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二十一話 『夫唱婦随の覚悟』

ブクマーク百個、行きそう。

行ったら底辺作家卒業って名乗れるらしい。

 ――ところで、何故、屋敷で寛いでいた筈のマリカがタレムの元にやってきたのか?

 だが……


「え? 教会がないから教会を作りたい、だって!?」

「はい。この村の不浄の原因は分かりませんが、教会さえ機能しておりませば大抵の病魔を祓う事が出来ますので」


 との事だった。


「不浄ね……」

「不浄でございます」


 ロック村に来てから不浄、不浄とマリカは言うが、タレムはそんな物を感じない。

 神に仕える聖職者も、婚約者として見るならば背徳的でそそるものがあるが、これと言って神や幽霊を信じている訳でもない。


「……俺はマリカちゃんを嫁として……客人として招いて居るんだよ? わざわざ働かなくても良いのに」

「そうは、参りません。わたしの……タレム様の村を守護するのは、当然の勤めでございますので」


 別に、マリカのやることを否定したい訳でもないが、出来ればのんびりと羽根を伸ばして貰いたい。

 暖炉の前で身体を温めていて欲しかった。


「夫唱婦随は心得ておりますので、タレム様がどうしても駄目だと言われるのなら断念致しますが……」


 マリカはそういうと、明らかに気落ちした表情を見せる。

 それは、タレムに信じて貰えないからか、やりたい事をやれないからか……


「マリカちゃんは、どうなの?」

「……タレム様に従います」

「どうなの?」

「従います!」

「……」


 夫唱婦随。夫が言いだし、妻が従う。

 それが夫婦円満の形であるという言葉だ。

 ……マリカは、花嫁修行に準じて、タレムの花嫁に成り切り、実践しようとしている。

 故に、タレムが言わなければ、教会を作ったりはしないのだ。


「ふぅ……。マリカちゃんの好きにして良いよ」

「もっと正確に」

「教会を作ろう」

「はい。仰せのままに、でございます♪」


 と、言うことになった。


「待て、マリカ」


 しかし、そこで草原に身体を寝かせていたイグアスがひょいっと、起き上がり、


「たしか、聖職者の規程では、自分で教会を持てるのは司祭からじゃなかったか?」


 聖職者も騎士と同じように、階級があり、権力がある。

 イグアスが言っているのはそのことだ。


「お前はまだ、修道女になったばかりだろ。教会を勝手に持って良い訳がない。タレムを異端者にするつもりか?」


 キッと、イグアスの鋭い視線が、マリカを捉えている。


「それは……」


 そんな視線を受けてマリカは言葉を詰まらせ、きゅっと膝枕をしているタレムの背を握った。


「……どうなの? マリカちゃん」


 タレムも起き上がり、マリカをイグアスから隠しながら事実を確認する。

 不正を前にして正義を振りかざす英雄の瞳は辛辣なのだ。


「兄様の言う通りでございます」

「ふんっ。マリカ、ルールは守れ。それがグレイシスの生業だ」

「……っ」


 言われて一瞬だけ、タレムの背中で怯んだマリカだったが、すぐに刮目し、逆にイグアスを睨み返した。

 兄に勝るとも劣らぬ強い視線だが、その下では震えた手がタレムの背中を掴んでいる。


「なので、お母様の名前を借ります」

「……」


 マリカの母は、聖職者でも、二番目に偉い大司教。

 様々な特権があるのはもちろん、世界各地に千以上の教会を設立している大聖母である。

 

「お母様の直轄地、とすれば、責められる云われはございません」


 修道女が教会に勤めるのは当然の理。何か、問題が、ございますか? と、マリカがイグアスに言うと……


「フッ」


 イグアスは柔らかく微笑んで、


「なら、良いんだ」


 と、マリカの頭を撫でるのであった。


「辞めてくださいまし。臭くて汚いので」

「酷いな!」

「兄様なんて大嫌いでございますので」


 英雄の名を背負うグレイシス家の家庭事情はタレムの尺度では計れない。

 それでも一つだけ言うならば、


「俺も、マリカちゃんを一々、虐めるイグアスなんか嫌いだよ」

「ふふ、兄様はつんでれ、なのでございます。どうか、タレム様は見放さないであげてくださいまし」

「それ、マリカちゃんが言うんだね」

「はい。わたしはとうに見放しておりますので」


 酷いな! と、そんなことを思うイグアスであった。

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