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七話 『猿の仮面を付けた怪しい協力者』

 ロック村の領主邸から少し離れた岡の上。

 緑色の大地を埋め尽くして、ずらりと居並ぶ、延べ一万人の人間。

 その全員が、白銀の翼を刺繍された鎧と剣を装備していた。


 ――『白銀騎士団』の証である。


「壮観だな……」


 そんな白銀騎士団の先頭に立ったタレムは、自分の騎士団を見渡して感慨に耽る。

 最初は、農婦のノーマと二人から始まったのだと思い出して。


「この目出度い時に。領主様の隣に立てて、感無量のきわまりです」


 そんなタレムのつぶやきに、言葉通り、タレムの隣に立ち並ぶノーマが、瞳を輝かせながら言った。


「こらこら、君も契約とは言え、騎士になったんだ。『領主様』はもう、やめなさい。騎士サー・ノーマ」


 そこに立つ、ノーマは、前に並ぶ一般団員たちとは違い、背中に黄金色のマントを羽織っている。

 マントは、『騎士』の身分だけに許される装いだ。そして、同時に『騎士』だということを公言しているのである。


「では、なんと呼べば? 私にとって、領主様は、領主様が村を救ってくださった『あの日(二章前半のアレ)』からずっと、領主様なのですが……」

「そこで迷うなら、せっかくだし、シャルタレム卿って呼んで――」

「――では、『団長』と呼ばせてもらいますっ」

「なんでそうなったっ! 俺の意見は無視? ……いや、間違ってはいないけど」


 騎士になって間もなく、緊張しているのか、ノーマは、タレムの言葉を聞き逃し、ぎこちのない足取りで馬に跨ってしまう。

 ……早い。早すぎる。

 ちなみに、ノーマの身体で擦れカチャカチャと金属音を響かせているまだ真新しい装備は、タレムが騎士叙任祝いに与えたものである。

 ノーマの俊敏で精緻な動きを阻害しないよう、非常に軽量で高硬度な白銀鉱石シルバー製の小手と胸当て、さらに、姫騎士用の戦装束の下には、同じ素材で特注した、鎖帷子くさりかたびらと膝当てまで。

 ほかの一般騎士団員に支給した装備とは、比べ物にならないくらいの高級品だ。


(初めての従属騎士で舞い上がりすぎちゃったかなぁ~~、あんまり奮発しちゃったから、俺の装備は、十騎士長だったころのまま(騎士正装)のみ……なんだけどね)


「タレムさまっ」


 そんな百騎士長(仮)になっても、やっぱりぱっとしないタレムのもとに、上級修道女の正装で身を固めたマリカが躍り出た。

 マリカの姿を初めてみた騎士団員たちがその美しさに息を呑んでどよめく。


「きれいだよ。マリカちゃん」

「嬉しいです」


 戦場に行く騎士を送り出すのは、伴侶としての大事な務め。

 恒例の儀式みたいなモノだ。

 ……この儀式があるから、まだ馬に跨るのは早かった。


「これを……わたしだと思って、肌身離さず持っていてくださいまし……」


 すっと、銀製の十字架をタレムの首に掛ける。

 ……いつも、マリカが胸に下げている十字架だ。


「ご武運をっ……」

「ああっ! マリカちゃんも」

「(マリカと呼んでくださいまし)っ!」

「……マリカも、次は助祭になった姿を見せてくれよ?」

「――っ。はいっ。必ずっ」

「では……私からも、一つお約束を」

「なに?」


 ちゅっ……っ。


 一万人の兵が見守るなか、不意にマリカはタレムの唇を奪っていた。

 その接触は一瞬……。マリカの接吻に気づいた者がどれだけいるか?


(マリカちゃん。この大衆の前で、ここまでやるか……大胆だなぁ、俺の嫁♪)


「(赤面)……今度、お会いするときは、タレム様からしてくださいね? ……イヤ、でございますか?」

「ふ……っ。そんなことなら、大歓迎だよ」


 短い儀式を終え、マリカの頭を撫でてから、タレムが馬に飛び乗った。


 ――出陣だっ!


 と、声を上げようとしたその時。

 小さく素早い影が走るの視界の端で捉えた。


「――失礼。タレム殿とお見受けするが? 間違いないか?」


 その影は、その場にいる全員の死角を突いている。

 声を掛けられた今でさえ、一万人の兵と、近くのマリカ、そして、ノーマまで含めて、その存在に気づいているのはタレムだけ。

 ……恐ろしく、気配がない。


「いかにも。君は?」


 目の前にいるのにもかかわらず、見失いそうになるほどに。

 だが、よく見れば、猿の仮面を付けた幼い少女であり、アルザリア帝国騎士のマントを羽織っている。

 少なくとも、敵襲の類ではない。


「御庭番騎士団、団長直下、従属騎士、名をトーカ・サリュー。それがし、主君の命により、はせ参じたでそうろうふ。以後、お見を知りお気をくだされ」

「だんちょうちょっか……えっと、さるー? (長くて頭にはいんねぇ……) いや、それより、お庭番騎士団って……あ、ござる。か!」

「――っ!」


 ギロリっ。


 突然、殺気。

 それは、猿の仮面を付けた少女から発せられたものであった。


「……主君、鬼姫様より、白銀騎士団の助力をしろと承ったで候ふ。貴君の騎士団に同行すること、許可をいただきたい」

「……」


 しかし、その殺気はすぐに消え、礼儀正しく、頭を垂れた。

 二人の間になんとも言えない緊張感が走る。


(なんか、怪しいけど……まぁ、)


「許可する……けど、ひとつだけ、質問させてくれ」

「如何なる問か?」


 ……そうして、神妙な顔でタレムが聞くのは、


「ちょっと素顔みせてっ……♪」


 ……で、あった。

 ござると最初に対面したとき、素顔を見て、ひと騒動あったことは完全に忘れている。

 阿保、ここに極まりだ。


「……(意味不明也)」


 これには、謎の少女が、ぽかーんと口を開ける番であった。

 しかも、タレムはそこで終わらず、さらに追及する。


「お庭番騎士団って、みんなちっさいけど、君は、特にちっさいよね? ござるよりちっさいんじゃないの? ねぇ、今、何歳? 二桁乗ってないんじゃないの?」

「……(ちっさい。ちっさい。言わないで欲しいっス)」


 ぞわぞわ。


「……っ」


 ――そこでまた、殺気。

 首筋に冷たい悪寒を覚え、後ろを振り向くが、そこにいるのは、ニコリとほほ笑んでいるマリカだけ。

 そこから、また、視線を戻すと、猿の仮面を付けた幼い少女は忽然と姿を消していた。


「……あれ?」

「タレムさま。ひとりでぶつぶつと……なにをなさっておりますか? ご出陣なされないのでしたら、屋敷に戻りましょう。大丈夫です。たとえ、怖くなってしまったのだとしても、わたしは、最後まで、おそばにおりますから」

「いや、行くよ? 思わず行きたくなくなるような優しい言葉をかけないでっ。シャルと約束したし、ハーレムの夢のためにも。さすがの俺も、今更、逃げたりする腰抜けじゃないよ?」


 タレムはそこで、消えた少女の行方を探そうとはせず、


「じゃ、本当に行ってくるよ。マリカちゃん……って、呼んでもいい?」

「ふふふ、お好きにどうぞ、わたしの愛しいご主人様。……行ってらっしゃいまし」


 馬を進めて戦場を目指した。一万人の兵も背中を追う。

 そして、これ以降、タレムはもう、振り返ることはなかった。(続く……ここが序章かな? 出立編)

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