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十六話 『騎士VS黒騎士(妖精族)』

 順調に精霊同盟軍を制圧していく、アルザリア帝国軍。

 三つの戦場、その全てで、勝報が途切れることなく、届いていた。


 ――しかし。


 ある時を境にその流れが止まってしまう。

 それは、突如、三つの戦場、それぞれに、黒光りする甲冑を纏った戦士達が、舞い降りた瞬間からである。


「####っ!」


 帝国の言葉とは異なる言語で声を上げる、その黒光りする甲冑の戦士、黒騎士たちは、登場と同時に、周りの帝国兵を次々に斬り倒していく。

 襲い掛かってくる者は、返す刀で真っ二つに、集団で襲い掛かれば、纏めて切り伏せる。

 更に、弓を引き絞られれば、放たれた矢を素手でつかみ取り、正確無比に打ち返し、脳天を貫いた。

 矢の豪雨を降らされても、片手を掲げ、何かボソッと呟くだけで、全ての矢を弾く、特殊な力を持っていた。

 その圧倒的な個の力を魅せるのは、精霊同盟軍の切り札的存在。

 妖精族エルフの戦士たちだ。


 他の二種族を大きくしのぐ身体能力に、ソレをどう使えば効果的かを考えられる知能。

 妖精族は、種族として、生物として、完全で完璧で無敵な種族。

 唯一の弱点は、完璧過ぎるが故、天敵が存在せず、種族的な危機に陥らなかった為、繁殖能力が劣化し、個体数が非常に少ない、ということか。


 ――ともかく。


 そんな妖精族が、戦場に参戦し、血の雨を降らせていく。

 たった一人の妖精族が、百人の兵を斬り伏せる。

 まさに戦場に戦の神が降臨したかのようであった。

 帝国軍の一方的な戦いになりかけていた戦況を一気に覆してしまえるほど……。

 ……だが。

 帝国軍にも、一般兵とは一線を越す化け物たちがいる。


「そこまでだ。止まれっ!」

「……っ!」


 各戦場で暴れ回る黒騎士達の前に、帝国の《正騎士》達が立ちはだかった。

 妖精の黒騎士と、帝国の正騎士、最強戦力同士が激突する。

 ……結果は。


 ――互角。


 互いの剣激を互いの中央でぶつかり合う、膠着状態となった。


「向こうにも、なかなかの粒がそろっているようだな」

「ふん……たかが、下級騎士程度と互角だからって、喜んでいるのかしら? あんなゴミカスどもだったら、まだ、タレムの方が強いわよ。つまり、排泄物以下ってことね……ふん」


 それを、帝国軍の後ろで指揮をとりながら、眺めていたイグアスが、アイリスが、誰に言うでもなく、苦そうな顔で言葉を漏らす。


 ……もし、そこに、自分がいれば、敵を殲滅できるのに。


 漏れ出た声は、そんな心の声が滲みでいる。

 では、それを、なぜ実行しないのか? 

 その理由は……


「確かに、千騎士クラスの騎士ならば、あの黒騎士どもを殲滅できるであろうな」


 ぼそり、と、レオ皇子が呟いた。


「だが、ソレをしてしまえば、指揮官不在となり、基本能力で劣っている我が軍は、立ち所に各所で負けるであろう」


 そう、いくら人材の宝庫、アルザリア帝国の軍とはいえ。

 千騎士と同等以上の力を持つ、人材は非常に稀少。

 この戦場に限れば、五百騎士長のイグアスを含めて、アイリスとレオの三人しかいない。

 この三人の指揮が途切れれば、大局に支障がでる。


「……なにより、精霊同盟軍にまだ隠し球があるかもしれないし……ね。ふぅ……大変だぁ」


 そんな、動きたくても、動けない、指揮官達より、少し前の位置。

 最初の位置から全く動かず、戦況を見守りながら、ほぼ同じことを思っていたタレムに、


「――お屋形さま。大物っぽく、余裕ぶっているところに、失礼」


 スッと、猿の仮面の幼女が耳打ちした。

 ……相変わらず、声を掛けられるまで、一切の気配がない。


「……別にいきなり現れるのは良いけどさ。ほんと、失礼こと言ってるよね。君。もしかして毒舌の国の子?」

「は? 某は、姫と、同じ、和の里の生まれで候ふ」

「へぇ……そうなんだ。じゃあ、ゴザルの幼なじみだったりするの?」


 ……チクッ。


 雑談でも、するノリで、気楽に尋ねたタレムの首に、猿の仮面の幼女がクナイを突きつける。

 そして、隠さず向けられる嫌悪と殺気。


「――たまたま姫の仮面を取ったって、だけの分際で、調子のんなよ。クソ野郎。次に某の前で、姫のことを《ゴザル》なんて、呼び名で呼んだら、命はないと思え! 解ったな?」

「……っ」


 続けて言われた言葉は、さっきまでと同じ幼女の口から出たとは、思えないほど、あらっぽかった。

 どうやらこの幼女、リンの事になると性格が変わるらしい。

 ……いや、こっちが素面なのか。


 とにかく、タレムは、猿の幼女の死圧を前に、首をブンブンと縦に振るしかなかった。

 この幼女、怒らせると、もしかしらたアイリス以上に危険かもしれない。


「ほんとクソ。このクソ。姫の命令がなかったら、暗殺してやるってのに。あの麗しい姫を、某から奪った憎き恋敵……この仕事が終わったら暗殺してやる。先ずは食べ物に毒を混ぜて……ブツブツ」

「と、ところで、さ。君……えっと、さ、さ……サル。本題は?」

「おっと、いけない。これは仕事。私情は滅却するべし……某の悪い癖っす~~……ふぅ」


 ――彼女の何がそこまで怒りを駆り立てるのか?


 非常に気になるところだが、タレムは敢えて突っ込まない。

 そこに踏み込めば、深い深い、奈落の底へ墜ちてしまうような気がしたからだ。

 ――汝が深淵を覗く時、深淵もまた汝を覗いている。……なんていう、ありがた怖い、教訓を、タレムはマリカから教わっていた。


 ……きっと、人それぞれ、色々あるのだろう。

 そこで思考停止しておく。


「――お屋形さま。大物っぽく、余裕ぶっているところに、失礼」

「え、戻った? あ……無かったことにしたんだね。じゃあ、そのついでに、別に怒らないからもうちょい、肩の力を抜いて、話しても良いよ。俺、お堅いことキライなんだよね~~」

「え? マジっすかぁ~~? 気が合うっすね~~。 では、失礼して。……こほん。シね、シね、シね、シね、シね――」

「抜きすぎだろ! 肩の力どころか、本音、駄々漏れちゃってる! 流石に俺も怒髪天だわ! みすごせねぇぇぇよ。お前、実は俺の敵だろう!」

「では、某に、如何しろって、いうんッスかぁ~~? 注文の多いお屋形さまっすねぇ~~」

「あれ? 俺が悪いの? まぁ……いいか、よし。解った、俺が悪かったから。早く本題に入って、別に暗殺予告しに出てきたわけじゃないんだろ?」

「では、改めて――」


 ――黒騎士の中に一人、別格の者が混ざっておりまする。


 そう、サルがタレムに報告していた時。

 中央軍の最前線で、白銀騎士団を率いるノーマは、とある一人の黒騎士によって、三人の《正騎士》と、三百人以上の兵が、一方的に殺戮される場面を目撃していた。(続く)

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