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二十二話 『女神の眠りと聖女の目覚め』

「まぁ……大体、解ったよ」

「では?」

「ああ……」


 イシュタルの説明は、理解しにくい所も多くあったが、一本の筋は通っていた。


 神子、ノルンが死の運命を乗り越える能力を、復活した堕天使が悪用している。

 ……簡単に纏めてしまえば、こんなところか。


 だとするならば、堕天使を倒せと言うイシュタルの神託も真っ当だ。


「堕天使討伐。引き受けた……どうせ、アイツには借りがあるし。この神子の能力からも脱出しなくちゃ気が狂う」

「はぁ……よかった。これで、天界へ帰れる可能性が少しだけ……あるかなぁ? 最期に愛し合っておきます?」

「不吉なことをいわないでください。イシュタルさまが依頼したんだから、少しは俺の勝ちを信じてくださいよっ!」

「……愛し合います?」

「……こらこら」


 ――だが。

 それと、タレムに鬼畜皇を滅ぼさんとしている堕天使が打ち倒せるかは別の話である。

 

(……いや、コレ無理っぽいね。だって、堕天使の攻撃、見ることすら出来ずに、いつの間にか腹をさかれてたし)


「心配ですねぇ……。はぁ……面倒ですが、では。出血大サービスで、アナタにひとつだけ、新しい《神通力》を授けましょう。どんな能力が良いですか?」


 そこで、思もってもいなかった嬉しい特典を女神さまが付けてくれた。

 ……神の神託を聞いて、人類を救おうとしてみるものである。


「え? まじで? そう言うのアリなの? なら堕天使とか余裕じゃん……」

「喜んで貰って悪いのですが。今、渡す力は、運命が歪んでいるこの世界、限定ですからね? 時の牢獄から世界が解放されたあとでは使えませんよ?」

「あん? ……まっ、ちょっと残念だけど。それでも全然良いよ。堕天使さえ、倒せれば……あとは自分の力で生きていくからさ」

「ふふふ、即答ですか……逞しいことですねぇ。愛したくなります」

「それは、やめて」

「即答ですか……」

 

 神の力は、《運命改編》に《時間操作》。

 と、聞いたものだけでも、人間の常識を越えたすさまじい力だ。(自画自賛)

 それだけで、世界の在り方を変えてしまえる程の。


 それが、一時的にでも使えるならば、圧倒的な力を持つ、堕天使だって、倒せるだろう。

 ……どんな能力にするかを間違えなければ。


 ――重要な選択である。


(ちょっとワクワクしてきたぞ☆)


「う~~ん? 難しい所だけどそうだなぁ……視認した相手を即死させるとかいいんじゃね?」

「そんな力は無理です。愛せません。アナタは大量殺人鬼にでもなりたいのですか? 死神にでも頼んでください」

「出来る出来ないの基準は、愛せるか愛せないか、なの?」

「ええ。だって、ワタシ、愛を愛し、美を愛す。愛と美の女神ですから」


 自慢げに豊満な胸を叩くが、それはマリカの胸である。

 ……そして、堕天使討伐の難易度が上がってしまう事実には気づいているのだろうか?


「まぁ……良いけど。今のは、さすがに高望みし過ぎた気はしてから」

「では? どうします? アナタはどんな加護をワタシに求めますか?」

「単純に、俺の基礎身体能力を上げてくれない?」


 よく、考えなくても、タレムには既に《時間停止》と言う、切り札がある。

 ならば、ここで、欲を張り、特殊な力を貰わなくても、堕天使との圧倒的な実力差さえ、埋められれば必ず勝てる。

 ……そして、それくらいならば、《時間操作》や《運命改編》よりも、簡単なはず。


 ――と、おもったが。


「それも無理です。愛せません。アナタは愛と美の女神に何を求めているのですか? 力なんて野蛮なものは武神にでも頼んでください」

「愛って言うか、愛と美の女神って所が大切なのか……だとしたら」


 再び、不可と言われて。

 タレムはちょっと、否、非常に嫌な予感が頭に過る。

 ……もしかして。


「ねぇ。イシュタル様……あれも無理。コレも無理。って。じゃあ、何ならできるんですか?」

「そうですねぇ。美愛神ワタシに出来るのは、《意図した相手を骨抜きにする》とか、この娘のように《世界共通で誰からでも愛され美容姿になる》とか、《愛の営みの感度を引きあげる》とか……でしょうか? どれにします? どれも神族には無効ですが、愛に満ちていて、選り取り緑ですよ?」

「全部いらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 ……実は、ハレームを目指す者としては、ちょっと、欲しいのは有ったが。

 堕天使討伐を目指す上にはなんの役にもたたない力であった。

 しかも、それが、この歪んだ世界限定だというのだから、貰う気にもなりはしない。


(ああ……そうだった。もしかしなくても、この女神。駄女神だったんだ。期待したのが、そもそもの間違い)


