十四話 『白銀の従騎士、戦場で舞う』
戦場を駆ける白銀騎士団副団長ノーマが率いる三千の騎兵隊。
非物理的な炎や雷、鋼の矢などが飛び交う戦場を少々の損害を出しながら越えていく。
その前に、百人の地精霊族が立ち並んだ。
そのまま、五千体のゴーレムが召喚される。
……ここまでは、初日にイグアスとアイリスが仕掛けた時と同じ流れ。
このゴーレムを相手にするのなら……
「標的は……後ろの術士っ!」
騎兵隊とゴーレム隊が激突する……瞬間。
ノーマは、獲物の長剣を持って騎馬の背に垂直に立ち、全力で馬背を蹴り、跳躍した。
「せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
その跳躍は、高く、そして、長い。
数百メートルもの距離を軽々飛び抜け、ゴーレム達の頭上を突破し、地精霊族の真上まで。
――そこから、地精族のど真ん中に砲弾の如く着地。白銀製の靴が擦れ黒煙を発生させている。
同時に、
「グレイシス流……長刀術、一ノ型《無残》」
手にしていた長刀を鞘から抜き放った。
――きらめく一閃。
まるで時でも駆けたかのように、姿を消し、次の瞬間には十メートル先に居た。
遅れて、直線上にいた地精霊族の首が切り落とされ、豪風が吹き荒れる。
……一刀十殺。
たゆまぬ日々の研鑽により、以前に同じ技を放った時よりも、明らかに威力がましていた。
(何人か、よけられました? やっぱり、魔獣とは比べものになりませんね)
しかし、単機で敵軍の中央に入った代償は大きい。
すぐに、地精霊族に囲まれ、数の暴力で、押しつぶされるだろう。
地精霊族は、三種族の中で一番筋力に優れていると言われている種族。
ゴーレムを使役するだけではなく……当然、白兵戦闘能力も高い。
――飛んで火に入る夏の虫……だが。
ノーマはゆったりと、息を整えながら、両手で握る長刀を左腰に付けて構え、切っ先を真後ろへ向けた。
……そこから、
「グレイシス流、長刀術・二ノ型……《円残》ッ!」
腰をギュッと捻り……一回転斬り。
長さ二メートルの長刀が円を描いた。
当たり前のように、範囲内に居た、敵が鎧ごと上下真っ二つに両断され、吹き飛んでいく。
……これで、初太刀と併せて、二十人は屠っただろう。
ピンっと、振り切った、白銀製の長刀身に刻まれている『一騎当千』の文字が煌めく。
それは、タレムが己の従騎士にふさわしいと念い、送った文字であり、特注武器の証だ。
帝国最高と名高い鍛冶士が付けた、その長刀の名は《白銀・村正》。
武器等級、特等級の紛れもない名刀だ。鎧を斬ったというのに刃こぼれ一つしていない。
……ただ。
「……くっっ。思った以上にじゃじゃ馬です」
……使用者の体力を吸う、妖刀である。
たった二太刀で、体力を使い果たし、ぐらりとノーマが膝をつく。
「でも普通の剣じゃ、技を連続で出したら折れちゃいますし……やっぱり、普通に躱されていますね。(団長……私は、まだまだ、一騎当千にはほど遠いです)」
剣を地面に刺して寄り掛かり、動けないノーマに、今度こそ、同族を殺された恨みを晴らそうと、地精族達が襲い掛かる。
……だが。
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」
ノーマが、決死の覚悟で、突撃し、地精族を斬ったことで、後ろで騎士団と交戦していたゴーレムの総数が減っていた。
もし、この時、冷静に減少数を数えているものがいれば、千体ものゴーレムが消滅したといっただろう。
……これが、作戦の第一段階。
そして、千体のゴーレムが消滅した機を逃さず、白銀騎士団三千が、一点突破の陣形でノーマの元まで駆け抜けてきた。
……これで第二段階。
すぐに騎士団が、敵前で孤立し、膝をつくノーマの元に集まっていく。
「副団長。大丈夫ですか」
「はい。私は団長とあのお方から頂いた《魔法》もありますし。でも、すみません……もう少しだけ、休ませて下さい」
「はっ。――では、残りは我らが殲滅して参ります。ノーマ副団長は、騎馬してお待ちを」
「――いえ。白銀騎士団だけでの殲滅は難しいでしょう。(地精族……かなり強いです……)……ここは欲を張らず、先ずは、陣を作って、楔にし、突破口を維持してください。すぐに他の軍が来る筈です」
「はっ」
ノーマは重い身体を持ち上げて、騎士団が連れ来ていた愛馬に跨がり、テキパキと指示を出す。
騎士団の兵も、ノーマの号令に従って動く。
……この辺は、副団長として、常に白銀騎士団とともにあったノーマの人徳だ。
そして、陣を築くと、その言葉通り、他の帝国軍が続々と増援に現れる。
――この瞬間。精霊同盟軍の前線は決壊した。
「よし……作戦成功です♪」
増援部隊が、勢いのまま、地精族部隊と激突し、交戦。
すぐに、精霊同盟軍も、豚人族や地精族の混成部隊を救援に出してくるが、帝国軍の増援も止まらない。
――両軍、一歩も譲らない大混戦となった。
膠着しているようにも見える戦況だが、しかし。
単純な力と力をぶつけ合う白兵戦は、戦い慣れしている帝国軍の方が若干強い。
徐々にだが、確実に、いままで決して動かなかった戦線を前へ推し進めていく。
――そして、同じ様なことが、西軍と東軍でも起こっていた。
中央軍はノーマがゴーレムの壁を切り開いたが、他の場所では、他の騎士達がそれぞれ、能力や知恵を活用して、突破していた。
三点同時突破。
術士を倒せばゴーレムが消滅する。という、弱点を看破しても、すぐに突かず、三軍の息を合わせてゴーレムを攻略する、レオ皇子の作戦だ。
この作戦が功を奏し、精霊同盟軍は見た目以上の大打撃を被っていた。
このまま行けば、今日中にでも、湿地帯一帯を、帝国軍が支配してもおかしくないほどに。(続く)




