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四十七話 『決闘の結末』

 ――ピン。


 マリカによって弾かれた金貨がゆっくりと宙を舞、回転しながら降下していく……

 タレムとウィルムの集中は瞬きすらしないほどである。

 

「タレム様……」


 一瞬後には始まる命を賭けた闘いの緊迫した空気の中で、マリカが心細げにタレムを見つめていると、


「大丈夫。殿はさいきょーでござるので」


 リンがタレムから視線を外すさずそう言って、


「それよりも、皇后。そろそろ答えを用意するでござるよ? 殿も姫もその他諸々全員が、納得できる答えを」

「……全員が納得できる答え?」

「要するに、このまま、勝った方と……なんて考えで、殿と結ばれるなら、拙者が皇后を暗殺するっすよ☆ て、事でござる。殿が好きなのは自分だけと思わない事でござるよ」


 ――ちゃりんっ……。


 そんなリンの言葉が終わるとともに、金貨が床に落下した。

 ……決闘の始まりである!


「先手必勝!! 世界の時間から切り離す! とまっとけ! ふっ。舐めていたのはお前だったなウィルム!」


 刹那、タレムが魔法《時間停止》で時を止めた。

 もう、タレム以外は動けない。

 ……が、


「(舐めているのは君ですよ! マリカさんと親しい君の魔法は既に調べています。アイリス嬢との順位戦で見せたその弱点も!)」


 ウィルムはタレムを侮っていたが、それは、タレムを知っていて侮っていたのだ。

 ……絶対に勝てるから、

 

「(決闘開始前から、既に私の周囲には肉眼では見えない風のやいば《透明風刃(インビジル・ウィンドカッター)》を仕込んでいます。時間を止めて近づいて来た時が、貴方が死ぬ時でしょう)」


 騎士の闘いは魔法次第、一度攻略方が見つかった魔法など、おそるるに足りないのだ。

 

「(フフフ、あれだけ私に恥を欠かせたのです。当然、死んで貰いますよ?)」


 殺さないと言った事すらブラフに使い、確実にタレムの息の根を止める。

 それが、ウィルムの狙いであった。


「(さあ。……早く、時を止めなさい!)」


 ……だが。

 タレムもタレムで言葉とは裏腹に、時を止める事はしなかった。

 それどころか、何もせず真正面からゆっくりとウィルムに歩み寄って来る。


「(……何故、時を止めない? 真正面からの闘いで私に叶うと!?)」

「もしかして、アイリスちゃん、みたいに、俺が時を止めるのを待ってる? ……なら、もう止めてるぜ?」

「――っ!」


 悠々と堂々と、タレムは歩きながら語る。


「まあ、止めてるのは、お前の《肉体時間》だけだどね」

「……っ。(身体が……動かない!?)」


 ここに来てようやく、ウィルムは自身の身体をピクリとも動かせない事に気づく。

 小指も、眉毛も、瞼も、口も、何もかも、どんなに力を入れようと動かない。


「基本は、前にござるとの修業で体得した、《他人の時間へ干渉する》魔法なんだけど。普通に使うと、俺への負担が笑えないから、応用してみたんだ。どう?」


 タレムは何時も《時間停止》で、自分以外の全ての時間を止めていた。

 しかし、それでは、負担が大きく、長い時間を止める事は出来ない。


 だがである、何も一々、世界の時間を止める必要などなかったのだ。

 リンとの修業で身につけ、閃いたのは、個人を指定しての時間操作。


 世界の時間には干渉せず、ウィルムの時間だけを止めたのだ。

 タレムの新しい魔法(チカラ)《個別停止》


「《精神時間》は、また別みたいで、思考は出来るようだけど……その状態で、魔法が使えるかな?」

「(動かない! 動かない! 動かない! 魔法も制御出来ない……このままじゃっ! このままじゃっ!)」


 焦るウィルムだが、時から切り離された状態で出来ることなど何もない。


「騎士の闘いは、魔法次第。……お前は騎士じゃないけどさ。三ヶ月も前の闘いの、アイリスちゃんが即興で考えた攻略方で、俺を倒せると本気で思っていたの?」

「――っ!」

「ふっ、だとしたら、抱腹絶倒だね」


 言い捨てたタレムは、シャル・カテーナを鞘に戻して拳を握る。


「悪いけど、シャルに触らせる気にもならないや。とりあえず……」


 拳を握った右腕を、大きく深く振りかぶり、


「一生そこでとまってろ!」


 ――ぶんッ!


 ウィルムの顔面を殴りつけた。

 身体の時間が止まっているウィルムが反動で吹き飛ぶ事はないが、その分、衝撃と威力は蓄積し、痛覚は倍増。

 ……しかし、呻くことすら出来ない。


「アイリスちゃんの凄さと、マリカちゃんの純潔を汚した事を後悔して、ね?」


 決闘は、先に物理的な攻撃を直撃させた方の勝ち。

 つまり、タレムの勝ちである。

 ……だが。


「ちっ。……物足りない。俺、本当に、マリカちゃんを汚したこと、泣かせたこと! 腹腸が煮え繰り返る程、怒り狂ってるんだぜ? だからさ、もう、決闘とか関係なく! ちょっと、サンドバッグになっててよ!!」


 ――バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン。


 殴る! 殴る! 殴る! 

 動けないウィルムを一方的に、顔の血肉が裂け、骨が粉砕し、途中でウィルムの意識が消えようともなお、鬼気として殴りつづけた。

 ……10分以上もの間。


「ふぅ……っ。まあ、それでも……約束通り、お前を殺さないけどさ」

「……」


 まさに気が晴れるまで殴った後、背を向けて、マリカの元に向かう。

 背中では、ウィルムが、顔面を数倍に腫らし、失禁、血まみれで、涙を流し、瀕死の重傷に陥っていた。

 ……ウィルムの側近や従者が慌てて駆け寄っていく。


「ああ。助けようとしないほうが良いよ? 時を止めてるから死なないし、触ったら、触った人も止まるから……ってか、そいつ。俺、大嫌いなんだけど? 助けるの?」

「「「……」」」


 沈黙。

 上級騎士もいる中、誰一人、言葉を発する事も動く事も出来なかった。

 ……あまりにも、タレムの魔法が強すぎる。(続く)

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