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十五話 『誘惑の夜にドッキング・R15』

 ロック村での最初の食事を終えたタレムは、領主邸三階の最奥、一番豪華な部屋で就寝の準備をしていた。

 マリカとリンも三階の余った個室を好きに選んで私室として自由に使って貰っている。

 イグアスも個室を持ったが、それは、二階の一室である。

 三階は領主とその家族(予定)の部屋とタレムが決めたからだ。


「というか、例え、イグアスでも男女で同階に住むなんてけしからん。マリカちゃんはともかく、ござるに手をだされたら……。いや、ござるは簡単に襲われたりしないか」


 もし、イグアスが肉欲の獣と化したとしても、リンならば返り討ちにしてしまうだろう。

 それは、普段から彼女に武術を叩き込まれているタレムの身体が知っていた。

 マリカの場合は、腹も種も同じ、実の兄妹で愛し合ってしまうとしたら、流石にタレムも応援するしかない。


「――さて。馬鹿な想像してないで」


 タレムは独り、広いベッドの上で呟きながら、ゴソゴソと手荷物を漁って、


「夜の愉しみ行きますか。ゲヘヘっ」


 ゲスの笑みで取り出したのは、純白のパンツ。

 これはマリカが昨日、はいていた物である。

 馬車の旅で疲労し油断していた隙を見て盗んでおいたのだ。

 ……この誰にも邪魔されない時の為に。


「マリカちゃんのパンツ。クンスカクンスカ。はぁ……良い匂いだぉ」


 気持ち悪い。と、思うだろうが、タレムは十六歳、健全な男として生まれた以上、性欲は向き合わねばならない。

 馬車旅での五日間、マリカとイグアスが、常に一緒だったため、こういう事は出来なかったのだ。

 目の前に好きなマリカが居ると言うのにそれは煉獄の様な苦しみであった。

 

「はぁはぁはぁはぁ――」

 

 明日からの紳士を保つためにも、たまの性欲処理は必要なのである。

 よってタレムは部屋のロウソクに火も付けず、月明かりだけでギンギンになった己の欲望と戦っていた。

 死闘である。


「マリカちゃんの舌使い……エロかったぁ。とろとろで、どろどろで……。アレ、反則だろう……もしかして、マリカちゃんも溜まってたりしたのかな? ……まさかね。ぐへへっ」


 先ほどのマリカに指を舐められた感覚が今でも鮮明にタレムには焼き付いていた。

 今日は久しぶりだが、捗ること捗ること……


 ――カチャリ。……さささっ。


「ふふ、わたしのパンツ。如何でございますか?」

「めっちゃ良い。盗んでおいて正解だった……あれ?」


 ……何故か突然響く、マリカの声。

 それが幻聴で無いことは、そっとタレムの肩におかれた手の温もりが証明している。


「ま、マリカちゃんっ!! ――っ」

「はっ! 大きな声はダメでございまし!」


 何がなんだかわからないまま、タレムが絶叫しようとした口をマリカがすぐに手で塞ぐ。

 その際、タレムをベッドに押し倒してしまうが二人ともそれどころでは無かった。


「タレム様。まずは落ち着いて。兄様が来たら、どういたすお積りでございますか?」

「んーッ! んーッ!」


 マリカに言われてなんとか首を縦に振るが、タレムの脳は処理機能を完全に失っていた。

 しかも、タレムを押し倒しているマリカの服装が、赤いレースのベビードールと、追い撃ちをかけている。

 これで理性を保てと言う方が無理と言うものだ。


「タレム様。落ち着きましたか?」

「……」


(落ち着いた。落ち着いたけど……)


 ……今の状況は最悪だ。 


 大好きなマリカに、ハッスルしているところを見られてしまったのだ。しかも、盗んだマリカのパンツでだ。

 これで引かれない訳が無いし、言い訳のしようもない。クズの行いである。

 タレムの脳では何度もクズという言葉が、リピートされている。


 ……もう殺してくれ!


