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三十三話 『今日は反省会。後にキス』

 タレムとシャルル王女が密会に使っている何時もの泉で、


「そうか……」


 魔獣討伐のあらましを聞いたシャルルは、感情の読み取れない声で短くそう呟いていた。


「いや、なに。そちとリンが無事で何よりだった」


 しかし、感情の読めなかったお姫様は、すぐに打って変わって、喜怒哀楽がハッキリと解る声色でタレムと鬼仮面を付けた少女を労った。


「すまぬな……。まさか、そんな事態になっているとは思わなんだ……」


 シャルルは、リンが居れば魔獣の一体や二体軽くあしらえると思っていた。

 だが、蓋を開けてみれば、タレム達は何度も死にかけ、イグアスの連れてきた兵士からは死傷者が多くでてしまった。

 ……予測を遥かに上回る危険な戦場だった。


「グレイシスの末っ子にも貸しを作ってしまったな。後ほど、謝りに行かねばならぬか。……顔を合わせてもよいな?」

「まあ……それはそうだよね」


 そんなシャルルの言葉に、出来るだけイグアスと会わせたくなかったタレムも同意する。

 ……この場合は仕方ない。


「でもさ。シャルの方こそ良かったの? なんか……アークス・クラネット? を帝都に戻したくない理由があったんだよね?」

「……ふっ。よいよい。もうよいのだ。そちが気にする必要など、ミジンコ程もないのだからな」


 そう言ったシャルルの表情は、凪の海の様に穏やかで、聖母の如く包容力があった。


「(ヤバい……シャルが超可愛い)」

「ん? ふふふ。そうか……それは嬉しい言葉だな」

「……っ」


 つい言葉にでてしまったタレムの心の声を聞いて、柔らかく微笑むと……


「ならばこうしてもよいな?」


 言いながら、そっと少年の胴に腕を回した。


 むちっ。


 お姫様の身体が、タレムの身体に密着する。

 それは、焼きたてのパンの様に柔らかく弾力があり暖かい。


「そういえば今日はまだ……だったね」

「うむ……まだだった」


 シャルルと交わした約束の接吻と抱擁。

 昨日の話にかまけてまだ、していなかったことを思いだし、ゆっくりと、恋人の身体を抱きしめた。

 そして、


「シャル……とても可愛いよ」

「ふふ……くすぐったい」


 良く渇いた白砂の様にさらさらの横髪を払いながら、


 ――ちゅっ。


 口付けを交わしたのだった。

 ……シャルルとのキスは、とてもとても甘い味。


 そのまま少女の方が、少年から離れずに抱き着く腕の力を強めると、


「……ん。ふふ。タレム。今日は一日、そちと一緒にいて、甘えてもよいか?」

「え? 俺は大歓迎だけど……」


 アルゼリア学院は昨日と今日を入れて二連休。

 何の問題もない。

 だが、王女の公務に休みはない。

 そう、シャルルが自分で言っていた筈だった。


「ふふ。今日はそちと一緒にいたいのだ。なに、気にすることはない。……リン」

「ホットケーキでござるか!? 姫」

「ふっ。それは後で好きなだけ作ってやろう。勿論、タレムの薬もな。だから……私に時間を作ってくれまいか?」

「……」


 リンは王女のお願いを聞いて、一瞬、タレムを流し見た。

 そして、


「姫。前に言っていたアレ、拙者も貰っていいなら、良いでござるよ」

「アレ?」

「アレはアレでござるよ」


 言いながら鬼の仮面がチラチラと銀色の少年を見上げている。

 ……それで、


「あっ。アレか」


 黄金の姫も察しがついた。


「それでござる」

「別に構わ――ん? なんだ? 結局、リンも気に入ったのだな。ならば――」

「では! これにて拙者はさらば(なり) 忍法ドロンの術でござる」


 ドロンっ!


 シャルルの悪い微笑みに、慌ててリンが姿を消した。

 ドロンっ! という効果音と白い煙りとともに……


「すごっ! ねぇ? シャル。ござるのアレってなんなの?」

「むぅ! いなくなった女御の話など捨てて置け! 今、そちの前にいる私を見るのだ! ……ハーレムを志すのは構わないが、その分、一人一人との時を大切にしなければ悲しくなってしまうのだぞ?」

「わ、悪い」


 何時もなら、誰の話をしようと笑ってくれるのだが……

 されど、シャルルの言葉は正論で、タレムは心に止めておく。

 だから、言われた通り目の前の可憐な少女に集中する。


「ふふふ。それでよい」

「あっさりしてるね」

「ねちっこく根に持っても時間の無駄だからな。時は金よりも高し。そちは十分反省し、誠意は行動で示してくれた。ならばそれでよい」

「シャルのそういうところ、割と好きかも」

「ふふ……。そちに言われると何でも嬉しいの。(元はそちに教えられたことなのだがな……)」

「ん? 何か言った?」

「気にするな。そちを好きだと言っただけだ……」

「……っ!」


 ぎゅっ。

 シャルルが照れた顔を隠す為に、タレムの胸に顔を埋める。

 ……そんな仕草も可愛く思いながら、


「さて。じゃ、今日はこれからどうしようか? 家……俺の住んでるところは、シャルが来れるような立派なもんじゃないし」

「ん? 私は小さいことを気にせん女だぞ?」


 とりあえず、馬糞の香が残る馬小屋での寝泊まりが、小さい事なのかは置いておき、


「……マリカちゃんが居るからさ」

「ああ……得心した」


 そこで花嫁修業に準じている女の子。

 とても見目麗しくタレムは大好きで、第一婦人にすると心に決めている為、シャルルと会わせてみても良いのだが……

 マリカは極度の女嫌い。

 シャルルを見たら発狂し、何をするか予想も立たない。


「……」


 かといって、ぷりっぷりのプリンセスであるシャルルをむやみに連れ歩くことも難しい。

 ならばどうするかと、魔法まで使って考えようと思いはじめたタレムに、


「ならばここでよい」


 シャルルは抱き着いたままそう言って、


「日がくれるまで、ここで二人の時を過ごそうではないか」

「……良いけど。こんな泉しかない場所で、何するの?」

「ふふふ。そうだな……。では、手始めに、飽きるまでは、私を抱き、唇を交わすのはどうだ?」

「ふっ」


 そんな問いには、鼻で笑い、女の子の柔らかい身体を抱きしめて、甘い香を愉しみながら、


 ちゅっ。


 口づけで答えた。


「……どうする? これ、俺、多分。今日一日ぐらいじゃ、飽きないよ?」

「よいよい。それでも、そちが飽きるまで、だ」

「なら一日中だね」

「ふふ」


 すると、今度は、シャルルがしっとりと微笑んで、タレムの口の内側に舌を入れた。


 ヌルッ。

 

「――っ!」


 ねっとりと暖かい舌が、タレムの舌に気持ち良く絡みつく。


「……ん。ならば、タレムよ。私にも飽きさせないように工夫するのだぞ?」

「……っ。うん。……分かった」


 そう答えた銀色の少年の瞳は、すでにとろんとふやけて居るのであった。

 ……この後、二人は目茶苦茶キスをした。

 日が暮れるまで。

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