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二十四話 『動き始める陰謀』

 とある日。

 朝霧の中、恒例になったシャルルとの抱擁そして、接吻を済ませると、


「ん?」


 その日は何故かシャルルが、タレムを抱擁したまま離れなかった。

 ……今日は何時も元気一杯なシャルルが俯いている。

 服もちょっと地味目のタークグレー色のコルセット。


「どうしたの? 今日はもう一回しとく?」

「……うむ。よいか?」

「うん。大歓迎っ!」


 やはり何時もより暗い声だった。

 タレムは元気になって欲しいと、シャルルを力いっぱい抱きしめて、出来るだけ丁寧に口づけをした。

 ……すると。


「……ふふ、フフフ。そちは優しいのう。私には勿体ないくらいだ」

「シャル? ……勿体ないとか、そういうこと言い出したらキリがなくなるよ」

「……うむ。そうであるな。うむ! すまぬ。だが、そちのおかげで元気になれたぞ?」

「フフっ。なら、良かった」


 この抱擁で何時も元気を貰っていたのはタレムの方だった。

 それを少しは返すことが出来たのかなと思うと、タレムは少しだけ嬉しかった。

 だから、未だに離れようとしないシャルルの事を抱きしめつづける。


「……ふふふ。よいよい。たまにはこうでなくてはな」


 シャルルも、心なしか嬉しそうにタレムの腰に腕を回していた。

 そうしていると、


「ところでタレムよ。明日は休校であるな?」

「うん? ……うん。なに? デートでもするの?」

「いや……すまぬが、王女の公務に休日はなくての」

「まあ……だよね」

「だからと言うのは違うのだが、代わりにリンと、魔獣討伐に行ってみてはどうだ?」

「魔獣討伐……?」


 タレムはシャルルの言葉を反趨しながら首を捻った。

 魔獣とは魔力を得て凶悪化した動物の事。

 荒れ狂い見境なく人を襲うが、現れれば貴族であるタレムが出向くまでもなく、市政の討伐隊が勝手に討伐する。


 そういう荒事を生業にしている《冒険者》と言われる組織があるほどだ。

 逆に、自衛出来ないほどの凶悪な魔獣が現れれば、タレムの様な爵位も持たない下級貴族等ではなく、帝国騎士が精鋭騎士団を率いて討伐に向かうだろう。

 つまり、わざわざタレムが討伐する必要が微塵もないのである。


「どういうこと?」

「……最近、平界を騒がせている魔獣は《ハニー・ビー》と言ってな。アルザリア大森林に巣を造り、繁殖し、人々を襲っているらしいのだ」

「へぇ~」


 そう言われて見れば、最近ずっと忙しそうにしていたクラリスも、そんなことを言っていた。

 ……それでも、命を懸ける魔獣討伐に行く理由としては軽い。

 

(クラリス本人に危険が迫っているなら別だけど……)


「かなり増殖してしまっていてな、市政で対処出来ず、前線の精鋭騎士を呼び戻して討伐しようとしているのだ」

「なら、もう安心じゃん」

「うむ。だがな……。それをさせてはならんのだ」

「……っ!」


 そう言ったシャルルの瞳は、タレムが初めて見る獰猛なものになっていた。

 ……何か、シャルル側の政治的、事情があるのかも知れない。

 それならば、


「行くよ。シャルの役に立ちたいしね」


 即決だった。

 もしかしたらシャルルは、タレム・アルタイルという人物を籠絡し、良いように使っているのかも知れない。

 そんなことは、タレムも最初から分かっている。

 だが、シャルルになら、盤上の駒のように使われようと、切り捨てられようと悔いは残らないと思っていた。

 例え、ただ使われている馬鹿な駒であっても、タレムが心から好きになり、嫁にすると決めたシャルルの役に立つなら何でも構わなかった。

 

(ハーレムの夢。嫁が多ければ多いほど、こういう問題は付いて回る。だから、俺は、好きな女の子を信じて、その力になってあげるんだ。それで、ダメだったら俺のハーレムはそこまでで良い。好きな子に騙されて終わるなら……それまでなんだ)


