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閑話・四 『タレムの成長』

 領主の仕事や、タルシスの帝王学教育に忙殺される中でも、タレムは合間を見つけて、師匠リンとの特訓もこなしていた。


 領主邸・修練場。


「……っ!」

「……っっ!」


 タレムがタルシスに稽古をつける時のように無駄な掛け声や、相の手はない。

 また、がぎぃんっ! がぎぃん! っと、断続的に響く金属音で奏でられていることから解るように、二人が特訓に使用しているのは、練習用の木剣ではなく、実際の戦闘で使用する真剣だ。

 ……もし、少しでも集中を欠けば大惨事となるだろう。

 それ故に、一振り、一振りが、異様に重い。


「……」

「……」


 そんな中、唐突に、激しい剣舞の音が止み。静まりかえった。

 タレムとリンが同時に飛下がり、距離を取ったからだ。

 互いの距離は十メートル。ちょうど、一太刀で届く間合いの外。

 その距離を、二人はすり足で詰めていく。


 ジリジリ……ジリジリ……


 既に二人は二人とも互いの間合いの内に入り、必殺の一太刀を振れる状態だ。

 それでも、互いに距離を詰め続けるのは、《後の先》……相手が動く、一瞬の硬直を待っているから。


 ジリジリ……ジリジリ……


 先に動いた方が負ける! というような、単純な話ではない。

 神経の集中、視線の動き、近距離超高速斬り。

 離れていれば、あまり関係ないことでも、近寄れば近寄るほど、攻撃の手段が豊富になり、《後の先》の《先》をとれる。

 だから、これは、どちらが先に、相手の《先》より、《先》をとるか、そんな駆け引きだ。


「……」

「……」


 ジリジリ……ジリっ!


「……っ」

「……っ!」


 先に動いたのはタレム。

 だが、リンも反応し《後の先》を狙う。


「「……っ!」」


 刹那、剣激が交差。

 二人の立ち位置が入れ替わった。

 そして、


「っ……お見事でござる」


 そう褒めたリンの胴衣の裾が薄く、切り裂かれていた。

 一方のタレムは無傷。リンの《後の先》を完璧に裁いて見せたのだ。


「ふっ。どう? 惚れた? ……男子三日会わざれば刮目して見よ。だよ、ござる」


 カスリとは言え、はじめてリンに入れた一撃に、タレムが満面の笑みを浮かべて胸を張る。……どや顔だ。

 そんなタレムに、リンは、悔しそうな顔をしながら、首を捻った。


「……。……おかしいでござる。三日どころか、数百年。いや、殿の絶望的な剣才を考慮すれば、数千年以上もの研鑽を詰んだかのような洗練を感じるでござる」

「おぅ……さすが師匠」


 因みに、タレムが聖都で堕天使ルシファーと、気が狂うほど闘い続けていた事は……『神の法』に触れる事のため、誰にも話していない。

 ……話せば天罰が落ちて死んでしまう。(イシュタル談)

 

 何の見返りもない闘いだったが、あの闘いで、確かにタレムは、強くなったのである。

 

「ん? 今なら、ござるの仮面も奪えるんじゃね? ……ハッ!」

「ちょっ。殿、ソレは拙者にとって求婚と同義ッス。時と場を選んで――」

「――問答無用ッッ!」


 だから、調子に乗ったタレムが、リンの仮面ていそうを狙う。

 ……が。


 さっ……。


「……これはお仕置きが必要でござるな」

「……え?」


 リンは、特訓の時より更に俊敏に飛び下がり、タレムをかわすと、十のクナイを両手に持ち。

 ……放った。


「忍法・超技! 《万本影クナイ》!!」

「なっ!」


 瞬間、リンから放たれたクナイが、一万本に分裂し、嵐となってタレムを襲う。


「ひぃぃぃぃぃぃっっ!!」


 圧倒的な数の暴力。


 ズタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ――。


 五分以上もの時間、クナイの嵐が降り注ぎ、タレムは壁に張り付けとなった。

 もし、一ミリでもリンの目算がズレていたら、今頃、蜂の巣のようになっていただろう。


「し、しょぉおおおおおおおおおおおおお~~っっ!」

「うぃ~。どうっすか? 殿。惚れたでござる? 乙女三日会わざればもうババァで、ござるよ?」

「ソレ、なんか、チガくね? ……というか、俺はもう、惚れてるからっ!」


 ……タレムは確かに強くなった。

 ――しかし、千年近く剣を振っても、まだまだ、リンには遠く及ばないのであった。(リンとの修行編 終わり)

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