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三話 『今、為すべき事』

 騎士伯……それは、貴族の爵位としては最低位の爵位だが、されど、立派な爵位である。

 持っていれば『結婚権』だけに留まらず、『軍隊指揮権』・『領地所有権』・『領地経営権』・『王宮登場権』・『政治発言権』・エトセトラ……。

 と、様々な権利を手に入れることが出来る。


 それらは、アルザリア帝国爵位貴族として最低限の権利であり、当然、騎士伯を手に入れたタレムにも与えられている権利である。


 つまり。タレムは知らず知らずのうちに、町村を治める領主になっていたのだった。


「……む? どうした? 少し、顔色が悪いぞ?」


 そんな事をいまさら思い出した銀髪の少年は、


「わ、忘れてた……。どどどうしよう。シャル。俺、自分の領地が何処に有るかも分からないよ!」


 そう言いながら、恋人の少女に泣きついた。

 そんなタレムに、恋人のシャルは、


「ふふ。大丈夫。安心するのだ。私が把握しておる。後で地図を渡してやろう」


 タレムの髪を撫でながらそう言って微笑んだ。

 ……その微笑みは、


(可愛い……頼れる! ああっ! ――)


「――シャル~~ッ! やっぱり持つべきモノは頼れる未来のお嫁さんだね」

「うむ。そうだろう。そうだろう」


 タレムをダメにするには十分であった。


 ――で。


 その後も暫くタレムとシャルルは甘い甘い世界を構築していたが、


「あれ? そういえば、ござるは?」


 もう一人のタレムが、恋人(ハーレム)にしたいと思っている十二歳の女の子で、鬼の仮面を常時付けている少女の姿が見えないことに気づく。


 鬼仮面の少女。リン・ハットリは、王女シャルル・アルザリア・シャルロットの近衛騎士であり、常にシャルルの身を近くで守っている。

 加えて、タレムに戦闘技術を鬼の如く叩き込む、スパルタ師匠でも有る。


 最初こそゴミを見る目で見られていたが、最近は少し打ち解けて、タレムとシャルルとリンの三人で談笑の花を咲かせることも多い。

 そんなリンがまだ姿を見せない。


 それは、タレムにとって、とても気持ち悪く不安になる事柄であった。


(ござるの身に何かあったのかな?)


 ――だが、そんなタレムの不安は……


「ふふふ、安心してよいぞ。そちの思うような事にはなっておらんからな」

「元気にしてるの?」

「うむ。今朝も、ロイヤルハニー・ゼリーの甘菓子にむしゃぶりついておったわ」

「お、おおう。それなら大丈夫そうだね」


 タレムの頭を優しく撫でるシャルルが簡単に拭い取った。


(ふふ、銀髪の手触り……きもちよいの。私に甘えるタレムの姿も可愛いものだ。ペットにしてしまいたいわッ)


 シャルルも、心中で呟きながら、タレムの髪の毛に指を絡めさせていた。

 そんなラブ×2な雰囲気の中、シャルルが問う。


「して? どうするのだ?」

「どうするって?」

「ロック村に……。そちの領地に引っ越すのかの?」

「……」


 ……ロック村が何処にあるのか知らないが、下級騎士の領地が帝都に近いわけがない。

 つまり、


「そんなことしたら暫く、シャルに会えなくなっちゃうよ?」


 もちろん、アルザリア帝国学院では、領地帰りの為の長期公休は認められている。

 むしろ、推奨されており、生徒たちもどれだけ長く休めるかを競う風習もある。

 十月の今からなら、冬季長期休暇も挟むため、長く寒い冬を越し、新年度を迎える四月まで帝都に戻る必要はないであろう。


 ……その間、何度、シャルルに会えるだろうか?


「……よいよい。私のことは気にするな。そちはそちの都合で動いてよい……私にそちの足を引っ張る様なことはさせんでくれ」

「でも、また何か危険な目にあったらどうするの?」

「その時は、必ず。早馬を走らせて、そちに伝える」

「……」


 ここで引っ越すにしろ、しないにせよ、いずれは領主として、領地に赴かなければいけない。

 だとすれば、これから寒くなる季節の今がちょうど良いだろう。

 それでも……。


「……シャル」


 シャルルは先月、暗殺されかけた。

 その時、助けることは出来たが、暴行を受けて、酷い有様になってしまったのだ。

 それを思い出すと、どうしても――


「タレムよ。そちの心使いは恋人として誠に嬉しい。だが、そちの覇道の行く道。私はずっと足でまといなのか?」

「そんなこと――」

「――ないと言うならば、今。そちが為すべき事を優先するのだ」

「為すべき事?」


 ――ぎゅっ。


 シャルルは声帯を鳴らしながら、震えそうになる身体を抑えるために、タレムの頭を胸で抱きしめた。

 ……シャルルも、毎日タレムと会えないと思うと心細いものがある。


「うむ。言っただろう? 時は金よりも高し。……今こそが、そちの夢を叶える第一歩なのだぞ?」

「……ん?」

「そちは騎士になった事で、確実に前に進んでおる。だが、まだまだ何も為しておらん」

「……」

「先ずは領地に足場を築き、己が騎士団を作り、一人の妻を……マリカを娶るのだ。それが、そちの夢の第一歩。ではないか?」

「……」


 言われ、言葉を飲み込み。顔をあげると、シャルルが真っ直ぐな碧眼でタレムの瞳を見つめていた。

 そう、タレムの夢。


 理想のハーレムを築く事。


 それを叶えるには、権力の他に、場所と力と理想の嫁を現実的に手に入れなければならないのである。

 ……本当にまだ何も為してはいなかった。


「……うん」


 それに気が付いたタレムは頷いて、力強い眼差しでシャルルに言う。


「分かった。俺、領地に行って、城を持ったら本気でマリカちゃんを口説き落として来るッ!」

「うむ。私の好きな、よい銀髪だ」

「……そこは、面構えでしょ」


 フッ、と二人は笑って抱き合うと、


「本当は、私もこれから忙しくなるところ所だったのだ」

「そうなの?」

「うむ。だからちょうどよい。今は、そちの夢を推し進めよ。そうだな……騎士団の結成と強化。そして、マリカに子でも孕ませてやれ。だが、翌年四月。そちに私の頼みを聞いて貰らう」

「頼み?」

「今はまだ詳しくは……言えんが、私の野望を実現させる手伝いだ。そちにしか頼めんからな」

「――ッ!」


 ――ぞくりっ。


 シャルルが頼ってくれる。

 そう、思うと、タレムの背筋が興奮に震えた。

 ……これは何としてもやるしかない。


「よぉぅしゃぁあああああ――ッ! やってやる! やってやるぞ! マリカちゃんを孕ませてやる!! うおおおおお――っ!」

「ふふふ、よいよい。その意気だ。(多少気が早いとも言えるが……)」


 タレムが、やる気に満ち溢れた声で叫ぶその腕に、シャルルは抱かれながら、うっとりとした表情で、


「だが、今は私を見るのだ! プリンセスクロスチョォオオップ!」

「そんな!! シャルがのせたのにぃ!?……ぐふぅ」


 タレムの二心を叱りつけたのであった。

 

 ――タレムの理想のハーレムの心得。

 第一条。『全ての嫁を平等に愛さなければならない』

 第二条。『目の前の嫁に集中しなければならない』

 ……続く。

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