 因みに、落ちてきたタライは、ダイレクトでイシュタルの額に蹴り返しておいた。


「あぅっ! 痛いですねぇ……これ」

「ごめんね。マリカちゃん。でも、ちょっと我慢できなかった。アレを受けるのはプライドが許さなかったんだ」

「誰に謝っているんですか! ワタシに謝ってくださいよっ」

「黙れ。駄女神っ!」

「ぅぅぅ……なんて、愛のない不敬でしょう。落雷ものですが。実は、ワタシもちょっと、無力で他力本願だった気がしたので、今回だけは許しましょう」

「許されたくもなねぇ~~よっ」 


 つまるところは結局、いつも通り、今、ある力でなんとかしないといけないと言うことだ。

 ……女神たにんの力を頼ろうとした、のがそもそもの間違い。


 タレムは、そう思って、浮かれていた気持ちを落ち着かせ、現実的な堕天使を倒す方法を考えていると……


「あっ……!」

「あん?」


 ドクンっ。


 突如、イシュタルの身体が脈動し、赤く輝き続けていた瞳が点滅し始めた。


「時間ですねぇ……女神ぱわ~~を消費しすぎました」

「イシュタルさま? まさか、天界へ帰るの? 裏切り者っ」


 ……時間が来たとは、イシュタルがイシュタルでいられる制限時間が来た。と言う意味か。

 それを察した上で、揶揄するタレムに、愛と美の女神は、今までで一番、包容力に溢れた微笑みを浮かべ、


 ――タレム。よく聞きなさい。


 真面目で優しい顔と声で、言うのであった。


「今から、ワタシは力を回復させるため、眠りにつきます。堕天使を倒したその時、神子と世界を救う為、ワタシの力が必要となりますから。

 ……ついでに、アナタ達に降りかかる死の運命も変えてあげます。アナタは堕天使を倒すことだけに集中してください。それだけはワタシにもできないことですから」

「イシュタルさまが救ってくれる……か」

「信じろとは言いませんが……もともと、ワタシは、一万回、繰り返された、今輪の際の祈り。この娘がアナタを想う愛の願いで降臨しました。故に、あらゆる天使の中でもワタシだけは、無条件でアナタの味方、なのですよ?」

「マリカちゃんの想いが呼んだ……。はい。わかりました。それなら信じます。今まで、失礼なこと言ってごめんなさい」

「もちろん。許します。愛をもって。……ふふふ、いい子ですねぇ」

「まぁ、実際、最初から信じてましたけどね。だって、イシュタルさまとマリカちゃん。似ている所も多いんですよ? 愛に全力なところとか」

「あらら……そうですか。さすがはワタシを卸す依り代ですねぇ」


 ぴかっ、ぴかっ。ぴかっ……。


 段々と、段々と、点滅は緩やかになっていく。


「それと……さっきの加護の話ですが。ワタシでも、限定的にアナタの神通力を成長させ、力を高めることならできるはずです。微力ですが……」

「いえ。十分ですよ」

「では……成長の方向性は任せます。決まったらワタシに祈ってくださいね? 愛をもって」

「愛が必要なのか……」


 ……そして。


「ワタシの愛する子。タレム。これから、過酷な試練が待っているでしょうが。アナタに愛の祝福があることを女神ワタシが願っていますよ……」


 ボッ……。


 完全に輝きが消え、するりと……身体から力が抜けて、タレムの腕の中に吸い込まれた。


「イシュタルさま……か。悪い女神じゃ無さそうでよかったよ。意外と憎めないし……頼りにもなる」


 ……これで。

 やることは決まった。


 ――神子の魂にとりついていると言う、堕天使を打倒し世界を救う!


「……ん? あれ?」


 しかし、そこで、タレムはとある見逃しに気づいてしまった。


「でも、堕天使を倒すと、神子が死んで、《運命改編》が発動しちゃうんじゃ? そもそも、神様だから、不死不滅とか言ってなかったけ? そんな化け物、どうやって倒すの? あれれ? イシュタルさま? その辺の知恵は?」


 されどもう、頼みの女神は、眠った後。


「……」


 答えられるはずもなかった。

 ……最後まで、駄女神である。


 と、その時。


 ゴツンっ。


「いたっ! 神罰っ……あの駄女神っ、力を回復させてんだろ! 真面目に回復しろよ! 最後の最後で失敗しましたっていったらゆるさねぇぇぞ……ん?」


 落ちてきたタライの底に赤く光る文字。


 ――そんなこと、愛と美の女神は知りませんっ!


 と、書かれていた。

 ……やっぱり、ダメダメ駄女神である。


 ――そして、


「……ん? タレムさま? どうかなさいましたか?」

「……っ!」

「そんなにじろじろと見られては、少し恥ずかしいのですが……もしかもして。わたしの顔に何かついておりますか?」

「いや。今日も最高に可愛いよ……マリカちゃん」


 長く眠っていた、最愛のお姫様が目覚めたのであった。


「おや? タレムさまの纏っている神気が増しておりますね? ――もしかして、この世ならざるお方と、浮気をなさいましたか?」

「ふふ……どうだろうね。とにかく、おはよう。まってたよ。ずっとね」

「わたし、浮気は、例え、相手が、女神さまでも許しませんので」

「oh……さすがはマリカちゃん。これぞ、マリカちゃん。そんなマリカちゃんが大好きだ。(でも、今回だけは、マリカちゃんには言われたくないんだよなぁ……マジで)」

「ごまかさないでくださいましっ! 嘘はつかない約束でしょう! 白状してくださいませっ! タレムさまには怒りませんので」

「どうどう。……だよ。マリカちゃん。俺が言えることじゃないけど、神様は敵に回していい存在じゃないよ」


 いとおしい。いとおしい。……最愛のお姫様を抱きしめた。(ここで、四節。そして、後二節。くらいかなぁ?) 

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