二十八話 『騎士団の設立』
ノーマの騎士団加入を皮切りに、ロック村の住人達から続々と入団希望が集まった。
集まった団員の殆どが、疫病に犯され、タレムに救われた人々である。
そんな過程があったからか、士気も結束も、団長に対する信頼も、普通の騎士団より異様に高い。
そして、その騎士団の副団長には、記念すべき最初の団員となったノーマが指名された。
――そんな日の夕食刻。領主邸一階。リビングルーム。
マリカが真心を込めて作った和風料理が並ぶテーブルを、
『……食事はできる限り皆で一緒に摂る』
という、タレムの方針で、屋敷に住む食客以上の全員が囲っていた。
最初こそ、恐悦していたノーマも、最近は箸が進むようになってきている。
……と言うより、マリカが一生懸命、作った料理を残すことは、タレムが許さないのだ。
その代わり、タレムもマリカも、リンもイグアスも、礼儀作法が間違っていようと気にしない。
その、貴族らしくない、和気藹々とした温かな食卓は、天涯孤独の身であったノーマにしてみれば、何よりも求めていた家庭の様だった。
そして、
「副団長。……私で本当に勤まるのかな?」
美味しい料理を一口食べたノーマが、ホッと息を吐くように不安を漏らした。
「ま、そんなに気張る必要はないさ。ダメでも、タレムが責任を取るだけ、だからな」
「はぅうっ。それは……大丈夫じゃない気がします」
そんなノーマをイグアスがからかうと、
「そうそう。お気楽に構えるでござるよ。どうせ。殿より、剣の才能が無い人間なんていないっすよ。すぐに殿よりも強くなるでござる」
「酷いなッ!」
続けてリンが、ニヤニヤ笑いながら、タレムをからって、
「そういえば、タレム様の騎士団。名前はどうなさるお積りでございますか?」
「……あ、そういえばそうか。全然、考えてなかった」
最後に、礼儀作法を守って丁寧に食べていたマリカも話し出す。
その際、リンから教わった漬け物のたくあんを箸でタレムに差し出している。
……俗にいう「あーん。アナタ♪」だ。
――しゃきしゃき。
「美味しい」
「ふふ、それは、ようございました。たっぷりと旦那様を思う、愛が入っておりますので」
「わぁ――いッ! マリカちゃんの愛だぉ。もっといっぱい、ちょうだいな」
適当に言ったタレムが、わなわなと動かした五指で、抱こうと……
した、その腕を、マリカはペチリと払い、
「未来の……で、ございます」
「……?」
「わたしの未来の旦那様が、タレム様とは限りませんので」
「あぐぅっ! い、嫌だ嫌だ嫌だ! マリカちゃんは俺の嫁にするんだ!」
澄まし顔の言葉で、マリカが誰かに嫁ぐ想像をしてしまったタレムは、無性に淋しくなり、必死に縋り付く。
「ふふ。ならば、身も心も奪って見せてくださいませ」
そんなタレムを、今度のマリカは優しく受け止めて、頭と背中をあやすように撫で始める。
「……」
そんな様子を薄目で見ていたイグアスは、
「で? 騎士団の名前はどうするんだ?」
さらっと話を元に戻した。
騎士団の名前というのは、活動する上で割と重要なことなのだ。
……色恋にかまけて疎かにしていい事ではない。
「《時空》騎士団なんてどうでござるか?」
『能力がばれちゃうよ』
「あのぉ。《敗北――」
『それはやめて!』
「なら、《最弱》なんて、どうだ?」
『一緒だよ!』
うーん。うーん。と頭を悩ませる面々の中で、タレムの頭を撫でていたマリカがポツリと呟く。
「では……《白銀王》等は如何でございましょうか?」
「王?」
「はい。タレム様は王様になられる夢をお持ちでございますから」
「マリカちゃん……覚えててくれたんだ」
「ふふっ。タレム様の小さな王国でございます」
「……いや。でも、勝手に王を名乗ったら怒られるな……本物に」
「騎士名が敗北王なのにケチでございますね」
「それは言わないで! って言うか、それ、非公認だから! 皆が勝手に言ってるだけだから!!」
「ふふ。では、王はいずれ……ということで構いません。タレム様の……という所が大切なので」
「マリカちゃん……」
瞳をキラキラ輝かせて話すマリカを見て……決まった。
「よし。未来の第一王妃になるマリカちゃんの意見だ。コレから、《白銀騎士団》と命名する」
「はい。よい名前だと思います」
「……だな」
「うぃ~」
「白銀……領主様の暗喩。わたし、領主様を背負うんだ♪」
「チッ! ……雌豚」
「マリカちゃん!? 何、ナイフ持ってんの?」
こうして、てんわやんわしつつも、騎士王を目指すタレムの騎士団が設立されたのであった。