 そんなことまで思ったタレムの口から、マリカが、ゆっくりと白く細い指を退けて、


「タレム様……」

「マリカちゃん……これは、違うんだ。生理現象というか……違うだ!」

「……」

「俺、マリカちゃんが好きで好きで、いても立っても……だから……違うんだ!」


 とにかく『違うんだ』しか言えないタレムを、マリカは、静に見つめると、


「受け入れますよ?」

「はえ?」

「タレム様の事なら全て受け入れますよ? だからそんなに怯えないでくださいまし。わたしの方が悲しくなってしまいますので」

「……」


 諭すようにそういって、マリカは、タレムの上に身体を寝かせた。

 その落ち着いた様子はタレムの心も落ち着かせてしまう。


「わたしも、タレム様のパンツの一枚や二枚、隠し持っておりますよ?」

「え?」

「タレム様は、そんなことをする、はしたない、わたしは……お嫌いですか?」

「い、いや、マリカちゃんなら、逆に嬉しいかも……?」

「ふふ、ならば、怯えないでくださいまし。わたしを避けないでくださいまし」


 ゴクリと唾を飲み込んで、微かに震えるマリカの身体をそっと支える。

 思考機能がショートしているせいで、この現実離れした状況にも無駄に適応出来きたのだ。


「さ、避けては無いよ? 俺は、驚いただけ。でも、マリカちゃんの方こそ、避けたりしない?」

「致しません」

「気持ち悪いと思ったりしない?」

「致しません」

「本当?」

「本当でございます」

「……本当に本当?」

「ふふふ……」


 それでも好きな人に嫌われるので無いかと怯えた声を出すタレムに、マリカは優しく微笑むと、


「では、わたしがタレム様の乾きを潤す手伝いを致しましょう」


 ――ぴとっ。

 と、マリカは、白く細い指で、タレムのガチガチになっている性の権化を触ったのだ。

 ……冷たい。


「ひぃぃ!」

「大丈夫。わたしはタレム様を傷つけたり致しません。力を抜いて楽になさっていてくださいまし。すぐに悦く致しますので、ふふふ」


 その異様な感触に激しくうろたえるタレムを、包むように手を回し、優しく微笑みながらなめらかな指を動かした。


「悦くって……っ! マリカちゃん。まって、そんなっ! こんなとこっ……はぅううっ」

「大丈夫。大丈夫。ふふ、ほら、タレム様のぴくぴくしていますよ? コリコリ。ふふ、可愛い……」

「はぁぅぅぅうう~~っ!!」


 好きな女の子には抗えなかった……

 しかも、手ぬぐいで欲望を受け止めてベッドを汚さない気遣いまでされている。


「ふふ」


 事を終え、それでも優しく微笑むマリカは、タレムに余韻を愉しませるように指を這わせながら、


「……ん。ふふ、タレム様。如何でございましたか?」

「ううっ。良かったけど……こんなのっ。酷いよぉお」

「……」


 しかし、タレムは顔を両手で被って泣いてしまった。

 しくしくと、乙女の様に枕を濡らすタレムを、マリカは、静に見つめて、


 ――ぎゅう。 


 再び、力を入れてタレムの身体を抱きしめた。

 そして、


「大丈夫でございますよ? タレム様。これは普通の事ですので」

「……普通の事?」

「はい。普通の事でございます。わたしは花嫁修業の身。花嫁ならば、花婿様の生活を……いえ、性活をサポートするのは当然のこと」

「……っ!」


 当然のこと! と、言われれば確かに当然のことの様な気がして来るから不思議である。

 ……貴族はこんな些細な事で、いつまでも落ち込んでいては、いけないのだ。

 と、少しだけ調子を取り戻すタレムを前に、マリカは付かず離れず性活を続けながら、口端を歪めていた。


(ふふふ、タレム様。ちょろ過ぎます。こんなこと、普通なわけありません。が……丁度良いのでこのまま、わたしに……を触られても普通だと調教してしまいましょう。ふふ)


「ゆえに、タレム様。これからはわたしに性活のサポートもさせてくださいまし。普通の事でございますので」

「でも……。悪いよ、こんな……」


 と、言ったタレムに、マリカは、更に表情を崩し、用意しておいた言葉を即座に口にする。


「で、あれば。タレム様。わたしにも癒しと潤いをくださいまし」

「……はえ?」


 マリカは、無防備に手を足を投げだし仰向けになると、既に脳がパンクしているタレムの腕を取って、そっと胸に置く。

 これはつまり、そういうことを求めているのだ。


(マリカちゃん。可愛い! 今すぐめちゃくちゃに抱きたい。でも……良いのか? まだ、婚約すらしていない女の子を……ッッ!)