 と、タレムは、生半可な覚悟で王女を嫁にしたいと言っていないのであった。

 ……だが。


「む? 何か勘違いしてないか?」

「ん?」

「これはそちのハーレム計画の一環だぞ?」

「どゆこと? なんか権力争い的な事があるじゃないの?」

「全く……私は、タレムを王室政治に巻き込む事はしない。タレムはタレムの、私は私の、夢をそれぞれ追いかけるのだ」


 そんな覚悟は必要なかった。

 シャルルもまた、タレムの事を考えているだけであったためだ。


「ハニー・ビーの巣で取れる《ロイヤルハニー・ゼリー》は王室御用達の一品でな。とても貴重なものなのだ」

「ん? それがどう、ハーレムに関わって来るの?」


 タレムのそんな当たり前の質問に、シャルルは待ってましたとばかりにニヤリと笑い。


「良いか? 《ロイヤルハニー・ゼリー》には強力な精力増強成分が含まれているのだ」

「え? ということは、つまり……」

「解ったようだな。そう、飲めば一日中ムラムラが止まらない男性用媚薬の元になるのだ!」

「なっ何だってぇ!!」


 そんなことを元気良く言い出した。

 だからタレムは、


「で? それとハーレムにどんな関係が?」


 ちょっと冷たい視線で、最初と同じ事を聞いていた。

 すると、


「ほれ。良く考えてみるがよい。ハーレムを作った後、そちはただ、皇后たちを飾っておくつもりか?」

「いや、そりゃあ、まあ……やることはやるけどさ」

「で、あろうな。それはよい。タレムになら私もたくさんして貰いたい。だが!! だ、大勢の后に対して、そちは一人なのだぞ? わかるか?」

「全然、解らない」

「そちがどれだけ絶倫であろうと、男一人の精力はたかが知れている。その辺は父上も苦労されておるしな」

「……」


 さらっとシャルルから漏れる情報は、秘匿にされているアルザリア帝国国王の情報。

 これには流石のタレムも何も言うことは出来なかった。

 帝国を建国した血族、帝が偉大であるというのは、帝国人ならば誰もが持っている憧憬であるのだ。

 だからこそ騎士は誇りを持って祖国と帝を護る。

 そうでなくては、アルザリア帝国は成り立たない。


「私だって嫌だぞ? もし、タレムが偏った性愛を誰かに向けるならば、嫉妬するであろう」

「……」

「ハーレムの王になるならば、嫁は均等に愛さなければならない。それは最低条件であろう?」

「確かに……」


 シャルルの言葉には現実味があり、タレムよりも良くハーレムの良し悪しを見えていた。

 ここは素直に納得しておくしかないのだが……


「でも、俺、まだ、一人も嫁が居ないんだけど……今から精力増強剤とか集めるの? なんかそれ、悲しいよ」

「たわけ者っ! 時が来てからでは遅いのだ! 不満の目が出るより早く潰しておかねばならんのだ。そちは子と妻らに殺し合いをさせたいのか?」

「……シャル」


 その言葉だけは、今までと少し毛色が違った。

 それは、シャルルが今ももって王位を争い、兄弟同士で政争を繰り広げているからであろう事は容易に予想が着いた。

 そして、世界平和などとタレムよりも夢物語な夢を追いかけるようなシャルルが、それをどういう風に捉えているかは、想像すら及ばない。


(帝は偉大だけど……そこだけは失敗だよね。俺の作る理想のハーレムに血生臭い争いなんて起こさせない。シャルの為にも)


「分かったよ……行って精力増強剤を手に入れて来る! 俺は精力漲るハーレムの主になる!」

「うむ。それでこそ、私が惚れ込んだ王の器だ」


 盛り上がるタレムとシャルルは再び抱擁と接吻をする。

 ……それを遠い目で眺める鬼仮面の少女が、


「なんで拙者まで当たり前の様に行くことになっておるのでござろうか?」


 そう呟くのであった。


「リンには、採ってきたハチミツで、甘いホットケーキを焼いてやろう」

「っ! 殿! 早く行くでござるよ! 騎士団に取り尽くされてしまう前にでござる!」

「いや……ござる。俺、今から授業だし。行くのは明日だよ」


 そんなこんなで、リンとタレムは魔獣討伐に向かうことになったのだった。

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