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勉強会

「絶対に嫌だ」

 「まあまあ、そう言わずに」とヒョウカ=セイカ=クライシスはつぶやいた。スラッとしてきれいなたたずまい、蒼眼にシルクのように透き通る蒼髪。一般的な男性であればその妖艶さでたしなめられればそれはもう落ちたも同然だ。すぐに、ここ掘れわんわんでも何でもするだろう。ただ残念ながら、俺はもう気づいている、こいつのこの笑顔がよそいきの顔であると。

「もう一度言う、絶対に嫌だ」

 何をそんなに嫌がるのか。受験生が嫌がるものなんて一つしかない、勉強だ。

「そこを何とか」

 もう一度、さっきよりも1トーン下げてゆっくりといった。

「絶対に!やだやだやだやだやだ、勉強したくない」

「子供か!」

 床に寝転がりながら床をたたく俺に思わず、声を荒げたヒョウカがしまったという顔をしていた。

「あれれ~、おっかしいなあ。村一番の才女であるヒョウカさんのおしとやかさがどっかにいったぞー」

「あら、おちょくっているつもりですか?だとしたら、お粗末ですね」

「ヘェー、その割には笑顔が引きつってピクピクしてますよ」

 今までの人生の中でこんなにも殺伐とした笑顔の会話は見たことがないとナナオは思った。

「なら仕方ありません。少しだけ授業を受けてからテストを受けるか、もしくはテストを受けて点数が悪ければ授業を受けるかどっちがいいですか」

「どっちか?」

「そう、どっちか」

 少しだけ授業を受けてからテストを受けるか、もしくはテストを受けて点数が悪ければ授業を受けるかか。当然、テストの点が悪ければ授業のほうが魅力的だ。うまくいけば今日はテストだけだ。

 いや待てよ。

「どっちも嫌だ」

 騙されないぞ。どっちにしろテスト受けなきゃいけないじゃないか。

「チッ」

 あっ、今こいつ舌打ちしたな。

「じゃあ、そういうことで」

「氷漬けにしてでも行かせませんよ。アイス・ダン・ウォール」

 三節の拘束術式とか反則だろ。

「ウインド・ダン」

 小さな風の玉と拘束術式が衝突して風の玉を中心に氷の壁が形成される。

「ウォール・シン」

氷の壁から針が飛び出る。

「あぶなっ!殺す気か!」

「そんな簡単には死なないでしょうに」

「そこは否定しないのな」

「あの!お嬢様、今の轟音はいったい!」

「いや、その実践をしただけで…」

「よし、じゃあ遊びに行ってくるわ」

 と言って、窓枠に手をかける。

「ちょっと待ちなさい。ここ、三階」

「待たないね。じゃあ、ナナオ。勉強頑張ってね」

 そう言い残して、窓から飛び降りてふわりと着地した。

「よし、とりあえず遠くに逃げるか」

 全力で逃走することにした。


「はあ、また逃げられた」

「ほーら、だからほっておけばいいって言ったでしょ」

「いえ、将来教師を目指す身としては勉強嫌いの生徒を構成させるのは先生の役目。絶対に更生させてみる」

 熱いハートに冷たい攻撃、それがヒョウカ。

「それ以上に私は感心していますよ。特待生で試験勉強の必要もないあなたが今もなお熱心に授業を受けてくれていることに」

「私は別に使役精霊が特殊なだけで普通なら受かってないよ」

「そんな、謙遜しなくてもいいのですよ。三年生の科目も解けていますから十分です。本当に爪の垢を煎じて飲ませてあげたいぐらいです」

「本当にダメダメならそうして欲しいけど実際はそうじゃないから」

「でも、この前のテストは散々でしたよ」

「だってあの時はやる気なかったもん」

「そうですか?本人は偶然覚えていたところだけ書いたって言っていましたけど」

「本当はもっとできるよ。ただ、村長の娘である私よりも成績がいいと私の立つ瀬がないでしょ」

「まあ、たしかに。でも、それだけの理由でやる気を出さないのは理解できません」

「まあ、そうだよねー。だから、わざと落ちるつもりなんだよ。そうすれば、私の方が結果的にすごいってなるでしょ」

 正直に言ってそれでもなおまったく理解はできなかった。自分ができることに負い目を感じることなんて今まで一度も経験したことがない。同世代の友人が偶然誰もいなかったということもあるかもしれないが、自分の周りには村長の娘だとかそんなの関係なくはっきりと言ってくれる人が多かった。

 そう言う人生を生きてきた人間からするとそれは自己犠牲ではなく異常な行為だ。

「まあでも、付き合いが長いから。ちゃんと対策は取ってるよ、私に任せなさい」

「はあ…まあ、ナナオがそういうならいいですが」

 素人目にもわかるほどの細かい精霊の制御、最小限での術に対する対処。これだけのことをいとも簡単にする人間を従わせるナナオの立場も気になるがそれ以上にどうやってあれほどの技量を手にしたのかそっちの方が気になって仕方なかった。

「うんうん、気になるんだね。わかるよその気持ち」

「えっ、いや。その…まあ、はい」

「実はね。だいたい行く場所は見当ついてるの。見にいってみない?」

 正直、見にいきたい、そう思っていた。ただ、人の秘密を盗み見るようなはしたないことをしたくないという葛藤もあった。ただ、それ以上にさっきの対処が的確すぎることがとても気になった。

 アイス・ダン・ウォールは二段階に変化する術式だ。アイス・ダンによる遠距離攻撃から包み込むように壁が発生する。発動条件は二つというよりは実質ひとつ球体の状態を保てなくなれば発動する。ここがみそだ。つまり、当たらなくても球状を保てなくなればそれで発動する。

 つまり、私としては直接当てて拘束するか退路を断つことが目的だった。なのに、それを読んでいるかのようにウィンド・ダン。二手目のウォール・シンの対策までばっちりした距離で強制的に発動させられていた。

 原理を理解して私がどうするかを想定したうえでの行動……ああ悔しい!

 ほんっとうに腹が立つ。もう意味わかんないし、そこまでできたら普通は自慢したくなるもんじゃないの。なにが、「やる気ない」だ。どうせ、「余裕そうにしながら精霊術を使う俺格好いい」とか思っているに違いない。

 そうだ、ここで弱みをつかめば勉強させられるかもしれない。

 「ええ、行きましょう」と、満面の笑みで答えた。

「なんか、ゲスイ表情している気がするけど大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 満面の笑みで答えた。

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