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四十話 『打ち倒せ! ヒーロー』

 間一髪。間に合ったタレムは、シャルルの瞳から零れる涙を救ってその身体を抱きしめた。


「シャル。遅くなってごめん。もう大丈夫だよ? 君は俺が守るから」

「っ。……タレム。タレムぅ! タレムぅっ! そちは……そちは……いつも……世の……私の窮地に現れる」


 暖かく、そして優しく抱かれると、シャルルも涙をぽろぽろ零しながら、タレムに抱き着いた。

 そんな金髪の少女に、銀色の少年は言う。


「シャル……。俺を巻き込まないようにしてくれるのは嬉しいけどさ。こんなにボロボロになるなら巻き込んで欲しかったよ。頼って……欲しかったよ」

「……っ」

「シャルと一緒に生きるって……結婚するって……夫婦になるって、俺は決めてるんだよ?」


 言いながら優しく、されど激しく。

 タレムはシャルルの身体を抱きしめていた。

 ……それは悔しさ。

 好きな女の子に頼って貰えなかった事が、どうしようもなく悔しいのだ。

 ――だから!


「見ててシャル。君の未来の夫は、愛する妻を守れる位には強いって事を!」

「……っ!」


 タレムは、シャルに上着を被せて離れると、見習い騎士の剣を、立ち上がったアークスと、その部下千人に向けた。

 すると、


「フッハハっ。誰かと思えば、アルタイルの出来損ないか」


 ……チッ。アイリスの奴は何をしてるんだ?


 アークスがそう悪態を付きながら、騎士剣をかがげる。


(まあ、僕が殺せば良いのか、どうせ――)


「君、一人が来たところで、何も変わらない。それを分かって来たんだよね?」


 アークスの動きで、背後に控えていた、精鋭騎士団員千人が戦闘体制を取る。

 ……もちろん、タレムは何も考えず脊髄反射で走ってきた。

 だから、


(……くぅっ。流石に多いな)


 千人の戦力差をどう埋めるかを考えてなどいなかった。

 いくらタレムの魔法があっても、千人の精鋭騎士は相手にしてられない……

 そもそも、ここまで《時間操作》を使いながら走ってきた為、まだ息が戻らず魔法を使えない。


 嫌な汗を背中にかくが、可愛い未来の嫁に格好をつけた手前、後ずさる事も出来なかった。

 そんな時、見計らっていたかのように……


「当然! 殿、一人な訳はないのでござるよ!」


 ……高い声が聞こえ、白い煙りが地下室を包み込み――


「ござる!」


 ――鬼仮面の少女。リンが姿を現した。


「リンっ! 何故! 戻ってきた。逃げたのでは――」

「ーー姫!」

「……む?」

「拙者が、姫を置いて逃げるわけないのでござる」


 ジーッと。

 シャルルの視線がリンに突き刺さるが、リンは飄々として言う。


「武器の補充や、姫を救う準備をしていただけでこざりまする」

「準備?」

「うぃぃっす。刮目して見るっすよ。忍法《影口寄せの術》」


 すると、白い煙りと共に、どこからともなく、リンと同じような仮面と忍び装束を纏った者達が現れた。

 その数、百人。


「殿。姫。拙者の騎士団。《お庭番騎士団》で、ござる!」


 リンは言うが早いか、既にクナイを、アークスの騎士団に投擲していた。

 続いて、お庭番騎士団の団員もクナイを一斉に投げる。


「「「忍法団技《お庭番・無限大・影クナイ》」」」


 それらが全て分裂し、その数はもはや、数えることも出来ない程。

 

「殿。雑魚は拙者達が引き受けまする。殿は、姫の服を()いたアークスを任せるでござる!」

「む!? リン。やはり、見ておったのではないか!」

「何!? てめぇか! 俺のシャルをこんなエロい格好にしたのは! ユルサネェ! シャルが許しても、夫である俺が許さねぇ! ユルサネェ!!」


 リンとお庭番騎士団が乱入し、統率が乱れたアークスにタレムは斬り掛かった。

 受けられ、つばぜり合い。一騎討ちの体となる。

 もちろん、


(ふん。精鋭だが、所詮は百人程度。混乱が収まれば僕の騎士団の敵じゃない)


 アークスはそれなりの打算があって一騎討ちに応じている。


「俺の嫁の裸を見ていいのはなぁ! 俺だけなんだよ!」

「別に!」


 ダンッ!


