に入っていたことに気づいてなかったんだ。たぶん、ヒョウカに会ってなかったら間違いなく山沿いに進んでいたよ」


 山沿いって確かコトナラの方だよな。むしろ、俺が話しかけなければそっちに……。

 うん、残念な感じだな。


「もう、ユーリは女の子なんですから気をつけてください」

「えっ?」


 いまなんと?


「ユーリは女の子ですよ。こんな口調だから気づかなかったかもしれませんが」


 そう言ってヒョウカがフードをはがすと目がくりくりっとした整った少女がいた。

 あっけにとられていると「そう、僕は女だ。本名はユーリ・オーサーだ。改めてよろしく。君は?」といった。


「マイル・アマギ。まあ、入学する前に落ちるかもしれないけどよろしく」

「マイル?それは、本当に君の名前?」

「ああ、そうだよ」

「村長の息子・・・・・・・・・はそんな名前じゃなかったような」

「村長の息子?村長の娘の付き添いではあるけど…」

「なるほど……そっか僕の勘違いみたいだ。君の実力なら手を抜いても十分な成績をだせると思うけどね」

 と、手を差し出した。


 含みのある言い方はが気になったが悪い人ではなさそうだ。


「あと、付き添い役は基本的には最低クラスで大概は入学させられるから。落ちることはないよ」

「えっ!」

「嘘じゃないよ。だって、君の主はどうか知らないけど従者がいないと何も出来ない人もいるからね。まあ、クラス分けはちゃんと試験があるけど」


 つまり、試験会場に着いたら入学が確定ってことじゃ。あれあれ?じゃあ、村から出された時点で入学させられるのでは?

 ああ終わった。

 俺はユーリと笑顔で握手した。

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