「等価交換でございまする」

「等価交換……ごくり」

「花嫁修業でございまする」

「花嫁修業……じゅるり」

「花婿修業でもございまする」

「花婿修業……マリカちゃん。俺っ!」

「ふふ、修業の最中は、マリカとお呼びくださいまし」


 マシュマロよりも柔らかいマリカの乳房。

 それに直接、触れている……触れていいと言われている。


 ――どくんっ。


 何かがタレムのタレムの中で脈動し、


「マリカッ!」

「はい。タレム様。盟約に従って、どうぞ。お召し上がりくださいまし♪」

「ぱふぱふハフハフあばばばば……」

「ふふ♪ あん。激しいっ♪」


 遂に、タレムの中に眠っていた性の化身が遂に目覚めた。

 理性が粉々に消し飛び、ベッドで腕を広げるマリカに無我夢中で飛び付き抱きまくる……


 と、その時、


 ――カチャリ。


「「――っ!?」」


 部屋の扉が開き、薄い下着姿の少女が恐る恐る足を踏み入れた。

 見知らぬ少女の出現に、盛り上がっていたタレム、そして、ここまで余裕のあったマリカですら表情を凍らせる。

 そんな中、少女が酷くびくつきながら頭を下げ……


「りょ、領主様……。ノーマです。今晩は、よ、よろしくお願いいたします……」

「「……」」


 そうして、ゆっくりと歩んでくるノーマを見て、吹き飛んでいたタレムの理性が猛烈な勢いで戻ってくる。

 そして、それは……


「ひゃああああッ! た、タレムさまぁああああっっ!」


 マリカも同じであり、羞恥で顔を真っ赤に染め上げると、錯乱しながらシーツを株り、タレムの背中を盾にする。

 ……相手が同性でも、タレム以外にこの姿は見られたくなかったのだ。


「ごめんなさい……遅れちゃって……。領主様。わたし、初めてで……こんなこと……ううっう」

「……」


 そんなふうに、何故かぽろぽろと泣きはじめたノーマを、タレムは無言で見つめてから……


「え? 誰? 何? なんなの?」


 と、誰よりも困惑するのであった。

 ……村長には、タレムが許可した人間以外、屋敷に入れるなと言い付けて置いたはず。


(というか、貢ぐ目的でも、もう少し可愛い子を送るだろう。どゆこと? 俺とマリカちゃん逢瀬を邪魔する目的か!?)


「あぅ? 領主様に今朝、お呼ばれ致しました。ノーマですが……」

「……ん?」

「あぅ?」

「「……?」」


 ノーマとタレムが顔を合わせて首を傾げる。

 二人は奇しくも同じ事を思っていた。

 ……これはいったいどういうことか?


 と、そこで、


「……っあ! ああ! 朝のぶつかってきた、農婦の少女!」


 思い出した。

 確かにタレムはロック村を見回った時、ノーマとあっている。


「はっ、はい。その時、後で来るようにって、おっしゃられたのですが……」

「……いや、それは――」


 ――それは違うんだ。そんな意図は無かったんだよ? と、ノーマの勘違いを諭そうとした時。

 ブチリ。確かに何かが万力で引きちぎられた様な音が真後ろから聴こえた。


 ……これはやばい。

 そんな直感があった。


「タレム様……これは、どういうことで、ございますか?」

「……っ」


 恐る恐るタレムが振り返ると醜悪なオーラを発したマリカが般若の表情を取っていた。


「わたしをその気にさせておいて!! ……当地領民といきなり夜遊びするお積りだったという事で?」

「……ひぃっ!」

「このうわきもの! 破廉恥っ! そんなんだから! タレム様がそんなんだから――ッッ!」

「ひぃぃぃ~~っっ!!」


 ――ブチリ。

 マリカが憤激した爪がタレムの肩に鋭く刺さるのであった。(続く)

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