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二十二話 『手練手管を使うだけ』

 夜が明けて、朝霧の発つ中。

 金と銀の男女は秘密の逢瀬を楽しいんでいた。


「ふむ。私の申した通りになったであろう?」


 昨晩、タレムとマリカの間に起きた経緯(いきさつ)を聞いて、ほくそ笑んだのは、アルザリア帝国第一王女シャルル・アルザリア・シャルロットである。

 因みに、今日は薄黄色のワンピースで攻めている。


「……うん。『シャルの言った通りに』本心を話した」

「ふははははっ。親近から、幼児趣味。果ては同性趣味まで! 五百年続く王室の手練手管に死角などないのだッ! ふははははっ!」


 そう。昨日の展開は、シャルルの予測通りであったのだ。

 ……展開はであるが。


「でも、結果は微妙だったよ? 超えられない壁を避けようとして、十歩下がって十歩進んだのに、たどり着いた壁は前の壁より分厚くなったような?」

「ふ~む。確かにな……だが、そもそもの話、その壁、ソチが越える必要もないのだ」

「ん? どゆこと?」

「ふっ。解らんでもよい。ソチはただ、その壁の前でゴールとなっていればよい。恋愛とは駆け引きなのだからな……ふははははっ」

「……」


 タレムには、シャルルが言っている意味が解らなかったが……


(シャルルは俺の嫁なる女の子。夫が嫁を信じるのに理屈はいらないんだ)


「うん。分かったよ」

「ふふふ。タレムはよい男よの。特訓の前に少し甘えてもよいか?」


 良いよ。と、タレムが言う前に、シャルルはタレムの腕に抱かれようと寄り掛かった。

 もちろん、タレムはそんなシャルルを受け止めて抱きしめる。


「……」


 そしてそのまま、シャルルの整った顔を見つめていると、


「むぅ~っ。のう。タレム。一つ。決めごとをつくらんか?」

「何?」

「一日の一番最初に顔を合わせた時は、こうしてお互いに抱擁し……接吻をする。というものだ」


 そんなことを言い出した。


「つまり、毎日。抱き合って、キスするって事?」

「そうだ。例え、喧嘩をしていてもするのだぞ? しなかったら、ソチと私の恋愛は、それで終わり。一日一回でよいからな……嫌か?」

「嫌じゃないけど……なんで?」

「理由はいろいろあるがな……一つはそうしなければ、私達は永遠に接吻もままならん気がするのだ」

「もう一つは?」

「……うむ。そちが私と一日一度如き。接吻と抱擁も出来ないなら……私はソチに相応しくないと言うことなのだ」


 相応しくない訳がない。

 そう。タレムは言いそうになったが……シャルルの瞳はそれを言わせないほど真剣なものであった。


「愛情は目に見えぬものとはいえ。何か一つ。そちが私を愛している目に見える証拠を作ってはくれぬだろうか?」


 断る必要はない。

 シャルルの言葉を否定し、タレムの真剣さを伝える一番良い方法が、この提案に乗り、続ければいいだけなのだから。


「分かったよ。でも、何かの事情で出来ない時があってもいきなり別れるとか言わないでよ?」

「うむ……それは、その時々、柔軟に対応しよう」


 と、言うことで、シャルルは物欲しげに瞼を閉じると、顎をあげた。

 族に言うキス顔と言うやつだ。

 タレムは、その様が可愛いらしくて、


「ねぇ? 改まると恥ずかしいんだけど……」

「む~っ。そういう羞恥心も乗り越えるためのものだぞ。それとも……本当は……ソチは私と接吻をしたくも――ッ!」

 

 ちゅっ……。


 シャルルが何か暗いことを言いそうな気配を感じ取ったタレムは慌てて唇をくっつけていた。

 そのまま強く抱きしめる。

 すると、


「これで良いかな?」

「うむ。これでよい」


 シャルルが満足そうに微笑んでくれた。

 それならばと、タレムがもう一度、強く抱きしめて唇を近づける……と。


 ぴたっ。


 シャルルが人差し指で、タレムの唇を止めてしまう。


「嬉しいがな……ソチも私もまだ、何も成してはおらんのだぞ? これ以上は溺れてしまう。色欲に溺れるのはまだ少し早い」

「……でも」

「不満があるのなら、それを糧に出来ぬか? 私を真に手に入れるために……頑張ってはくれぬか?」

「……っ!」


 タレムは無言でシャルルの言葉に頷いた。

 シャルルを手に入れるためになら、今まで以上にハーレムの夢を追いかけることが出来る。


「因みに……真に手に入れる時って?」

「むろん。私とそちが結婚する時だ」

「……それ、ハーレム計画の最後の方じゃね?」

「うむ。その時こそ、ソチは誠の王となる」

「……」

「出来ぬか?」


 と、好きな女の子にそう言われたハーレムを志すタレムは、


「出来る!」


 と言う他にはなかった。

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