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十八話 『魔法は進化するらしい』

 ――ドシンッッ!


「ごっベバブゥッッ!」


 落下の衝撃が五臓六腑を駆け回り、肺から空気を強制的に放出させる。


「ふっふっふ。そんな簡単に殿のモノになってあげる程、拙者、安い女じゃないでござるよ?」


 してやったりと、リンが笑うその足元で……


 ――ジタバタジタ。


「そんなぁっ! 忍法なんてズルイよぉう! こっちは魔法が使えないのに、ソッチは使い放題とか、こんなの勝てるわけないじゃんかぁ!! ござるのイジワルゥ~っ!」


 ……タレムが四肢をなげうって道場の畳を転がり回っていた。

 その様は、騎士・貴族として、格好の良いものではないが……

 何故か、リンの前ではこういう姿も晒せてしまう。


「ふふ、拙者の《忍法》は、修練を積めば誰でも会得できる技術でござる。アルザリア帝国貴族の血族しか使えない摩訶不思議な《魔法》と一緒にしないで欲しいでござるよ」


 そんなタレムにリンは涼しく笑って肩を貸す。


「それ、前々からちょっと聞きたかったんだけど。本当に魔法じゃないの? マジで誰にでも出来るの?」

「うぃ~っ。マジで誰にでも出来るでござる。種も仕掛けもあるっす」

「……嘘臭いなぁ。火を出す奴は?」

「特殊な薬草を調合してつくる忍具《火遁の玉》を使っているでござる」


 言いながらリンは、芸を見せるように赤い玉を取り出して、空中に放る。

 すると、


 ――ぼんっ。


 赤い玉が弾け炎を吹き出した。

 ……熱い。


「調合具合や投擲方法で、火力を調整して応用するでござるよ」

「投擲方法で、火力を変えるね……(既に意味わかんないなぁ……)」

「他にも、雷を放出する《雷遁の玉》。風を発生させる《風遁の玉》。水を放射する《水遁の玉》。土を創造する《土遁の玉》と五つあるので、時と場合で使い分けているでござるよ」

「……んん? (やっぱりよくわからないなぁ……) まあ良いや。その辺は、でも、投擲武器を分裂させる《影クナイ》だっけ? アレだけは、許せない」

「何をどの立場から殿が怒っているか、わからないのでござるが……、《影クナイ》はクナイを分裂するように投げているだけでござる」


 ――シュンッ!


 再び、リンが、取り出したクナイを放り投げると、三つに分裂し、壁に突き刺さった。

 ……やはり、意味不明。そもそも、分裂する様に投げると言う言葉からして謎である。


「……なんか納得かないけど、誰にでも出来るっていうなら、まあ良いや。こんな組み手なんて辞めて、それを俺に教えてよ」

「それは殿の勅命でも不可能でござる」

「まあ……そうだろうと思ったけどさ。門外不出みたいな感じか……」

「いやいや殿。そうではなく。別に殿になら教えても良いのでござるが……」

「ござるが?」


 そう、聞き返しながらタレムがぐいぐい近付くと、リンが言い辛そうに目を逸らし、


「殿には、教えた所で(才能がないから)習得、出来ないでござる」

「ぐふぅ!? (吐血)」


 ……厳しい現実をタレムにたたき付けるのであった。

 ここに来て、タレムは自分が帝国史上、最弱の代名詞《敗北王》の名を、貰っていた事を思い出す。


「まあまあ、殿。殿には忍法なんかより、最強の魔法(ズル)があるじゃないっスか……(世界の時間軸に干渉する。……アルザリア帝国人の魔法としも、強すぎる力でござるが……)」


 ……そもそもの話。時間を操る力を、《魔法》の括りに入れて良いのかすら、リンは疑問に思う。


(拙者も魔法を使える訳ではないので、断言は出来ないでござるが……魔法の能力は血統で受け継がれるもの。殿のアルタイル家は代々、光魔法の一族。それが、何処と交わって殿の様な突然変異種が生まれたのやら……)


 考えれば考えるほど、謎が深まるタレムという人間。

 しかし、


(まあ、この脳天気な殿が最強という事実さえあれば、拙者は満足でござるが……)


