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二十三話 『愛ノ女神ノ残しモノ』

 堕天使を討伐する。

 ……そう覚悟は決めたが、このまま戦いに行っても返り討ち合うだけであろう。


 何せ堕天使は、不死不滅の特性と、人類最強と言ってもいい、鬼畜皇を打倒するだけの力を蓄えていると言う。


(つまりは鬼畜皇を倒せって言われてるようなもん……はぁ。あのアイリスちゃんでさえ、鬼畜皇とは戦っても勝てない存在だっていってたし)


 さらに、奇跡が起きて堕天使を倒す事が出来たとしても、神子の《運命改編》が発動し、無かったことにされてしまう。


(というか、既に散々な目にあってる神子を巻き込みたくもない……救世主、か。あの言葉はやっぱり、助けてって言ってたんだよな……。堕天使に魂を乗っ取られながらも……諦めずに)


 ……なんにせよ。


 堕天使の《不死不滅》。

 神子の《運命改編》。


 ……この二つだけは、どうにかする算段を見つけなければ、無謀に尽きる。


 ――だが、それらよりも先に。

 今、タレムが向き合わないといけないのは……


「タレムさまっ! 聞いておりまする?」

「聞いておりまするけども……」

「一体、誰と、何処まで、浮気なさったのでございますか⁉」

「それを……詳しく言えないんだよなぁ」


 目覚めて早々、タレムの浮気を疑うマリカだ。

 ……浮気は全くしていないが。マリカにはイシュタルの事を話せない。


「なぜでございますかっ! 正直に仰ってさえ、いただければっ。わたし、タレムさまを咎めるつもりはありませんよ? 例え致してしまったのだとしても……引きずることもいたしません」


 ――ただっ! 愛するお方に。隠し事や嘘をつかれるのが嫌なんですっ!


 ……そう言われると。胸が痛むのだが。


 イシュタルは言っていた。


『神に許されないモノが神の法を犯せば、主神の神罰が下る』


 ……だから。

 イシュタルから聞いた話を、他の人間に話してはいけない。と。


 そして、神罰を受けた人間は死ぬ。


「……」

「タレムさま……どうして何も仰って頂けないのでございますか? それでは、余計に疑いが強くなってしまいます」

「だよね……でも。言えないものは言えないんだ」


 わざわざ、神の法……と、言葉を濁したのだから、含まれる範囲は広いと予想できる。

 仮に、イシュタルの話を少しでも、マリカに話せば、死んでしまうかもしれないのだ。

 何処まで、話してよく、どこからがダメなのか、それが曖昧な以上、余計な言及は命取りになる。


 ――だから、なにも言えない。


 堕天使を討伐し、世界を救うのは、《神の許し》を受けた、タレムが独りでやらなくてはいけないこと。


「信じて。浮気はしてない。俺は、マリカちゃん一筋さっ」

「そんなこと……ハーレムを目指しているお方に言われても……なぜ、教えてくれないので? 本当に怒りませんよ?」

「それも言えないんだ……ごめん」

「……」


 ここで、もし、神罰でマリカが死んでも。

 ……神子の《運命改編》で、無かった事になるのかもしれない。

 だが、だからと言って、それで、試してみればいいと思える程、タレムは非情にはなれなかった。

 ……イシュタルにはやられたが。


「もしかして……本当に女神さまとお会いしましたか? それで何かの誓約をかわされたので?」

「さて……ね」

「あっ。タレムさまが、真面目なお顔になられております。つまり、会ったのでございますね? なんと……っ!」

「(……なんか、俺、真面目な顔するとだめなのかなぁ? 前に、アイリスちゃんにも、同じような事された気がする)」

「わたしもお会いしてみとうございます。どこに降りましたか? せめて名残だけでも、拝見させてくださいましぃぃ~~」

「……(何処って、今もまだ、マリカちゃんの中にいるんだけどね)」


 ……既に、色々と手遅れな気がしたが。

 これ以上は本当に不味い。と、


 ぎゅっ。


「マリカちゃん」

「っ!」

「頼むから、何も聞かないでくれ」

「……」


 タレムはマリカの事を抱き締めた。

 ……羽毛よりも柔らかく、弾力のある肌。

 何度も失った、そして、もう二度と、失いたくない、一番大切な存在だ。


「不覚でございます……タレムさま。落ち込んでおられますね? 浮わついていて、気がつきませんでした。申し訳ありません。妻なのに」

「いや、そんなこと、別にいいよ。隠し事をしている俺が悪いんだからさ」

「……それは、そうなのでございますが。ご奉仕いたしますので。元気になってくださいませ」

「ご奉仕って……そう言う流れだったのか……俺の妻。優しいっ!」


 あくまでもタレムが守りたいのは、マリカであり、女神の神託を受けて世界を救うと決めたのも、マリカのためである。


「それより、さ。気づいてる?」

「タレムさまが浮気をしておられない事に。で、ございますか? もちろん、最初から解っておりますよ? タレムさま、すぐ、顔にでますから」

「……そうだけど。そうじゃなくて」


 タレムが、マリカに言っているのは、


「今……五月二十日の昼過ぎなんだよね」

「――っあ!」


 時間の事である。

 そう、それは、即ち。


「《祝福の儀礼》に寝坊してしまいましたぁぁぁぁぁぁっ!」

「そうそう……それ」


 ――大変ですっ!


