三話 『修羅場!!』
――半刻後。霧の出る泉。
そこで待つ、白いワンピース姿の金髪美少女を見つけて、
「お? シャル~~っっ!」
「む? 遅いぞ。タレム、待ち侘び……」
タレムは機嫌よく呼びかけた。
……隣に黒衣の修道服を身に纏う、美人妻を従えて。
「ムムムッ!」
「あっ。お、王女様……あわわっ」
何時のものように、恋人の儀式をしようとするタレムの傍らで、黒い修道女と黄金の王女が視線が交差。
同時に、王系の御前と、マリカが膝を地に落とし、頭を下げる。
……その直前。
――ダッタタタタタタっっ!
黄金の王女は、腕を広げる彼氏の眼前を通りすぎ、誰よりも早くマリカの足元に正座し、頭を地にこすりつけた。
俗に言う。土下座である。
「マ、マリカ殿であらせられるまするな? 私は、そこの凡夫とお付き合いさせてもらっておりまするシャルル・アルザリア・シャルロットと申します」
「え? え? 王女様。あっ!」
まさかの王女に先手を取られたマリカが珍しくあわてふためき、遅れて頭を下げる。
「わ、わたしは、この度、このダメ夫の妻となりました、マリカ……マリカでございます」
「ムムムっ! 何をっ! マリカ殿! 頭をお上げくだされ!」
「そ、それはっ! わたしの台詞でございますぅぅ! た、タレム様っ! コレはっ、一体、何なのでございますか!?」
「ムム! タレム! 早う、婦人の頭を上げさせるのだ!」
「……別に良いけど二人とも、焦りすぎて俺のこと冒涜してるからね」
王女と修道女。否! 彼女と妻が何故か、土下座競争を繰り広げる状況に、タレムも困惑する。
(何時も高圧的な、あのシャルが! なんでマリカちゃんにへこへこしてるんだ?)
……考えても解らない。
そんな時は、思考を放棄するのがタレムの常であった。
よって、タレムは頭を下げつづける二人に振り返り、両腕を広げ、満面の笑みで言う。
「ほらっ。シャル。とりあえず、何時ものちゅう。しよ? 別れたくないし」
「「……」」
――カチン。
そんな音が妻と恋人から、聴こえた直後、
「プリンセス……」
「シスター……」
二人はメラメラとした激しいオーラを纏い、声をハモらせて、
「「ダブルクロス・チョッパーッッ!」」
――ドダァアアアアンっ!
「ぐふぅっ!? ……な、なんでぇ!?」
「状況を考えんか不埒者!」
「目の前で浮気は許しません!」
タレムに会心の一撃を叩き込んだのであった。
――その後。
チカチカと光り舞う、幻影の星をみて目を回すタレムの横で、金と赤の少女はハイタッチ。
「ふふふっ」
「フフフっ」
難敵を共に倒した事で友情が芽生えていた。
……しかし、すぐにシャルルは、真顔に戻り、もう一度、深く頭を下げて、
「マリカ殿。十年前の社交界……あの時の事、ずっと謝罪したかった」
「……っ」
「謝って済むことではないが……何より先ずは、謝る以外に、出来ることもない。重ねて、謝罪をっ。わたしに出来る事ならなんでもする所存、故」
「……王女様。あなたは本当に」
シャルルは昔、マリカを殺そうとした事がある。
シャルルは、その時のことを激しく後悔し、戒め、頭を下げていたのだ。
「……変わられたのでございますね」
そんな王女の誠心誠意な謝罪に、マリカは物憂げに呟くと、
「あの時のこと……良く、覚えております」
「……うぐぅ。忘れてくれとは言わない。だが……償う機会を……どうか」
苦そうに奥歯を噛み合わせるシャルルの肩を優しく叩き、
「いえ。もう良いのでございます」
「……そうはいかん! わたしのしたことはっ! ――」
――ぎゅっと、身体を起こしたタレムの腕に抱き掴まって、
「この人を支えてくれた。愛してくれた。わたしは……それだけで、何もかもを許せます」
「……っ」
「それでもまだ、わたしに償いたいと仰せられるのならば。これからも……どうか、この人の道を照らしてくださいませ」
そう……言った。
最初から許していたと言うのではなく、シャルルがした行為を踏まえて贖罪する。
それは、謝ってもけして許されないと思っていたシャルルに、本当の許しを与える行為であった。
赤い髪と瞳の美しい修道女。
シャルルは確かに救われたのだ。
「ああ……マリカ殿は、本当に……聖女、なのだな」
「ふふ、王女様、それは、畏れ多い事でございますよ」
「マリカ殿。仰々しいのは辞めて欲しい。同じ男を愛す者……シャルと呼んではくれぬか?」
「……はい。では、シャル様と。なので、シャル様もわたしのことを……気遣わず、マリカと呼んでくださいませ」
「うむ。そうしよう。マリカ。だが、そちに対する、わたしの敬意は消えないぞ?」
ニコニコと微笑むマリカと、スッキリと微笑むシャルル。
そんな二人の慎ましい姿を見ていたタレムは、
「(……うん。全然、解らない。ていうか、俺、要らない人?)」
……首を傾げていたのであった。(続く)




