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閑話・一 『只今とお帰りなさいませ』

予告していた閑話集。

週一で連載します。

 あの《祝福の儀礼》から、約一ヶ月。

 タレムとマリカはロック村に戻ってきていた。


「ただいまぁ~~っ」

「只今、帰りました」

「お帰りなさいませ。ご主人様♪ 奥様♪ ……と? どちら様ですか?」


 深夜にも関わらず踊った声で出迎えるのは、奴隷服と一女傘を被るロッテだ。

 ロッテは、タレム達が今夜、帰って来るという知らせを聞いて、出迎える準備をしながら待っていたのであった。

 ……相変わらず、忠実で優秀なメイドである。

 しかし、タレムとマリカの後ろに続く、三人の人物を見て、首を傾げた。

 ちゃりんっと、手足に付く鎖が揺れる。


「あらあらまぁまぁ……女の子を縛り付ける趣味がありまして? 息子がグレてショックですわ」

「レムリアさん。レムリアさん。そのお方は『奴隷』ですわ。タレムさんなら、主にスケベなことさせるので、酷い扱いはされていないと思いますわ」

「あらあらまぁまぁ」

「うふふ」


 そんなロッテを見て、勝手に話を進めていくのは、大司教の修道服に身を包む二人の聖母。

 マリカの母、マリアと、タレムの母、レムリアである。


「あにじゃ……ヘンタイ?」


 更に、ちょこちょこっと、タレムの袖を引くノルンまで含めて、今回、ロック村に来訪してきた。

 ……別に、招いた訳ではない。

 聖都で記憶を取り戻したタレムが、改めてレムリアとノルンに会いに行った時、ちょうどそこにマリアがいて、「積もる」話なら、タレムの屋敷で……と、なったのだ。

 ……なぜ、マリアが仕切り、付いてきたのかは、神にも解らない。


「もう、兄さん。深夜に騒がないでくださいよぅ……目が覚めちゃったじゃないですかっ。……仕方ないから出迎えてあげます……って、マリアさんっ♪」

「ろってぇ~~……オシッコ……あっ、にぃっ♪ さま~~っ♪」

「タルシスっ。アルタイル家の次期当主たるものが、急に走ってはダメですわよ」


 その状況を説明する暇もなく、続々と屋敷から人が現れて、てんやわんや。

 ずっと一人で馬車を操り、疲れていたタレムは、ロッテに肩を支えられながら、そんな喧騒に深いため息を吐き出した。

 それは、呆れの感情が浮表したものではなく、


(やっと、日常に帰ってきた気がする……)


 恐ろしく長かった闘争が終わったのだと実感した、安堵の溜め息であった。


 ……それから。

 ロッテが用意していた食事を摂りつつ、自己紹介を兼ねた歓談の席を儲けたが、それほど時が経たないうちに、タルシス、ノルンの順に居眠りを始め、更には、タレムまでも、


 うとうと……


「兄さん。眠るなら、自分の部屋で眠らないと、風邪を引いてしまいますよ?」

「誰が……むにゃむにゃ……兄さん……だぁぁぁ……旦那さん。だろ……」

「っ……兄さんはまだ、兄さんですよっ!」


 ……テーブルに沈んでしまった。

 クラリスが、タレムの肩を揺すって起こそうとするが、


「クラリスさん」

「ひぃっ……今のは違うんですっ」


 マリカが手を掴んで止め。


 ぎゅっ……


 眠れる旦那の肩を抱き寄せた。


「寝かせてあげてくださいまし」

「……へ? 」


 そのままタレムの頭を膝に載せ、優しい手つきで撫でながら、クラリスにニコリと微笑んだ。

 ……聖女の微笑み。それは同姓だろうと、心を奪ってしまうほど美しい。

 

 ――だからこそ


(やっぱり……おかしい)


 ……と、レムリアは思う。

 母親目線で贔屓して見ていても、タレムとマリカでは、


(月とスッポン)


 全く釣り合っていない。

 一ヶ月、傍で見てきた息子は、いい加減でお調子者。

 どう考えても、女性にモテる要素はなかった。

 

 ……だが、マリカがタレムに向ける熱い視線は、本物だ。


「マリカさん。一つ、お聞きしたいのですが?」

「……何でしょうか?」


 その違和感を、恐る恐る……


「貴女みたいな素敵な女性ひとが、どうして、息子と結婚して下さったのですか?」

「……」

「そこまで尽くすほどのひとではないでしょう? うちの息子は」

「……」

「政略結婚……と言う、様にも見えませんし」


 ……尋ねてみた。

 それに対して、マリカは暫く何かを考えるように沈黙してから、周囲を見渡した。


(何故、タレム様なのか……で、ございますか)


 レムリアから出た問いだが、ロッテやクラリスまでも耳を澄ませている。

 タレムとマリカの馴れ初めは、ずっとタレムの傍にいた、クラリスも知らないことだった。


「……えっと、わたし、タレム様を寝室に寝かせて参り――」


 だが、そんな話を他人にわざわざ言うつもりはない。

 マリカが話の腰を折り、逃げだそうとした……その時。


 どろんっ。


「――逃がさないでござるッ」

「――っ!」


 白い煙と共に、鬼の仮面を付けた忍びが現れて、クナイでマリカの裾を椅子に縫い付けた。

 俗に言う《影縫いの術》である。

 ……これではもう、逃げられない。


「拙者もその話、興味があるっす♪」

「リンさんまで……。ふぅ。仕方ありませんね」


 そこで、マリカは観念し、肩の力を抜く。

 

「……あれはそう……ちょうど、十年ほど前の事でございます」


 ……こうして、マリカは語り出す。

 タレムとマリカ……二人だけの物語を。

 

 それは、二人が起こした奇跡の物語。

 幼い少女の運命を変えた物語である。(続く……一話で締めるつもりよん)

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