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三十話 『騎士見習いタレムの覚醒』

「行くぞ。タレム」

「何時でも良いよ!」


 イグアスの掛け声で、炎の壁が解かれ、タレム達は軍隊蜂ハニー・ビーの大群と女王蜂ロイヤルハニー・クイーンの真っ只中に放り出された。


「ギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ――ッ!」

「「「「ギィィィッ!」」」」


 と、同時に、女王蜂の指令の元、軍隊蜂たちが一斉に毒針を飛ばすべくお尻をあげる。

 リンの様な耐性を持っていなければ、即死級の毒針の雨が降る!!


「タレム!」


 その最悪の未来を予測しイグアスが、動けないリンに覆いかぶさりながら、タレムの名を呼んだ……

 その瞬間。


 ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――ッ!


「「「「……ギィ?」」」」


 今にも毒針を撃とうとしていた二百体の軍隊蜂たちが一斉に斬り裂かれた。

 自分に何が起こったのか?

 軍隊蜂たちは解らずに絶命し地面に落下していく……


「ふっ……やっぱりか」


 一方、軍隊蜂たちの死骸が雨の如く降り注ぐ中心で、タレムは一人悠然と、己の手を握ったり開いたりしながら見つめていた。

 その様は、自分の身体の調子を確かめているかの様である。

 そして、


「じゃあ、次はお前だよ」

「ギィイイイイイイイッ!!」


 タレムは手を閉じて指を、騎士見習い用騎士剣に絡ませて持つと、切っ先を女王蜂に向けた。

 女王蜂は異様なタレムの気配に脅えつつ、真後ろの巣から軍隊蜂たちを増員し再び軍隊を率い出す。

 ……が、


 イグアスが、瞬きした一瞬。


 ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――っ。


 再び軍隊蜂たちが死骸に変わっていた。

 続けて、


 カンッ!


 ……と、甲高い音が響くと、タレムは、いつのまにかに女王蜂の真横で己が騎士剣を眺めていた。

 ――その時、その場にいた誰しも、タレムの姿を目で捉えることができなかった。


「……あれ? やっぱり堅いな。俺の剣の腕で、中等級の剣じゃコイツは倒せないか」

「――ッ!」


 隠密専攻の千騎長リンですらタレムが何をしたか瞳で捉える事はできなかったが、タレムの言葉からタレムが直面している状況を瞬時に悟って、


「殿っ! ソイツの外殻は上等級の獲物(クナイ)でも傷一つ付かないっす。かといって、生半可な炎で炙っても効果は無いでござる!」


 リンが知り得るタレムに必要な情報を的確に伝えた。


「ござるの腕で、上等級すら無効なら剣より他の方法を考えるべきか……」


 言いながら、タレムは魔法を発動し、作戦を練り直す。

 タレムの魔法《光速思考》は攻撃力が無く戦力差を覆すことも出来ないため、戦闘には向かないが、こうして切迫した時間にこそ真価を発揮する。


(女王蜂の外殻が、武器の等級、上等級以下を弾くとして考えろ……どうする?)

 

 武器の等級とは、攻撃力・切れ味・耐久力等など、武器を総合的に評価してつけた武器の強さの様なもの。

 等級は、初等級から始まり、中等級・上等級・特等級・超特等級……と続いてくが、女王蜂の外殻は、上等級以下の武器が利かない。

 騎士見習いタレムの騎士剣は、中等級。

 千騎長リンのクナイは上等級。

 騎士イグアスの正騎士剣も上等級。


(今の段階で、女王蜂の甲殻を抜ける武器は無い……なら!)


 そこで、タレムは魔法で時間を停止したまま駆け出した。

 タレムの魔法の真髄は思考時間を延ばす《光速思考》等ではなく、一秒の時を止める《時間操作》だったのだ。


 世界の誰もが一秒に囚われる中、タレムだけは百倍速で素早く動き、女王蜂の蟲眼に騎士剣を突き立てた。


 眼は流石に刺さった。

 眼を潰し、タレムはそのまま次に行こうとしたのだが……


「――ッ!? ギィ……っ! ギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ――ッ!」

「……くぅ」


 タレムの意思とは関係なく時は再び動き出した。

 タレムの魔法は一秒の時間を止め、自由に動ける能力だが……


(代償が無い訳でもなかったか)


 全身に走る異常な疲労感。

 足が重く息が乱れて苦しい。

 もう、剣を握っているのすら辛かった。


 ……たった三度、魔法を使っただけでこれだ。

 強力な魔法だが癖も強力すぎる。

 連続で使えるのは三回か? ……無理をして、四回目。

 次は長く動けないだろう……


(それでもやるしか無いんだ。……リンの行為に応えるには! やるんだ!)


「イグアスッ!」

「……なんでもこい! 合わせてやるさ!」


 タレムの魔法を知っていたイグアスがニカッと笑って騎士剣を掲げた。

 それを見て、合図にし、魔法を発動。


 とーんっ。


 世界の一秒が停止する。

 その中を、タレムは全力で翔けて、女王蜂の背中に回り、羽をギザギザに切り裂いた。


 当然、しならせ空を飛ぶための羽も甲殻ほど固くない。

 タレムの中等級の騎士剣でも切り裂けく事が可能であった。


 ずーんっ。


「ギィギィギィギィ……!? ギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ――ッ!」

 

 そこで、魔法が終わり、一秒を超越した代償がタレムの身体を襲う。

 全身の倦怠感で、動く気力を根こそぎ奪っていく。

 しかし……


(最後……に、動け!)


 タレムは奥歯を噛み締めながら、羽を失い浮力の失った女王蜂の背中を全力で蹴り飛ばす。


 ダダン!


 そして!


「イグアスっ! 任せた……」

「おう。任された!」


 飛ばされ身動きの取れない女王蜂。ご丁寧に、木々からも離れている。

 イグアスがやることは一つしなかった。


「燃え尽きろ! 《大火炎柱》」


 英雄、騎士王の力を継ぐイグアス・グレイシス。

 その灼熱の炎柱が、女王蜂ロイヤルハニー・クイーンを飲み込んでや燃やす。


「ギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ――ッッ!」


 リンの忍法よりもイグアスの魔法の炎は数千倍高温で、効果的面。

 数秒の後に、討伐難度Aの魔獣、《ロイヤルハニー・クイーン》は、燃えカスとなったのであった。

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