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十四話 『女同士で意気投合』

 タレムの説明で落ち着いた一同は、食卓を囲んでいた。

 ずらりと並べられた、みそ汁や焼き魚、白米は何時ものマリカが作る料理である。

 だが、食卓を囲う順番は少し異様なものとなっていた。

 まず、上座のタレム。そして、向かい側にイグアス。ここまでは良い。普通の事だ。

 問題は、上座の左隣。家主の正妻しか座る事が出来ない場所に何故か当然のようにリンが座り、それに張り合ったのか、マリカはタレムの膝の上に座っていた。

 

「両手に花。いや、鬼、そして悪魔……か」


 そんなタレムを目を伏せて見ていたイグアスが、ボソッと呟く。


「喧しい。というか、自分の妹をナチュラルに悪魔呼びするな」

「タレム様。兄様は、悪魔が誰か断言しておりませんが?」

「ひぃぃッ!」

「もうッ!」


 タレムの失礼な発言に、プクッと頬を膨らませているマリカだが、その下で左手をタレムの手と重ね、全ての指が絡らませていた。

 身体もタレムに寄り掛かり、右手の箸で料理をつまみ、タレムに差し出している。


「悪魔の手料理は如何でございますか?」

「……モグモグ。うん……美味しいよ。天使の料理は」

「ふふ、それはようございました」


 タレムがそれを自然に受け入れているのは、マリカがアルザリア帝国学院の馬小屋時代からやっていたからであろう。


「と、ところで、さ。いい加減、ござるが何でここに居るのか教えてよ?」

「はて? タレム様が手篭になさるため。では、ないのでございますか?」

「マリカちゃんも、さ。いい加減。チクチク刺さないでよ。今の俺はマリカちゃんを嫁にすることしか頭にないって言ってるじゃん」

「ふふ、冗談でございますよ。……半分ほどは」

「ひぃぃッ!」


 案外、気心の知れた者同士で囲う食卓は、厳粛な貴族が囲っているモノとは思えないほど、意気合々としている。

 ここに、村人がいたらこうではなかっただろう。

 タレムが使用人を追い払ったのはそういう理由もあるのだ。


「拙者は、極秘任務でこの地方に派遣されていたのでござるよ」

「へぇ~っ。あ、別に極秘任務の内容とか言わないで良いからね」

「極秘任務の内容は、帝直々の勅命で、」

「ねぇ? 俺の話、聞いてた?」

「この渓谷の含有鉱石率に付いて調べて居るのでござるよ」

「……おいおい」


 リンによって知りたくも無かった極秘任務の詳細を聞かされてしまった。

 もちろん、極秘任務というだけあるのだから、秘密にしなければいけないということ。

 もし、その秘密が漏れたらどうなるのか?

 それは、リンの様な隠密部隊が口封じに暗殺を図るであろう。

 要するに、リンの秘密を護らなければタレムの命はないのである。


「にひひっ。と、言うことで、殿。暫く、拙者をこの屋敷に止めるでござるよ」

「と、言うことでじゃないよ。わざわざ脅さなくても、別に、ござるなら、普通に頼んでくれても大歓迎したんだけれど」

「「……」」


 そんな弱みを利用してタレムの屋敷に住み着こうとするリンを、タレムがあっさりと受け入れた事に、マリカとイグアスは口を挟まない。

 当主であるタレムが客人と言えば、奴隷だろうと刺客だろうと客人なのである。

 しかし、感情は別、キュッと唇を噛んだマリカは、タレムの腕に抱かれながら、リンを見下して、


「ふふ、ではタレム様。豆を撒きましょうね。『おには~そと♪ ふくは~うち♪』と、古来より鬼を歓迎する儀式だそうで」

「この料理と言い、その知識と言い。皇后陛下は拙者の一族の風習に詳しいでござるな? でも、節分は、鬼を追い出す儀式でござるよ?」


 ――ピクリ。

 厭味にリンが全く動じず、返した言葉にマリカの肩が小さく跳ねた。


「わたしが皇后陛下? 和文化が貴女の一族?」 

「うぃー。マリカ后は、我が殿が妻に貰おうとしている姫君。殿に仕える拙者にとっては、マリカ姫は既に皇后陛下でござるよ」

「タレム様の……皇后様♪」

「そして、皇后の着ているその雅な振袖も、この米や味噌、魚を使った伝統料理も、拙者の故郷、『和の里』のものでござる。……(帝国に滅亡させられたでござるが)」

「じゃあ、リン様は、和人の血族でございますか?」

「すっ。拙者は正真正銘。混じり血無しの和人でござる。時代が違えば、和国の王女。和の姫だったでござるので……。あ、殿も皇后も英雄未満も今の話は、ここだけの話にしてもらいたいでござる」

「「「……」」」


 リンから漏れた過去の話に、タレム達は何も言えなかった。

 こういう事は、簡単に突っ込んではいけないという事を、記憶をなくしたタレムもそれに連なったマリカ達も知っている。

 ……だが、


「タレム様。タレム様。聞きましたか!? 今、リン様が和人だとおっしゃりました!」

「いや、その前に、いつから俺は、ござるの主になったんだ?」


 くらい話にしなければ良い。

 そして、マリカは、都合よく極度の和文化愛好家であった。


「リン様。タレム様は差し上げられませんが、わたし、和文化は大好きなのでございます。もう少し……教えて貰っても宜しいでしょうか?」

「ふふ、皇后陛下のお望みとあらば、でござるよ」


 その愛好具合は、日常的に和装し、食事には和食を出してしまう程だ。

 目の前に失われたはずの和人が生きていると聞いて、マリカのリンに対する敵対心を全て吹き飛んでしまったのであった。

 こうして、珍しく女嫌いなマリカが、リンと意気投合したのである。

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