 と言って、慌てて立ち上がり着替えようとする、マリカをタレムは抱き締めて離さず、


「あの……タレムさま? 本当に間に合わなくなってしまうのですが……。ご奉仕は今夜、しっぽりとおこないますから」

「うん。大丈夫……」

「いえ。大丈夫では――」

「――《祝福の儀礼》。今回。諦めて貰うから……」


 ……そう言った。

 今はまだ、堕天使を倒す方法がない以上、祝福の儀礼に向かっても無駄死にさせるだけ。


「……本気で、ございますか?」

「……ごめん」

「理由は?」

「……ごめん」

「……。いいえ。わかりました。貴方の仰せのままに致します」

「ありがとう……」


 前回のループの時もやったが、マリカの夢を砕くのは辛い。

 ……しかも、理由すら、明かせないのだから余計に、だ。


「そんなに悲しそうなお顔をなさらないでくださいませ……。わたしは気にしておりませんよ? 貴方を信じておりますから」

「……ありがとう」


 そして、マリカが即座に夢に諦める事も、タレムは知っていた。


「でも、もし、騙して浮気なされていたのなら、――わたし、お家に帰りますので」

「……え?」

「浮気は許しませんっ!」

「oh……。してないからいいけどさ……しいてないよね?」

「しりませんよ。でも、浮気は、異性に気が浮わついたその瞬間から。ですので」

「厳しいよぉ……マリカちゃん」


 いつも、いつも、マリカの信頼と、明るさには助けられきた。

 ……ちょっと、男女の色恋に厳しすぎる、ふしはあるが。


(と言うか、マリカちゃんって、ハーレムを納得してくれてるんだよね?)


 そんなふうにタレムが、感謝と不安の両方を感じていると……


「それでは。旦那さま。時間が空いた分、たっぷりご奉仕いたしますね?」


 ……袖を捲り上げたマリカが、満面の笑みで、そう言った。


「違う。違う! 今回はそう言うのなしでっ! ただでさえ時間ないし、色々、やることあるからっ! と言うか、こんな明るい時間からは、さすがに恥ずかしいんだよっ!」

「ふふふ、もう、何度もなさっているのに、タレムさまは何時も初でお可愛い――っん?」

「あん? マリカちゃん?」


 ピタリ。


 そこで、突然。

 それまで饒舌に語っていたマリカが、口を閉じてミスリルの様に固まった。

 その様子に……また、女神でも降臨するのかと? タレムは身構えるが。


「はぁっ……わたし……嘘っ……こんな……はしたない……なんで?」


 そうはならず、すぐに再働すると、マリカの視線は自らの腰に落ちていた。

 イシュタルが寝ていた名残で、ベッドの上にいるマリカの腰には、毛布がかけられている。


「どうしたの? 毛布の下に何かあるのかい? (イシュタル様がなにかしたのかな? あれで悪戯っ子だったからなぁ……)」


 汗をだらだら流すマリカを心配し、タレムが、その毛布に手を伸ばす……と。


「今は、だめぇっ!」


 ばちぃんっ。


 マリカは、タレムの手を弾き、真っ赤な顔で毛布を抑え、もじもじ太ももを擦り始めた。

 ……なんか、かわいい。

 そして、涙目でタレムに、問う。


「浮気って……疑いましたが。もしかして、タレムさま。寝ているわたしに、悪戯いたしましか?」

「あん? 悪戯なんてしてない――」

「――いえっ! 致したはずでございますっ! そうでなければ、困りまするっ! そうであるならば、問題ないのでございますっ! 起きてる時にしてほしかったというのはありますが」

「いやいや、しないから」

「――ではっ!(赤面)」


 起きてるマリカをからかって、可愛がることはあっても、大好きなマリカが寝ているとき。

 その眠りを妨げるようなことをタレムはしない。


(と言うか、これ。このループで、初めての展開だよな)


 もしかしたら、このループを終わらせるヒントになるかもしれない。

 ……そう、思って、


「マリカちゃん。見せて」

「ダメっ! 絶対っダメっ! 来ないでっ! 今だけはっ! 駄目なのっ!」

「いやいや、大事な事かもしれないからさ」

「いえいえ。絶対っ大事な事ではありませんのでっ! ただの粗末なものですのでっ!」

「それは見ないとわからないから――」



 ――ひょいっ。

 マリカの腰にかかる毛布を取り払った。

 ……すると、そこには。


「ひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 ……マリカの夫としても、他人には見られたくない。

 と言う、感じの大洪水が起きていた。


 テカテカだ。


(なるほど、こう言うことか。確かにこれは関係ない……かな? 原因は、駄女神だろうけどさ。まぁ、とにかく。なにかフォローしないと)


「し、し……じゃなくて。お、お……お漏らし、しちゃったんだね……ははっ、粗末だなんてとんでもない。むしろ俺にとっては御褒美さっ。舐めてもいいし。ぺろり、うん。とろみがあって、甘いね。美味しい」

「いやぁぁぁぁぁぁああああああ――っ! なめないでぇぇぇぇっ――っ!」

「はははっ。何度もしてるのに、マリカちゃんはいつも、反応が初でかわいいなぁ……ぺろぺろ」

「駄目ってっ! 駄目って……言ったのにぃっ! 言ったのにぃっ! ばっかぁぁぁぁぁっ!」


 ……はい。めっちゃ怒られました。叩かれました。

 ――ひどくない? 仕方ない? かわいい? 最高っ!(続く。 閑話かなぁ)

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