二十六話 『騎士見習いと騎士と千騎長』
すみません。二十四話の投稿を飛ばしていました。
意味不明だったですね。
既に割り込ませたので、読んでない方は一読してください。
(誰も教えてくれない悲しさ……)
――翌日。《ハニー・ビー》駆逐兼採取作戦決行日。
タレム、イグアス、リンの三人は、貴族界から平界に下り、《ハニー・ビー》が、大量発生しているというアルザリア大森林に赴いていた。
既に、イグアスの騎士団兵士百人が大森林の前に展開されている。
後はもう、イグアスの号令があれば何時でも進軍可能な状態だ。
「へぇ~っ。さすが、英雄の血族、グレイシス家期待の新生児……だったイグアス殿の騎士団。よく、調練されているでござるな。一人一人が既に殿より強いんじゃないでござるか?」
「喧しいわ!」
そんなイグアスの騎士団をみて、感嘆の声を漏らしつつ、タレムを弄るリンと、突っ込むタレム。
実際、イグアスの騎士団は、千騎長のリンからみても、お世辞ではなく相当の精鋭部隊であった。
(拙者の《お庭番騎士団》よりは格下でござろうが、イグアス殿百人隊は、前線で戦う十騎長の騎士団よりも強いでござるな。はてさて、イグアス殿もまた……何か野望を秘めた傑物の類であるという事でござるな)
リンは、そんなことを頭で考えながら、横目でチラリと欠伸をしているタレムを見る。
「ん? どうしたの? ござる?」
「……いや。殿はある意味、一番落ち着くでござるな。ハーレムとか馬鹿で阿呆だと思っていたでござるが、欲望に素直でわかりやすく安心できるでござる。早く拙者より強くなるでござるよ」
「ねぇ? よくわかんないけど、馬鹿にしてるよね! してるよね!」
「よくわかったでござるな! 感心でござる」
「そこは否定しろよ!」
それは、タレムとリンの何時も通りのやり取り。
それをイグアスは眺めながら、微笑ましそうに言う。
「ミス・ござる。なんか、最初よりも随分と丸くなったな。お前もタレムに籠絡された口か?」
「……。拙者、ござるではなく、リンでござるよ~」
タレムがリンをござると呼ぶからか、イグアスも素でリンをござるだと思っている節があった。
リンは何時か本当にござる等という、愛称が定着してしまうと危機を感じ、訂正してから……
「それよりも、グレイシス家がこの作戦に参加するとは思わなかったでござるよ」
「……。オレも、ござる千騎長が一兵も連れて来ないとは思わなかったが……?」
「拙者はリンでござる」
「オレもイグアスなんだな」
ジー。
タレムと話す時とは違い、イグアスとリンは腹芸で、探り合いながら嫌呑な雰囲気を漂わせる。
もちろん、タレムも二人の間に流れるピリリとした空気は感じているが、貴族同士の因縁は根深い。
表面的でなく、裏での権力闘争があるためそう簡単に口出していい事でもない。
だから、
「まあまあ、お二人さん。今日は仲良くしようよ。立場を忘れてさ。イグアスは俺の親友で、ござるは俺の師匠だ。だから二人は、俺を挟んで協力者。そして、俺らの目的は一つ。魔獣を倒す事だろ? そうだろう? それとも何か違うのか?」
……そういう難しいことは全て取り払う。
「「……」」
良くも悪くも裏のないタレムの言葉は、正論で、どちらもタレムの友好者。
ここで争う理由はない。
「……ミス・リン。謝罪する。昨日少しあってな、気が立っていたんだ」
「拙者もムキになったでござる。……拙者の騎士団は少数精鋭の隠密部隊。今日も任務で帝国中に散らばっているのでござるよ」
争う理由がなければ、イグアスもリンも、むやみに相手を冒涜する事もないのであった。
仲直り……とまでは行かなくとも、関係を改善した二人。
(やっぱり、アイリスも来ればよかったのになぁ……)
タレムは二人を見ながらそんなこと思い、
「さて……じゃあ。二人とも、じゃれあってないで、そろそろ行こうよ。討伐隊が来ちゃうよ?」
「あっ! そうだったっす! 殿! 急ぐでござるよ!」
「……ふっ。甘いケーキか。……年相応に可愛いところもあるんだな。あの鬼っ子も」
「イグアス。ダメだよ? ござるも俺が予約済みだからね」
「早く――殿! イグアス殿! 置いて行くでござるよ!」
「あんな子供までか……手当たり次第だな」
「あれで、将来有望だからね。出会いは意外と近くに転がってるのさ」
魔獣討伐を開始した。