 リンにとって、タレムに求めるモノは、リンを打ち倒せる力と、心を委ねられる性格だった。


「……最強の魔法ね」

「……ん。との?」


 そんなふうにリンが考えている隣で、タレムも何かを考えながらボソリと呟いた。

 ……少し、元気がない。


「リンには悪いけど、俺の魔法。そこまで、強くないよ?」

「……時間操作が強くない? そんな訳――」

「――あるんだよ。デメリットは多いし、この前の順位戦で、アイリスちゃんに致命的な弱点を暴かれた」

「……弱点でござるか?」


 タレムの魔法は、世界の時間を止めて、その中を自由自在に動き回れるというもの。

 だが、時間を止めた所で、熱を止める事は出来ない。

 他にも、タレムの知らないルールがあってもおかしくはないのだ。


「……案外、弱点だらけでしょ?」

「……」


 そんな弱音をリンに吐きながら、タレムは自分の手の平を眺め、額の傷痕を触った。

 こう言う話をする時、何時もずきずき疼く。


「ふっ。だから殿は弱いのでござるよ」

「……え?」

「少し弱点があっただけで、うろたえ過ぎなんでござる。それじゃあ、宝の持ち腐れッス」


 リンは明るい声で、そう言って、傷痕を触るタレムの手を取った。

 ……何故か、そこに触れることを辞めさせなければいけない気がしたからである。


「それは、的確に弱点を見破り、突くことが出来た《氷の女王》を褒めるべきである。というだけでござるよ」

「いや、アイリスちゃんは確かに凄いけどさ」

「騎士の闘いは魔法次第」

「……ッ!」

「それが、帝国騎士の格言だったのではないでござるか?」


 言われ、鋭いリンの双眸に見つめられて、ハッとなる。

 ……なぜなら、


「騎士の闘いは魔法次第……か」


 それが、的を射た言葉であったからだ。

 魔法に目覚めたばかりのタレムと、魔法を磨き百戦錬磨のアイリスとでは積み上げた知識と経験が違う。

 まだまだ、自分の力に絶望するのは早過ぎた。

 アイリスが魔法を磨き続けるように、魔法はいくらでも成長していくものである。


「ふふ、殿の力は無限大っす。その力を殿がどういう風に育てていくかは、殿次第、で、ござるが、例えば、拙者も殿の止めた世界で動き回ったりしてみたいでござるな」

「ただの希望かよ!? アドバイスかと思ったのに……まぁ。やってみようかな?」

「そうそう。思い立ったが吉日でござる」

「それ、後は凶日じゃ無かったっけ?」

「ほーう。殿も和の文化に詳しいでござるな」

「いや、前にマリカちゃんが言っただけ」

「……怖い方?」

「優しい方……と見せかけて、怖い方」

「ひぃぃ……っ」

「――さて」


 ……無駄話を辞めて、リンに乗せられた訳ではないが、折角、貰ったアドバイスを試してみることにした。


 ――とーん。


 先ずは普通に、《時間停止》

 これで、動かなければ百秒間、動けば体力が続く限り、世界の時間が停止し続ける。

 通常なら、これで終わりだが、今回はリンの時間だけを動かす。


「ちっ……意外と難しいな。全然、思ったようにいかないぞ……うーん?」


 念じてみたり、唸ってみたり、色々と試してみるがリンはうんともすんとも言わずにとまったまま。

 このままでは、骨折り損のくたびれもうけに終わってしまう。

 動かずに魔法を使っているとはいえ、疲れない訳ではないのだ。

 

「仕方ない。ござるにえっちな悪戯しとこ。えいっ!」


 と、タレムがリンに飛びつくと、


「ん? ……殿? いきなり何を……って! おおおっ! 世界が止まってるでござる!」

「え? ここで、動くんかい!」


 接触した事が原因か、リンの時間を操る事に成功した。


「おおっ! 凄いっ! これが、殿の世界。殿だけが入れる。時の狭間……」

「お、おい。ござる。あんまり動くと後が辛いよ?」

「ふふ、殿の力と拙者の力。……鬼に金棒でござるな。これ、いきなり良い線行ってるでござるよ」


 時が止まった空間の中で、リンが歳相応にはしゃぎ回る。

 それな事をすれば、時間の流れが元に戻った時、相当な負担がリンを襲うであろう。

 タレムも何度か使っているいるが、あんまり激しく動くと反動で気絶することさえあるのだ。


 ――ずーん。


 そこで、タイムリミットを迎え、時間の流れが元に戻る……


「おっ。こ、これが……時を超越した代償。疲労感でござるか? ……ん?」

「だから言ったじゃん。後悔するって……あれ?」


 ……同時に、停止した時間の中でリンが動いた疲労が十倍になって……タレムを襲った。

 そう、リンではなく、タレムを襲ったのだ

 しかも、通常よりも多く体力を削られる。


「……なっ? 俺? そんなに……動いてないのに。ぐっ。なんで……?」

「なるほど。なるほど。デメリットは全て術者の殿に返る訳でござるな。どうりで全然、疲れない訳でござる」

「ば……か、言ってる……場合じゃ……ない。……意識が……」

「殿!?」

 

 ――バタリ。


 タレムの魔法開発はそんなに簡単にはいかないのであった。

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