 あっさりと、アークスがタレムを吹き飛ばしながら、


「あんな醜い女の裸体! 誰も見たくなかったよ!」

「ぐぅっ!」


 シャルルが居る壁まで吹き飛び、背中を打ち付けたタレムに、アークスは言う。


「よく見ろ? 君も男だろ? その女。その傷じゃ! きっと子すら孕ませられないよ? それにその晴れ上がった顔。何と醜い事か(まあ、顔は、僕が殴ったからだけどね)。そんな醜い女、生きている意味がない。アルタイルの君が命をかけてまで! 守る価値はないと思うけど?」

「――っ!」


 そんな言葉に、ビクンとシャルルの肩が跳ねる。

 ……タレムに、醜い姿を晒していた事に気づき……怖くなったのだ。


「どうだい? 今、引き下がるなら。見逃してあげなくもないよ?」

「黙れ!」


 激昂。


「「「……」」」


 その声は良く空気にも、身心にも、響き、辺りで戦闘を繰り広げる全員が戦いをやめて、激情をあらわにするタレムを見た。

 しんと静まり返るその中で、タレムは震えるシャルルの肩を抱き、


「シャル。信じて。君は美しい。その心も。その顔も、その体も、そして……その傷跡も。君の全てを含めて、俺が惚れたシャルルっていう、可愛い女の子だよ?」

「――ぅっ」

「俺は君を必ず俺の嫁にする。見る目のない、男の言葉に惑わされちゃいけないよ?」


 君は美しい。


 そんな言葉が、シャルルは泣くほど嬉しかった。

 同時に、タレムへの思いが、熱く、一変した瞬間でもあった。

 今まではどこか、十年前に救われたという、罪悪感、感謝や憧れ、と言った負の感情が大きかったが、その全てが上書きされるほど、熱く、熱く、灼熱の恋慕に変わってしまっていた。


「タレム……タレム……っ。私は……私も! そちが好きだ! だから私は、好きな殿御の言葉を信じる!」

「フッ。あああっ。ホント、シャルって可愛いよう~~ッ! まさに! 俺の嫁! くぅぅっ。早く結婚したいぜ!」


 そんなふうにタレムは、金色の妻に身悶えてから、


「とりあえず、早く終わらせて! シャルとキスしよっと」

「ふん。終わらせるって? 君が僕を倒せるつもりかい? 僕はまだ、本気をだしてすらないんだよ?」

「……ああ? 本気……ね。なら、早く使って俺を殺すべきだったよ? 残念だけど、もう。お前は終わってる!」

「あ!? 何を言って――」


 タレムの言葉に、アークスが反論していた……途中で、


 バキバキボキボキバギハギボギボギギギギバババボボボボバギボギボバボギバボキババキバキボキボキバギハギボギボギギギギバババボボボボバギボギボバボギバボキバキバキボキボキバギハギボギボギギギギバババボボボボバギボギボバボギバボキババキバキボキボキバギハギボギボギギギギバババボボボボバギボギボバボギバボキバギギギギギギっ!


「――グバベボ!?」


 全身の骨が粉砕した。

 顔も体も、シャルルと比べものにならないほど、腫れ上がっていく。


「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……。さて……。俺の嫁に手を出した報い。身をもって味わえよ? シャルはもっと痛かった」

「ぐぼばべぶでぼ!? (一体! 何が起きたんだ!?)」

「は? 何言ってんの? わかんないし。汚くて、醜い顔でほざくなよ。不細工な男に生きてる価値はないぜ?」

「――っ!」

「フッ。お前の負けだ、とりあえず、もう。眠っとけ」


 どしんっ!


 ゆっくりとタレムがアークスの頭をかかとで踏み付けて気絶させた。

 そして、唖然とし、タレムを見ているアークスの騎士団員に言う。


「全員。動くなよ? 動いた奴から、コイツと同じ目に合うことになるぜ? 今、俺は無性に機嫌が悪い。早くシャルを抱きたいんだ。わかるだろ?」

「「「……」」」


 ――誰もわからない。


 だが、一瞬だった。

 いや、一瞬ですらなかった。

 それだけで、タレムは、アークスの騎士団員千人全員の心を打ち砕いたのだ。


 ――タレムには絶対に逆らってはいけない。死ぬよりも辛い目に会う。


 もちろん、タレムが連続して魔法を使える訳ではないため、ただのブラフだったのが、誰一人動くものは現れず、シャルル暗殺計画はそこで幕を閉じたのであった。(もう二話くらい続く)

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