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十七話 『リンの確約』

 翌朝の事。

 何時もの様にアルザリア帝国学院の泉でシャルルと熱い情愛を……確かめることは、ロック村に居るタレムには出来なかった。

 しかし、何故かアルザリア帝国、二千騎士長リンとの朝稽古は続いているのであった。


 場所は領主邸敷地内に附属されていた道場だ。

 昨晩のマリカによる誘惑で悶々と夜を過ごした朝一番、リンに叩き起こされ引きずられて来たのである。


「いや、ござるとのひと時も、ハーレムに必要だから良いんだけどさ……」

「……」


 タレムはそう呟きながら、リンの素早く繰り出される手刀を綺麗に捌いている。

 リンとの組み手だが……そろそろ特訓を初めて一ヶ月。その間に培った経験と実力は伊達ではない。

 最初こそ一方的にボコられていたが、最近はこうして言葉を話す余裕があった……


「でも、せっかく二人きりなら、昨日、出来なかった話をもうちょっとだけ踏み込んで――」

「……ふっ。殿。お喋りは油断の元。で、ござるよ? ハットリ式対人格闘術。掌・底ッ!」

「あぐぅ!?」


 ……と、タレムは思っていたが、それはリンが手を抜いていただけである。

 一瞬だけ、本気になったリンのアッパー攻撃が顎に炸裂し、タレムを打ち上げ花火の如く垂直に吹き飛ばした。

 脳髄に衝撃が走り、五臓六腑が麻痺。直後、頭から硬い床に墜落する。


「こぶぅぅッ!」

「フッ。ま、確かにちょっとだけ成長したので、そろそろ格闘術を叩きこ……教導するので、一所懸命に会得するでござるよ?」

「ぐふぅ……今、叩き込むって言おうとしなかった?」

「気のせいでござる」

「鬼……ぐふぅ」


 リンは、にっひっひっと、笑いながらノックアウトされたタレムに近付き、


「一度、休憩するでござる」


 真心のある手つきでタレムの頭を膝にそっと置いた。


「おふっ」


 ……リンの甘い香とぷにぷにの太股がタレムの精神を癒してくれる。


「そういえば、昨日、皆が居たから敢えて聞かなかったけど、リンが此処にいてシャルは平気なの?」

「……うぃ~っ。拙者の配下が見ているので安全でござるよ。それに、超名門クラネット家の暗殺失敗が幸か不幸か、今は他の過激派貴族も暫く大人しくしている筈っスよ」

「……なら、安心か。ふぅっ」


 そうやって、恋人の安全を知ってホッと息を吐いたタレムに、ホゾッと……


「殿は、姫のことばかりでござるな……」

「そう? 今もクンスカしながら、ござるの太股を堪能してるんだけど?」

「……拙者の事も蔑ろにしないで欲しいでござる」

「……」


 そこに込められた暗い感情の上辺だけは、タレムでも、(すく)いとれる。

 しかし、リンに限っていえば、あまり深い場所までは解らない。

 そもそも、リンの気持ちを知らないからだ。


「ごめん。別に、ござるを蔑ろにしようってつもりはないんだ。昨日のこと、実はマリカちゃんの破天荒なアレより気になってたから」

「……」


 あの、人生で一番、恥体を晒したであろうと断言できる魅惑の深夜刻よりも、前の時間。

 リンが鬼の仮面を外してタレムに迫った時の事だ。


「聞いて良いのか悪いのか……いや、ただの自意識過剰だって展開が怖かったからか。聞けなかったけど……」


 ……リンがそういう顔をするなら避けて通る訳にはいかないだろう。


「もしかして、ござるは俺と結婚してくれる気、あるの?」

「……」

「いや、間違ってるなら優しくフッてね? 俺、今、ちょっと……マリカちゃんに拒否られまくってエマージェンシー」


 もう少し遠回りに聞く道もあったのだが、タレムはハーレムにすると決めている女の子には真正面からぶつかりたかった。

 それで粉砕されようと悔いはない。

 ……そう、思っている。


「……ふふ、殿の素直さに脱帽ッス。拙者、そんな殿が好きでござるよ?」

「……っ!」

「うむぅ~ん。ムズムズするでござるなぁ……」


 そんな誠意が伝わったのか、リンも真正面からぶつかった。

 

「じゃあ、結婚――」

「との」


 リンは逸るタレムの言葉を人差し指で押し止めると、首を振り仮面を取り外した。

 あらわになる幼くも美しい顔つきと、可愛さを強調する真ん丸な黒目。

 タレムの股間がドクンと脈動する。


「……っ! やっぱり、ござる可愛いっ! 君が欲しい!」

「ふふ……。との、拙者を背負うとあらば、拙者より強くなるでござる」

「強く……?」

「拙者の一族は、強者絶対。より強い子孫を遺し末長い繁栄を……という考え方ッス。まあ、滅亡しているのでござるが」

「……」


 リンの一族は、帝国に滅ぼされた和の一族。

 アルザリア帝国人とは異質な文化がある。


「だからこその仮面争奪なのでござる。の子が女の子を屈服させ、力を示し、のがものにする。まあ、性別は反対でも良いでござるが……とにかく、拙者は、拙者より強き男にしか屈服しない。出来ないのでござる」

「ん? 仮面を奪えばいいの? なら!《時間(タイム)……」

「もちろん、魔法なんて摩訶不思議、不可でござるからな?」

「ぐぅぅ……そんなぁ」


 魔法無しでリンに敵う人間なんて、帝国全土を探してもそうそういないだろう。

 リンはそれ程に強い。


「拙者は和の国を再建したいのでござる。その皇女である拙者の隣に立つ婿は、誰よりも強くあらねばならないのでござる」

「……」

「……その相手が、殿だったら良いなと、最近は思っているのでござるよ?」


 リンが恥ずかしそうに顔を赤らめるが、タレムは絶望感に顔を青くさせるしかない。

 ……リンを娶るには魔法無しでリンの仮面をもぎ取るしかない。それがどれだけ無茶なことは言うまでもないだろう。

 リンは、騎士の闘いは魔法次第。とまで、言われるアルザリア帝国で、唯一無二、魔法を使わず二千騎士長になった少女だ。

 しかも、リンはまだ、破格の十二歳。歳だけが才能を現すわけではないが、現さない訳でもない。

 その才能はアルザリア帝国五百年の歴史で見ても比類ない程。 

 

 タレムが前に仮面を取れたのはリンが油断していたからなのだ。

 ……こう言う以上、もう油断することはないであろう。


「魔法さえ使わなければ、手段は問わないでござる。不意打ち闇討ちなんでもござれ♪ 殿がもう一度、拙者の仮面を取ることが出来た暁には、拙者。殿に身も心も全て捧げる事を確約するでござる」

「身も心も……? (ごくりっ)」

「うぃ~っすよ。言葉通り、拙者が全て、殿のモノになるでござる。でも……あんまり酷い事は嫌でござるよ?」

「大丈夫。大丈夫。可愛がってあげる……えいっ!」

「ふっ! 甘いでござる! 忍法《移し身》……からの! ハットリ式対人格闘術! 掌・底ッッ!」

「ぐふぅッッ!」


 そんな感じで、再び宙を舞ったタレムは思う。


(え? ござるは忍法、使うのかよ!)


 と。(続く) 

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