十三話『白銀騎士団、参戦せり』
タレムはレオ皇子の言葉通り、前線に配置されることになっていた。
配置場所は、レオ皇子が指揮する中央軍の西端、若干イグアスが指揮している西の戦場に近いと言えば近い……が、やはり、広大な戦場で、気軽に行き来、出来るような距離でも無い。
最初の予想通り、イグアスとの連携も救援もまず、出来ないだろう。
「ノーマ。調子は?」
「絶好調ですっ……と、言いたいですが、昨晩は、あんまり眠れませんでした……すみません」
「……あんまり、か」
……俺は一睡も出来なかったけどな。
と、隣に並ぶ副官に心の中だけでツッコミ、背後に控える白銀騎士団をサッと眺めた。
やはり、皆、戦場の空気に慣れたのか、初日より、幾分、顔色が良い。
戦場慣れしている傭兵達も、一週間、闘え無かったことで、丁度良く、鬱憤が溜まって士気が高く鳴っているようである。
因みに、この一週間で戦況は殆ど動く事が無かった。
それは、敵の攻略に手こずっていると言うのもあるが、本当の所はレオ皇子の作戦の一環である。
……これに、初日、失態を見せたアイリス達が素直に従ったのだ。
「一応、確認だけど……作戦を、ど忘れしたりしてないよね?」
そして、今日。
一週間掛けて、温めていたその作戦の決行日。
「はいっ。それは大丈夫です」
……取り敢えず、レオ皇子の作戦に従うつもりだが。
タレムの白銀騎士団は、遊撃部隊。
もともと、イグアスやアイリスも与えられようとしていた役割で、この遊撃部隊は、戦場において独立した、行動が可能な部隊である。
つまり、白銀騎士団は帝国中央軍の作戦とは、違う作戦をとることが許可されている部隊ということだ。
これにより、普通の軍よりも、応用力の高い、対応が取れる。
……その分、背負うべき責任も、高くなるのだが。
「じゃあ、任せた。君が要だ」
「はいっ!」
既に、白銀騎士団の大まかな作戦と方針は、昨晩、主要な騎士団兵士達を通して騎士団全体に浸透している。
騎士によっては、決行まで、決行しても、その作戦の内容も、意図も、兵に話さない事もあるが、タレムは意図まで含めて話すタイプの騎士であった。
「団長……あの――」
どぉぉぉんっ。
――銅鑼の音が響いた。
これは、アルザリア帝国軍の開戦の合図。それはそのまま、作戦開始の合図。
何かを言いかけていたノーマが、表情を変え、戦士の顔になる。
今回は、急戦だ。
「――行きます。皆さんっ! 私に続いてくださいッッ!」
「「「――ぉぉぉおおおおおおおおおっっ!」」」
本部の作戦通り、白銀騎士団が出陣する。
ミスリルの装備を纏い、黄金のマントに刻まれた白銀の翼を、躍動させて、ノーマが先導していく。
ノーマの後に続くのは、三千の白銀騎士団兵。全員騎兵だ。
(団長……白銀騎士団の大事な初陣……なのに、ほんとうに私が先導役で良かったんですか?)
初めての戦場を掛けながら、ヒリヒリとした緊張、今にも逃げ出したい恐怖、そして、大恩あるタレムの役に立ちたいという、切望。
それらが胸の中でぐちゃぐちゃに溶けて混り合いながらも、ノーマは、初陣を率いようとしなかったタレムの意図を考えていた。
だが、それも、数秒の間だけ。
そこから、先、ノーマに余計なことを考えている余裕は、なくなるのであった。
……この日。戦況が大きく動くこととなる。(続く)




